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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
13章 アマツクニ巡り
359/444

13-16 和国アマツクニ 遊び/木工スキル

お城を歩く。

今度はさっきと違って堂々と。


「おやシロさん? カゲツ殿のところにいたのではないのですか? いかがされましたか?」

「ん。遊びに来た」


タチバナ。シオンとアヤメと同じシノビ。

まあまあ強い? アヤメの方が強い。シオンよりちょっと弱いくらい。

でも頭は良さそう。


「左様ですか。では、巫狐様の元へご案内致します」

「ん」


タチバナが前を歩き、ククリのいる部屋への扉を開ける。

すると、ククリは御簾の奥で座っていた。

そして、御簾が開きククリが正座して座った姿で現れる。


「まあ……早速いらしたのですね。改めまして今代の巫狐、ククリと申します」

「ん。シロという」

「シロさんですね。それで……ご用はなんでしょうか?」

「遊んで欲しい」

「遊び……そのままの意味ではないですよね? 貴女からは闘気を感じますし……稽古を御所望なのでしょうか?」

「ん。話が早くていい。シロは強い人と戦いたい」

「……理由をお聞きしても?」


理由。そんなものはただ一つだけ。


「シロはもっと強くなりたい」

「……失礼ですが、シロさんは相当お強い方だと思われますが……まだ強くなりたいのですか?」

「ん。でも、シロはククリには勝てない。レアガイアにも、カサンドラにも、隼人にも勝てない」

「……地龍とその娘、更には流れ人の英雄ですか。それらは例外だと思いますよ? 貴女はそういった例外を除けば十分に、それこそ敵う相手を見つける方が苦労する程強いと思いますが……何故今以上の強さを求めるのですか?」

「主を守るため」


もう二度と、主があんな大怪我を負わないように。


「一切の迷いのない瞳……なるほど。今のままでも十分な気もしますが……」

「何があるかわからない。主はそういった例外なものを引き寄せるから。現に、ククリもでしょ?」

「……そうですね。あの方はそのような星の元に生まれてきているのかもしれませんね。わかりました。貴女ならば力を悪用する事もないでしょうし、お礼も兼ねてお手合わせを致しましょう」

「ん!」

「と、言いたいのですが……はっきり申し上げて、現時点では力量の差がありすぎます」

「ん……」


それは分かってる。

万が一、億が一にも勝ち目はない。

10分間、その場からククリが動かなくても無理だと現状で分かる程に、ククリの重圧は凄まじい。

更には内に秘めた力が、計り知れない。

そんな相手と稽古……どうすればいいんだろう?


「落ち込まないでください。私には数百年に及ぶ研鑽があるのですから、この差は当然というもの。なので……こういうのはどうでしょう? 私はこれから貴女に攻撃を当てません」

「ん?」

「……当てませんからね?」


ぶわっと嫌な感じがした。

反射的に後ろに飛ぼうと思ったと同時に、目の前にククリの姿があり、眼前に大きな拳が迫っていた。

ゆっくりと、死のイメージが明瞭になっていく。

だが、目の前でぴたりと拳は止められた。


シロの前髪を揺らしもしない完全な停止であった。

勿論、先ほど感じた大きな拳ではなく、ククリの身の丈に合った小さな拳だ。

そして、遅れて嫌な汗が止まらなくなった。


まったく、見えなかった。

正座から立ち上がるところも、移動してきた軌跡も、拳を突き出す動作も、何も見えず、ただ気づいたら目の前に拳が迫っていた。

差があるのはわかっていたけど、ここまで違うんだ……。


「今のように、感覚を鍛えましょうか。感覚が鋭敏化すればより素早く体を動かせるようになりますよ」


この部屋に入ってから常に警戒はしていた。

だけど、反射ですら動けなかった。

久しぶりにシロよりも速い人を目の当たりにした気がする。


「考えるよりも先に反射的に体を動かす勘が鋭いようですね。それも間違いとは言いません。ですがその先……反射よりも早く自ら考え動けるようになると、より優位に事が運べるようになりますよ」

「……難しい事を言う」

「ええ。一度反射を覚えてしまい、それに頼った戦い方を覚えるとより難しくなりますね。ですが、そもそもその領域に達していなければ進めぬ話です。疾く見て、疾く考え、そして疾く動かす。ただこれだけで、ヒトは誰でも強くなれます」


確かに、反射的な回避ならば自信がある。

エルデュークの森で、常に気を張って危険に備え、勘を、咄嗟の反射的行動を鍛え続けられていたから。

それを頼りに生きてきた。

だけど反射よりも速く動く相手には通じない。

反射的に、無意識に回避した先が死地……何てことも、十分にありえる。


「まずは疾く見る。簡単に言えば、目を慣れさせます。反応出来るようになりましたら、反応してみてくださいね。勿論、どう動こうとも当てませんので。では、続きをしましょうか」


言われてみれば三纏・白獅子を使った時は感覚が鋭敏化して相手の僅かな挙動も察知し、周囲の速度が少し遅く感じた。

ククリの教えはスキルを使わずとも身に着ける事は出来るって事だと思う。

……もし、体得したうえで三纏・白獅子を使ったらどうなるんだろう?


