11-5 シュバルドベルツ帝国 帝国皇帝ガルシア・オセロット
帝国城内に入ると、すぐさまシロが手を上げて皆の注目を浴びる。
「じゃ、探検してくる」
「うむ。好きにするが良い」
有無を言わさずに瞬時に駆け出して消えていってしまったシロと、それに許可をだしたシシリア様。
え? ええ? これから皇帝に謁見なんだけど、勝手にしていいの?
「……恐らく、退路の確認と護衛の実力を見に行ったのだろう。見知らぬ地ゆえ当然ではあるが、豪胆であるな……」
「こっちは私達に任せるって事ね」
「信用されてるって事っすかね? なんか、ちょっと嬉しいじゃないっすか」
「そうだな。我々もあの頃よりも少しは強くなったという事だろう」
どうやら戦闘系の皆様は納得している御様子な上に、シシリア様からも好きにしろと言われている以上俺がとやかくいう事ではないか。
まあ、危険があるわけでもないし、シロなら無茶はしないだろう。
で……だ。
『余がシュバルドベルツ帝国皇帝! ガルシア・オセロットである!!』
……部屋に入るなり、背中にドンッと、文字が見えるかのように玉座の前で腕を組み仁王立ちをする男。
まだ若い金色の髪の、まるで物語に出てくる強気な若い王子様のような男だ。
その男の後ろには4人の従者と2人の女騎士が控えており、それがまた拍車をかけてこの男を大きく見せている。
大胆不敵、自信満々を表情と体全体に加えてオーラで表すこの男が、どうやらシシリア様の弟君、皇帝ガルシア様であるようだ。
そのガルシア様が玉座から俺の方へと歩みより、腕を組みながら俺の頭からつま先までを観察するように眺めてくる。
「ほーう。お主が姉上の保護した男か……ふむ。冴えぬ顔だな。まあ良い。姉上が保護した以上、安心して帝国を満喫すると良い。余も安全を保証しよう。聞けばなかなか腕の良い錬金術師なのだろう? 余になにか面白い献上品を作ったならば褒美もやろうではないか」
冴えぬ顔……の、段階で後ろから一瞬ぞわっとした何かを感じたのだが、あくまでも一瞬だったので胸をなでおろす。
しかし、近くで見れば見る程イケメンだ。
しかも、隼人と違って謙遜などしない、自分がイケメンだと分かっていて自信満々なタイプのイケメンだ。
この男が俺と似ている……?
今のところ外見的にも内面的にも全くと言ってよい程に似ている気はしないぞ。
「そして、お前達がこの男の護衛……む。むむ? そこの二人! 紅い髪の女と薄桃色の髪の女よ! 大きなおっぱいを持つお主ら二人! 余の妻とならぬか?」
「なっ……」
こいつ、堂々と他人の恋人に向かって、なんちゅう事を言いやがるんだ。
ああ、なるほど。先にシシリア様が謝ったのはそういう事か。
「お前何言ってやが――」
「断る」「お断りします」
俺が止めるよりも先に冷たい冷水を浴びせるような声がぴしゃりとはっきりとした拒絶を告げる。
「む……余は皇帝であるぞ? 余の妻になれば――」
「二度も言わせる気か? 断ると言ったのだ」
「はい。お断りします」
アイナは珍しく不機嫌な顔で、ウェンディは笑顔だがその笑顔はとても怖いままに話をぶった切りながら言い放つと、ガルシア様……いや、ガルシアが俺の方にばっと視線を顔ごと向けてきた。
「むう……まさか、この冴えない男が恋人か?」
「「……」」
おおぅ……二度目の冴えないという言葉に体が縮み上がるような冷たーい空気だ……。
まるで背中に氷を落とされた時のように、体がビクンと反応してまさしく背筋が伸びて凍りそうだ。
「待て待て。皇帝である余と比べてこの男を選ぶという事か? 余の妻となる事は名誉であり、余の妻になりたい女がこの帝国にどれほどいると思っているのだ。お主ら二人がおらずとも、そこの貧乳達がいれば、その男には贅沢なくらいであろう」
貧乳って……レンゲとミゼラもか?
待て待て二人はちゃんとぱいだぞ?
