13-5 和国アマツクニ シオンとアヤメさん
それはリビングでくつろいでいた時の事である。
ダダダダッと、足音を盛大にたててやってきた来訪者。
それは、まさかの人であった。
「吐きなさい!」
「何を!? ぐえ!」
いきなり胸倉を掴まれてしまっては吐くものも吐けないです!
なんですかアヤメさん!? 何があったんですかアヤメさん!?
「なんでシオンがいるんですか!? なんで入り口でお花にお水をあげていたのですか!? まさか手籠めにしたのですかっ!?」
「あばばば、へ? シ、シオン?」
「ちょーっとちょっとお姉ちゃん! うちのお館様の首を絞めないでくださいよ! お館様弱っちいんですから! すぐ死んでしまうんですから!」
いやいや、最近は鍛え始めてそれなりに経つからそれなりに強くなったし、耐久力だって昔に比べればそれなりに上がったんだよ?
まあ、シオン達に比べればほんのちょこっと、微々たるものなんだろうけどさ……ぐすん。
いや、泣いている場合じゃない……え? え? お姉ちゃん?
「え、シオンの姉ってアヤメさんなの!?」
「はーいそうですよ! まあ、お館様はアイリス様とお知り合いなのですし、お姉ちゃんともお知り合いだと私は知っていましたけどね」
いやいやいや。
全然似てないよ!?
似てると言えば黒っぽい髪色な事くらいだよ!?
でもそれならユウキさんだって同じ髪色だよ!?
性格も目つきも全く似てないよ!?
……確かにシオンから姉がいると聞いた時何故かアヤメさんを想像はしたが、一瞬でまさかなと否定したくらいだよ!
「シオン!? 貴女、まさか本当にこの男を主にしたんですか!?」
「はい! その通りです! 私が生涯お仕えするのにふさわしい偉大なお館様ですよ!」
腰に手を当てどや顔シオン。
そんな事よりもまず手を放すようにもっと言ってくれ!
今アヤメさんは何と無しに胸倉を掴んでいるだけなのだろうけど、ステータスが高いからきっついの!
「そんな……っ。考え直しなさいシオン。今ならまだ間に合います!」
「嫌ですよ……。むしろ、私がごり押ししてお仕えさせてもらってるんですから」
「なっ……っ。……いいですかシオン。何をされたかわかりませんが、この男は変態です。限り無く人に近いだけの変態なんですよ? 6人もの女性を奴隷とし、人のふとももに瞳を光らせ、あわよくば下着が見えないかと瞬き一つしないド変態なのですよ!? 貴女の事です。一時の金銭に目がくらんだのでしょうが、やめておきなさい! 変態が感染しますよ!」
ええー……俺の評価散々じゃないですかね?
これでもある程度の付き合いですし、少しは見直されたと思っていたんですけど……。
あと変態は感染しません。あと俺はオリゴールよりは変態じゃありません。
「お姉ちゃん……」
「シオンわかってくれま――」
「今は私もいますから、奴隷は7人ですよ?」
「貴方という人はああああ!」
「あばばばば!」
ガクガクと首を揺らされると取れちゃうよ!
これが冗談ではないのだから、異世界は恐ろしい!
ガクガクの勢いで首がコロンと逝ってしまいそうだっ!
「お姉ちゃん! 落ち着いてください!」
「シオン! 貴女こそ落ち着きなさい! 私はたった一人の妹が変態に侵食されないようにしているだけですよ!」
「……もう。……お姉ちゃんはそんな事言っておいて、自分よりも妹に先を越されたから嫉妬してるんじゃないですか?」
「……はあ? それは……どういう……まさか、貴女もう!」
「えへへ~! お館様はぁ……とっても激しくて、優しかったです……。私……もうお館様にメロメロなんですよぅ」
「貴方という人はあああああ!」
あ、やばいこれ。
まじで取れる! 取れちゃう!
以前腕は簡単に取れないとアヤメさんが言っていたけど、首が簡単に取れちゃうよ!
というか、こんなに感情が乱れたアヤメさんを見るのは初めてだっ!
「まあまあお姉ちゃん。本当にお館様が死んじゃいますから、手を放してください。いくらお姉ちゃんでも、それは許しませんよ? というか、そのままだとお姉ちゃんがシロさんに殺されちゃいますよ? ちなみに私はシロさんに加勢します」
「うっ……。ぐぬぬぬ……」
手は離れたものの恨みがましく俺を睨んでいるのだと思うのだが、視界が揺れすぎて気持ちが悪い……。
辛うじてシロとシオンがいてくれたという事だけはわかった。
「というかですね? お姉ちゃんだって、お館様の良い所を知っているはずですよ? どれくらいかは知りませんが、知り合ってからそれなりに長いのでしょう? それならば、判らないはずがありません」
「それは……確かに良い部分が無いとは言いませんが……。はっきり言って、貴女はもっと主に対しての理想が高かったと思ったのですが……」
「高いですよー? まず第一に、私が一緒にいて楽しい方であり、居心地が良く、多少の失礼を許してくれなくてはいけません。勿論お金持ちである事は大前提であり、清潔感の無い方はお断りです。その全てを余裕で突破したのがお館様ですので」
「……確かに、その条件だと貴族や王族は難しいでしょうね。ですが……何もこの男でなくとも……」
ううう、やはりアヤメさんはツンですね。
デレは来ないんですね……。
いや、まあその方がアヤメさんらしいといえばアヤメさんらしいと思いますけどもね。
「むう、いつにも増して異様にしつこいですね……。あ、もしかしてお姉ちゃんもお館様を狙ってましたか? 妹の相手だと気が引けるからですか? 大丈夫です。お館様はお姉ちゃんもきっと受け入れてくれますよ。一人も二人も八人も変わりませんよ! 姉妹でも関係が無い実績もあるそうですし! さあ!」
実績って……それは、レンゲとコレンの事だろうか?
