11-10 シュバルドベルツ帝国 愛の蜜ミルク・ココア
さて、今日は待ちに待ったあの日である。
そう。遂にラガーを頂ける日なのだ!
シシリア様が公務などで忙しく、着いて早々……という訳にはいかなかったのだが、ようやくしばらく休めるそうだ。
まあガルシアに比べれば自由な時間は多いそうだが、たまに帰ると仕事がたんまりと溜まっているらしい。
しかし、『急いで終わらせる!』と言っていたのだが、シシリア様の仕事って急いで終わらせて良いものなのだろうか?
「待たせてすまなかったな。というか、待たずにお主らだけで街を楽しんできても良かったのだぞ?」
「いえいえ。長旅で体調も心配でしたし、せっかくだからシシリア様のおすすめのお店を一番初めに味わいたかったのでお気になさらず」
それに俺はともかくとしてラガーが初めてな人もいるからな。
どうせなら変なラガーで嫌いになられるよりも、美味しいラガーで好きになってもらいたいと思ったのだ。
「一度冒険者ギルドで用事を済ませるが、それが終わり次第店に行くとしよう。予約はしっかりと済ませてあるし、個室を借りられるようにしてあるので無礼講で構わないからな」
「至れり尽くせりで助かります」
うちの食事は賑やかだからな……。
特に美味しい食事だとなおの事。
……取り合いをするなと先にたしなめておく必要があるな。
※
セレンさんが手綱を握り、大きな馬車に乗ってやってきたのは帝都リュベクにある帝国最大の冒険者ギルド。
「では行ってくる。すぐに終わらせてくるからな!」
「いやいや、帝国ギルド長とのお話でしょう? そんなにすぐには終わりませんよ……。王国の冒険者ギルド長からの手紙も預かっていますし、戻しの手紙も受け取らないといけないんですからね?」
「むう……。では、早めに終わらせてくるとしよう。我がせかせば字は汚くなれど早く書けるだろう」
ええっと……王国の冒険者ギルドのトップから帝国の冒険者ギルド長への親書のような物を預かっていて、しかもその返事を預かるのだろう? ……って、ギルドカードでやり取りしないって事は重要な案件って事なんじゃあないか?
「ああー……まあ、ゆっくりでもいいですよ。今日中に食べられるなら。……シロの我慢の限界が来る前になら問題ないです」
「……お腹……大丈夫。まだ大丈夫……?」
今日はシシリア様が認める程の美味い飯を食えるという事で、俺はお昼を少なめにしたのだが、シロも真似をして少なめにしていた結果、現在とてもお腹を空かせております。
大丈夫とは言っているが、この顔は限界が近い顔だ。
「う、うむ。……きわどそうだな。よし、なるべく早く戻るとする。ではな」
「シロ、本当に限界なら食べ物はあるからな?」
「ん……主の料理?」
「いや、それはないんだけど……リンプルとか……」
「んー。なら、もう少し我慢する」
うん……そうだな。
この後美味しいご飯を食べに行くのだから、せっかくだしそっちを沢山食べた方が良いだろうと俺も思う。
でもな……無理はするなよ? シロなら今食べても食べられなくなるって事は無いと思うし……。
「主君。少しいいだろうか?」
「ん? どうした?」
「ちょっと帝国の冒険者ギルドが気になってね。見てきてもいい?」
「いいけど……お前達は王国の冒険者だろう? 大丈夫なのか?」
「冒険者ギルドは繋がっているっすから、王国の冒険者ギルドカードでもクエストは受けられるんすよ。まあ今日はどんなのがあるか見てくるだけっす!」
「そっか。それなら、いいんじゃないか?」
しかし、もともと敵対していたらしい帝国と王国で繋がりはあるんだな……。
じゃあ、錬金術師ギルドはどうなんだろう?
レインリヒの知り合いとかいたりしないだろうか?
「では、行ってくるぞ」
「おーう。行ってらっしゃい」
まあ俺は行っても仕方ないしな……。
大人しく……ん?