「……ん。んふふ」


これが、上位者たちの世界。

嬉しい。シロはまだ強くなれる。


貴女も(・・・)今のを経て笑いますか……。恐ろしくも懐かしく、興味もあります。いいでしょう。貴女はどこまで強くなれるのでしょうね」

「ん!」


圧倒的な上位者が、シロを強くするために鍛えてくれる。

それはとてもありがたい事。

確かに怖いけど、ククリが自信を持って言う当てないという言葉を信じられるくらい遥か先の存在に鍛えてもらえる。

まるで、シロがまだ小さかったころにクロに鍛えてもらった時みたい。

そういえば、クロも次元が違う程に強かった。

クロとククリはどっちが強いんだろう……?


「では、行きますよ?」

「ん!」


……強くなる。

もっと。誰にも負けないくらいに。

いつかククリにも勝てるくらい、強くなってみせる。

もう二度と……主を誰にも傷つけせたりしない。させないために。

シロは、もっともっと強くなる。


※※※


木工……竹トンボ、箱根細工の寄木なんかも木工だろう。

普段扱う金属や宝石類と大きく違うとすれば、木には節や年輪があり加工しやすい向きというものがある事だろうか?

更には『手形成(ハンディング)』が行えないのでそれぞれ木の弾性や硬度などの特性も理解しないといけない訳だ。


なんかこういう基本的な物づくりって久々だな。

新しい挑戦って感じでわくわくしているのも事実だし、楽しみつつ真剣にやっていこう。


「ベースは一枚の板だ。燻して乾燥してあるから、まずは表面を削って、そこから加工に入る。大まかに切りそろえた後はひたすら削る。櫛の歯一本でも手を抜きゃあ駄作になる。まあ、木工師の力量を見るにゃあうってつけのもんだな」