ああ、アイナがゆっくりとシシリアによって帯刀を許された自分の剣に手を添え、ウェンディは笑顔のままだが頬がぴくぴくと動いて目が笑っておらず、冷たい冷気を放ちだしていらっしゃる。
……ちなみにだが、ソルテはもう槍を構えていていつでも突き刺す準備は出来ているようだ。
……突き刺したら、流石に駄目だと思うけどね。
「はあ……。ガルシアよ……帰ってきた姉にまず言う事は無いのか?」
「姉上! おかえりなさいませ! また無事にその至宝を眺められることが出来て幸いです。帰還の祝いとして、揉ませていただいてもよろしいですか?」
「……我らは血の繋がった姉弟であると前にも言ったぞ? 子供の頃ならいざ知れず、6人も娶って皇帝の座についておきながらふざけたことを抜かすでない」
6人……おそらく、おそらくだが玉座付近にいる従者が3人と、今ガルシアの後ろを固めている従者筆頭らしき1人と騎士2人の事だろう。
何故わかるのかって? 全員がおっぱいであり、それらを強調させている特別なデザインだからだよ。
「姉上……前にも言いましたが姉弟で性行為ならばまずいとわかりますが、その大きく世界で一番美しい至宝を揉むだけです。姉上の至宝は日に日に輝きを増し、今なお最高を更新し続ける素晴らしいおっぱいなのです。そんな至宝を、皇帝たる余が揉まないわけにはいかないのです」
「……我の客人の前で恥を晒してくれるな。全く……それさえなければ自慢の弟だと紹介出来るのに……」
はぁぁぁ……と、大きく息を吐くシシリア様。
苦労……していそうである。
というか、ロウカクのコレンといいこいつといい国のトップはこんなんばっかりなのだろうか?
まあだからと言って王国のトップが良い訳ではないのだが、なんというか……王とはいえ人の子か……。
「仕方ありませんね……今日も姉上の至宝は諦めましょう。だが、その二人は譲れませぬ。美しいまでに大きな乳を持つ薄桃色の女も、強くありながらも大きく美しい乳を持つ紅髪の女も余は欲しい!」
「阿呆。やめておけ。お前如きではかなわぬ相手だ」
「なんですと? 余がこの冴えない男に劣るというのですか?」
「……三回目っすね」
「そうね。そろそろ刺してもいいかしら?」
「……流石に皇帝陛下を刺すのは止めなくちゃ、と思っていたのだけれど私達の大切な旦那様を愚弄されると止める気が起きないわね」
指をぽきぽきと鳴らすレンゲに、槍を回して腰を落とすソルテ。
更にはミゼラも頬を膨らませて不満を露にしているようだ。
「む? なんだ貧乳ども。余に武器を向ける気か? 全く……これだから貧乳はいかん。器の大きさと胸の大きさは比例するという論は事実であったか」
逆鱗を何度も何度も撫でまわすどころか、友人の肩を空気も読めずに強く叩くようにする皇帝ガルシア。
だが、護衛の方は空気を感じ取ったのか武器を抜き、レンゲやソルテに対して抗うように対峙した。
「乳はでかければでかい程に良い! それはこの世の真理であり、皇帝たる余が真理を得るのは必然というものだ! 保護であり安心しろと言っておいて引っ掛かりがあるが、武器に手をかけたのはそちらが先である故、少し脅かせてもらうぞ」
くいっと右手をガルシアがあげると、上方から8つの影が下りてくる。
――――どしゃっと。
「…………む?」
降りてきたと思ったのだが、えっと……落ちてきた?