「……主、お腹すいた」
「限界来ちゃったか……。リンプル食べるか?」
「ん……」
あううう……と、俺の膝上に乗るのではなくだらんと横になってしまうシロの為に、魔法空間からリンプルを取り出したのだが、セレンさんが御者台から顔を出してくる。
「それならギルドで軽食などどうですか? ここだけの限定メニューもありますし、シロちゃんならペロリだと思います!」
「限定……メニュー……っ! 主……!」
「……食べに行くか」
「ん!」
「では、私もご一緒しますね」
ウェンディとは離れるわけにもいかないし、俺は別としてシロとは一緒に来てもらわないと困るからな。
まあ、大丈夫……と、お墨付きはあるのだが一応な。
「私はここで待ってるわ……。アインズヘイルならともかく、人が多いところはちょっと……」
「ああー……そっか……じゃあ、俺は――」
「ミゼラちゃんは私がお守りしますからご安心を。今日はちゃんと普段の武器も持ってきてますし、この前のお姉さん級が相手でなければ、どんな相手でも10秒はもたせてみせますよ!」
「ん……それだけあれば、シロが行く。気は張っておく」
「はい。よろしくお願いします!」
「じゃあ、ちょっと行ってすぐ戻ってくるよ」
「ええ。行ってらっしゃい」
ミゼラに見送られ、俺とシロとウェンディで冒険者ギルドの扉を開く。
アインズヘイルのウェスタン風とは違って普通の二枚扉なんだな。
そういえば俺、アインズヘイル以外の冒険者ギルドって初めてだったな。
「おお……結構広いな」
なんていうか、アインズヘイルよりも広くて綺麗でまとまりがあるな。
正面が受付、奥に階段があって二階に続き、向かって左がクエストボードかな? あ、アイナ達がいる。何故かぽっかりと周りに隙間が空いているのだが、レンゲが睨みつけて近づけさせていないようだ……。
…………ああ、男嫌いか。
で、食事処もきちんとスペースが取られているみたいで、向かって右側にバーカウンターがあり、イスとテーブルが並べられているようだ。
「主。早く早く!」
「はいはい。楽しみなのはわかったからはしゃぐなよ」
席は結構空いているようで、とりあえず適当な場所に座らせてもらおう。
「「「「っ!」」」」
ん? なんか、空気が引き締まったような……。
「ふんふんー。主、限定メニューってなんだろ?」
まあ、シロが気にしていないなら大丈夫か。
ほーう。冒険者ギルドなのに結構メニューは豊富なんだな。
アインズヘイルに戻ったら、マスターに伝えておこう。
バーカウンターの裏に厨房があるのか、そこから美味しそうな匂いも漂ってきて少し腹が減ってきてしまうが……俺は我慢しよう。
「シロ、これじゃないですか? この……特製山盛ブランモームステーキでは?」
山盛りのステーキ? え、セレンさんは軽食って……?
「ん? これはチャレンジメニューって書いてある」
「あ、本当ですね。では、こちらの特製ブランモームステーキが限定メニューなんですかね?」
そ、そうだよね。
山盛りのステーキが軽食な上に限定メニューなわけないよね!
しかし、ブランモームか……。
ブラックモームの親戚か何かだろうか……。
「ん。山盛りブランモームステーキにする」
「あの、シロ? 私が一度勧めておいてアレなのですが、この後食事があるのですよ? それに、お値段が……」
「チャレンジメニューは完食すれば無料。それに、美味しいご飯は満腹でも食べられる。女の子の不思議」
「いやそれデザートは別腹って話だろ……」
まあでも、お昼を減らしたシロならこれくらいは朝飯、もとい夕飯前で食べられるか……。
限定メニューとして単品でもあるのだから、不味くて食えないとかって訳じゃあなさそうだしな。
じゃあ、バーのマスターに頼んでくるか。
「すみません。この山盛ブランモームステーキをお願いします」
「…………あいよ」
ん? なんとも含んだような返事の仕方だな。
それとも、クール系のマスターなのだろうか?
まあ、注文は受けてくれたみたいだし、構わないか。
そして、俺が踵を返し席に着くと俺らの周囲を囲むように冒険者達が現れ――。
「おうおうおう兄ちゃんよう! ここをどこだかわかってんのか? 見かけねえツラだから教えてやるが、その席はAランクの冒険者が座るテーブルだ!」
「見たところAランクの冒険者にゃあ見えねえな! ギルドカードを出してもらおうか!」
OH……カラマレテーラ……。
なんなんだろう。俺が冒険者ギルドに初めて行くと絶対に絡まれる星の元に生まれたのだろうか?
やだもう、超怖いんですけど。
顔も髪形も体も服装も武器も言動も全部怖いんですけど……。
「いや、あの……」
「ああん!? 家族と飯を食いに来るような場所じゃねえんだよここは! さっさと出ていきやがれ!」
「いやー……その……」
うん。やっぱり怖い。
強面の人は凄んじゃだめだと思う。
というか、Aランクの冒険者じゃないと座っちゃいけないとかどこにも書いてなかったよ……。
Aランクの錬金術師じゃダメですかね?
幸いにもシロやウェンディには手を出す気はないのか、すごむのは俺に向かってなのだが、それにしても二つの意味で怖い。
一つ目はまあ、その……周りを囲む冒険者なのだが……。
「……フー」
シロが静かに唸り声をあげ、テーブルナイフとフォークなのにそれが武器に見えてくるのが凄く怖い。
二刀流だよ二刀流。
お腹すいているから気がたっているんだろうね。
「……ステーキだ」
「おお!」
「時間はこの砂時計が落ちるまでだ。トラブルみたいだがルールはルールだからな」
「ん。余裕。蹴散らしてからでも余裕」
シ、シロさん? そんな相手を煽るようなことをしてはいけませんよ?
