13-7 和国アマツクニ お館様で心配
アインズヘイルを出て数日が経った昼下がりの午後。
とりあえず虫ゾーンは馬車の荷台に引きこもってやり過ごし、帝国に入ってからは御者であるシオンの横で景色を楽しみながらのんびりと進んでいた。
「ふんふんふふーんふふふふーん!」
「……上機嫌だなあ」
「当然ですよ! まさかこんなに早くアマツクニに行けるとは思ってませんでしたからね! ミゼラさんが来れないのは残念でしたけど……! ですが! 切り替えて楽しんでいきましょう! 自分のせいで楽しめなかったらミゼラさんは悲しんでしまうような優しい子ですからね!」
まだミゼラとは出会って間もないのに、良く分かってるじゃないか。
確かに、ミゼラに聞かれたら呆れられそうだよな……よし。
「そうだな。俺も切り替えていこう。アマツクニが楽しみなのは間違いないしな」
「ふっふっふー。お聞きしたところ、故郷を訪れたのはレンゲさんのロウカクだけだとか。これは一歩リードでしょう!」
なんで故郷を訪れたら一歩リードなんだろう?
シロの故郷は……エルデュークの森とかいう危険な場所になってしまうんだろうか?
「あ、せっかくゆっくりお話できる機会ですし、そういえばずっとお聞きしたかった事が一つあるんですけどいいですか?」
「ん? なんだ?」
「いや、今更なんですけどね。ずっと謎に思っていたんですけど……どうやってロウカクで地龍を誑したんですか?」
「誑したって……せめて仲良くなったにしてくれないか?」
「どっちでもいいんですけど、仲良くというよりは誑しているイメージでしたので。やはりあれですか? 夜無双で地龍とはいえアンアーン! はわわー! しゅごいですぅぅ!! だったんですか?」
どっから声出してるんだ……。
しかも声音を2種類使い分けるとか、無駄に芸が細かくて多才である。
「ちげーですぅぅ……。っというか、カサンドラとレアガイアどっちの事を言ってるんだ?」
「それは……どっちも?」
「……俺にだって好みはあるんだぜ?」
「え!? あるんですか!?」
いや何でそんなに驚くの?
あまりの驚き方に馬もびっくりしちゃったじゃんか。
そりゃあるよ?
悪いけど、俺だってそれくらいあるともさ。
レアガイアは痩せたらきっと美人になるとは思う。
たられば、な話だけど。
「で? で? 実際はどうなんですか?」
「あー……地龍がロウカクを襲ってきたまでは知ってるだろ?」
「ええ。そして貴方達が地龍を倒したことまでは知ってますよ。細かいところは知らないので、是非聞きたいです」
「んんー……じゃあ、とりあえずカサンドラと出会ったところからだな――」
砂漠から落ちてカサンドラと出会い、何故レアガイアと戦う事になったのか、そして、どうやって勝ったのかを順を追って話していった。
シオンは聞き上手なので、余計な茶々も入らずスムーズに話し終わると……。
「えーっと……あれですか? 自殺志願者だったんですか? 隼人卿のように英雄になりたくて、死して英雄にでもなろうと思ったんですか?」
「まあ、そう捉えるのが普通だよなと今の俺なら同意しよう」
我ながら大切な事だったとはいえ地龍に挑むなど無茶をしたもんだ。
まあ、実際に戦ったのはシロ達な訳で……馬鹿みたいな無茶に付き合わせてしまったと反省しています……。
「で、コレン様も誑したと……。相手は女王ですよ女王。なんですか? 王族姉妹丼ですか? 美味しくいただいてしまったわけですか? 次はシノビ姉妹丼にするおつもりですか? それはいいですけど。推奨しますけど。更にはこれから向かう帝国の皇帝の姉君シシリア様も誑しているんでしょう? アイリス様もまんざらではありませんし、王族キラーですか? 私のお館様は恐ろしいですねぇ……。頼みますからアマツクニの巫狐様は誑さないでくださいね?」
いや、うん。
矢継ぎ早に王族姉妹丼だとかシノビ姉妹丼だとか王族キラーだとか色々ツッコミどころは多いのだが……。
「巫女?」
「巫狐様です。イントネーションが違いますよ。ちなみにですが、神力を持ったお狐人様の事です」
「お狐人様……」
狐人族という事だろうか?
