Xmasチャレンジ3回目 4
両手を上げて、何も持っていないアピール。
更には後ろを向き、敵意のないアピール。
誰に? そりゃあ後ろにいるラズとクランの父親であるカラントさんにだよ……。
ラズとクランの家の場所はわかったものの、庶民の俺がいきなり夜に訪問ってどうなんだ? と悩んでいたら、背後にいきなり現れたのだ……。
「んんー? 怪しい姿だけど先生ですねえ」
「はいそうです……双子のラズとクランの先生です……怪しくはないです……」
「いやいや、こんな時間に屋敷の周りを赤い服を着た男がうろついていたら十分怪しいよねえ?」
「ソウデスネ……ソノトオリデス……」
「全く……次からは気をつけてくださいよ? 思わず切っちゃうところでしたよ……」
こ、怖いよ……。
切っちゃうとか可愛い言い方しているけど、今まさに切り裂かれそうだもの。
後ろを向いている俺の首筋にサーベルを当てているのだもの。
もう俺が先生だってわかっているのに、サーベルを下げてくれないのだもの!
「それで、何が目的ですか? まさかとは思いますが、夜這いですかな?」
「ち、違います!」
なんで段々と声が低くなっていくんだろう。
怖い。とても怖い。お父さんの娘を思う気持ち怖い!
「そうですかそうですか。いやあ、別にね? 先生が駄目だとか言うつもりはないんですよ? ですが、いくら元々結婚相手を決めようとしていたとはいえ、まだあの子達は若いですしそういうことは早いと思うんです。ねえ、先生」
「そうですね! 早いと思います!!」
全面的に同意しますし、そう言う対象として見ていないのでどうか目を見て話させてください!
あ、いや、今目を見たらちびりそうなので、とりあえずサーベルだけ降ろしてください!
「そうですかそうですか。先生もそう思いますか。それでは、二人に会う際は私も同伴で構いませんな?」
「勿論でございます! カラントさんがご一緒だととても嬉しいです!!」
というか、本当に用事はぱっと終わるのでカラントさんに預けてもいいのだが……。
「ああー! クランほらー! やっぱりせんせーだよー!」
「せんせだー! あれ? お父様? どうしたのぉ?」
「いやいや、先生をお迎えしていたのだよ。おや? 先生後ろをお向きになってどうしたのですか? ああ、サプライズでしたね」
くるりと体を無理やり回されラズとクランと対面したのだが、俺の注目はサーベルを既に持っていない事だ。
一体どこに……あ、木の上に引っかかってる。
いいのか!? 騎士にとって武器って大切なものなんじゃ……!
ああ、なるほどそれよりも大事なのは娘達という事か。
「せんせー! お家の中にどうぞー!」
「せんせ! いらっしゃいだよぉー!」
「いやいや、ちょっとした用事なだけだから! お邪魔する程じゃないから!」
「「ええー……残念だよ」ぉ」
「先生いいじゃないですか。少しくらいゆっくりしていってくださいな」
痛い痛い痛いです。
肩をポンじゃないです。
ギリギリします。
「わ、わかりました……では、少しだけ……」
行きます! 行きますから手を放してください!
肩外れちゃう!
「わーい! じゃあじゃあ、せんせーをご案内だよー!」
「せんせ! こっちだよぉー!」
ぱっと同時に手を引かれ、更に同時にカラントさんの手が外れる。
ラズとクランのおかげで助かった……いや、まだか。
後ろからぞくっとする視線が向けられたまま、俺はベルセン侯爵家へとお邪魔することになったのだった……。
通されたのは二人の部屋……ではなく、リビングのような部屋。
食事をとるような部屋ではなく、普通にソファーがおいてあり、ローテーブルなどもあるくつろぎの場であった。
「まあまあまあー! こちらが噂の先生ですかー?」
「ああそうだとも。グース」
「それはそれはー。お礼を申さねばなりませんねぇー。先生からの授業を受けて以来、二人は先生の事ばかりお話しするんですよぉー」
グースと呼ばれた女性はカラントさんの妻であり、二人の母親である侯爵夫人。
マイペースな間延びした話し方で、間違いなく二人の母親なのだろうと感じる面影を持った美人な人だ。
カラントさんがいる場で、癒し要素の様な女性がいる事にとても感謝する。
「ねえせんせー! 今日はどうしたのー?」
「私達に会いにきたのぉー?」
ソファーの真ん中に座らされ、その両隣に二人が座るとぐいぐいと交互に引っ張られる始末である。
お、お母様とカラントさんに失礼があってはならないとしっかりしたいのだが、二人はテンションが高くキャパシティオーバーを起こしそうだ。
「あらあらー。二人共嬉しいのねぇー」
「そうだよー!」
「そうだよぉー!」
「はっはっは! 仲睦まじいですなあ……」
だから声低いって……怖いんだよカラントさんの瞳……。
奥底に冷たい軍人の様な何かが潜んでいるような気がしてならないのだ。
「あなたー? 先生を威嚇しちゃだめよぉー?」
「っ……い、威嚇なんてしていないぞ?」
「あらー? 勘違いだったかしらぁー?」
「ああ……勿論だとも。せ、先生? 何か飲みますかな?」
「いえいえいえ! ちょっとプレゼントがあるだけですぐ帰りますからっ!」
「「プレゼントー」ォー?」
「今友人たちに渡して回っておりまして、これからまだ行かなきゃいけないところがありますので……」
「わぁー! 嬉しいよぉー!」
「何々? 何をくれるのー?」
「た、ただのお菓子なんだが……」
「「やったーお菓子ー」ぃー!」
あうあうあうあ……。
更に揺さぶりが激しくなった……。
「ほ、ほーう。プレゼントですか……。そうやって娘の気を引くつもりだったのですね……」
「違いますよ……。ちょっとしたイベントで……」
「あなたー? だから、威嚇しちゃ……あ、失礼しますー」
間延びした声のまま、グースお母様が腕をとても素早く上げる。
一瞬、何をしたのかはわからなかったのだが、はらりと何かが落ちていくのを見ると……サインペンで点をうったようなサイズの小さな虫が真っ二つになっていた。
「……へ?」
よく見るとグースさんの手には、小さなナイフが握られており、どうやらこの小さな虫を一瞬のうちにど真ん中を真っ二つにしたようである……。
の、のほほんとしておっとりとした性格だと思ったのだが、どうやらこの人も相当強いらしい……。
流石は軍人のお嫁さん……。
というか、カラントさんの反応を見る限りカラントさんよりも強い……?