「て、店主。ここってAランクの冒険者しか座っちゃ駄目だったのか……?」
「…………明確なルールはないが、この街のAランク冒険者は決まったテーブルに座るからな。他の冒険者はその席には座らない」
ああー……なるほど。
一見さんお断り的な独自ルールという感じか?
普段から利用している客の席に初見の家族連れのような奴らが来たら、この席に普段座っているAランクの冒険者が来られると困るって事か。
「あー……料理も来ちゃったし、食べ終わったらすぐに消えるからそれで納めてくれませんかね?」
「ば、馬鹿野郎! 悠長な事を言っている暇はねえんだよ! そろそろ兄貴達が帰ってくる時間なんだよ!」
「兄貴を怒らせるなよ……。兄貴は魔族も倒したことがある超一流の冒険者なんだ!」
おお……だから大声を眼前で出されると近いし、顔怖いんだって……。
不安そうな顔をしていても厳ついんだよ。
アインズヘイルでもそうだったが、慣れるまでは時間がかかるんだよ。
「別に冒険者以外が食事しちゃいけないなんて決まってないでしょ。で……主様。なんで冒険者を相手にビビってるのよ」
「そうっすよ。ロウカクで比べ物にならないくらいのもっと怖い体験してるじゃないっすか……」
「待て待て二人共。主君とてこの数の冒険者が相手では心細かろう。主君大丈夫だぞ。私がしっかり守るからな」
「さ、三人とも……」
来た! 救世主! ここはどうか冒険者同士上手く話をまとめておくれ!
シロは三人がこちらに向かっていたことに気づいていたのか、それとも危険性は最初から少なかったのかステーキを食べるのに夢中である。
美味しいのか一心不乱であり、俺の視線に気が付くと『美味しい』と笑顔を見せてくれて少しだけ癒された。
「Aランクならいいんでしょ? はい。ギルドカード。私達は王国のAランク冒険者『紅い戦線』よ。兄貴? とかいう奴が来たら、私達が話してあげるわよ」
「魔族なら自分達も倒しているしな」
「お、王国のなんちゃってAランクが太刀打ち出来る相手じゃ……」
男がぽつりと呟いた一言に、レンゲとソルテの耳がぴくりと動き、アイナは何故か少し嬉しそうな顔をした。
「……はあ? なんちゃってかどうか、その身に刻まれたいっすか?」
「そうね。帝国と王国どっちが上だなんて興味はないけど、冒険者同士の諍いなんて常だしね。勿論、一般の人に手を上げるのは駄目だけど」
「懐かしいな。こういうのは久しぶりだ。アインズヘイルでは向かってくる者などいなかったからな」
ドッとアイナ達三人から周囲を威圧するような雰囲気が溢れ出ると、俺らを囲っていた冒険者たちが一歩、二歩と退いてしまう。
わかる。わかるぞ……。鍛錬の時に何度も俺は味わっているからな……。
見た目や外見的な怖さではなく、もっと芯にくる怖さなのだ。
「あらあら……紅い戦線じゃない」
「あら本当……可愛いわね。私達の次くらいに」
退き始めていた冒険者達をひょいっと猫でも捕まえる様に襟首を持ち上げて放り投げるようにして道を開けさせ、前に出てきたのは男の……冒険者?
ここにいるって事は冒険者なのだろうが……恰好が……。
「貴殿たちは……」
「初めまして。私達は帝国のAランク冒険者、『愛の蜜』の愛の大妖精ミルクと」
「美の大妖精ココアよ。うふ」
「だ、大妖精なのか……」
顔はどちらも彫りが深く、陰影の関係かやや濃ゆく見える。
筋肉は隆々で体格的には巨人族とのハーフであるフリードに似ているだろうか?
上着なんてものはなく、ビキニ……? 大胸筋矯正サポーター……? のみであり、そこからバキバキに割れた腹筋と、何故かミニスカートで、俺の胴体……までは言いすぎな発達した太ももがそこから生えていらっしゃる。
ミルクと言った方は頭に小さなティアラを付けており、ココアと言った方は可愛らしいリボンを短髪に結び付けている。
腋、髭、腹、腕、などの無駄毛の処理は完璧であり、美に対して積極的な……ん? ウェンディどうした? 何故俺の服を掴み首をプルプルと振っている?
「違いますからね? 大妖精ではないですからね!? 大妖精は6名しかいませんからね!?」
「お、おう……」
大丈夫だぞ?
俺も流石に本気で大妖精だとは思っていないから、そんなに必死にならなくていいんだぞ?
さあさ、新キャラです!
某国民的アニメの遊園地の劇場版に出てきそうな感じだね!
そしておそらく次の話にも新しい子と懐かしい人が……。
さあて……どうまとめていくかなこの章……。




