10-28 アインズヘイルで休息を 双子の想い
さっさと授業内容を記した日誌を書き終えて、ウェンディの待つ食堂に行きたいんだが……。
「せんせー! せんせー! せんせー! 早くー!」
「せんせ! せんせ! まーだなのぉー?」
「引っ張んなー。引っ張んなって。日誌書いてるのー。まだお仕事してるのぉー」
二人の話し方に合わせた喋り方でおざなりに対処しつつ、右に左にがくがくされると手元が狂うから余計遅くなってしまう事に迅速に気付いて欲しい。
っていうか、子供かっ!
……いや、子供か。
「せーんせー!」
「せーんせ!」
「あーはいはい。どうしたんだよ? さっきも、いくらお前達のお父様だからって会話の途中に入ってくるし……そんなに急ぎの用事でもあったのか?」
「お父様が難しい顔してたからせんせーを助けに……って思ったんだけど、それとは別に、用事があるってずーっと言ってるんだよー!」
「お父様とお話ししている前からお話があるんだよぉー!」
「お話なのか? なら、今言ってもいいぞ。ちゃんと聞いてるから」
「もうー! そういう軽いお話じゃないのにー!」
「真面目で真剣で大事なお話なのにぃー!」
ぷくっと頬を膨らませる二人。
……そんな二人の頬を思わず押したい衝動にかられたので膨らんだ頬を中指と親指で掴むと、中の空気がぷふーっと吐き出されて手のひらに当たる。
そしてそのまま少しだけ挟んでいると、唇が突き出された顔が2つ、あまりに似すぎていて面白くて少し吹き出してしまった。
「お、女の子の顔に何するんだよー!」
「悪い悪い。ついやりたくなっただけなんだ」
「酷いよー! ついやりたくなったからって女の子に変な顔させないでよぉー!」
大丈夫大丈夫。
ちゃんと可愛かったからな。
アレだ、ブサ可愛い的な? いや、厳密には違うのか?
ほっぺをほぐさなくてもそんなに強くやってないっての。
さ、仕事を再開しよう。
「ん……。仲が良すぎる? だんだん嫉妬の心が沸々と……」
「気持ちはわからなくもないが……やめておけ」
「んー。あれ? ソルテとレンゲは?」
「先ほどぶっ飛ばしてきた生徒達の様子を見に行ってくると言っていたぞ」
「……またぶっ飛ばしてるの? もうお昼だよ?」
「うむ。まあ、満身創痍や空腹でも戦わなければいけない状況もあるにはあるからな。役に立たない……というわけではないが、技術的なものよりも根性論を優先するそうだ」
「アイナは行かなくていいの?」
「私は正式に騎士科の手伝いに駆り出されていてな。もう一人臨時の教師が来ているから、基本的には彼の手伝いなのだよ。今回は理由を話して時間を空けてもらったんだ。そういえば彼とシロは――」
アイナとシロはなにやら話し合っているようだ。
シロがアイナのおっぱいに手を伸ばし、猫パンチを繰り出して揺らしているようだがアイナは気にした様子もなく話を続けていた。
とはいえ、真横で先生先生と呼ばれているから、詳細はわからないのだが……。
「ぶぅー……もうそのままでもいいやー……」
お、諦めたのか服を引っ張る手が止まる。
何やら本当に真面目な話のようなので、手を止めて二人に向き合うと、二人は両側から片側へと移り、二人横に並んで俺を真っすぐに見つめていた。
「あのね、せんせーには本当に感謝してるんだよー」
「うんー。せんせのおかげで、私達は私達の望みを叶えられるんだよぉー」
「望み……? あー……お前達は自分たちの望みを叶えたいとか言ってたな」
そういえば生徒達の意志を確認した際に、ラズとクランは自分達には叶えたい望みがあると言っていた。
チャンスだからと、人一倍今回の香水作りに本気であったな。
「うん。あのね、私はずっとクランと一緒が良かったんだー」
「ラズと、ずっと一緒が良かったんだよぉー」
「ん? 別に、一緒にいればいいんじゃないのか?」
「あはは。そうもいかないんだよー。結婚相手を探してもらう際は、離れ離れになる予定だったんだー」
「一応侯爵家の娘としての結婚だからねー。二人共一緒の貴族に……なんて、貴族社会だとちょっと問題があるんだよぉー」
……なるほど。
侯爵家はかなり高い地位にある貴族だもんな。
そこのご令嬢を二人共娶るとなると、具体的にはよくわからないが貴族間の派閥やら、バランスやなんやらの関係もあるのだろうな。
あー……貴族、めんどくさ。
「私達両方を娶りたいって人も一人いたんだけどねー。地位的には問題なかったんだけど、その人だけは絶対駄目だってお父様も言っていたし、私達もその人は嫌だったからねー」
「ほーう……」
あのお父様が言うのなら駄目なんだろうな……。
あれ? でも、俺みたいな平民に手を出したら……って一応認められた? 手を出したら責任とれよ? って感じだったけどな。
平民の俺より駄目って……相当やばい奴な気がするな。