死んだか? と思うような落ち方だったのだが、ぴくぴくと動いてはいるのでどうやら生きてはいるらしい。
「どうした余の第三の護衛、『七つの暗器』よ! なぜ倒れて……っ、貴様は何者だ!!」
「ん?」
……まあ、シロだよな。
どうやら7人の護衛と、シロが下りてきたようだ。
「シロ……どうしたんだこれは?」
「ん? 探検してたら襲ってきたから返り討ちにした。超正当防衛」
「あ、はい……」
帝国の王の護衛らしき人達は、あっという間に一人の俺の護衛に倒されたらしい。
シロ曰く、正当防衛だとおっしゃっているし、シシリアに視線で確認しても大丈夫らしい。
「き、貴様……。貧乳の分際で調子に乗るなよ! そやつらは隠密向きで戦闘力という面では余の護衛の中でも最弱! 余の4ある護衛最強は――」
「ん? これが皇帝?」
「これ……これ扱いだと……余をこれ扱い……」
「んんー……冴えない男。主の方が格好いい」
それだけ言うと既にこれ扱いで震え項垂れているガルシアに興味を失ったのか俺の方にてててっとやってくるので、頭を撫でると目を細め嬉しそうにするシロ。
「よ、余が……余がこの男よりも劣っているだと……? 皇帝たる余が、夜の帝王でもある余がこの冴えない男よりも下だと……?」
「夜の帝王……?」
「そうだ! 余には6人の美しき妻がいる! 皆素晴らしい大きな胸を持つ余の自慢の妻たちである! そんな妻たちを満足させるべく、余は毎夜代わる代わる相手に出来るだけの性豪でもあるのだ! 絶倫皇の生まれ変わりとは余の事である!」
「……はっ」
「鼻で笑われただと!? 貴様、貧乳が余を鼻で笑ったな!」
「はぁ……井戸の中の蛙は海の広さを知らない……蛙皇帝?」
おお、井の中の蛙大海を知らずが出てくるとは……。
そして蛙皇帝はちょっと酷すぎる気も……あー……まあ二人にちょっかいを出そうとしていたし別にいいか。
「なんだと……? どういう意味だそれは!」
「最近の主は止まることを知らない……。夜の主は王を超えた英雄級」
「夜の英雄……だと……? この淡白そうな冴えぬ男がか!?」
がばっと視線を上げられ、驚愕の事実を受け止められぬ顔を向けるガルシア。
いや、その……そういう事って自慢気に話すような事でもないと思うんだよ。
特に女性陣が沢山いる中で、そういう下な事は言うもんじゃないと思うんだよ。
「まあ……シロはまだ小さいから手を出してもらえないけど……」
「……む? 手を出されておらぬのであれば、何故こやつが夜の英雄などと知っている? まさか余に嘘をついたのか?」
シロが心底嫌そうな顔で視線だけをソルテへと向けると、ソルテが何かわからずに自分を指さして確認をした。
「……深夜嬌声がうるさい。キャンキャンと犬の甲高い鳴き声が耳に障る」
「っ……! あ、あんた……聞いてたの?」
「聞こえたの……。声は抑えた方が良い。ご近所さんが出掛ける時に見かけると顔を紅くして見てる」
「ばっ! なっ……あんた、そんな事言われたらこれからご近所にどんな顔して会えばいいのよ! っていうか、主様の部屋から隣の家ってかなり離れてるのに……って事はまさか!」
がばっとアイナやウェンディ達の方を見ると、視線を逸らされてしまい、顔をどんどん赤くするソルテ。
「……わ、私だけじゃないでしょ!? ウェンディなんか何時間も声を上げてるじゃない!」
「なっ……私は声を抑えていますよ? ただ、回数が増えていくと頭がチカチカしてしまってあまり覚えていない事もありますけど……」
「ああ……ウェンディはそこまで大きな声ではないのだが……妙に艶っぽくてな……。その……」
「言っておくけど、アイナのも聞こえるんだからね! っていうか、部屋が近いんだからしょうがないじゃない!」
「なっ……わ、私もか? 私はあまり声を上げるような真似はしていないつもりだが……」
「まあ夜は静かっすからねえ……アイナの場合はこう……抑えようとして漏れ出た声が妙に生々しいというか……」
「なっ……そ、そういえば、ミゼラの声を聞いた事は無いな。何か秘訣でもあるのだろうか?」
「ノーコメント……というか、恥ずかしくて言えるわけがないでしょう……」
ああー……どうしようこれ。
シシリアはほほうっと興味深そうな顔で止める気もなく聞きいっているし、ガルシアの方は驚愕の表情を浮かべ、認めん……認めんぞ! と、叫びながら俺を指さしプルプルと震えているし……。
おまけに護衛さん達は護衛さん達でひそひそとこちらを見ては視線を逸らしていらっしゃるのだが……最早どう納めろと?
んんー……皇帝には大人しく俺達を保護してもらいつつ、ウェンディとアイナは完璧なまでに諦めてほしいのだが……あ、アレがあったな。
アレを献上すれば、褒美? として諦めてくれるかもしれん。
かなり貴重なものではあるのだが、俺にはもう効果はないようだし、まず喜んでもらえるだろうし。
まあ、保護してくれるお礼だと思えばいいだろう。
……ちなみに、ミゼラの場合は俺の枕を抱きしめており、声が出そうになると顔を隠すのである。
どけると恥ずかしそうにして、一生懸命枕に手を伸ばす姿は……っと、早くこの場を収拾しないとだったな。
デデーン!
OVL HPにて6巻の発売日が出ましたのでご報告を!
表紙とかはまだですが、発売予定日は8月25日!
まだ完成してませんので詳細は後日! お楽しみにっ!