何で知ってるの君……。
「な、なにが、さあですか! 勝手に自己完結しないでください。私にそんなつもりは毛頭ありません!」
「でもでも、初めての相手にも慣れていますし、初めては痛みばかりとのことでしたが、全然大丈夫でしたよ? 凄く丁寧で優しくて、それでいて激しいのに痛いどころかむしろ頭がほわーってなって、視界パチパチで気持ちよすぎて意識が飛んで腰が抜けてしまうほどでした! 文献で勉強はしていましたけど、やはり実戦は違いますね! 経験値がぐんぐん増えた感じですよ! これはお姉ちゃんでもはまっちゃいます! というか私ははまってしまいました!」
「そ、そういう生々しい話はやめなさい! はあ……わかりました。認めます。良い所があるのは認めますよ……ですが――」
どうやらアヤメさんはまだ納得は出来ないらしい。
まあ、唯一血の繋がった妹の人生における大事な分岐点だから、簡単には納得できないよな……。
「はあ……全く。アヤメの奴め。護衛がわらわを置いていってどうするのだ」
「アイリス。いらっしゃい」
「うむ。すまぬな。騒がしくて」
「あー……まあ、わからなくもないし」
肉親が知り合いの奴隷になったのだから、騒ぐのも分かるというものだ。
だが、今更手放す気もないし、どうにか納得はして欲しいけどな……。
「そうか。そう言ってくれるのならば良かったぞ。ほう……こやつがアヤメの妹のシオンか。はは、似ておらんな」
「アイリスも知らなかったんだ」
「うむ。まあ、アヤメは多くを語らぬのだが……珍しい事が目の前で起きておるな」
ふう、と息を吐くアイリス。
どうやら疲れがたまっているらしい。
俺の横に座ると力を抜いてだらーんとしてしまっている。
「……アイスでいいか?」
「ん、うむ。わらわが言う前に気づくとは、流石は気の利く男だな」
まあ、アイリスにはとりあえずアイスを出しておけば問題ないだろうという考えが無いとは言い切れないけどもね。
「お疲れみたいだな」
「うむ……まあ、建国したてなどそんなものだ。安易に統括など引き受けるものではないな。落ち着き次第、すぐに代わりを立ててやる」
「まあそう言うなよ。頼られてるって事だろう?」
「そうだな……。というか、それを言うのならば貴様も誘われたのだろう?」
「あー……一応? でもあれは、オリゴールの我儘だろう?」
「阿呆。ダーマ、メイラからも候補に挙がって居ったぞ。勿論、わらわもな」
「あー……かってくれるのはありがたいけど、お断りで」
「だろうな。二人もそう言っておった。まあ、良い。わらわとしては、こうしてたまに寛がせてもらえるだけありがたいから構わぬ」
アイスの準備を整えると、疲れた顔が少し明るくなったように見える。
机の上に準備したアイスを手に取り、ぴょんっと俺の片膝の上に乗るアイリス。
なんで片膝? と思ったら、シロがもう片方に乗るためだったのだとすぐに気付く。
「はわぁ……アイスぅ……わらわ、この為だけに頑張れるぅ……」
体を預け、恍惚の表情でアイスを食すアイリス。
ゆっくりと匙を舐めるように吟味し、一口一口を大事そうにして食べきってしまう。
「おかわりか?」
「うむ。だがその前に……」
アイリスがアイスよりも優先することがあるのか? と、思うと同時に腕を取られ、腰を支えさせられる。
「よし。これで良い。では、おかわりだ」
「なんだよ。人恋しいのか?」
「たまにはそういう日もあるのだ。はあ……平和だな……幸せな時間だ」
「そうだな……うん」
「うむ。やはりこういう時間は良い。早く落ち着いて欲しいところだが、そのために頑張るとするか」
シロにもアイリス同様に抱きかかえさせられつつ、俺も最近は忙しかったのでこのまったりとした時間を堪能させてもらおう。
目の前で珍しく感情をむき出しにしたアヤメさんと、久しぶりなのか楽しそうに姉をからかうシオンの二人がこっちに視線を向けるまでの短い時間だろうけども。
オーバーラップホームページにて8巻の表紙が公開されました!
表紙はメイラちゃんとウェンディさんです!
書き下ろしでメイラちゃんも含めた皆との真夏のお話を書いてますよ!




