11-1 シュバルドベルツ帝国 戦闘系と採取系
帝国に一時的に行くことになったと、レインリヒやリートさん、冒険者ギルドのマスター等に事の顛末を伝え、取引相手であるメイラの家を後にし、最後にヤーシスの元へとやってきた。
「……って、事で暫くはシシリア様と帝国にいることになりそうだ。アイリスが対策を考えてくれるみたいなんだけどな……」
「ふむ……なるほど……」
ヤーシスは真剣な眼差しで何かを考えるように押し黙ってしまう。
だが、すぐにふふっと笑みをこぼして俺に向き直った。
「……流石はアインズヘイルが誇るトラブルメーカーですね。今度のお相手は公爵家とは……お次は王か国家ですか?」
「他人事だと思って楽しそうだなおい……。こっちだって好きでトラブルに巻き込まれている訳じゃないからな? トラブルをメイクしているつもりなんて全くないからな?」
俺だって出来る事ならこういったいざこざからはかけ離れたような刺激のない生活がしたいのだ。
ただ今回や地龍の時のようにやむにやまれぬ事情があるというだけである。
俺にとっての幸せがウェンディや皆と一緒の生活でないと実現不可能なのだから、それこそ仕方がないだろう。
あれか? 働かずに生きていきたいと願うことはそこまでの罪なのか?
天は俺に試練を与え、それを乗り越えないと理想のスローライフにたどり着かせてくれないのだろうか。
「はっはっは。ですが、まあ……大丈夫でしょう」
「いくら他人事だからって楽観的すぎるだろ……。何か根拠でもあるのか?」
「ええそれはもう」
「お。なんだよ。教えてくれよ」
ヤーシスが自信満々に頷くって事は、もしかして公爵家の致命的な弱点とか、攻略法を知っていたりするのだろうか?
それを聞き出すことが出来れば、大分心にゆとりが持てるんだが。
「それは秘密です。ですが……そうですね。これで王国の癌たる公爵家も終わりですか……ご愁傷様ですな」
「おい。なんで俺と関わると終わるみたいな話にしてるんだ? まさかそれが理由だとか言うんじゃないだろうな? 俺を勝手に誇るようなトラブルメーカーに仕立て上げたのって実はお前じゃないのか?」
「いえいえ。まさかそんな滅相もない」
そんなわざとらしい驚いた顔で俺が騙されると思うなよ。
そこまで長い付き合いというわけではないが、だんだんとわかって……いや、まだよくわかんないけど、それが演技だって事くらいはわかるからな。
「ただ……お客様はつくづくそういう星のもとに生まれているのだなと……」
「そういうってなんだよ……」
「ふふふ。なんでもありませんよ。さあ、あまり長居をしていては危険なのでしょう? バイブレータについては保留としておきますので、あちらは安全でしょうからゆっくりと帝国を楽しんできてくださいな」
「お、おう……」
相変わらず、読めない男だ……。
思うままに……ねえ。
ウェンディを必ず守るって事くらいしか、ないんだよなあ……。
「ふふ。それにしても、『天からの二物』までも貴方の味方になってくださるとは……」
「……天からの二物?」
「ええ。知らないのですか? シシリア様は――」
※
先ほどまでゴトゴトと車輪を回し上下に小さく揺れていた、今は停車中の箱馬車。
こればかりは帝国でも変わらないか……と、思ったのだが、衝撃が比較的少ないのはやはりシシリア様が乗る馬車だからなのだろうか。
なんとこの馬車のタイヤは硬めのゴム……ではなく、スライムの被膜を使って衝撃吸収されており、ホイールが木製なだけでまるで元の世界のタイヤのような形状を取っているのだ。
更にはサスペンションまで組まれており、より衝撃を吸収出来るような工夫がなされていて、今のところ快適な旅を演出してくれている。
そんな感じで俺がタイヤの方に興味を向けていると、シシリア様が微笑んでいるのに気が付いた。
「ふふ。馬車でまず驚くと思っていたのだが、あまり驚かぬのだな」
「あー……まあ一応、自分でも考えついてはいましたので……」
スライムの被膜はゴムの代わりになる。
つまり、元の世界で使われていたゴム製品を思い浮かべれば自然と思い付きはした。
だが、馬車も持っていないし自分で使うことは少ないだろうと作らなかったのだ。
需要はあったとは思うが、作らなかった最大の理由は簡単な話だ。仕事が増える。
「ほーう流石だな。実現化するのに、我が国の錬金術師は頭を悩ませていたのだが……」
「完成形を知ってるだけです。……でも、そっちには驚きませんでしたが、目の前の光景には驚いてばかりですよ」
そう。目の前にある惨状に思わずタイヤを見てしまい、顔を向けられないくらい驚きを隠せない。
血が……魔物の黒い液体がぶわあって……ここら一帯ぶわあって……。
しかも、それをやったのがまさかのシシリア様……。
「我の実力を先に見せた方がこれから安心できるだろう? んんーしかし、やはり狩りは良い。王国に来ると好きに狩りを出来るのが良いな。帝都では弟がうるさいからな……」
そう言って手に持った片手細剣をチンっと腰の鞘に納刀し、頬に一滴だけついた黒い血をハンカチで拭くと、いつもの優雅で高貴なシシリア様にしか見えないのだから不思議である。
……弟さん、つまりは皇帝がうるさいそうだが、皇帝の姉という立場なのだから当然だと思う。
「まさかシシリア様が戦闘をなさるとは……」
「ん。主。前にちゃんと言った。強い人がいるって」
「いや、それってセレンさんの事じゃ……?」
あれだろ? 部屋に入る前、ウェンディや皆のメイド服を褒めた時の事を言っているんだろ?
