10-11 アインズヘイルで休息を 女神様の事情
孤児院と併設されている教会に移り、大聖堂ほどではないにしても立派なステンドグラスをバックにしてテレサが立つ。
ヴェール状の頭巾であるウィンプルから顔をのぞかせるアッシュブロンドの髪色がステンドグラスから注がれる日の光に映え、真面目な顔つきが神気に満ち溢れているように思えてきた。
だが……んんー。
これは順番を間違えたのではないだろうか。
お腹が一杯になった後に、小難しい話を聞かせるというのはとても眠くなると思う。
特にまだ始まってもいないが、相手は子供。
何人かは眠そうに、そして何人かは既に眠ってしまっていた。
「……まあ想定内でやがりますが、誰も出て行かないのであればそれでいいでやがりますよ。それに、楽しみにしていてくれた子もいるみたいでやがりますからな」
テレサの言うとおり一番前に座ってテレサの話を今か今かと待っている子供も少なくない。
というか、テレサにまだですか? まだですか? と、逸る気持ちを抑えられずに伝えているようだ。
入り口も開放して一般の参加者も入ってきており、その参加者の波が途切れた頃、テレサが手を叩き皆を静かにさせて注目を得た。
「それでは、そろそろ始めるでやがります。皆様。王都の大聖堂所属、神官騎士団隊長のテレサでやがります。今日はよろしくお願いするでやがりますよ」
おっと? 自分で聖女とは言わないのか。
今更だとおもうのだが、恥ずかしいのだろうか……?
「うふふ。隣失礼しますね」
「副隊長? いいのかこっちの席で」
「大丈夫ですよ。それに、何も知らないお兄さんに解説役が必要かと思いまして」
そいつは助かる。
助かるのだが……その腕はなんなのだろうか。
なぜ、俺の腕に抱きつく必要があるというのだろうか。
「むうぅ……」
そして、副隊長が腕を抱き自身のおっぱいに俺の腕を押し付けるのを見てアイナも動き出す。
たどたどしくはあるのだが腕を取って抱きしめると、優しく自分のおっぱいへと押し付け始め副隊長に対抗するように恨めしく睨む。
勿論その行動は副隊長にじっと見られている。
「わぁ……なんですか今の。可愛すぎません? 鼻血が出そうなんですけど」
「だろう? アイナはこういう所が可愛いんだよ。でも、鼻血は出すな」
「はいはいはい。静粛にでやがります。それでは、まずは基本的な所からお話しするでやがりますよ」
俺達の方を真っ直ぐにギロリと睨み付けて黙ってろと瞳で語られるので、しっかりと背筋を伸ばして黙る。
普段の俺達だけならばおふざけで呆れられるだけだが、今日は一般の人もいるのであまり迷惑をかけすぎると聖なる巨大十字架が飛んでくるかもしれないからな。
「では、まずはこの本でやがりますが、この本は『神紀伝』。神について記された本でやがります。聖職者になると、この本は自動的にギルドカードに収まるようになるでやがります。そして、神の教えに反する真似をすれば、本に汚れがつくようになり、やがて読めなくなると聖職者でいられなくなるでやがります」
「へえ……副隊長も持っているのか?」
「ええ勿論」
「大丈夫なのか?」
「それはどういう意味ですか……?」
「いや、汚れてないかなって……」
「うふふふ。ちょっと今は駄目ですけど後で詳しく尋問しますからね……」
ひそひそ声で副隊長とやり取りをし、どうやら副隊長の本は汚れていないらしい。
となると、結構甘い判定なのだろうか。
まさか副隊長が敬虔な神の信奉者だなんて、誰しもが思わないだろう。
……ちょっとくらい、汚れているんじゃないだろうか。
「で、この本には神の紀伝。つまり歴史が記されているでやがります。そして、神の動きになにかがあれば自動的に記されるのが特徴でやがります。あとは女神様からの啓示なんかも記されるでやがりますよ」
おー。凄いな。
自動で記されるとか、まさにファンタジー。
そういえばここ異世界だったよね……。
馴染みすぎだろうか……。
「……とはいっても、大きな動きがあったのはここ最近でやがります。皆さんも知っているとおり、若き女神が誕生し、新たに我々を見守るようになったでやがりますね。それまでは創造神クリエラ様が我々を見守ってくれていたでやがりますが、皆さんは知っているでやがりますか?」
そうテレサが問いかけると、元気よく前方からはーい! と答える者と、後方はまばらではあったがはいと返事が聞こえた。
創造神クリエラ……俺は会っていないってことは、若き女神っていうのがレイディアナ様なのだろうか。
「では、若き女神で有名なのはやはり豊穣と慈愛の女神レイディアナ様でやがりましょう。ここ十年で神になられた教会が誇る元聖女様でやがりますからな」
「……へ?」
「あれ? 知らなかったんですか? レイディアナ様は元々聖女で、十数年くらい前に旅に出てその後神になられたお方ですよ?」
「……まじで?」
「まじです」
まじなのかよ……。
あの女神様が元人間か……。
確かにお饅頭やパリパリチョクォバニラが好きだとか少し俗っぽかったりもしたけどさ。
そういえば、王国は未だに変わらないとかなんとかも言ってたな。
っていうか、人が神になれるんだな……。
これもファンタジー? ファンタジーで済むのかそれ……。
「そして戦闘神のアトロス様。彼女はエルフが昇華して神へと至った戦闘神でやがります。レイディアナ様と共に旅に出ていたらしいでやがります」
アトロスっていうと、確か貧乳、ちっぱいの戦闘の女神様だったか?