狐……狐耳か。
狐耳は可愛いよなあ……。
冒険者ギルドにもいたが、ふわふわもふもふで気持ちいいんだよ……
エキノコックスの心配もいらないし、もふもふな尻尾に顔を埋めたいなあ。
「……間違っても巫狐様に変な事をしては駄目ですからね? 普通に国際的なお尋ね者にされてしまいますからね? 怒らせたら、国一つ滅びますからね? まあ? 流石にいくらお館様とはいえ巫狐様とは会う事すら無理だと思いますけどね」
「国一つって……なんだその龍種並みの破壊力は……。神力を持ったって、聖女と同じって事か?」
「いえ。聖女は後天的に神からギフトを貰った者なのでそれとは違いますよ。巫狐様は生まれた時から神の力を持っているのです。数百年以上生きていますし、アマツクニを守護するとても偉くて強い人なので、地龍の皆さんと同じような扱いだと思ってください」
おおお……文字通り畏れ多い人なんだな……。
まあでも、普通に考えて一般人の俺がそんなお偉い巫狐様と関わる事はまずないと見て良いだろう。
ただ単にアマツクニを観光してシオンの欲しがっている武器を買うだけなのだから、シオンの言う通り万に一つも出会う事すらありえないな。
「わかったわかった。失礼のないようにだな」
「本当にわかってますか!? なんか物凄く心配なんですけど! お館様って『アインズヘイルのトラブルメイカー』なんでしょう? 本当にっ! トラブルを起こさないでくださいね!?」
「……俺が起こしたトラブルってそもそもほとんどないはずなんだけどな。全く意味不明なあだ名だな」
「お館様がいるだけでトラブルが起こると聞いているから心配なんですよ!」
なんだその、見た目は子供で頭脳は大人な名探偵のような扱いは。
必ず事件が起こるといった扱いをされるほど、俺はバーローな生き方はしてきていないはずだぞ。
「はああ……どうしてでしょう。とても不安になってきました。シロさん達にも話しておいた方が良さそうですね……。いいですか? 絶対に敵対しちゃ駄目ですからね? 攻撃も、ラッキースケベもダメですからね!」
「ラッキースケベと攻撃が同義なのか……」
「お館様の場合は同義です。むしろ攻撃よりも重きを置きます。うっかり転んで巫狐様のパンツを脱がすとか、うっかりころんで巫狐様のちっぱいを口に含むとか絶対しないでくださいね!」
「そうはならないだろ普通……」
何の心配をしているんだか。
日常生活でそんな事が起こる訳がないだろう。
……あったとしても、加速する方向性を使った際にアイナの服がめくれあがり、おっぱいを直揉みしてしまったくらいだ。
「そ、そうですよね? 普通ありえませんよね。うんうん。危うく不安と心配で楽しい気持ちが押しつぶされてしまいそうでした!」
「そうそう。楽しく行こうぜ? アマツクニっていえば……やっぱりまずは米だよな」
「当然ですよ! お米といったらアマツクニ! 他国のなんちゃってパッサパサ米とは訳が違いますよ! アマツクニの豪商、ゴウキ殿の所へは案内しますから、大量に買っていきましょうね!」
「ゴウキ……ああ、ユウキさんのお父さんか」
確かアマツクニの豪商の娘さんだと隼人が言っていたな。
ユウキさんにはいつも米を送ってもらってお世話になっているし、どうせ行くのならば挨拶を交わしておこうと思う。
「え、まさかお知り合いですか?」
「いや、娘さんの方とちょっとな。いつも米を融通してもらってるんだ」
「なるほど。だから普段からお米がお家で食べられていたんですね。どうりで美味しいお米だなと……。それで、手籠めにしたのですか?」
「してねえです……。武芸者って感じな子だろ? あの子はむしろ、隼人に惚れるんじゃないかと思ったんだけどな……そういえば、いなかったな」
手合わせして隼人の人となりを理解したようだし、惚れない要素など無いと思ったんだがな……あの天然ジゴロなら。
というか、誑すというのなら、俺よりもあいつじゃないか? イケメンだし、英雄だし、伯爵だし、良い男だし、そんな気がするのは俺だけなのかな?
「ああ、驚きました……。まさかアマツクニにまで手が及んでいるのかと……」
「俺が何か侵攻でもしているかのような物言いだな」
「そうも思うでしょう? 王国、帝国、ロウカクですよ? アマツクニや共和国、聖王国などどこまで手が進んでいるのかと思いますよ」
「安心しろよ。アマツクニの知り合いはユウキさんと木工組合の親方くらいだ」
「木工組合……。ああ、温泉の時のですね」
そう。あの温泉と館を共に作った親方だ。
元気してるかなー。櫛のお礼をしたいんだけど、運よく会えたりしないだろうか?
「別に縁は女の子だけという訳ではないんですねえ……」
「そりゃそうだろ」
「それで、共和国や聖王国はどうなんですか?」
「そっちも知り合いはいないよ。ああ、でもテレサや副隊長は王国なのか? 聖王国なのかどっちなんだろう?」
「テレサって言うと、王国の聖女様ですか? お知り合いなので?」
「ああ。まあ、仲良くさせてもらってるよ」
「仲良く……聖女様まで!」
「そういう意味じゃない」
「はあ……なんだかアレですよね。お館様って、世界を征服しようと思えば出来そうな気がしますね。地龍がいて、英雄がいて、聖女がいて……やりますか?」
「やらねーです。興味ねえよ」
「ですよねー! あ、そろそろ帝都が見えてきましたよー。少し寄って行くんですよね?」
「ん、まあ。近くを通るんなら挨拶くらいはしておこうかなって」
シオンの言う通り帝都が見え……いや、あれはまだ見えない範疇じゃないか?
ちょこんって、見える気がしなくもないが、まだ一日以上かかると思うんだが……。
こうして、普段よりも騒がしくも楽しく旅の道中をいくのであった。
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メイラちゃんいっぱーい!