「……だからね、ずっと諦めてたんだよ。学生の間に、たっぷりクランと楽しい思い出を作って、その後は覚悟を決めて笑顔でお別れしようって決めてたんだ」
「……だけどね、せんせがラズと一緒にいられる道を照らしてくれたんだよ。これからも……ラズとこれからもずっと一緒にいられる道を、作ってくれたんだよ」
間延びした声ではなく、想いの込められた心からの言葉。
「先生に出会えた。同じ志を持つ仲間がいた。奇跡や運命なんて、子供みたいって思うかもしれないけど」
「私達は運命の出会いも、奇跡も信じたくなった」
そう感じさせるだけの雰囲気と表情を持ち、見た目の幼さよりもずっと大人びた雰囲気を持ち合わせていた。
「だからどうしても伝えたかったの」
「伝えきれない、言い尽くせないこの想いを」
胸の前で手を握り、満面の笑みを浮かべる二人。
そして……。
「「ありがとう! 先生!」」
溢れんばかりの感情を、飾らずに一言に詰め込んだ強い想いを感じる真摯な言葉。
万感の想いがこもった、感謝の言葉。
そんな二人に俺は一度鼻で息を吐き……。
「ふぅ……あいよー」
「「軽いよ!!」」
そんな事言われても、皆もいるしな。
見てみ? 超注目されてるから。
「酷いよ酷いよあんまりだよー!」
「私達の感謝の重さに対して返事が軽すぎるよぉー!」
「まあ、俺のしたことなんてそんなもんって事だよ。謙遜する訳でもないが、特別な事をしたわけじゃない。教師として当然の事をしたまでだ。それに、大変なのはこれからで、頑張るのはお前達だからな」
「「むうー」ぅー」
「まあ、そろそろ俺の臨時講師も終わりだし、これからも精進して頑張るように。いつか、二人共を娶ってくれる旦那さんが見つかるといいな」
「……」「……」
二人して頬を膨らませているのだが、また頬を押して欲しいのだろうか?
だが、二人はそれに気づいたのかすぐさま頬を膨らませるのをやめ、顔を見合わせて頷きあった。
「あーあー。せんせーがちゃんとしてたら、ほっぺにチューしようと思ってたのになー。もったいなかったねー」
「お礼に美人双子からのチューだよー? もう一生ないかもしれないよぉー?」
「学園卒業もまだしていないような子供にされてもな……。まあ、そういう色気は自立してもう少し大人になってから好きな――」
ちゅ×2
「……」
「……こう見えても、もう大人なんだよ?」
「先生に心配されずとも、お父様も認めた私達二人を娶ってくれそうな候補はもういるんだよ?」
「「私達、先生のおかげで諦めが悪くなったんだよ?」」
……不覚を取られたってのもあるが、やっぱり俺は突然の出来事に弱いらしい。
一瞬の出来事ではあったが、しっかりと二人の唇の柔らかさを感じ、脳が緊急停止を余儀なくされてしまっていた。
そして遅ればせながら、クラス内から黄色やら桃色やらの声援が上がってくると何をされたか急激に理解が進んでくる。
「せんせ、顔紅いよぉー?」
「子供にされても喜ばないんじゃないのー?」
と、からかうように俺をおちょくる二人……だが。
「……そういうお前らも。真っ赤だからな」
二人同時に頬を抑えて、真っ赤じゃないよ! と、叫ぶのであった。
まあ……ちゅーで顔を真っ赤にするなんて初々しくて可愛らしいが、やっぱりまだ子供だよな。
※※※
「そういえばせんせ。シロちゃんと二人、『主従の禁断の愛』だとか、『年齢の壁も超えた愛』だとかって、真実の愛の詩になってるって本当ぉー?」
「……あー」
皆で食堂に向かっているのだが、なにやら懐かしいような、こっぱずかしい話題が出てきたな。
「お父様が言ってたんだよー。武術大会で厳重な警備の中を颯爽と乱入し、圧倒的な強者を前に奴隷のために体を張ったっていう物語なのー。その乱入者が、せんせーだって言ってたよー!」
……あったねえ。
王都でもアインズヘイルでもからかわれたアレか……。
確か、アイリスがうまくまとめてくれたおかげで助かったんだよな……。
「ん。シロと主の愛は真実の愛なの」
「そうだな……モチーフにはなったのかもな」
「おおー! お父様が、褒めてたんだよー! なかなか気概のある男だってー! ああいう男に嫁げば、幸せにしてくれるだろうってー!」
「その時はへぇーって聞いてただけなんだけど、まさかせんせだとはねー! 世間は狭いねぇー!」
あー……だから何やら認められたような感じだったのだろうか?
だとしても、やはり厳しめであったのは大事な愛娘だからなんだろうな……。
『……やめてくださいっ! 放してくださいっ!』
……今の声――。
「っ!」
「主!」
「主君! 今のはウェンディの――」
アイナの言葉を最後まで聞き終わる前に駆け出した。
人の目も気にせず加速する方向性を発動させて、すぐさま声がした方へと急ぐ。
一秒でも早く……ウェンディの元へとたどり着くために。
そろそろこの章も終わりなので……後々のフラグをよいしょと。




