13-15 和国アマツクニ 特別な櫛
木工組合の親方に会いに出かけた俺達。
まず第一に俺の耳と尻尾に突っ込まれたのは、必然というものだろう。
そうなる事は分かっていたので、しっかりと対策は講じておいたのだ。
「はぁぁぁ……事情は分かった。タチバナ様もいるってこたあ嘘じゃあねえみてえだな……」
「うん。信じられないのはわかるけど、マジなんです」
「前見たときは人族だったから驚いたぜ。けど、まだ狐に化かされたって言われた方が信じられる話なんだが……この尻尾と耳が八尾様ってマジか……」
「マジなんです」
「はあああ……ガキの頃から聞いてた俺らの国のお上がなあ……。謁見なんざ普通は叶わねえし、死ぬ前に良いもん見れたな」
「まだ死にそうもないだろうに……」
「言うじゃねえか。その通りだけどな!」
ガッハッハと豪快に笑う親方は、相変わらず元気なのでまだまだ死にやしないだろう。
というか、名木工師である親方でも巫狐様にお会いした事は無いのか……。
なんとなく国宝級の細工箱などを献上していそうなイメージだったんだけどな。
「タチバナさんもわざわざご足労いただいて説明に付き合っていただいてありがとうございました」
「いえ。貴方のお話通り、顔見知りなのであれば下手に隠すよりもお願いした方が噂が広がらぬという判断です。……まさか、貴方がかの有名な木工師であるカゲツ殿とお知り合いだとは思いませんでしたが……」
え、親方名前カゲツって言うの? めっちゃ格好いいじゃないの。
あ、そう言えば櫛に銘が打ってあった気がする!
あれ名前だったのか! なんか親方の所属する屋号的な物かと勝手に思っていた……。
「それでは私は巫狐様の元へと帰りますので。カゲツ殿くれぐれも……」
「ああ大丈夫だ。この国にゃあ巫狐様に迷惑かけようと思う奴なんざいねえからよ。てめえらも口滑らすんじゃねえぞ」
へい! っと、威勢のいい返事をする若い衆が十数人。
今の揃った返事とか、ミゼラが聞いたらびくっとしそうだな。
ユートポーラで見た顔の男達が多いが、知らない顔もちらほらいるな。
なにやらひそひそと『あれが親方と言い争ったっていう……?』『ああ。混浴の為に一歩も引かずに親方と喧嘩した上に、見事なもんを作り上げ、人前でも平気でいちゃついた雰囲気を作り出すやべえ旦那だ。怒らすなよい』『ああ……ウェンディさん……相変わらず美しい……』『いやいや待て待て。今はタチバナ様だろう。普段は巫狐様の傍仕えだから見る機会なんて全然ないうえに、確か未婚のはず……』などなど、八尾の耳のおかげでしっかりと聞こえていた。
そんな奴らを一睨みで黙らせる親方を見て安心したのか、タチバナさんはペコリと頭を下げると、アッという間にいなくなってしまう。
タチバナさんもシノビ出身なので、相当強いのだと思うのだが……今の俺ならば気配からどう去ったのかだけは観察できた。八尾の耳、凄い。
「おう。そんで、今日はどういった用なんだ?」
「いや、普通にアマツクニに観光に来たから挨拶くらいはって思ったんだよ」
「なんだよそれだけかよ。一日あけちまったじゃねえか……」
おお、俺が来るから休みにしてくれたのか。
そいつはありがたいなあ。
じゃあ、今日は朝から飲みますか? 良いお酒があるんですけども! なんなら帝国産のラガーだって各種取り揃えて……じゃなくて。
「まあ、挨拶だけの予定だったんだけど見ての通り事情が変わってね。出来れば櫛を作ってもらえないかなってお願いしようと思ってさ」
「櫛だぁ? お前さんにはやっただろうが。まさか、ぶっ壊したのか?」
「違う違う。それはソルテ達用と他の冒険者なんかの獣人用とで分けてあるんだよ」
親方から貰った櫛はそりゃあもう大事に使わせていただいているともさ。
冒険者などの獣人にもかなり使用しているのだが、親方の櫛は流石に一級品でまだまだ壊れそうもないよ。
「知っての通り、この尻尾は八尾様な訳で。ソルテ達用は特別なものだから使えないし、これだけ綺麗な尻尾なんだから、どうせなら贔屓はしたくてさ」
俺がそう言うと勝手に尻尾が横に振られ、どうやら喜んでいる様子を見せる八尾。
傍目からは俺が喜んでいるように見えるんだろうな。
まあいいけど。
「……既に十分綺麗に見えるがな」
「いやいや。まだまだ八尾様のポテンシャルはこんなもんじゃないさ」
そう。傍目には十分綺麗で美しく、シャープでエレガントな長い尻尾に見えるだろうが、こんなものではないと確信している。
そんな素晴らしい尻尾に対して、俺は礼節を欠かず特別感を持たなければいけない義務があるのだ。
それに、巫狐様の七本のモフパラの手入れもするのだから気合を入れて専用とし、奉納する様な気持ちで臨まねばならないと思っている。
となれば、タチバナさんも知っている程の名工である親方作でないと!
