12-2 愛する人の為に お掃除タイム
はぁぁぁぁぁ……やはり長いことテントと馬車じゃ疲れるな……。
転移で帰りたいところだったが、検問を通って帝国へ行ったから馬車で戻らないと怪しまれるだろうしな……。
まあ、これからは転移でシシリア邸まで飛べるので一度きりの辛さというものだと諦めよう。
そして首も痛い……。
美香ちゃんにさっきがくがくされたせいではなく、蓄積されたテント睡眠での痛みである。
早くお風呂に入って首の痛みと疲れを取りたいところだが、当然の如くお風呂も掃除しないとだ……。
「おお……おおおお……」
「ん? 何してんだよ。行くぞ?」
「え、いや、でもだって……ここが兄貴の家……?」
「そうだよ。三棟の内ここだけだけどな。あっちはアイリスの家で、その護衛の可愛い獣人シノビの家がそっちな。あと、泊まるんだったら客間の掃除くらいはしてもらうからな?」
『どうせだし兄貴の家に泊めてくださいよー!』とか、調子の良い事を言ったんだからそれくらいはしてもらうぞ。
お客様じゃないのだから、お客様待遇などしない。
こちとら早く掃除などを終わらせてお風呂タイム&ベッドダウンへと洒落こみたいのだ。
……いや、お願いすればウェンディ達がお掃除を請け負って俺だけ温泉に行くことも可能だろうけどそれは流石にね。
「アインズヘイルにあの6人と住んでいるのだから大きい家だとは思っていたけど、豪邸だね……」
「凄いわね……。まー君、頑張ってね?」
「いくら頑張ってもこれは真には無理なんじゃないかな……。というか、私達で住むだけならここまで大きくなくてもいいんじゃないかな……?」
「あらぁ。でも、憧れるじゃない? きっとキッチンも立派よ?」
「それは……そうだけど」
「お……おう。や、やってやらあ! 兄貴よりもでかい家を買って見せるさ!」
本当に何をやってるんだろうか?
入らないなら置いていき鍵を締めてしまおうか……。
いや、掃除の手伝いをしてくれるそうだし、家事自慢の美香ちゃんがいる以上、ここは早く終わらせるためにも招き入れた方が得策だろう。
「はわぁ……イツキお兄ちゃんしゅごいぃ……。お金持ちだとは思ってたけど、こんな豪邸に住んでるなんてしゅごいのぉ……! というか、こんなにお金持ちなら光にもっと奢ってくれても良いと思うんだけど!」
若干一名、勝手に感動して勝手に憤慨していらっしゃる。
……光ちゃんは戦力になりそうもないし、ここでお別れでもいいかもしれない。
どうせこの後はお金目当てに俺にすり寄ってくるのだろうし……。
「イツキお兄ちゃーん! 光、こんなお城みたいなお家に泊まれるなんて夢見たいですぅ!」
「……泊まるなら、ちゃんと掃除はしろよ」
「はーいはい。お掃除ぐらいぱぱぱっですよ! こう見えて光家事得意なんです! お料理も出来ますよ! 電子レンジはありますか?」
「ねえよ……」
何であると思ったのだろうか?
何でええ!? じゃあ無理です! と、驚いた顔をしているのだろうか?
レンチンは料理というか、インスタントでは……?
そして、錬金で何でも作れると思っているのだろうか?
そんな元の世界の最先端な科学と英知の結晶を俺如きが作れるとでも思っていたのだろうか……?
あーでも、空気清浄機と扇風機、あとバイブレータはあるな……。
……一応あげるべきだろうか?
