10-5 アインズヘイルで休息を 特殊ヘアカット2
相変わらずのウエスタン風の扉の先から、冒険者ギルド特有の匂いが外へとこぼれている。
主に酒と土や自然の香り、それと戦った魔物の返り血による血生臭さの入り混じったようなあまり気分がいいものではないのだが、その野性味が冒険者ギルドらしさを感じさせていた。
「さて、アイナ達はいるかな?」
髪を切った反応を見に冒険者ギルドまで歩いてきたのだが、こういう日に限って知り合いとは会わないからぶっつけ本番なんだよな……。
あ、でも野菜売りのおばちゃんは格好良いじゃないかって、モモモを一つくれたな。
扉をくぐり中に入るといつも通りの賑やかさで誰も俺が入ってきたことには気がつかない。
ぱっと見た感じでアイナ達はいないが……お、あのモシャ髪はフレッダか。
どうやら女冒険者達が3人ばかり集まって同じテーブルで酒を飲みながらガールズトークに花を咲かせているらしい。
「おーっすフレッダ。アイナ達いるか?」
「あ、お兄さん。アイナさん達は今クエストで……外に……って、えええー!? なっななな!」
「ばななな?」
「違います! ど、どうしたんですかその髪!」
「今切ってきたんだけど、変かな?」
「変どころか……え? 髪だけでこんなに変わるんですかってくらい格好良いですよ!」
ぱあっと持ち前の明るさを前面に出し、体まで前のめりなフレッダを見れば大分良い出来のようだ。
「おーそうかそうか。なら良かった。そうだ。アイナ達が戻ってくるまで一緒して良いかな?」
「は、はい! どうぞどうぞー!」
わざわざ椅子を引いてくれたのでそこに腰を下ろす。
どうやら三人とも既に飲んでいるらしく、テーブルの上には果実酒とおつまみが並んでいた。
「女三人集まって夕方前からお酒かあ」
「なんだー! 文句あるのかー!」
もう大分お酒が入っているらしい虎柄模様の耳を持った猫人族の女の子が牙を剝き出しにして絡んできた。
チューブトップでぱいを覆い、おへそもおなかのくびれも全開の野性味あふれる娘がフカー! と毛を逆立てる。
「随分と荒れてるな……。もうそんなに飲んだのか?」
「そうでもないわよ。最近恋人と別れたらしいの。だから今日はその愚痴を聞いているのよ」
答えてくれたのは妖艶系の魔法使いっぽいお姉さん。
おっぱいの谷間をこれでもかと見せ付けるように露にし、魔女っぽい帽子を被って長い髪で片目を隠しているなんともミステリアスな雰囲気を醸し出す大人のお姉さんだ。
「ああ、なるほど……」
「はっ! どうせ、お前ももっとおしとやかなほうがいいとかいうんだろ! 女の子っぽくしたほうがいいとか言うんだろ!!」
「いや、自分に素直で素敵だと思うよ。さて、俺も喉が渇いたし、何か飲むかな」
というと、『お、おう……ならいいんだよ』と持っていたお酒をチビリと飲んで落ち着いたようだ。
「フレッダは何を飲んでいるんだ?」
「え!? こ、これですか? これはウムルの実の果実酒にレモニアとモモモを混ぜたものですけど……」
ウムルの実って言うと、スモモみたいなやつか。
そこに柑橘系のスッキリした味わいと、モモモの甘さを足してバランスを取っているのだろう。
「へえ、美味しそうだな。一口くれないか?」
「ふうえ!? ひ、一口ですか!?」
「あ、悪い。そうだよな。いくら仲が良くても、男が飲むのは嫌だよな」
「べ、別にそんなんじゃ……ただ、間接……」
言葉が後ろにいくにつれて極小になっていき、最後の方はごにょごにょと体も小さくなっており何て言ったのか聞こえない。
というか、様子が少しおかしい気がする。
「あらフレッダ。さっきまでは良い男がいねえええ! って叫びながら足もがばっと開いて下品に飲んでいたくせに大人しく乙女みたいになっちゃってどうしたの?」
「は、はぁぁぁああ!?」
あー……お姉さんの言うとおり、そっちが普段のフレッダだな。
フレッダといえば普段から男女隔てなくフレンドリーで明るい性格で、この冒険者ギルドでは密かに人気のある女の子だ。