「んんー……八尾様にか……」
「どうした?」
「ああ……うーん……。正直、今は櫛作りは辟易してて櫛作りは休業中なんだが、八尾様の為とあっては作ってやりてえと思うところなんだがよ……。今の状態じゃあ、失礼に値するもんしか作れねえと思ってな……」
「親方の腕ならそれでも十分……あー……親方自身が納得できないって事か」
「おう。納得するもんが作れねえ時は作らねえ。それだけは譲れねえからな」
親方は職人気質だものな……。
手は抜いたものなど外には出せない。妥協するくらいなら、最初からやらないという潔さは親方らしくて良いと思うけど……となると、困ったな。
「……んんー……そうだな……。お前作ってみるか?」
「は?」
「木工スキルは持ってるか?」
「いや、無いけど……」
「なら取れ。おい、スキル本持ってこい」
「へい!」
「へ? ちょっと待ってくれ、どういうことだ?」
お弟子さんもダッシュしなくていい!
こういう時って本当になんで皆聞いてくれなくなるんだろうか!?
待て待て、この流れだと俺が作る事になるんじゃないのか!?
「おめえに木工の才能がなけりゃあ仕方ねえが、お前が作るのが一番良いと思ったって事だ。錬金術師なら指先は器用だろう?」
「いや、確かにDEXは高いと思うけど……」
「なら大丈夫だ。あとは造形への情熱と集中力だけだ」
造形への情熱って……そりゃあ勿論尻尾を綺麗にするためならば情熱は絶やさない自信があるし、集中力もないとは言わないけど、そんな簡単なものじゃないだろう。
無茶ぶりだよ。頑固おやじ職人あるあるだよ!
それこそ、アクセサリー作りで造形の難しさは理解しているつもりだし、材料が変われば勝手も違うだろうと簡単に予想が出来るんですけど。
「ほれ、まずはスキル本でスキルを獲得しろよ。できなけりゃ元も子もねえからな」
「まじかよ……」
ま、まあスキルが取れなければ……
~スキル 木工 を獲得しました~
……取れちゃったよ。
「どうだ?」
「取れたよ……」
「おお、そうかそうか。じゃあ、大丈夫だな」
「どこらへんがだよ……本当に俺がやるのか?」
覚えたてのレベル1のひよっこですよ?
錬金のようにレベルが上がると便利なスキルを覚えるとかだと困るんですけど!
「ああん? 出来ねえのか? 温泉は作れて櫛が作れねえわけねえだろう」
「わかったよやるよ……」
尻尾はもう大回転する程の勢いで振られているって事は、八尾も賛成のようだし頑張るよう……。
「やるけど……そっちが言い出したんだからちゃんと教えてくれよ?」
「あったりめえだ。てめえこそやるからには投げ出すなよ?」
「ああ? 投げ出す訳ねえだろうが。俺の尻尾愛舐めんなよ」
「おお? 吐いた唾は飲めねえぞ? 中途半端なもんは叩き壊してやるからな」
ちぃ、この糞爺め……。
ガンを付けあいながらニヤニヤ楽しそうにしやがって……。
その無精ひげ、引き抜いてくれようかっ!
毛抜きで一本一本荒々しく!
「よし。それじゃあ工房に行くぞー。たっぷりしごいてやる。お前らもいい機会だからついて来い」
へい! っと、弟子達もどうやらついてくるらしい。
いいさいいさいいともさ。
こうなったら作ってやるともさ!
あのご立派な八本の尻尾の為でもあるし、一流の木工師である親方に習える機会なんて無いんだろうからせっかくだし学んでやるともさ!
「あー……皆はアマツクニの散策に出ててもいいぞ? 多分時間かかるし、それぞれ自由に見たいものもあるだろうしさ」
と言って振り返ると4人。
……ソルテとレンゲは、今日は動けないという事で宿のベッドで横になったまま、手を振って見送ってくれましたとさ。
わざわざ起き上がらなくても良いのに、見送ると言ってベッドに頑張って腰かけて見送ってくれましたよ。
「はーい。ではでは、お館様の護衛は私が請け負いますよ。皆さんはお買い物等お好きにしてくださって構いません。タチバナの部下がそこらへんにいると思うので、希望のお店を告げれば案内してくれると思います。夕方過ぎごろこちらに集合という事で!」
「……ん。わかった。シロはちょっと遊んでくる」
「ふむ。ではウェンディ。我々はミゼラへのお土産を探しにでも行くか?」
「そうですね。ですが、ご主人様が木工スキルを使うところも見たいので、早めに帰って来ましょうか」
「うむ。私も見たいからそうしよう」
こうして、シオンのみ傍に仕えて櫛づくりをすることになったのだが……大丈夫かなあ。
まあ、やるけど……なんでアマツクニに来てまで何かを作る事になったのだろうか……。
次回、久しぶりな気がするクラフトタイム。
そして……諸事情により来週はお休みします!
投稿できそうならしますが、基本はお休みだと思っておいてください!