「……それじゃあとりあえず各自それぞれの場所を掃除な。お掃除出来ない子は買い出しに行って貰うから、おさぼりは許しません」
「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」
……返事が多いなー。
まあ、いいか。
「旦那様。私はウェンディ様と厨房と食事場の方を済ませてから錬金室の掃除を手伝うわね。私の方の作業台は自分でやるからやらなくていいからね」
「わかってる。どこに何を置いてって決まってるだろうし、下手にいじくらないよ」
以前仕事場であまりに机の上が汚い男がいて、何度綺麗にするように言っても聞かず、隣の席ではみ出されていたA型綺麗好きの女性社員が整理整頓すると、キレられていたからな。
まあまあとなだめつつ、実際はみ出していて迷惑をかけたのはお前なんだからと落ち着かせたのだが、何がすごいってその女性社員があっという間に元の状態に戻した事だよ。
散らかっていた書類の位置や重なっていた書類の順番まできちんとあっていたそうだ。
その後の冷たい視線により絶対にはみ出さないようにはしていたようだが、そいつが退社するまで汚いままだった――っと、関係の無い話は置いておいて掃除だ掃除。
「イーツーキーおーにーいーちゃん!」
「……なんでここに来たんだよ。客間の掃除担当だろう?」
「ええー? お掃除はぁ、真お兄さんがやってくれるって掃除道具を奪われちゃいましてぇ」
……押し付けたな。
いや、多分真が勝手に請け負ったのだろう。
なんというか、あいつは学園のアイドルに頼まれてもいないのに自分から仕事を貰いに行くようなタイプだ。
絶対に恋の相手にはなれない、名前も学生Cとかに属しそうな……いや、あいつ美香ちゃん美沙ちゃんと幼馴染で家が隣な上に半同棲していたエロゲ主人公だったか。
「イツキお兄ちゃん?」
「ん、ああ悪い。それで何の用だよ。ここは仕事場だから、手伝わなくていいぞ? 暇なら買い物行ってくれ」
「へぇぇぇ! イツキお兄ちゃんの仕事場なんだ!」
興奮した様子できょろきょろとあたりを見回す光ちゃん。
何か見つけては「おー」と、声を漏らしているようだ。
まあ、見た目的にはファンタジー感のあるような錬金部屋だからな。
……いや、フラスコとかビーカーとかあるし科学準備室に近いかもな。
「あ、こら。そっちはミゼラの机だから触るなよ」
「ミゼラってハーフエルフの女の子だよね? オッケー。女の子のプライバシーは守るよ私は」
触るなと言えばちゃんと触らない辺り、弁えてはいるんだな。
「こっちがイツキお兄ちゃんの机? 良い椅子使ってるね」
「まあ、座り仕事をするなら椅子にはこだわるべきだろう? と言っても、それ用意してもらったものだから俺が選んだわけじゃないけどな」
「んん? 用意してもらった?」
「ああ。この椅子も家もな。まあ、色々あったんだよ。……というか、今は二人なんだから素で話せよな」
「はーいよ。で、色々ってなんだよ。面白そうな気配がするじゃねえか」
面白い要素はあまりないんだがな……。
まあ、掃除しながら適当にかいつまんで話をしていった。
「……なんか、あんたも大概大変だったんだな……」
今思い返せばそれほどでもない気はするが……まあ、それなりにはな。
それに、あれらの経験があったからこその現在なのだから文句などはない。
「異世界ものの主人公がチートで戦闘スキルを選ぶ理由はわかったかな。それはそれで大変そうだとは思うけど、身の安全は余程突っ込んだ事しない限りは安定だもんな……」
「だな……俺のスキルも、相性はいいし使い勝手も今じゃ悪くないけど、こんな世界だ。純粋に戦闘スキルでも良かったとは思うわ……」
冒険者ギルドがあればお金稼ぎは生活できる程度には出来るだろうしな……。
少なくとも、お小遣い一日一万ノールよりも稼げただろう。
まあ? 味噌とか醤油とかは手に入らなかっただろうけど。
「……まあなんだ。慰めてほしくなったら慰めてやるよ……」