櫛は歯が命って訳だ。

俺の為に用意してくれたお手本は……流石の一言。

年季は入っているようだが、寸分のずれもない美しい歯が並び、手入れも良くされているようだ。

厚さは……薄いが驚くほどに頑丈だ。

八尾様の尻尾は毛が細くサラサラな真っすぐな物なので、俺もこうした細く細かい歯の櫛を作らねばならないだろう。


とはいえ、木工スキルがレベル1でどれほど通用するのか……という疑問は残るけど。

まあでも一度やると決めたのだから言い訳を先に立てて最初から諦めてかかっちゃいけないよな。


材料はアマツツゲ、アマツミネバリ、アマツイスノキの三種類の中から選ぶ。

アマツツゲは使えば使うほど艶が出て粘り強く、細工や工芸に適したもの。

アマツミネバリは前回親方に頂いた櫛の材料であり、成長が遅い代わりに頑丈で、細く歯を作っても壊れにくい。

アマツイズノキは重厚感のある色合いで高級感が高く、乾燥させるとアマツミネバリにも負けない強度がある。ただし、加工は相当難しいだろう。


「……」


親方は何も言わないって事は、ここはセンスというものだろう。

一先ず、今から作る櫛の目的に合うと思うアマツツゲを手に取って加工を始めよう。


「まずは形を大雑把に作り、歯の位置を決めろ。長さ、幅なんかをしっかりここで見定めろよ」

「はい」


所々黒くなっているのは、乾燥させるために煙で燻ってあるからだそうだ。

曲がりや反りのないこの板一枚を作るだけに、相当な時間をかけているのが伝わってくる。


黒く焦げた部分……それは、木工スキルを使う。

木工スキルの発動中は指先で撫でるだけで、紙やすりのように薄く削ぐことが出来るようだ。


レベルが上がると範囲や強さの調整幅が広がり、鉋の代わりや切断等も出来るらしい。

俺のスキルレベルでは切断など出来ないので鋸を使って切る事になるのだが、親方程のレベルになると俺の胴程もある木材を指先で一周撫でるだけで丸太に出来てしまうそうだ。


とはいえ親方は鉋や鑢など、道具を使っての加工も得意としており、道具を使った方が良い出来になると言っていた。

木工スキルのレベルが上がり、いくら便利なスキルを覚えようともMPが足りなくなる事が多いらしい。


錬金でもスキルで出すよりも手作業の方が良い物を作れるし、スキルのある世界と言えどそれだけでは駄目だという事か。


さて、今回作るのはアーチ状の櫛。

切断と焦げの除去を終えると歯は中央が長く、端に行く程短くなるように節を決める。


「次は櫛の歯を挽くぞ。一本一本、丁寧に鋸を入れる。こいつは精神使うが、集中していけよ。幅が不均一だと、使い心地が悪くなるからな。ガイドもあるからそれ使ってけ」

「はい」


ここで歯の幅と長さをつけるという訳だ。

今回は一番初めに大雑把に慣らすための櫛を作る予定なので、大きめの幅を取っていく。

とは言っても、数ミリ単位で、だ。

慎重に……一挽きごとに神経をすり減らしながら、寸分の狂いすらも許さぬ集中力で歯を作って行く。

数本の歯が出来たところで息を吐くが、まだまだ果てしない。


「これくらいで音を上げるなよ? 次は歯摺り。先を尖らせながら梳き心地が良くなるように滑らかな歯になるまで鑢がついた歯摺り棒で磨くんだ。同じリズムでやらないと太さが変わるからな。鑢は僅かに荒さが違う。見極めを自分でしろ。仕上げは砥草を巻いた歯摺り棒だ。ここが最も重要だ。一本たりとて気を抜かず、気合入れてやれ」

「はい」


小刀のような形の薄い板に紙やすりが付いており、それを櫛の歯の間に通して擦りあげる。

何度も何度も一定のリズムと力加減で繰り返していく。

歯摺り棒を入れる角度、力、それがわずかに違うだけで僅かずつずれてしまう。


表面だけであればスキルで指先を使って撫でれば出来るが、歯と歯の間は難しく、また力加減がかなりシビアなので歯摺り棒を使わざるを得ない。

削れすぎて尖りすぎぬよう気を付けながら行うのだが、たまに尻尾に当ててみて感触を確かめられるのはありがたい。


「最後は形を整えて、全体を滑らかにしつつ艶を出したら完成だ。実際に使うなら、アマツツバキの油を染み込ませた後だぞ」


最後の調整は木工スキルを用いて行う。

優しく、撫でるようにスキルを使って、持ち手に馴染むように仕上げを行っていく。

魔力の消費はあるが、錬金で鍛えたおかげでこのくらいの魔力消費は俺には問題ないのが助かるな。


「どれどれ……。ふん……まあまあだな」


はあ……まあまあか……結構頑張ったと思ったんだが……。

まあでも、最初だしそんなもんだよな。


「ほら。こっちの端とこっちの端、若干太さが違うだろう? 徐々に細くなっちまったみたいだな。基準を隣しか見なかった結果だ。逆にこっちは全体を見て戻したようだが、バランスが悪くなったな」

「なるほど……」


僅かではあるが良く見てみると少しだけ歪になっている気がする。

注視してみたら確かに分かったが、一瞬で気付ける親方は流石だな。


「ちょっと貸してみろ」


親方に道具を渡し、その場で全体的に修正をし始める。

やはり腕の違いが凄まじく、親方の歯摺りは力強くも繊細で、修正して渡された物は俺が作ったものよりも整った印象を覚えた。


「だがまあ、初めてにしては上出来だ」

「そいつはどうも……。でも、八尾様にふさわしくないだろ?」

「そうだな……。まだ出来るか?」

「当然」


工程はわかった。

親方も口を出すわけではなく、要点をまとめて教えてくれるのはありがたい。

駄目な所の指摘も的確で、次にやる際に気を付ける事が出来るから次はもっと良くなるはずだ。


もう一度最初の工程から繰り返し作っていく。

作るたびに親方から指摘を受け、何度も失敗作が出来ていくが、同じ失敗はせずに段々と良い物が出来ていると実感し始める。


技術が身についていくのが分かるのが楽しい。

最近は錬金で何かを作る際はスキル頼りである程度作れてしまっていたからな。

新たな事に挑戦し、それが身についていくのが面白くなってきたところで……。


柘植(ツゲ)の櫛 耐抵抗(小)』


親方が以前くれた櫛と同じ器用度ではないが、耐抵抗……?

まさかとは思うが、引っかかりづらくなるとかだろうか?