ただ、酒を飲めば隙が多く、酔っ払うと色々隙間から見えるも気にしなーい! って、くらい大雑把なのだが、確かに今日はちょっと大人しく見える。
そういえば、俺のジョッキを奪って酒を飲むこともあるくらいだし、同じ飲み物を飲む事が嫌って事はないはずなんだが……。
「べ、別に普段通りですし! 今だって開いてますし! ほら、カパァーっと!」
わざとらしく大足を開くフレッダだが、レンゲ同様ショートパンツなので開きすぎると股周りに大きく隙間が出来てしまい、その下の下着が見えてしまう。
「お、おいフレッダ。見えてるぞ……」
「べ、べべべ別にー? 見えてても気にしませんしー? はあー? なんですか? 見たいんですか? なら直接見せてあげましょうかー!?」
もはや目どころか頭もグルグルと回っていて、自分が何を言っているかも理解していない感じのフレッダが、今まさにズボンに手をかけようとしていたので慌てて止める。
前後左右様々な方向から舌打ちとブーイングが聞こえたが、後で正気に戻った際にぶっ飛ばされるお前達も助けたんだと思ってくれ……。
っていうか、ちょっと黙ってろ。
ほれ『タタナクナール』ちら見せ。
「フレッダ、ちょっと落ち着けっての……」
タタナクナールを見た男達のように、大人しくなってくれ……。
関わるまいと速攻で自分たちのテーブルで飲み始め、我関せずを貫く連携と判断力にはあっぱれだ。
「落ち着いてますし普段どおりですけどー!? ほらほらほら! 飲みたければどうぞー! ちなみに私が口をつけた部分はここでーす! ここから飲む度胸があるならどうぞー!」
「ああ、うん。じゃあ、いただきます」
「ペロペローって舐めちゃっても、おああっ!?」
ジョッキを受け取って一口飲む。
ウムルの甘酸っぱさと、モモモの裂かれた果肉によって後から濃厚な甘さが入り、アルコールと共にほんの少しのレモニアの柑橘系の爽やかさが鼻を抜けていく。
飲みやすく、かつそれぞれの酒や果汁、果肉の旨さが活かされていて美味い。
「んっ……はぁ。美味いなこれ。グイグイいっちゃいそうだ」
でも果実酒って意外と度数高いんだよな……。
グイグイいったら酔っ払うのが早そうだ。
「あ……ええ……そんな、普通に何事もなく飲みますか……」
「ん? ああ、全部は飲んでないぞ? お姉さん、俺もウムルのお酒くださいな」
「はーい!」
気に入ったし、今日はこれで決まりだな。
後はレモニアとモモモの割合で好みの味を見つけていこう。
「はいお待ち! レモニアを絞るならナイフもいりますよね? あ、でもモモモはここにはありませんよ」
「ああ、ありがとう。モモモは自前のがあるから大丈夫だけど……そっか。手絞りか……。なあ、ちょっと錬金してもいいか?」
「……別にいいぞ」
「ええ、構わないわよ。話題の錬金術師の腕前が目の前で見られるなんて、良い余興ね」
よし、許可はいただいたので早速作業に入ろう。
といっても、絞り機を作るだけだから簡単な錬金だけどな。
材料は何にするべきか……やはりここは元の世界にのっとってオーソドックスなガラスで作るべきか。
一枚の板ガラスを取り出して机の上に置き手形成を使ってまずは丸くしてから大雑把に形を整えていく。
器となる枠を作り、中心には絞りやすいように突起のようにしてそこに溝をつけていき、最後に枠の一部分を湾曲させて注ぎ口を作れば完成だ。
うん。超簡単。お手軽だね。
続いてモモモなんかの果実を絞るものも作っていこう。
まあ、簡単に言えばジューサーだな。
ガラスの容器と回転球体、それと小さく薄い金属をつけたパーツを組み合わせて素材と素材の隙間はスライムのゴム質で液漏れを防ぐ。
蓋もスライム製の伸縮自在の吸着するものにして、あとは魔石をセットすればカットした果実を入れてジュースを作れるジューサーの完成だ。
「「おおー」」
「おわっと、なんだ? 前のめりだな」
「いや、あっという間すぎて……」
「指の動きが滑らかすぎるわね。鮮やかだったわ」
「まあ、元の世界にあったものだし、完成形を知っているからな」
さて、絞り具合は……うん。簡単に絞れるな。
モモモの方はまずナイフを種まで入れて一周させ、半分に捻りきってから種を取る。
