11-13 シュバルドベルツ帝国 シシリアお勧めのお店・1
昨日は寝てしまった……。
シシリア様のおすすめの店。
それは意外にもこじんまりとした一見古そうなレンガ造りの建物であった。
「――お待ちしておりました」
「うむ。今日は世話になるぞ」
「はい。本日はご満足いくまでお楽しみください」
店員と見られる紳士的な男が、入り口から左右に分かれた通路の左を進み、着いた先は二つに分かれた縦長のテーブルと椅子のある部屋。
他に横道やテーブルなどはなく、どうやら左の通路はこの一部屋だけらしい。
そして今回、俺の隣は厳正な話し合い? の、結果ミゼラとシシリア様になったそうだ。
「ふふっ。シロやウェンディあたりは不満そうであるが、やはり主賓をもてなすには隣でなければならぬからな」
「むぅ……。変な事をしたらすぐ交代」
「はて? 変な事とは具体性の無い物言いだな。この店は狭い故、胸が当たってしまうのは仕方のない事だぞ?」
そう言って俺の方にあるナイフやフォークの入った入れ物を取るふりをして、ばっちり俺の上腕二頭筋……ではなく、腕へとおっぱいをぐいぐい押し付けてくるシシリア様。
思わず形を変えて圧力を放つおっぱいを凝視してしまうのだが、ソルテの視線に気が付いてはっと目を離す。
「……鼻の下。伸びてるわよ」
「……はい」
今のは認めよう。
恐らく俺の鼻の下は伸びていたことだろうさ。
だってさ、真っすぐでない胸の谷間は貴重なのだよ。
どうしてこうその先の深淵へと心奪われ、吸い込まれてしまいそうになるのだろうか。
「やっぱり席順が良くないっすね……。ご主人がおっぱい星人にならないか心配っす……!」
「はあ……それなら、私が代わりましょうか?」
「いいの!?」「いいんすか!?」「む、いいのか?」
「いや、あの……一人だけなんですけど……」
「駄目ですよミゼラ。しっかりと決めたんですから。天に任せ、その天が決めたのがミゼラなのですから、堂々としていればいいのです」
「天……というか、ただのくじ引きでしたよね……」
厳正なって、くじ引きだったんだな……。
まあ、平和的に解決したのならいいけどさ。
「それでは、本日は私が給仕を務めさせていただきます。御用の際はなんなりと。当店はメニューはありますが、値段は書いておりません。代金は一律で既に頂いておりますので、飲み物も食べ物も頼み放題となっております。どうぞご遠慮なくお申し付けください」
「遠慮なく……大丈夫かな?」
「大丈夫……とは?」
俺の小さな呟きにもしっかりと反応を示してくれる紳士さん。
まずは飲み水を人数分注いでいたのだが、一つ一つの所作に卓越した何かを感じてしまう。
「いや、皆結構食べるからさ。遠慮なくって言ったら、本当に遠慮がなくなるぞ?」
「大丈夫です。全く問題ございません」
おお、一切の迷いなく自信のある発言だ。
女性ばかりだからという訳でもなく、店に全幅の信頼を置いているかのようである。
「うむ。シロも気にせず腹が満腹になるまで食べると良いぞ」
「ん。んー?」
シロが高いお店って聞いていたけどいいの? と視線で俺に聞いてくるので、つい俺もシシリアの方を見るのだが、シシリアは俺の耳にそっと顔を近づけて、
「なあに、安くない金は払っておる。おそらく、シロがどれほど食べようが店は損はせぬだろう」
「まじですか……」
それは一体どれだけの金額なのだろうか……。
シロがどれだけ食べてもって……普段シロがどれだけ食べるかはシシリアも知っているはずなので、相当高い金額でないとこうも自信満々には言えないだろう。
「なあに、ここの店の者が驚くほど食ってやればよい。奴らは日々料理を研究し、味を昇華させ、客を満足させることを喜びとしておる探求者だ。最高のパフォーマンスを出すために、最大でも一日二組しか受け付けておらぬ程のな」
「二組だけ……。そこまでするのかって思うと、期待値が高まりますね……。シロ、良いみたいだ。遠慮なく食べたいものを食べて良いぞ」
「おおー。ん!」
ついさっき山盛りのステーキを食べたばかりのはずなのだが、目がキラキラと輝いてやる気満々なご様子だ。
そして、うちの冒険者三人もそれを聞いてやる気満々である。
アイナ達三人も、俺よりも食べるからな……。
それではと、給仕の者が部屋の隅にある壁に穴が開いたような部分の蓋をノックすると窓のようにそこが開き、そこから出てきた料理を運び始める。
なるほど、机と机の間が空いているのは、配膳のしやすさからか。
そして今配っているのは、小さな器に入ったサラダと食前酒のようだ。
シロにはオレンジ色のジュースが与えられているのは、流石である。
「前菜になりますが、こちらは食べ過ぎや飲み過ぎによる、二日酔いや腹痛などを弱めてくれる効果があります」
「へえ、アフターケアまで充実と……。これは俺も食べ過ぎちゃいそうだな」
皆の分まで配り終えると微笑みを浮かべたまま頭を下げて部屋の隅に移動する店員さん。
そこに、シシリア様が紙に書いたメニューを渡し、俺達はまず食前酒で乾杯をすることに。
「それでは、堅苦しいのは無しにしてシンプルに。乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
食前酒はアルコール度数が低く、果実の味わいが強い飲みやすいものであった。
横に座るミゼラはとても口に合ったようで、飲み切ってしまうのを惜しんでいるようだ。
「あとで頼んでみればいいと思うぞ?」