あと、流石に『指先の達人』はつかないか……。

とはいえ……だ。


「……良い出来だな」

「はあ……良し」

「がっはっは! まさか、一日でこんなに成長するとはな。見上げた集中力だな」

「親方の教え方が良かったからな。にしても……はぁぁぁ……疲れた……けど、楽しかったな」


何度失敗したかは……机の上にある失敗作を見ればわかるが、結構作ったな。

途中からは慣れてきたので速度も上がったが、結構失敗してしまった……。

失敗作とは言っても親方が加工しなおせば普通に使えるものばかりなので、弟子さん達の仕上げの練習用や、装飾を入れる加工の練習に使うらしい。

利用価値があるのなら、無駄にはならずに済んで良かったと思う。


「……よし。次だ」

「ん? お前、まだやるのか?」

「勿論。これは目が粗いだろ? 最初に大雑把に整える用だからな。次はもっと目を細かくして仕上げに使える櫛を作るんだ」

「良い根性だ。いいぜ。付き合ってやる」


親方も長い事付きっ切りで疲れただろうにありがたいねえ。

ふううう……良し。やるか。

一端の区切りにはなったし、さっき思いついた薄刃の回転鋸を錬金で作って作業の効率化を図ってから――。


「いやいやいや。もう夜遅いですからね? あと少ししたらコッコーがクックドゥードゥルドゥーしだしますからね? お館様ご飯も食べてませんし、流石に休まないと駄目ですからね?」

「へ?」

「くぅ……」

「すぅ……」

「アイナさんもウェンディさんも頑張っていましたが、先ほどぐっすりお休みになられましたよ!」


良く見ると俺のすぐ横で二人がお互いを支え合って可愛らしい寝息と表情を見せてくれていた。

そして机にはいつの間にか冷めてしまったご飯と干物が……っ!

あるえ……?


「あー……集中しすぎてた?」

「がっはっはっは。時間を忘れるくらい集中しちまったな! いやあでも、楽しかったぜ? 俺の弟子達も感化されたようだしな」


弟子?

おお、確か始めたころは周りで眺めていたお弟子さん達が皆作業机に座って眠っており、そこには製作途中の櫛や細工箱などが転がっている。


「いい刺激になったみたいだ。ま、初心者にこれだけのもん作られちゃあ、職人見習いとして立つ瀬がねえわな」

「元々細かい作業は錬金で慣れてたからな。MPも結構ある方だと思うし……。後は根気だろうけど、尻尾への愛が俺を動かしてくれたよ」


実際に当ててみると違いが良く分かる。

最初の頃の失敗作も悪い訳じゃあないが、この完成品は当てた瞬間にぞくっとする。

さらっと尻尾を梳くだけで気持ちが良い……。

歯の滑らかさが、尻尾の通りを良くするうえに直接あたる歯先が適度な刺激となって尻尾を震わせるのだ。


「……という事で、あとちょっとだけ……」

「シロさんシロさああああん! お館様を宿に運びますよ! この人言う事聞かない!」

「ん……らじゃ。シロも眠い。主と寝るぅ」

「待って! せめて薄刃の鋸だけ! 効率化の為に薄刃の回転鋸だけでもぉぉぉ!」


武器ではなく魔道具としてなら作れると思うの!

薄刃の回転鋸があれば、歯挽きがとっても楽になるの!

ガイドを作れば一定の幅で刃を入れられるから、後は長さを自分で調整すればいいだけになるのおお!


「別に櫛作りは逃げませんよ。ほら、今日は休む!」


や、確かに逃げないけど感覚を覚えているうちにやりたいんだよ!

今なら一発で成功できる……とは言わないけど、今回ほど失敗はしない気がするから!

半分の時間で終わらせられる自信があるの!


「ふわああ……それじゃあ、俺も寝るかな。また明日になったら来いよ」


ああ、待って親方ぁ! あとちょっとだけ! 歯を作る先っちょだけでいいからぁ!

本日分の投稿!!


……とは別に、XmasSSを毎年恒例通りやろうと思っております。

が!


何もまだ浮かんでないっ!!

まあでも、前回からの新キャラを出しつつ何か衝動に任せて書いていきます~。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり狐と言ったら紅葉の簪と柘植の櫛ですね
[気になる点] アマツイズノキとアマツイスノキとすぐ近くに書かれてるけど、どっちが正しいのかな?
[良い点] ものつくりしてるイツキさんはやっぱイキイキしてますね [気になる点] 超集中からの3日3晩貫徹コースは未然に防がれました。 親方良かったね [一言] シロがんばれ でも無理しないで
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