勿論覚えているさ。メイド服は素晴らしかったし、初めてシシリア様のおっぱいを見た衝撃ごと、丸っと覚えているとも。
「セレン殿は筋は悪くないが、まだ伸び盛りといったところだろう」
「はいい……まだまだ修行中の身でして……。シシリア様の足元にも及びません……」
「っていうか、主様気づかなかったの?」
気づかねえよわからねえよむしろ何で気付けるの?
あんな大きな大きなおっぱいの持ち主で、戦っている姿を見たことも無ければ、鎧も普段つけている訳でもないのに何で強さが感じ取れるの?
なんとなくとか言うんだろきっと! これだから! これだから戦闘系は!
「いやでも……細剣で大型の魔物を、しかも角ごと真っ二つって……色々とおかしくないか?」
レイピアのように見える細い剣だったのだが、何故切れるのか、何故折れないのかわからない。
刺突用かと思いきや、象ほどもある大きさの巨大な鹿、インフェルノディアの突進に対し納刀したままで立ちふさがりすれ違いざまに一刀両断。
お互いが交差したものの何もなかった……と思いきや、インフェルノディアの下半身が力なく崩れ、それに釣られるように上体がずるりと落ち、なんと真横に一太刀にて切断されていた。
太いところでは俺の胴体程もありそうな巨大な硬い角ごとまとめてスパーンっと。
驚いたのは俺とミゼラだけで、シロやアイナ達はほうと感心するだけとかね。
俺には何が起こったのか全く分からなかったので解説をお願いしましたとも!
「抜刀。恐らく秘密は武器。特殊な武器」
「そっすね。切れ味が相当な物っすね」
「それに、刀身が揺らめいて見えたのと、魔物とのサイズが合わないのも謎ね……」
「ふふふ。良く見えているな。正解だ。詳細までは教えられぬが、我の武器は抜刀直後でないと効果が出ぬ物なのだ」
「なるほど……ダンジョン産の特殊な武器だな。しかし見事な体捌きであった所から、それがなくともかなり強いだろう」
「そう見えるか? これでも帝国の冒険者ギルドでは最高ランクである。まあ、納刀に隙がある故流石にシロやお主ら三人に勝てる……と、言えるほどではないがな」
と、戦闘談義に花を咲かせる戦闘系女子の皆さま。
剣が揺らめいて見えたとか、え? なんだけど……。
体捌き……いや、そんなものはなかったはずだ。
だって、おっぱいは揺れていなかったもの。
しかし、なるほど。
ヤーシスの言っていた『天からの二物』に納得はいった。
俺はてっきり、左右のおっぱいで二物なのだと半分くらいは思っていたのだが、戦闘のセンスとおっぱいの二物だったのか。
だから帝国の皇帝の姉という立場でありながら、護衛はセレンさんだけだったんだな。
これだけ強い上に、戦闘したがりなんだから余計な護衛は付けたくなかったのだろう。
身の回りの世話と、多分セレンさん自身を気に入って護衛にしたのだと思う。
セレンさんは戦闘系の話に混ざってはいるが、ついていけてないのか目が泳ぎだし、段々と混ざれない事に落ち込みだしていた。
なので、手招きしてこちらへと誘い、一緒に薬体草の採取、兼護衛をしてもらうことに。
当然俺もあっちには混ざれないし、こっちにはセレンさんと仲の良いミゼラもいるからね。
「旦那様! 私自生する薬体草なんて初めて見たわ! イグドラシル系も稀に見られるのよね? 見られるかしら……見てみたいわ」
「イグドラシルの自生ですか? たまにしか見られないと思いますが、道中はまだ長いのでもしかしたら可能性は十分ありますよ!」
ミゼラと話し、元気を取り戻すセレンさん。
二人は話を続けながら薬草採取を行っているので、俺は少し離れて採取を行う。
「ご主人様。こちらにも何かありますよ」
「お、どれどれ。おお、メントルか。これも使えるから取っていこう」
薬にも勿論使えるのだが、俺の場合は薬ではなくお茶に使う。
すーっとして、鼻で呼吸をすると目が覚めるような清涼感で、眠いけど仕事をしなければいけない時などに重宝させてもらっているのだ。
「旦那様! ブルーハーブ! ブルーハーブがここいっぱいある!」
ハーブ一つで大はしゃぎのミゼラの声を聴き、ウェンディと一緒にそちらへと移動。
うん。俺はやはり戦闘談義よりもこっちの方がいいな。
ん? お。ラッキー。四葉のクローバー発見。
幸先は悪くなさそうだな。多分。




