13-17 和国アマツクニ アイナズクック
今年もよろしくお願いします!
さりげなく先週更新できなかった……。
ふわああ……まったくもう。
ようやく寝てくれましたよ……。
はあああ疲れた……あれでは皆さん今まで苦労してきた事でしょうね。
しかも試行錯誤が楽しくて仕方がないといった表情をするもんだから、皆さんも惚れた弱みか見守るしかないという感じでしたし、これからはやはり私がお館様を徹底管理していかねば!
寝不足は病の元。
私のお館様になった以上、最期は老衰していただきますよ!
そして最後の瞬間に私は言うのです。
『冥府までもお供致します』と、これでお館様の心を狙い撃ちし、きっと心満たされて穏やかに逝く事でしょう!
「む。シオン」
「おやアイナさん。また変な時間に起きましたねえ」
「ああ。よく寝てしまったようだ……主君はどうしてる?」
よく……ですか。
お館様の作業の横で寝てその後起きて宿について寝てと、結構中途半端な睡眠だったと思うのですが、流石はAランク冒険者ということでしょうね。
冒険者はどのような環境で、どれほど短時間であってもしっかり回復するように眠るのは必須スキルですもんね。
「お館様なら先ほどお休みになられましたよ。お二人の様子はどうです? もう治りましたか?」
羨ましいお二人のご様子はどうなんですかね?
鍛えられたお二人が動けなくなるほどの……くう、羨ましい!
早く私もお館様色に染め上げて欲しいです!
でもゆくゆくはお館様に対して一本取りたいっ!
今は圧倒的に経験値が足りないっ!
というか私、アイナさんよりも経験値足りない訳ですよね……。
うーん……アイナさんは何と言うか、どちらかと言えばそういう事には疎いイメージなんですが、私よりも経験豊富なのだと思うと途端にその豊満ボディがいやらしくて艶めかしく見えてきますね。
「ソルテとレンゲならもう大丈夫だそうだ。二人も昼間に寝ていたせいか起きてるぞ」
「おお、そうですか。でも、お館様のあの様子ですと明日も櫛作りになるかと思いますよ」
とっとと眠らそうとしたらどうしても効率を上げる魔道具を作ってからにさせてくれと懇願されましたからね。
あのお願い上目遣いはずるいです。
たまに子供っぽくなるのとか、下腹部に来るんですよ。
なんで年上の大人の男性なのに可愛く見えるのでしょうか?
やはり惚れていると補正がかかるのか、お願いは致し方なく受けちゃいました……。
でも砂時計を用意し、それが落ちるまでの条件を提示しました!
まあきっちり落ちる前に終わらせたのは見事でしたけどね!
……いや、そんなに早く終わるなら明日にして欲しかったですけどね?
「そうか……」
「まあ、明日も私が付き添いますよ。一応、この後皆様用に女性用アマツクニお勧めスポットをピックアップして書きだしたメモを用意しておきますので、皆様は楽しんできてくださいな」
私はアマツクニは飽きる程来てますしね。
お館様は興味が無さそうだけど、皆様は興味がありそうなスポットとかご紹介しておきましょう。
ウェンディさんとかソルテさんとかは、アマツクニ製の服でお館様にサプライズとか好きそうですしね。
「それはありがたい。ソルテもレンゲも見て回りたいところがあるそうだからな。……それでその……シオンは寝なくてもいいのか? 今日は主君につきっきりだったろう?」
「私は問題ないですよ。そういう風に鍛えていますからね。お館様の作業中も、立ったまま少しずつ寝てましたし」
これくらいはシノビとしては当然です。
寝不足でもパフォーマンスは落とさないように訓練していますから、問題はありません!
まあ、実際は微妙には落ちますので、シロさん辺りが相手だと見透かされてしまいそうですが……。
そう言えばシロさんは遊びに行くって……まさか、本当に巫狐様の所に遊びに行ったとか……?
いやいや、流石にまさかでしょう。
何故かとても疲れていたご様子でしたけど、うん。きっと気のせいですね!
いくらシロさんでも巫狐様に挑むだなんて……ねえ?
「そうか……」
「えっと、どうしました?」
「いや、シオンがもしよければなんだが……」
「なんですか? 何か頼み事ですか?」
「ああ。その……明日も主君は木工組合の方に行くのなら、主君にお弁当を作りたいのだが……」
「お弁当ですか……? それならウェンディさんが作るのでは?」
お料理はウェンディさんの領分のようですしね。
ミゼラちゃんがいれば、一緒に作った事でしょうけど。
私も作れはしますけど、残念ながらウェンディさんには敵いませんからね。
そういうのは適材適所が良いと思います!
