12-4 愛する人の為に 突撃双星の美姫+α
本日の朝食、クロワッサンのように巻いて層になっている柔らかくも香ばしいパンと新鮮な朝取り野菜サラダ。
二つ目卵のスクランブルエッグに、厚切りベーコンのソテー。
更にはおおもろこしで作ったコーンスープも加わって、洋風王道朝食のセットである。
飲み物はこちらの世界でも生で飲む事が習慣である、ミネラルモーモーの乳。
ほんのり甘く濃厚で、子供の頃から飲んでいると骨が強くなると言われているそうだ。
……先ほどまではなかなかに混沌とした朝食の場になりそうだったが、
『お腹すいたぁ……朝ご飯ある?』
という、気の抜ける真の声によって毒気が抜かれ、今は平和に朝飯を取る事が出来るようになっていた。
……真も役に立つのだな。
「はぁぁぁ……パンふわっふわ! ベーコン厚切りジューシィ! 卵も美味い!」
「まーくん。お野菜も取りなさい」
「ええ……あんまり好きじゃないんだよな……」
「ん。良く分かる」
「お、シロさんも一緒? イエーイ!」
「イエーイ」
ハイタッチをする距離ではないが、エアハイタッチで何かわかりあってしまった二人。
うちのシロに変な事を教える真はどうしてくれようか。
「イエーイではありません。ちゃんと食べないと、大きくなれませんよ?」
「むう……。真は大きくなってる。だから問題ない」
「シロちゃん、確かに体は大きくなるかもしれないけど、中身が伴わなくなっちゃうよ?」
「むう……それは困る」
「あのー……それは、俺の中身が伴っていないという事でしょうか……?」
真の質問に対し、美香ちゃんの回答はスルー……。
その沈黙が、肯定のように感じたのか真は肩をガクリと落とす。
だが、すぐさまお代わりのパンを手に取ったので、そこまで傷ついている訳ではないようだ。
流石盾職メンタルも強いようだ。
「いやあ、しかし本当美味い朝ご飯ッスね! 美香と……確かミゼラさんで作ったとか! めっちゃ美味いッス!」
「私は別に……ほとんど美香さんがしてくれたから」
「そんな事ないですよ! ミゼラさんの作ったスープとても美味しいです」
「それはウェンディ様に教わったレシピで作っただけだもの。凄いのはウェンディ様よ」
「いやいや。レシピ通り作るのだって大変なんですから」
「だな。ミゼラ、美味いって言われたら、ありがとうでいいんだよ」
ミゼラが俺を見るので微笑んで返すと、少し恥ずかしそうに頬を赤らめ真に向かって頭を下げる。
「もう……ありがとうございます」
「お……あ……はい……」
「あらまー君? ミゼラさんに見惚れちゃった?」
「ミゼラには冒険者ギルドにもファンがいるからな」
「分からなくはないですね……。線が細くてお姫様みたいだし、か弱い印象がついつい守ってあげたい保護欲を駆り立てますもん! ……でも残念。どう見てもイツキお兄さんに惚れてます!」
「なっ、違! ちょっと見惚れただけで! ……ちくしょう……兄貴はずるい!」
「はいはい」『リーン リーン リーン』「っと、来客か。アイナ、頼めるか?」
「ああ。承った」
しかし、こんな朝早くから来客とは誰だろう。
ヤーシスか、アイナ達を呼びに来た冒険者か、それともメイラかダーウィンか? あーオリゴールって可能性もあるか。
ん? なんだ? どたどたと足音が複数……。
「「せんせー!」ぇー!」
「なっ……」
まさかだろう。
思わず手に持ったパンを皿の上に落としてしまう。
「えへへ来ちゃった!」
「せんせのお家に来ちゃったぁー!」
学生服ではない。
可愛らしいお揃いの洋服に身を包まれた若い女の子達が、二人揃ってシンメトリーのように目の横で横向きのピースをしてポージングを取っている。
その正体は……ベルセン侯爵家のご息女であらせられる、姉ラズ・ベルセンと、妹クラン・ベルセン。
俺の、生徒である二人だ。
「なんで二人がアインズヘイルに?」
「えへへ。新作の香水が出来たから、試供品をアインズヘイルに持ってきたんだー!」
「えへへ。ついでにせんせのお家にお邪魔しようと思ったんだけどお留守だったからね。でもでも、昨日帰ってきたって聞いて朝から突撃なんだよぉー!」
「じゃんけんで勝ったんだよー!」
「熱い戦いだったんだよぉー!」
「そうかそうか……で、なんでにじり寄ってくるんだ?」
「えへへへ」「えへへへぇ」
「「どーん!」」
「がふっ!」
両サイドから、タックルだと……。
なんか覚えがあるぞこれ。
どこぞの小っこい変態領主が良くやってくるのによく似ている気がする。
「んんー……せんせーの匂いだー」
「最近香水ばかりで鼻が鍛えられたせいか、落ち着くよぉー」
俺の脇腹に顔を寄せ、すぅはぁと鼻で匂いを嗅がれる俺。
顔は洗ったがシャワーはまだなので汗臭いはずなのだが、そんな匂いに落ち着きを感じるとか、大変不味い状況だと思う。
「イツキお兄ちゃん……犯罪みたいですぅ」
「やめろい!」
「兄貴まさか生徒と教師で禁断の……っ!」
「やめろい!!」
「「すんすん……はぁぁぁ……」」
「お前らもいい加減やめなさい……」
いつまで鼻をすんすんしているつもりだ!
