13-13 和国アマツクニ 獣人イツキ
右耳!
ピコピコ!
左耳!
ピコピコ!
両耳、伏せ!
ふわさ!
尻尾!
もふん!
……うん。俺の意思で動かすことが出来ている。
そして、俺が胡坐をかくと俺の膝の上に回り込んで鎮座する尻尾こと、八尾。
……俺も動かす事が出来るが完全にコントロール出来る訳ではなく、八尾の意思でも動かせるということか。
優先権は……どうやら俺よりも八尾が上のようだ。
「……うん。完全に一体化してるみたいだな」
狐耳と狐尻尾俺!
……一体どこに需要があるのだろうか。
「ソルテソルテー! ご主人がっ! ご主人が獣人になってるっすよー!」
「う、うん。悪くない……悪くないわね!」
「っていうか! ご主人からあんな立派な尻尾がっ!」
「うん。良いわ……良いわね! っていうか揺らさないでよちゃんと見られないじゃない!」
「ソルテこそ尻尾振りすぎで集中出来ないっすよ!」
「だって、だって主様が私達と同じ獣人に……きゃあああ!」
……獣人の二人が鼻息荒くふんすふんすいっている。
更にウェンディはうっとりしているので、一定の需要はあったらしい。
まあ確かに八尾は極上の尻尾であり、長く美しくどこかキラキラと輝いている気もするのでうっとりしてしまうのはわかる。
シロも興味津々のようで、俺の耳を触ろうとしてほおおお……と、呟いていた。
「あわわ……あわわわ……ど、どうしてこんなことが……」
「流れ人……まさか、強奪系のユニークスキルですか!?」
「先んじて言っておくが、主君にそんなスキルはないぞ」
「主、今日の分はまだある?」
「ああ。まだ使ってなかったな。『お小遣い』」
宙から舞い落ちる金貨……。
今日は醤油や味噌は振ってこない日なので、降ってくるのは金貨だけである。
「お、お小遣い……? それが、貴方のユニークスキルですか?」
「ええ。一日一回お小遣いが貰えます。あとたまに元の世界の調味料も貰えます」
「流れ人のユニークスキルは強力な物が多いはずですが……何故そんなスキルを……」
「働きたくなかったからですね!」
そう。俺は働きたくなかったのだ。
忘れてはいけない、俺はこの世界で働かないでまったり暮らすという目標がある事を。
初心忘るべからずである。
例え毎度呆れられていても、結構働く事が楽しい時もあっても忘るべからずである。
「タチバナ。尻尾と耳を奪うなんてスキル聞いた事ないですよ。っていうか、そんなスキル怖すぎるでしょう……」
「で、ですがこの状況は……」
「そもそも、巫狐様には洗脳だの状態異常だのそういう系のスキルは効かないじゃないですか。状態異常は元々成功率が低い上に巫狐様は魔力抵抗も9人分ですよ?」
「それは……そうですが……。……流れ人だったので特殊なスキルがあるのかと疑いの目を向けてしまい申し訳ありませんでした」
「いえいえ。まあ……この状況ですしね……」
先ほどまでわたわたとしていたククリ様は今はなんとか八尾を捕まえようとしているのだが、俺の意思とは関係なく八尾が躱し続けている。
「こ、こら八尾! 戻りなさい! 駄目ですよご迷惑ですよ!」
ククリ様は夢中になりすぎていて気づいていないのか、胡坐を組んだ俺の足の上に四つ這いで乗りこみ、必死に八尾である尻尾を掴もうとしているが逃げられてしまっている。
俺越しに腕を伸ばしても届かないと思うんだが……。
これ、傍目からは俺が掴ませないように意地悪しているようにしか見えないんだろうな。
「どうやってこんな……え? 愛のなせる技……? 身体の相性が良い? 意味が分かりません! なんですか? 一目惚れでもしたんですか!? というか、愛があったら切り離せたんですか!? 長い事生きてますが初めて知りましたよ!?」
このっ! このぉー! と、腕を伸ばしているククリ様。
もうなりふり構わないので俺に登って頭の方から腕を伸ばしており、顔面にちっぱいやらお腹やらがとても押し付けられていたのだが、動いたら落ちそうで怖いから動けない。
そういえば、友人の子供でこんなことがあったなあと思いだしたが、今じゃないだろう。
「こらっ……逃げるんじゃありません! 八尾! このお方に憑りついてどうする気ですか!? え? アマツクニ観光する? 繋がりはあるからいつでも戻れる? 確かに今でも貴女の考えはわかるので繋がってはいるのでしょうが……。いつでも戻れるなら今すぐ戻りなさい! ご迷惑でしょうが! ひゃあっ!」