「あ……ええ。そうするわ。でも、ラガーも飲むのよね?」
「そうだな。何から頼むか……」
「一杯目は我に任せてほしい。というか、もう頼んだからまずはそれから試してみると良い」
「お待たせいたしました。ヨードベル産の大麦で作ったラガーになります。それと、茹でた豆ですが、シンプルにこちらのお塩でお召し上がりください」
「おお……」
小さな樽のようなジョッキに輝くのは白い泡の浮いたまさしくラガーである。
「これがラガー……」
「ああ、俺の元居た世界だとガラスの容器でより美しくてな。見るだけでゴクリと唾が溢れ出たもんだ」
「っ……ガラスの容器。なるほど……」
「ん?」
「失礼を致しました。ガラスの容器の件、料理長にお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、勿論構わないけど……」
「ありがとうございます。これでまた一つ、当店は高みへと昇れることでしょう」
恭しく頭を下げる店員だが、すぐにすっと後ろに下がり食事の邪魔にならぬように配慮をしてくれる。
なんというか、研究熱心なのだろうな。
「それじゃあ、早速……」
ジョッキを持ち上げ、口につけると冷たさは感じない。
ぬるめのラガーかと、少しだけ構えたのだが、なるほどと納得をする。
「くぁ……濃いなぁぁ! そして、美しい……!」
泡を超えた先にあるのは濃い黄金色の美しいラガー。
味は苦味、更には深いコクがあり、ホップの華やかな香り、麦の甘さなどどれもが濃ゆい。
だが、重みのある重厚な味でありながら、口当たりは滑らかである。
冷やしたビールにあるような爽快感が強いわけではない。
だが、これがラガーだ! というような力強さと圧倒的な存在感、雑味の無い麦自体の質の良さと美味しさを前面に表したようなラガーであった。
なるほど。
だからつまみは茹でた豆にシンプルな塩なのかと、この組み合わせの主役はつまみではなく、ラガーなのだと分かる味わいだ。
シシリア様が先にこれを勧めたのは茹でた豆が早く出てくるので、それに合うラガーをチョイスした事からだろう。
「ふっふっふ。濃いであろう? だが、美味かろう?」
「これは、美味いな……っ!」
思わず笑みがこぼれてしまうほどである。
普段飲んでいたものよりもずっと濃く、庶民派の俺には高いビールに似た感じだが、それでもこの感覚は久しぶりで少し感動の余韻に浸ってしまっている。
茹でた豆は枝豆ではないが、塩分を取った後だとよりラガーの味わいを強く感じることが出来る気がして、つまみがある時とない時で変化が生まれるようであった。
「んん……苦ぁぃ……」
えっ……と舌をだして眉根を寄せるミゼラ。
人肌程度だとより濃く感じるからか、ミゼラにはきつそうだ。
つまみで甘さが強調出来ていても、やはり苦味も強いままであり、苦手な人は苦手だろうなといった感じである。
「俺が飲もうか?」
「ううん……もう少し頑張る……」
無理して飲まなくても良いのだが、ミゼラは俺の真似をして豆を口に入れて味わいながら咀嚼し飲み込み、その後にジョッキを傾けてグッグッっと、勢いよく飲んでみせる。
「飲めた……。はぁ……飲み方でいろいろ変わるのね……。量もそう多くないし、全部飲めそうだわ」
「うむ。今回は様々なラガーを試したいだろうと思い、苦手な味が来ても良いようにジョッキは小さなものをお願いしておいた。もし気に入ったラガーがあれば、大きなジョッキで頼むがよい」
それは俺としても助かるな。
ここは料理も美味いようだし、ビールはお腹が膨れるからな……。
ふとシロの前の料理を見てみると、やはり肉があった。
しかもあれは……俗にいうマンガ肉!
円柱状の肉に持ち手のように骨が飛び出ており、シロは自前の鋭い犬歯で噛み千切ると、もにゅもにゅと頬を膨らませながら噛み割いている。
噛み割いた先からは肉汁という旨みのスープが肉を伝い、零れ落ちないようにまたかぶりつくシロの表情は見るからに美味しいのが伝わってきて幸せそうだ。
アイナやソルテ、レンゲはシチューのようなブラウンのスープを飲んでいるようで、レンゲは天井を見上げるように感動し、アイナも思わず笑みがこぼれ、ソルテは頬を押さえてお肉の柔らかさと美味しさを堪能している。
ウェンディはナイフとフォークで優雅に野菜と薄切りのお肉を食しているのだが、視線が合い俺が自分の頬の横をちょんちょんっと指さすとウェンディははっとしたように自分の頬についたソースを用意されたハンカチのような布で拭ったのだった。
それぞれが思うままに堪能し、食事会を楽しんでいるようである。
「さあ、まだまだあるからな。我より早く潰れるなよ?」
「承知しました。可能な限りお付き合いしますよ」
満足そうに笑うシシリア様が、次はこれがおすすめだというラガーとつまみの組み合わせを頼み、俺はそれにも舌鼓を打つのであった。
PC修理中の為、連休中に書いたストックを開放。
なお、次週はストックが無いのでお休みになります。
恐らく、今週中には帰ってくると思うので、一週だけお休みを頂き、また再開します。
感想返し等もPCが帰ってきた後になります、ご了承ください。
そして、ジュリアス様よりレビューを頂きました!
イエス。(願望)はとても大事なのです。
何度も助けられています!
最後までは物理的に書けなくならない限りは書きますよ。
それだけは、絶対に!
ノベルス6巻コミックス2巻発売中!