「うむ……。勿論ウェンディがメインになるとは思う。だがその……今日の姿を見て、私も主君の力になりたくてな。料理は得意ではないのだが、何か主君が喜びそうなもので、私が作れるものはないかと思ってアマツクニの料理にも詳しいシオンに相談を……という事なのだが……その……どうだろうか?」
おおお……アイナさんはどちらかといえば落ち着いていて大人の雰囲気を持つお館様ハーレムの中でも余裕があるタイプかと思ったのですが、なんですかこの可愛い生物。
え、手料理をお館様に食べてもらうだけでこんなに顔を紅くしてモジモジするんですか?
もっとエッチィくて恥ずかしい事を沢山しているはずなのに、こんな事で? いやん乙女!
恐らく集中して櫛を作っているお館様の姿を見て、何か力になりたいと思ったのでしょう? ああもう健気!
これはこれは……私が男だったら押し倒してしまいそうですね。
ただ、アイナさんの方が強いのでボッコボコにされると思いますが……。
「ふふふふ。いいでしょういいでしょう。私がアイナさんにお館様の好みを絶対に外さない誰でも作れはする上に愛情たっぷりなアマツクニ料理を教えて差し上げますよ!」
「そ、そうか! なら頼む! ふふ。頑張るぞ!」
くああ……!
ぱあっと! ぱあっと表情が明るくなりましたよ!
お館様、男冥利に尽きますね!
よ! 女誑し! 憎いですね!
さぞ多くの男性にお館様は恨まれている事でしょうね!
大丈夫! 私がお守りしますよー!
「んんっ。では、お教えしましょう……究極のアマツクニ料理を……」
「ああ。是非頼む!」
ふっふっふ。
アイナさんは料理が得意ではないそうですが、どんな腕前だって経験を積みさえすればこの究極のアマツクニ料理は作れるはず。
そして、お館様だって大好きなのは間違いなし!
いいですよいいですよ。睡眠時間など削って、アイナさんのお手伝いに勤しむと致しましょうか!
「究極のアマツクニ料理……それは、おにぎりです!」
「おにぎり……確か、米を握って食べやすくしたものだったと思うのだが……」
「その通り! おにぎりこそ最強であり、お館様も間違いなく大好きな料理です!」
シンプルイズベスト!
お館様の好みから絶対に外れず、かつ料理初心者でも練習すれば出来る奥深き料理それこそがおにぎり!
「ふむ……」
「おや、納得いかない顔ですね?」
もしやもしやですが、おそらくもしやでしょうね。
「その……教えを乞う身で申し訳ないのだが、米を握るだけでも料理なのだろうか……?」
「はぁぁぁぁ……もしや過ぎました。浅いです。浅すぎます!」
「なんだと?」
「おにぎりを……舐めちゃあいけません。まあ、実際にやってみた方が早いでしょう。では早速おにぎりを作りましょうか……朝までにっ!」
「朝まで……舐められたものだな」
「アイナさんこそ。おにぎりを舐めないでくださいね……」
さて厨房をお借りしまして、まずはお米を炊く所から始めますか。
これは流石に私がやらないといけませんね。
アイナさんがやりたいといった顔をしていますが、これは流石に駄目です。
べちゃべちゃなお米じゃあおにぎりは作れませんからね!
さて、それまでは待機ですが中に入れるものなども各種用意しておくとしましょう。
えっと、魚の干物と昆布もありですね。
鰹節と、梅もあった方が良いかな?
当然海苔は必須ですね!
「む。シオン。吹きこぼれているぞ?」
「ああ、構いません構いません。蓋とっちゃ駄目ですよ? 赤子が泣いても取っちゃ駄目なのです」
「なんと……」
さて、おかずはウェンディさんが作ってくれるでしょうし、私とアイナさんはおにぎりに全力を尽くすとしましょう。
よし……ご飯は炊けましたね。
ですがこのままだと熱いですし、水分がまだ多いのでほぐして余計な水分を飛ばしましょう。
手を洗って綺麗にして、これで……準備は完了。
「む……そういえば、今から作ったら冷めてしまわないか?」
「冷めても美味しいですが、今回は練習ですのでお気にせず。勿論! 後で我々で食べなくてはいけません」
お米を無駄にするわけには行きませんからね。
後で美味しくいただかねばなりません!
……食べきれない程作ってしまったら、シロさんにお願いするとしましょう。
「そうか。どれ。楽々作ってみせよう」
「はいはい。どうぞ絶望に打ちひしがれてって……まだ熱いですよ!? あとお水! お水に手をつけてから塩を手のひらに広げるんですよ!」
それ駄目絶対!
くっついたら滅茶苦茶熱いんですよ!?
「む。そうなのか。だが、私は熱には強いので大丈夫だ。塩は……後でかけるとしよう。よし……確か、以前主君が作った物は三角だったな」
「そですか……。まあ……別に俵型でも良いと思いますが、やはり三角が理想ですね」
お館様のおにぎり……ああ、確かユートポーラでいただきましたね。
あれは美味しかった……。
塩握りではなく、お館様調味料でのスペシャルなおにぎりで、香ばしくて最高でした!
