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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
10章 日常の一時
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10-7 アインズヘイルで休息を ゴールデンモイ

朝というのは様々な色を持つものだ。


日の昇り始め。

夜の黒が色を持ち始め、鮮やかな青色が世界を彩り、そして日が出てくるにつれて黄色い余波が現れ、その色はやがて夕日も羨むような赤色へと変化する。

もう少し経てば光が満ちた朝が来るのだろうが、今俺の目の前には朝焼けの赤よりも鮮やかな紅い髪が揺れていて、そっちに目を奪われていた。


「どうした主君? 急がねば朝市に遅れてしまうぞ?」


俺の手を引きながら楽しそうに先を歩くアイナがじっと見られている事に気がついたのか振り向き、明らかにご機嫌な様子で急かすように笑いかけてくる。


「先ほどの店で時間を食ってしまったからな。急がねばお目当ての物が手に入らなくなってしまうぞ」


今日のお目当てである『ゴールデンモイ』。

つまりはさつまいものように甘い芋らしいのだが、これがまたとんでもなく甘くて美味しいらしい。


その解禁日が今日だと聞き、そんなに美味しいのなら今度買うかと考えていたら、どうやら解禁日以外は買うのが難しいそうだ。

元の世界では簡単に手に入るものなのだが、こちらでは特別なものらしく予約制となるそうで、解禁日以外に取れるものは全て去年からの予約となるらしい。


去年この世界にはいなかった俺が予約しているわけもなく、アイナ達も予約していなかったそうで食べるには今日しかチャンスがないと言われ、限定やら今日しかないと言われると猛烈に気になる日本人の弱いところを刺激された俺は、アイナと朝市に参加する事になったのだが……。


「時間を取られたのはアイナが先だろう? 店員さんに見事に捕まってたじゃないか」

「あ、あれはあの店員の巧みな話術が悪いのだ! 私のツボを押さえているというか……」

「巧みな話術っていうか、新婚さんの一言で撃沈だったけどな」

「し、仕方ないだろう……。私達の事を知っている街の皆ならともかく、この街に来たばかりの者に言われたのだぞ? 見知らぬ者から見ても新婚のようだなんて……嬉しく思ってしまうではないか……」


そう。

先ほどの店は別の街では大店だったそうで、街道の整備が整っているおかげで輸送が楽になったらしく、新しくこの街にやってきたそうだ。

そんな気合の入った、もとい気合の入りすぎた結果朝早くから開店したものの運悪く『ゴールデンモイ』の解禁日と被ってしまい、閑古鳥が鳴いていたところを俺達が前を通り、ヤケクソ気味な「そこの新婚さん見てってくれー! 珍しい物もあるんだー!!」という叫びにアイナが反応してしまったのだ。


「大体反応したのは私だが、買い物をしたのは主君だろう? 試飲までして……あんな苦い汁を出す豆を買ってどうするのだ……」


アイナが言っているのは、コーヒーの話だろう。

豆の形は若干違う気がしたが、紛れもなくコーヒーの味がし、店の中で焙煎も請け負うというので試飲をさせてもらい、豆を含めた一式を購入にいたったのだ。


「苦い汁て……。まあ、好き嫌いは分かれる物だけど、苦味だけじゃない奥深さがあるんだよ」

「そうなのか? 私にはただの苦いだけの本当に人が飲む物かと疑う物だったのだが……。ソルテなどひと舐めしただけで全身の毛が逆立ちそうなものだぞ」

「あーたしかに……」


ソルテがコップを両手で持ち、緊張した面持ちで小さく舌を伸ばして舐めた瞬間に「ぴっ!!」とか涙目で言いながら尻尾の毛をぶわっと逆立てている姿が容易に想像できるな。

同じく、シロも駄目だろう。


「ともかく、急がねば間に合わないぞ。今日は購入制限などないまさしく戦なのだから!」

「戦ってまた大げさな……」


戦だった。


「ぬおおおお! はっ! なっ!! せっ!!! この『ゴールデンモイ』は俺のもんだーっ!!」

「取ったもの勝ちだろうがよ! てめえはこの痩せ細ったモイで満足してな!」

「あっはははは! 死にたい奴から奪いに来てみなさい!!」

「あんにゃろ! こんな密集地帯で魔法を!!」

「潰せ! 魔法使いから潰せええええ!」


……何これ怖い。

こいつら何してるの?

え、朝市だよね?

バトルロイヤルじゃないよね?


「どうやら間に合ったようだな」


……何に?

まさかこのサバイバルに?

冗談はよせよ。ははは……冗談だろう?


