12-17 愛する人の為に 譲れないもの
さあ。
「はーはっはあああっ!」
「っ……!」
さあさあ。
「そんなもんかよ隼人!」
「っ、はっ!」
「甘えなあ!」
「ぐ……!」
さあさあさあさあさああ!
どんどん行くぞおい。
今日は調子が上がりっぱなしだ!
麻痺効果は倍々ゲーム。
今は右腕に一撃加えれば64秒だ。
動けない腕を抱えて戦うとなると、そこを庇って随分と動きづらそうだな。
精細な動きが出来てねえから俺でも当たる!
「あっははははは!」
「す、すげえ兄貴! 笑いながら戦うとか悪役みてえだ! でも隼人を圧倒してる! この調子でいけばもしかして、もしかしちゃうんじゃないッスか!?」
「……真。黙る」
「えっと、シロさん?」
「圧倒なんて出来るわけがない。それに……隼人はまだ本気どころか戦ってすらいない」
「そんな、でも……」
「出来れば……ここで決めて欲しいとシロも思う。でも……」
「……はぁぁあああ!」
「っ!!」
隼人が無理くりに左腕で剣を大きく振りぬくと、交えた刃ごと大きく跳ね飛ばされる。
っ……あんな適当な大ぶりがなんて威力だよ。
冷やりと汗が落ち、乗っていた調子を一瞬で落ち着かされてしまった。
追撃が来る、と身構えていたのだが予想が外れて来ないどころか、隼人はその場から動いてすらいなかった。
「もう……やめにしましょう。イツキさんの力はよくわかりました。やっぱり凄いです。この短期間で、随分と強くなったんですね。面白いスキルも覚えたようですが……僕には勝てないのだとわかりました……このように」
「っ!」
一瞬にして肉薄される。
まるで加速する方向性を使ったかのような、0から100の加速力に目を見開いて驚いてしまう。
「はぁっ!」
「ごぁ、ぎっ!」
刀越しであったにもかかわらず、鈍い痛みを感じながら地面を転がされるように吹き飛ばされる。
自分で自分を切らないようにとか、そんな事を考える余裕もないような速度で、止めようと思っても止まらず、最終的には街道の端の木々に背中を打ち付けてようやく止まることが出来た。
「少し……僕が本気を出すだけでこうですよ」
「がぁ……こっ……かっあ……」
息が止まる。
呼吸が、上手くできない。
苦しさのあまり目を見開いて涙目になり、必死に酸素を取り入れようとするが入ってこない。
あーくそ……体も痛えなあ……。
「右腕も、もう動きます。もう攻撃は受けません。……わかったでしょう。これ以上続けても無駄なんですよ。だから――」
「がっ、こふ……か、うはぅ、あ……かっはあああ……はあ……変な声出させやがって……だから、なんだよ」
ああ。良く分かったよ。
何を辛そうな顔してんだか。
覚悟決めたとか言っていたくせに、全然じゃねえか。
陰陽刀を突き出し、まだ戦えると意志表示する。
「……フラフラじゃないですか。もうやめましょうよ……これ以上は……無意味ですよ」
「無意味……ね。そうかもしれないな。でもよ……そんな事、お前には関係がないだろう」
「……え」
「誰であろうと敵に回すんだろう? だったら、俺くらい倒して、自分の矜持を貫いたって胸を張ればいいだろう。レティを助けるって決めたくせに、俺は傷つけたくないってか? どっちつかずとかふざけんじゃねえ。覚悟決めたんだろ? だったら、最後まで貫き通して見せろよ」
いいじゃねえか。惚れた女の為に何もかもかなぐり捨てて、友だろうが世界だろうが敵に回せばいい。
俺だってそうすると誓っただろう。
胸張って、僕は僕の矜持を守りますって言えよ。
俺は凡だよ。凡人だ。
真がかつて言ったように、普通のおっさんだ。
でも、こんな俺を、お前は厭味じゃなく凄いと言って褒めてくれる。
嬉しかった。お前みたいな本当に凄い奴に言われて嬉しかったよ。
俺だって、お前の事は心底凄いって思ってるさ。
英雄だからじゃあない。
お前自身の中身の話だ。
でも……お前は優しい男だからな。
俺がお前を大切に思うように、お前はきっと俺を相手にしたら本気を出せないと思った。
その甘さに付け込んだ作戦だったんだけど……。
「……いつこれが俺の全力だって言ったよ」
その甘さは……違うよな。
誰だって敵に回すって言ったくせに。
敵なはずだろう俺は。