「ふっふっふ。まあ見ていろ。ほっ。ほっ……む? ……シオン」
「はいはい」
「三角にならないのだが……?」
「指の形が大切です。こう、指や掌をうまく使って三角にするんですよ。あとは回転させつつ適度に形を整えていきます」
「なるほど……。ふふ。やはり簡単じゃないか」
「ソウデスネェ……」
私から見ると一目で失敗だとわかるんですが……。
ほら、ご飯を取った時に見た量から推測した完成予想図よりも大分小さいですもん。
「どうだシオン!」
「はい。駄目です」
「なぜだ!?」
「ほら見てくださいよ。お米粒がつぶれています。これでは食べた時にもちゃっとして、不快感が残ります。おにぎりは口に入れた後綻ばねばなりません!」
「なん……だと……」
「あと、先ほども言いましたが塩は最後にかけるよりも掌に載せて広げてから握った方が味のバラツキを抑え、どこを食べても塩味が程よいおにぎりになるのです」
「むう……」
確かに綺麗な三角にはなっていますがね?
もっと緩い三角でいいんですよ?
そんな、三つの角が尖がる必要はないんですからね?
「むう…………ど、どうだ? 今度は米がつぶれていないぞ?」
「これは……一見出来たように見えますが、手に持ったら……」
「ああ! 崩れてしまった……」
「おっかなびっくりやりすぎです……。絶妙な握り加減を覚えてください」
「むうう……次こそ……む、握り加減を意識しすぎてうまく三角にならない……っ」
ふっふっふ。
予想以上に難しいと自覚したようですね。
その通り。おにぎりは確かに簡単ですが、追求すればするほど奥が深い料理なのです!
「あれ? 調理場から声が聞こえると思ったら、お二人共どうしたんですか?」
「おやウェンディさん。いいところに。早速で悪いんですけど、ちょっとおにぎりを握ってもらってもいいですか?」
「はあ……。おにぎりですか? いいですよ」
ちらっと材料が揃っていることを確認すると、すぐさま水に手を付けて掌に塩を伸ばし、あっという間におにぎりを美しい三角に握ってしまうウェンディさん流石です。
更には中身入りのものまであっという間に! 美しい!
「これでいいですか?」
「ばっちりです! どうですかアイナさん! お米の形がしっかりとしつつ崩れない見事なおにぎりですよ!」
たはー! 美味しそうですね! つやっつやですよ!
あとは大根の漬物でも数切れ横に沿えるだけで御馳走ですよ!
「もしかして明日のご主人様のお昼にアイナさんがおにぎりを握るんですか?」
「ああ、そのつもりなのだが……いいだろうか?」
「はい。勿論ですよ。ご主人様も喜ばれると思います。それでは、明日はおにぎりに合う献立にしておきますね」
それでは頑張ってくださいと、狭い厨房から邪魔にならないように部屋に戻っていくウェンディさん。
なんでしょうねあの正妻感……。
やはり男は胃袋からなのでしょうか?
私も武術の腕よりも料理の腕をあげた方がいいのかもしれないと思いますね。
「さて、どうですかね?」
「確かに……私のは駄目だな。むう……ソルテやレンゲよりは料理が出来ると思ったのだがな……」
「いえいえ。ウェンディさんは慣れているという事もあるでしょうが、予想よりは大分ましでしたよ! 一番酷いのはアレンジャーですからね……」
「アレンジャー?」
「ええ。基本を疎かにして画期的だとばかりにありえない組み合わせを試していく人達です。一番性質が悪いのは、アレンジしておいて味見をしない人たちです……」
どうしてアレンジャーは愛する人への料理が美味しいかどうかの確認をしないのでしょうか……。
恐らくは解明される事のない世界の謎の気がしますね。
「流石にそれはないな……。私は基本が大事だと思っているぞ」
「ええ、ええ。アイナさんは心配いらないようで安心しましたよ。ちなみに……おにぎりは握りをマスターするだけでかなりレパートリーが増えます。塩は定番ですが、中に何かを入れても良し、混ぜ込んでから握っても良し、更には焼いても出汁をかけても良しなのです!」
「なんと……可能性の塊という事か」
「その通り。究極のアマツクニ飯は間違いなくおにぎりです。ご理解いただけましたね?」
「ああ。よし。認識を切り替えて真剣に取り組むぞ」
「頑張りましょう! 出来るまでしっかり応援しますからね!」
うんうん。
教わる気がある相手だと、教えがいがあるというものですね。
この調子ならきっと朝になる前には終わるはずです。
この時の私は、そんな風に軽く考えていました。
……まさか、アイナさんが凝り性だとは思わなかったのです。
うう……数粒くらい潰れていても良いじゃないですか……。
もう十分美味しいおにぎりですってばぁ……。