ククリ様が八尾を怒ったタイミングで、八尾の尻尾が跳ね上がりククリ様の顔にクリーンヒット……。
この状態でも八尾が何を言っているかククリ様にはわかるんだな……。
繋がっている俺には全くわからないんだけどもね。
「痛っ……わ、わああ! ごめんなさいごめんなさい! 口が過ぎたのは謝りますから! 謝りますから叩かないでください! 離し……あ、離されたら顔から落ちちゃう!? あうあう!」
ようやく自分の状態に気付いたらしく、最早上るのではなく下山中であり、俺が落っこちないように太ももやふくらはぎを両腕で支えているせいで戻れないでいる。
とはいえ、このまま離したらおっしゃる通り顔から床に落ちてしまうだろう。
なんとか戻ろうと必死に体を起こそうとしているようだが、俺の後頭部にお尻を押し付けるばかりのようだ。
「わか、わかりました! わかりましたから! 貴女の言い分はわかりましたから! あううう……」
何とか治まった八尾とともに、俺が上体をゆっくり前に倒すとククリ様が後退していく。
その際に鼻をずっと抑えていたのだが、やはりクリーンヒットしていたようだ。
「あううう……ごめんなさいごめんなさい。どうしても八尾が貴方と一緒に行動したいようなのです……。勿論! ご迷惑と言っていただいて構いませんが……」
「あー俺としては別に迷惑って事もないんですが……」
ちょっと、ほんのちょっとだけ獣人の尻尾や耳に憧れはあったしな。
うん。まあ、ちょっとだけなので逆に迷惑ならば諦める程度なんだけども。
「でも、八尾……八尾様? がいないと、ククリ様の方が大変なんじゃないんですか? アマツクニの守護に影響が出るとか……」
「えっと……それは問題ありません。もともと全力で力を使う事など稀ですし、八尾は先代で、私と変わってから十年前後なので現在回復中でして、今は大きな力は持っていませんので。ただ……流石にそのまま国外に出るのは勘弁していただきたいですが……」
「えっと……じゃあ、俺としてはアマツクニ観光をする間くらいならば構いませんが……」
「うう、ありがとうございます……。その……恐らく遠目から見張る形となりますが、どうかご気分を悪くしないでいただきたく思います……」
「ああ、それは仕方がないかと。では、八尾様をお預かりするという事で……」
はあ……と、諦めた様子のククリ様。
対照的に八尾がもう千切れんばかりに尻尾をフリフリしていらっしゃる。
恐らく、俺には八尾が何を考えているのかはわからないので予想ではあるが喜んでいるのだろう。
傍目から見れば俺が喜んでいるように見えるんだろうけど……。
「あう……えっと……じゃあお願いします……。いいですか八尾。絶対に、絶対に御迷惑をかけてはいけませんよ? ちゃんと満足したら戻ってくるんですよ? もう……こういう時だけ聞き分けがいいんですから……」
ふんすふんすと、嬉しそうに尻尾を揺らし、俺に抱き着くようにまとわりついてきた。
……これだけで、八尾が憑いて良かったと思えてしまうもふっぷりだ。
「はあ……それでは、申し訳ありませんがちょっと疲れてしまいましたので私はお休みさせていただきます……。タチバナ、後は頼みました……」
「は、はい! ごゆっくりお休みくださいませ!」
「では、皆様……。一尾から七尾まではちゃんとお話を聞かせてもらいますからね! というか、皆さんは分離出来る事知っていたんですか……? え? ずるいって、二人目は駄目ですよ!?」
独り言のように見えるが恐らく他の尻尾達に話しかけながら御簾を超え、巫狐様の私室へと入っていくククリ様。
その背中は小さいながら、多くの苦労を抱えているように見えたんだが……今度、何か癒されるものでも贈って差し上げたくなった。
とはいえ、何を贈ればいいのかは全く分からないんだけどな……。
※※※
さて……あの後タチバナさんから色々と説明を頂いて巫狐様との謁見が終わり、宿に戻って寝る事となった訳なのだが……。
「だあああああああめええええですううううう!」
大きくバッテンを描いて完全なる拒絶を露にするシオン。
ちなみに、ここは俺の部屋である。
というか、宿なので大きな声を出す事が一番駄目だと思うのだが、どうやらこの部屋は結界程ではないにせよ防音性能が高い部屋らしいので……いいのかな?