「主君、これがアインズヘイル名物の一つ。死なない程度になんでもありの取り放題。『ゴールデンモイ掘り』だ」


どこが、掘りなのだろう。

街の中央。噴水のある広場で普段ある屋台も片付けられ、地に積まれたゴールデンモイをめぐって屈強な男女が争うように奪い合いをしているようにしか見えないぞ。

武器を持っていないだけで、これはアイナのいうとおり戦だろう。


「いやこれ死人が出るだろ……」

「大丈夫だ。ちゃんと例年通り監視の者もいるからな。ほら、ソルテやレンゲも来ているぞ」


アイナが促した方向を見ると、この人混みの中をすいすいと動き回り倒れている人を見つけてはぽいっと救護テントへと投げる良く見た姿が……。


「おらおら! 倒れたらさっさと立つっすよ! 潰されたら迷惑っす!」

「死ぬまでやるんじゃないわよ! 救護を受けたら大人しく参加賞を貰って帰りなさい!! ああ、そこ! 熱くなって中位の魔法を使おうとすんなっ!」


……二人とも気が立っているのか普段よりも荒々しい。


「ん、主おはよう」

「シロも手伝ってるのか!?」

「んー……朝起こされた。あとでソルテはひねる。でも、報酬は屋台飯食べ放題だから頑張ってる。眠い……」

「そ、そうか。頑張れよ」

「ん。てきとーにほどほどになんとなくそれなりに頑張る」


そう言って欠伸をし、眠そうでおぼつかない足取りながらもすいすいとリタイアした奴の元へ行き、的確に救護場所へと投げ入れていくシロ。

かったるそうにしてはいるものの、投げるのは正確で救護所にいる飛んできた冒険者を受け止める者の正面へと向かっていた。

そんなシロの姿が見えなくなると、アイナに肩を叩かれる。


「では行くか!」

「いや、無理だろ……。っていうか、これじゃあ一般人は買えねえじゃねえか!」

「む。そうか? 地龍戦を経験した主君ならば造作もないと思ったのだが……無理ならば一般列に並ぶか? 購入制限はあるが、確実に買えるぞ」


アイナの俺の評価はもともと甘いところがあるが、それにしたってこんなところで発揮しなくてもいいだろうと思う。

いくら地龍と戦ったとはいえ、俺は! とても! 弱いのだ!!


「俺は大人しく一般列に並ぶよ。後はアイナに任せた」

「むう……仕方ない、任された。主君の命に恥じぬよう主君の分まで気合を入れて行くとしよう」


そう言うとダンっと足を踏みならして群衆へと向かっていくアイナ。

俺の目でもわかるほどに闘気を纏わせているのだから当然……。


「ア、アイナさんだ! アイナさんが参戦するぞ!!」

「嘘でしょ!? 去年みたいに監視役じゃないの!!?」

「か、会計だ! 会計させてくれええええ!」

「待て待て! いかにアイナさんといえどこの人数を相手じゃ、ぐああああああ!」

「すまないが主君の命を受けているのでな。ある程度の数は持って行かせてもらうぞ」

「「「「「「ひいっ!!!」」」」」」


やる気に満ちたアイナの原因を探し、一斉に一般列に並ぶ俺へと非難の視線を向ける冒険者達。

その瞳からは、『なんてことをしてくれたんだっ!』という想いがひしひしと伝わってくるが、どうしようもないのですまんと頭を下げてからさっと目線を逸らす。


「どうした? 来ないのか? 常日頃から主君にばかりかまけていると不満を漏らしていたと聞いたぞ? ふふ。健気な後輩達め。せっかくだし、今日は思い切り相手することが出来るぞ。さあ、皆の成長を見せてくれ!」


もう一度、俺の方を見てくる冒険者達。

その瞳からは、『あれ100%善意で言っているみたいなんですが、止めてくれませんか?』という感じだが、俺にはアイナの善意を止められないので、もう一度すまんと頭を下げてから目を逸らした。


「ち、ちくしょう! このままじゃ根こそぎ持って行かれちまう!」

「流石に根こそぎはしないが……。だが、来ないようならこちらから行くぞ」

「く、くそー! このでかいのは! このでかいゴールデンモイだけは服の内側に入れて確保してやるううう!」

「ああ、勘弁してくれ! そのモイの溝は妙にエロいんだ! 女性の下半身と谷間みたいなんぎゃああああ!」

「な、なんですかアイナさん? ちちち、違いますよ? この胸は偽物なんかじゃ、あ、やめっ、だめえええ! 私のモイ乳を片方奪わないでええええ!!!」


おお……。

蹂躙が始まった……。

見事にアイナから逃げる冒険者の図が出来上がり、ある程度確保した者はさっさと安全地帯である会計の列に急ぎ始める。

挑んできた勇敢な者には慈悲なのか二番目に美味しそうな物以外を残して会計の列の方へ飛ばし、倒れた奴からこそこそと奪って回っている連中は、容赦なく救護所の方へと飛ばしている。


「あーあ、こうなるから私たちは毎年参戦しなかったのに……」

「ソルテ、仕事しなくていいのか?」

「いいのよ。アイナが気づいたら倒れてる連中を救護所の方に飛ばしているんだもん。救護所にはキャッチ要員もいるし、殆ど仕事は終わったようなものだもの」


そう言いながら疲れたように俺のそばによって来たので、順番を待ちながら話すことに。


「それにしても、ちょっとアイナのテンションがおかしくない? 妙に高揚しているというか、主様何かしたの?」

「あー……実はな」


俺はここまであったことを軽く説明していくと、ソルテが「あー……」と、納得したように頷く。


「新婚さんね……。昨日のじゃんけん、負けなければ良かったわ」

「そうなったら、ソルテがああなってたのかな?」

「……どうかしら。私と違ってアイナは面倒見もいいからね」


目の前で繰り広げられているアイナの無双っぷりを二人で眺める。

武器もないアイナだが、流石この街随一のAランクの冒険者というのは伊達ではないのだろう。

勇敢にも突っ込んでくる冒険者達の成長を見守りつつ、しっかりとゴールデンモイを確保している姿は、ひるんでいる冒険者とは対照的に楽しそうであった。

コミックガルドにてコミカライズ第五話が更新されましたっ!


今回はウェンディさんが登場!!

アイナさんと絡んで……ひゃっほうだぜ!


ッテことで、よろしくお願いしますー!!

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― 新着の感想 ―
ゴールデンモイ、実際の名前はゴールデンタイムモイとかだったりするのかなw 今までモイはジャガかと思ってたのだが実はサツマだったのか
[良い点] ここまで読んでハーレムだけどヒロイン皆埋もれてなくて最高 特にソルテとレンゲ大好きです
[一言] 焼き芋は細長いのが美味しいのですよ。 市販品は太くて立派で見た目がいいものばかりですけどね。
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