俺がこの世界に来る際は見た覚えはないのだがエルフなのか……。
エルフが神様……やはりエミリーのように耳が尖っているのだろうか?
「おっぱいが小さい神様! おっぱいが小さい神様だよね?」
子供は無邪気だ……。
そして、残酷な事を平然と言ってのける。
その通りなのだろうが、聖女であるテレサが反応に困り口元に指を当ててしぃーと静かにさせていた。
「あとはあまり有名ではないでやがりますが、自由神のクロエミナ様でやがりましょうか。彼女についてはレイディアナ様とアトロス様と共に女神となったそうでやがりますが、どんな姿なのかもわかっていないでやがります。現在はその三女神が確認され、本にも記されているでやがります」
「ん? クロエミナ様の姿はわからないのか? 本に自動で書かれるんだろう?」
「実はですね……レイディアナ様とアトロス様は当然本にも載っているんですよ。でも、クロエミナ様のページは……」
と、副隊長が神紀伝を出して見せてくれる。
……汚れらしきものはない。
開いたページにはレイディアナ様の姿が絵となって写っていた。
流石美しい。だが、やはり実物の方が圧倒的に美しい。
そして、アトロス様だが……エルフだ。
目つきが鋭く長髪で美しい肢体を持ったエルフだった。
そして……どうあがいてもちっぱいだった。
これは……アイリスやオリゴールと同等くらいだろうか……。
下手をすると、さっきおっぱいが小さい神様だと叫んでいた発育がそれなりに良い女の子よりも小さいかもしれない……。
……よし。そこは見なかった事にしよう。
戦闘神だし、あまり言うとせっかく鍛錬をつんでいるというのに余計強くなれないかもしれないからな。
そして、クロエミナという項目を見てみるのだが……。
……あれだ。
動物をカメラで取ろうとしたらシャっ! って、素早く動いてしまった感じの絵になっている。
かろうじて、黒い影のようなものが写っているだけだった。
……これは汚れではないんだろう。きっと。多分。
「そして、最後は三人の女神の上位の神でやがりますが……。いる。という事以外は何もわからないでやがります。名前も、見た目も、情報も、何も本には載っていない。ただ、その上位の神が三女神を治めてこの世界を見守っているということだけがわかっているのでやがります」
テレサの声を聞きながら、ページをめくると先ほどまでとは違いまず絵がまったくなかった。
そして、名前も読めない。
だが、説明のところに『其の神の名は■●▲▼。三女神を治め、ただそこに在る者也』と名前自体はあるようなのだが、読めなくなっていた。
「……このお方に関しては殆どわかっていないんですよ……。とはいえ、三人の女神様の上位にあたる神様ですからとても高貴なお方なのでしょう。一説によると、レイディアナ様と共に旅に出られた方々が神となった、と言われていますが、記録にも残っていないので定かではありません」
「へえ……」
創造神であるクリエラ様がいなくなって、それで代わりの神様が来たんだろうか。
そしてその補助のためにこの世界に生きていた三人が新たな女神に……とかだろうか?
まあ、予想しても正解はわからないのだが……。
「では今度は難しい話をするでやがります。今度は教会設立からの流れや、神気についてでやがりますよ。まずは……」
と、テレサが神気について、そして教会が出来てからの活動や、総本山である聖王国についてを語りだした。
神気については前も聞いた事があり、教会が出来てから各国の大きめの町から順に教会を建ててもらい、そこに聖王国から司教や司祭が送られてくるらしい。
それと、各国に一人枢機卿や大司教が送られており大まかな判断や人員の手配などの決定は彼らによって行われるそうだ。
そして、先ほどの『神紀伝』は定期的に監査されるらしい。
それによって階位が変わる場合もあるそうだ。
そしてこの世界は邪教徒を除き、宗派は一つしかないらしい。
ただ、クリエラ様をこの世界の創造主として最上位とする派と、新たな最高神を最上位とする派で分かれてはいるそうだ。
そして――
「……あ、主さん? 主さーん? おーい? 寝ちゃうんですか?」
まどろみの世界で、うっすらと凄く近い距離で副隊長の声がする。
とはいえ、俺もお腹がいっぱいな上に早朝から起きているので眠さのピークが訪れている。
ゆえに……このまどろみには抗えない……。
「む……主君? これはまずいな……。副隊長。被害に会いたくなければ主君から離れたほうがいいぞ?」
「……と、言われましても。よっかかられているのはこちらですからね。起こすのも可哀想ですし、幸いにも席は一番端っこの一番後ろですし、邪魔になることもないでしょう。寝息も静かで寝顔は意外と可愛いですし、このままで構いませんよ?」
「……忠告はしたからな」
「んん? 一体何を心配して、っっ! ちょ、へ? どこを触って!」
「うるさいでやがりますよ。副隊長」
「や、あっ……は、はい。すみませんッ! っ、でした……。こ、こらぁ……駄目ですって……そんなっ、あ……こんな、こんな女神様のぉっ、見ている場所っでぇ……」
「だから言っただろう……っ」
「こういうことなら、もっと詳しく説明してくださいよ! んぁっ!」
すぅ……すぅ……。
なんだろう。とても、気持ちよく眠れそうだ……。
危ない危ない。
最後の所をつい書籍基準で書いてしまった……。
あんまり描写を濃くしたらまずいのを忘れていた……。