「一昨日はお館様を休ませるために我慢しました! 昨日はお館様が酔ってとても眠そうでしたので我慢しました! だから今日は私です! 私が一番って約束じゃないですか!? 今日こそ私がお館様のお相手なんですぅぅううう!」
「うん……分かってる。分かってるんだけどぉ……」
「そこをなんとか……って、話っすよ……」
「嫌ですー! 私、今欲求不満なんです。今すぐお二人を追い出してお館様を押し倒したいんですけど!? どうせ最後はお館様のペースになるのでしょうけど、最初だけでも主導権を握りたい気分なんですけどー!」
ふー! っと、尻尾があれば逆立っている事間違いなしの絶対拒否の姿勢のシオン。
俺はと言えば、ベッドに腰を降ろして膝の上に乗った八尾を自分の尻尾が如く優しく撫でていた。
尻尾を撫でると俺も気持ちが良いのだが、尻尾を普段持っていないので何処とも言えない部分に気持ちよさを感じている。
八尾も気持ちが良いのか、俺に尻尾を預けてゆったりだ。
なるほどなるほど……ここの裏と根本がやはり気持ちいいなあ……毛先の方も敏感だし、これはいい勉強になる。
しかし、八尾と元々のもので今4つ耳がある訳なんだが……集中すると若干気配察知が敏感になっている。
シロとウェンディは同じ部屋で『主の尻尾と耳良かったね』『そうですね……獣人なご主人様も素敵でしたね……』『ん。シロもそう思う。尻尾綺麗だった』など、平和な話をしていらっしゃる。
アイナは……すぅすぅと既に可愛らしい寝息をたてているようだ。
……俺もそっちで寝ようかな?
「絶対に引きません! 私は不退転の覚悟ですよ!」
「くっ……こうなったら……」
「っすね……仕方ないっす。シオン、ちょっと耳を貸すっすよ」
「なんですか? 賄賂ですか? もう目標金額に達した私はそんなものに負けな……ほう? ほうほう。お二人分ですか……いいでしょう。交渉成立です! ではでは! 私はアイナさんとぐっすり眠ってきまーす!」
ちょろいな……どんな取引があったのかは知らないが、あれだけ拒絶していたにもかかわらずあっという間にまた明日! っと、部屋から颯爽と出ていくシオン。
そして、部屋に残ったのは俺とソルテとレンゲの三人……。
これは……そういう流れだよね? なんて、確認も必要がない程に二人して早々に服を脱いでいく。
いや、うん。分かっていたし期待もしていたんだけど……二人共? シオンが出て行ってから瞳が大変お怖いですよ?
「はあ……はあ……主様……。主様から素敵な尻尾が……」
「今日は寝かさないっすよぉ……。冒険者仲間に聞いたんすけど、獣人同士だと普通よりもヤバイらしいんすよね……。勿論……ご主人は試してみたいっすよね?」
それはそれはとても楽しみなんですけれど、ソルテはもう既に興奮しすぎてとろんとしていて、レンゲはぐるぐるな感じの瞳になってません?
普段は雰囲気とか大事にして欲しいって言うのに、今日は随分と肉食ですね。
……まあ、俺も数日ぶりで大分昂っているのでやぶさかではないのだけれどさ……。