声に出してまでやるんじゃない!
「仕方ないんだよー。せんせーの匂いは落ち着くんだよー」
「嫌じゃないお父さんの匂いぃー? とろんとしちゃうんだよぉー」
お前達それ絶対カラントさんの前で言うなよ?
スパーンと俺が殺されるからな?
そんな事を考えていると、真剣な眼差しのウェンディが椅子が後ろへ下がる音を立てながら立ち上がり注目を集めていた。
「……わかりますっ!」
それだけ言うとウェンディは満足げに座りなおしてしまう。
それ確か教室に見に来た時もやってたな。気に入ってたのか?
更にはソルテとレンゲ、シロにアイナまで頷いている。
最後の砦であるミゼラの方を見ると目が合い、すっと顔を背けられてしまうが微かに頷かれてしまった……。
「はぁぁぁ……大満足だよー」
「定期的に摂取しにこないとだよぉー」
ようやく満足したのか二人共俺から離れ……満足ってなんだ?
というか、何を摂取したんだよ。
俺そんな事教えてないよ?
教えてないから人を調教した変態のような視線でこっちを見るな光ちゃん。
スカートまくらなくていいから黙って座ってなさい。真に見られるぞ。
あと、美沙ちゃんは楽しんでるな。
楽しむ暇があるなら口元を手で押さえて信じ込んでしまっている美香ちゃんをどうにかしてくれ……。
というか誰か、この空気をどうにかしてくれ……。
「呼ばれた気がした! ヒャッハー! 領主様のお通りだ! 者ども控えおろう!」
……違う。
誰かとは願ったが、お前じゃないっ!
絶対こんなの混沌をまき散らすに決まっているじゃないか!
お前が来て平穏に終わった事などないじゃないか!
「やあやあ、ウェンディちゃん。ところでボク朝ご飯まだなんだけどご相伴にあずかってもいいかな?」
「あ、はい。只今ご用意いたします」
「やった! 言ってみるものだね!」
……うん。いいぞ。朝飯を食べるのならばそれがインターバルとなるはずだ。
「ふ、二人も食べていくか?」
「「いいのー?」ぉー?」
「ああ勿論。そうだな……卵焼きは俺が作るとしよう。何か注文はあるか? 目玉焼き、スクランブルエッグ、茹で卵、オムレツに甘いのしょっぱいの、何でも承るぞ」
「「甘いオムレツ」ゥ!」
「はいよ。オリゴールもそれでいいか?」
「うん! お兄ちゃんが作るならなんだって美味しくいただくぜ! 愛情たっぷりでね!」
いいだろう。
この場を一時的にでも離れられるというのなら愛情をオムレツに込めるくらい安いものだ。
「旦那様、お手伝いします」
「ああ、それなら出来たそばから持って行ってくれ」
さて、多分シロも食べるだろうな。
それじゃあ、せっかくだし高級卵『四ツ卵』を使おう。
文字通り、卵を割ると四つの黄身が入っていて、さらにはどれもぷっくりと丸く盛り上がっている。
そしてオムレツを作る際は専用のフライパンを用いて作るのだ。
更に、バターは惜しみなく、焦げは許さず中はとろっと外はふっくら黄色く美しく……!
「……ずるいわね。絶対に美味しいじゃない」
「ミゼラも食べるか?」
「いいの?」
「ああ。双子に持っていく際にアイナ達や美沙ちゃん達もいるか聞いて来てくれ」
「はい。承りました」
結局、オムレツは全員分作る事になった。
まあ、四ツ卵は美味いからな。
「で? オリゴールは何しに来たんだよ」
「え? なんでボクだけに聞くんだい? というかむしろボクの方が質問したいんだけど! なんでここに双星の美姫がいるのかなぁ!? お兄ちゃんまさかこの二人を手籠めにしたのかい!?」
「「んにゃ?」」
こら。スプーンを咥えたまま首を傾げるんじゃありません。
カラントさんが見たら怒られますよ。
「なわけあるか……。一時期王都の学園で教壇に立ってたんだよ。その時の教え子だ」
「わお! お兄ちゃんが先生!? 先生ボクにいやらしい事を放課後の教室で教えておくれよ!」
「しねえよ……」
「なんでだよ! 放課後の教室だぞ!? 教師と生徒だぞ!? やる事なんざ一つしかないだろうが! 『んんー答えられないのかな? それなら罰が必要だ』『ああ! 先生! そんな! らめえ!』ってなるもんだろう!」
「ならねえよ」
何処のエロ漫画だ。
違うから、ラズもクランも口元を抑えて俺を見るんじゃない。
「まあまあ! ボクはともかく二人はお兄ちゃんに会いに来ただけなのかい?」
「そうだよー!」
「あ、でも目的はあるんだよぉー!」
あるのか目的。あったのか目的。
ただ会いに来て匂いを嗅ぎに来ただけ……なわけないか。
あ、そうだ。香水の試供品を持ってきたとは言っていたが、既存の奴も多少はあるだろうしいくつか融通してもらえるように言っておくか。