「あなたー片づけておいてねー」
「あ、ああ……そうだな。せっかく先生がお菓子を作ってきてくれたのに、虫はまずいよな」
「ついでにお茶もお願いねぇー」
「……ああ」
そう言うとカラントさんは机の上に落ちた虫を払って手のひらに乗せ、席を立って捨てに行き、続いてお茶を入れに行ってしまった。
……やはり、力関係はお母様の方が上な気がする。
「すみませんねー先生ー。主人は娘を溺愛しすぎていましてぇー」
「い、いえいえ。良く分かりますから……」
「せんせー早く早くー!」
「お菓子ぃー!」
「二人共ー。夜遅いんだから、あんまり食べちゃだめよぉー」
「「はーい!」」
「お、お母様もよろしければご一緒に……!」
「あらあらー。ありがとうございますー」
用意したのはホールケーキなので、切り分ければ十分に足りる。
カラントさんの分を含めても、全く問題ないほどだ。
俺の勘が告げているのだが、カラントさんよりもグース奥様の方がデンジャーだ。
絶対に機嫌を損ねてはいけない気がする!
「あらあらー。とても綺麗ーそれに……」
「良い香りがするよー」
「お花の香りぃー……」
「あ、ああ。今回は花弁を使ったケーキで、匂いまで楽しめるようにしてみたから……」
「もしかして先生の手作りですかー? 本当に、多才なのですねぇー」
「いえいえ……趣味レベルですから……どうぞ召し上がってください……」
ど、どうか美味しくありますように……!
お口に合いますように……っ!
「わぁぁぁ……んんー甘いー! 上品な甘さだよー!」
「食べた事ない味だよぉー! 大人っぽいぃー! せんせ! お店出せるよぉー!」
「本当……社交界でも食べた事が無いわー……。お花の香り、それにほんのりとした苦味は、お花も使っているのかしらぁー?」
「ええ……シロップ漬けにした花弁を少しだけですが」
「なるほど……後を引く味ですねー。本当に、美味しいですよぉー」
「そうですか。それは良かった」
本当に良かった……。
「おや……先に食べ始めてしまったのか……」
「カラントさんも是非どうぞ! 私がお茶をお入れしますので!」
「む、そうか? では、お願いします」
「貴方ー。とっても美味しいわよぉー。はい、あーん」
「こ、こらやめないか。先生の前で……」
「あーんー」
おお、押しが強いな奥様。
そしてやはり女性が強いなこの世界……。
あ、俺の方は気にしなくて大丈夫です。
わかってますから……。
「ぐ……あ、あーん……むぅ。甘い……が、美味いな」
「先生が作ったんですってぇー」
「なんと……錬金といい多才ですな……」
「あははは、元の世界のお菓子など、趣味が高じてアイリス様とのご縁が出来まして……」
「なるほど……。アイリス様は大変な美食家ですからな。流れ人が作るお菓子であれば納得ですな」
「はい、あなた。もう一口、あーん」
「……あーん」
「ん。おかえしをちょうだいー」
「むう……あーん」
「あーん」
ラブラブである……。
というか、カラントさんであっても奥さんにはかたなしなんだなあ……。
「いいよねえお父様とお母様ー」
「こういう夫婦に憧れるよぉー」
「うふふふー。貴方達もそういうお相手を探さないとねぇー。私の予想だと、先生はあーんを受け入れてくれる人よぉー」
「な……だ、駄目だ駄目だ! お前達にはまだ早い!」
「もうー……二人は独立したんだから、あなたには関係ない話よー? 相手は平民だっていいのだからねぇー。好きな相手を見つけなさいー」
「「好きな相手……」」
……えっと。
視線を向けられている気がするのだが、そっちを向いて目を合わせては駄目だ。
にこやかにしながら、気づきませんでしたとしなければならない。
そうしないと……もう一人から向けられた意識に火がついてしまうだろう。
「うふふふふー。大変ねえぇー」
グースお母様? 大変とか言いつつ楽しんでませんか?
出来ればカラントさんを鎮めてくれませんか?
空気を! そろそろ帰りますとは言えない空気をなんとかしてください!
3がまとまりなさ過ぎて4が逆にいい感じになって書ききってしまった……。
そしてタイムアップ! 次は26日中に書いて、そこで終わりかな?
一応章になぞって新キャラと触れ合って行ったので、次は……帝国だな。