「間に合ってます。懐柔しようったって、金は出ないぞ」
「はぁ……そりゃあ奢っては欲しいけど、今のは本心なのに」
「はいはい。いいから掃除しろ掃除。それか夜飯の買い出し行って来てくれよ」
「めんどいなー。まあ、ここの手伝いくらいはしてやるか」
「泊まるくせに偉そうに……。そうだ。帰ってきたって、隼人に伝えとくか。あ、お前隼人に取り入るなよ。俺の命の恩人だからな。怒るぞ」
「わあってるよ。先に俺が男だって伝えて良いぞ。あんたに怒られたくはないからな。で、どこ掃除すればいいんだよ。って……床かよ」
俺がバケツとぞうきんを取り出して渡すと、察しがいいのか床の雑巾がけだと気付いたようだ。
一応、新品のぞうきんを出してあげただけありがたいと思ってくれ。
……うん。光ちゃんや? 掃除を手伝ってくれるのはありがたいが、床を雑巾がけする際にはスカートはやめようか。
※
「……そうですか。もうアインズヘイルに帰ってきたのですね」
『ああ。真もついて来ててさ。うちに泊まるんだってよ。あと、もう一人流れ人の知り合いが増えたから今度紹介するよ。ちなみに、凄く可愛いけど男な』
「ふふふ……わかりました。それでは、そちらに伺った際はよろしくお願いします」
『おーう。それじゃあまたな!』
イツキさんの陽気な声。
思わず口がほころんでしまうような、僕を安心させてくれる優しい声。
でも……今は……。
「隼人……。公爵に頼まれた仕掛けは終わったわよ。まったく……。分かりもしない癖に古い古文書を見ながらいちいち指摘してくるから面倒だったわ」
「そっか。ご苦労様……。ごめんねエミリー。僕がふがいないばかりに、辛い役目を押し付けて……」
「いいわよ……。それに、精霊術師は絶対数が少ないのだし、私にしか出来ないんだから仕方ないわ」
「ありがとう……その、ミィは?」
「……出ていったきりよ。監視はつけられているみたいだけどね」
「そっか……」
『隼人様らしくないのです! お兄さんと、本当に仲たがいする気なのですか!? もっと他に手があるはずなのです!』
泣きながらそう訴えていた、でも、僕が何も答えられずにいると顔を俯かせて何も言わずに出ていってしまったミィ。
「失望……されたよね」
「そんな単純な絆じゃないわよ。ミィにはミィの考えがあるんでしょ? まあ……監視されている以上、下手な事は出来ないだろうけど……。まあ、もし消そうとしてもミィの腕なら大丈夫よ」
ミィは強い。
そう簡単に後れを取るような腕ではない。
でもそんな強さとは関係なく、心配にはなってしまう。
「レティは……大丈夫かな?」
「……レティには精霊をつけて監視してあるわ。今のところは、こちらが何かしなければ興味も持たれていないみたい。あの公爵、随分とウェンディ様に御執心のようね」
「そっか……」
レティが無事であった安心感と同時に、この想い以上のものをイツキさんにさせるのだという事実が重くのしかかる。
「……ここまで来てしまったのだから覚悟を決めなさい。隼人がどんな選択をしようとも、私はついていってあげるわよ」
「ありがとう……」
「ほら、顔を上げなさい。クリスが食事を作ってくれてるわ。空間魔法対策で結界を設置するらしいから、火起こしはこれから男の仕事だからね」
「うん……」
恐らく、公爵にもイツキさんがアインズヘイルへと戻ってきたことは伝わっているだろう。
あの男についている『オボロ』という集団は、隠密と情報収集にかけてはスペシャリストだ。
足りないのはウェンディさんを攫う際の戦力であり、その役割が僕なのだろう……。
『先んじて邪魔は排除せねばなりません……。私はそちらに尽力いたしますので、勝手に動かないでくださいね? ああ、我が城は自由にしていただいて結構ですよ。ただし……レティ嬢のいる階には入らぬようにお願いしますね』
と、言って暫く姿を見せないがそう遠くないうちに僕はアインズヘイルへ向かい、ウェンディさんを攫う事になるだろう。
覚悟を……決めないとならない。