なのに……お前は俺を、認めていないんだな。
お前から見たら、俺は敵にすらなりえない。
それはとても、悔しい事だから。
マナイーターを収納し、魔道具であるランタンを取り出す。
「今までは剣士としての戦いだ。こっからは……俺らしく戦わせてもらうぞ」
作戦変更だよ。
お前の優しさに付け込むのをやめて、認めさせてやる。
言葉だけじゃあなく、お前が俺を、本気を出すに値する男として認めさせてやる。
対等な男として、俺を見ろよ。
同時に、認めさせてみせろ。
大切な人を助けるために、本当に誰が相手でも敵に回す覚悟がある、俺が尊敬できる男だと。
自分の矜持と俺の意地、お前の方が上なんだって示して見せろよ。
ランタンに土属性の魔力を注ぎ、小さな魔力球で辺り一面を埋め尽くすように覆っていく。
そして、地面と同化するように吸着して動かないようにして、もう一度マナイーターを取り出す。
「これは……足場が……」
弾性が高く不安定になる足場。
更には、『加速する方向性』×4+弾性によって速度は今までよりももっと早くなる。
「っ……!」
「……64秒だ」
すれ違いざまに右腕を切り、麻痺効果は一分ちょっと。
反動で体がビキビキ言うが、知った事か。
このまま四肢を潰していき、最後には体全体を動かなくしてやるよ。
隼人はまだこの足場に慣れちゃいない。
足場がいきなりトランポリンのようになったもんだからな。
慣れるまで数秒、慣れなきゃ転ぶまでありえる状況だ。
「こんな、足場!」
「ぐっ!」
左腕で思い切り振りぬかれた剣によって、地面がえぐられ設置されていた魔力球が剥がれはしないものの、元の地面をむき出しにされてしまう。
頭の回転早いなあおい。
「ちぃ……」
出来ればもう少し当てたかったところだがな。
とはいえ、次は128秒、約二分だ。
二分間利き腕が動かないのであれば、そこから勝機を見出せる。
「……イツキさんこそ。覚悟が足りないんじゃないですか?」
「……何?」
「なんで、そんな刀を使っているんですか? 麻痺効果だなんて、僕を殺す気がない証拠じゃないですか」
「阿呆か。俺のSTRじゃお前に傷一つ付けられないだろうが」
とんとん、っと肩に刃の背を乗せて叩く。
これで麻痺効果が乗ったらとても困るが、幸いな事に乗らなかった。
「切れますよ。幽体を切られた状態では、ステータスが著しく低下してただの生身と変わりがありません。だから、切れるんですよ」
「……そうか。知らなかったな。でも、変える気はねえよ。俺の覚悟は、ウェンディを助ける事だけじゃあねえからな」
「え……」
「ウェンディもレティも、ついでにお前も助けてやるよ。そのために、俺はここに来たんだからな」
「なっ……イツキさんこそ、覚悟が足りないじゃないですか。そんな現実を見ていないような事、それこそ物語でしか……」
「ああ。だったら物語にしちまえばいい。お前の英雄譚の一節にしちまえばいいさ。お前の英雄譚に、お前が救わずに別の誰かが救う物語があってもいいだろう?」
だから――。
「もう一度言う。そこをどけ隼人。ウェンディと、仕方ねえからついでにレティも助け出してやるよ。覚悟も決まってないお前の代わりにな」
「…………貴方も」
「あん?」
「……いえ。なんでもありません。でしたら、尚更譲れませんね。レティは、僕が僕の手で助けたいので」
貴方もって……ああ、そういう事か。
なんだよ。
お前も、分からないけど、何か考えがあるんだろうな。
例えば……二重の魔法陣とか、ミィへのオボロの情報だとか……。
「じゃあ……仕方ねえな」
「仕方ないですね……」
ああ、仕方ない。
どちらも譲れないんだ。
例え、どちらが勝っても同じ様な結果が訪れるとも。
その過程をどちらも受け入れられないのだから、男同士ガチンコで勝負をつけるしかない。
「負けても文句言うなよ? それでお前の代わりに英雄を引き受けろとか言ったら引っ叩くからな」
「そっちこそ……。死ぬほどの重体になっても後で騒がないでくださいよ」
さあ、ここからが本気の勝負だ。
勝ち目は0。
まごう事なく、純粋な0だ。
だけど……少しだけ嬉しく思う。
負ける気はない。
全て使って、お前に負けない俺を見せてやる。