縦に更に分割し、それを数度繰り返して小さくした後に皿の上でナイフを寝かせ、モモモの皮を取ってぶつ切りにして並べていった。
「慣れた手つきね」
「まあ、これくらいならな」
「私は料理できないからなー。料理上手な彼氏か……悪くないな」
「あら、次の彼氏は料理人かしら? ……で、フレッダはいつまで杯を見つめているの?」
「ふぇ!?」
「なんだあ? いらねえなら私がもらうぞ」
「だ、駄目!」
奪い取られそうだったジョッキを胸に抱えるようにして守るフレッダ。
そして、何故か俺のほうをちらりと見た後にジョッキを傾けて一気に中身を干してしまう。
「間接キスね」
「ぶふっ……っんん!」
おお、なんとか思い切り吐き出すのは耐えたようだ。
ただ、口元から僅かにお酒が零れてしまっている。
「何を言うんです――わぷっ!」
「あーあー……ほれ、動くな動くな」
「っっっ!!」
口元についたお酒をぬぐう為にハンカチを取り出して拭いてやるのだが、ばっと離れていってしまうので押し付けるようにして拭うと、目を思い切り瞑って固まってしまう。
「あらあら。お熱いわね」
「からかうなよ。今更間接キス程度気にするような仲でもないっての。なあ」
「へっ!? あっ、えと、そそそ、そうですよ! 私が一体今までどれだけお兄さんのジョッキで飲んできてると思ってるんですか! もうペロペロですよペロペロ!」
「ふふふ。なら、そういうことにしておいてあげるわ」
「ええ、そういうことにしてくださいっ! まったく……ほら、お酒が全然進んでいないじゃないですか! もっと飲みましょうよ! お姉さんー! 瓶で持ってきてくださいー!」
「うふふふ。楽しいわぁ……」
目を細めて愉悦を感じる妖艶なお姉さんと、またも暴走気味にお酒を注ぎ、勢いよく飲むフレッダ。
それと、つまみを豪快に食べながらハイペースで飲み続ける野生っ子との飲みはまだ続くようだ。
アイナ達もまだ帰ってこないようだし、今日は俺もまだまだ付き合うかな。
※
アインズヘイル近辺の森で、私たちは緊急クエストであるレッドブラッドプラントの討伐に来ていた。
レッドブラッドプラントは赤い樹液を出す植物型の魔物で、時間を置くと爆発的に数を増やし、討伐クエストのランクはその数によって上がっていく。
今回は相当数が増えてしまったらしく、Aランク冒険者である私達紅い戦線に声がかかったのだった。
「あーあ。ご主人がどんな髪になるか見たかったっすねえ」
レンゲがしなる枝をかわしながら呟き、迎え撃つ拳でレッドブラッドプラントを破砕させる。
強さ的にはそうでもないのだが、数が多く同時に攻撃されると避けようがなくなるのが厄介だが私達にとっては慣れているのでそんなヘマはしない。
「そう言うな。やつ等がこのまま根付くと野菜の栄養が大地から奪われてしまうのだ。そうなると皆もだが、主君も困ることになってしまうだろう」
「っすね……。でも、アイナも早く見たくないっすか?」
「それは……私も早く見たいところだが……」
アイナは剣に炎を纏わせて焼ききっていく。
植物系にはやはり火だと言わんばかりに斬り焼いていき、さっさと本体を焼き払おうと足を速めていく。
「ソルテたんもそうっすよね?」
「……」
「あー……不機嫌っすねえ」
今日は主様が髪を切りにリートさんのもとへと行ったのについていった。
なんでリートさん? って思ったけど、確かに錬金術師は器用だし、リートさんは美容を中心とした薬や化粧品を主に作っているので美的センスもあるだろう。
少なくとも私達よりは上手いだろうと納得したと同時に、どんな髪型になるのかとても気になった。
そんな中でいきなり緊急で呼び出されてクエストに行かなくてはいけなくなったのだから不機嫌……と、思われても仕方ないのだけど、私が今思っていることは違うことだ。
「……嫌な予感がするのよね」
「なんすか突然?」
「なんなのかしらね……。上手く言い表せないんだけど、すごく嫌な予感がする……」
「む? レッドブラッドプラントではない、もっと強力な魔物がいるという事か?」
「……そういうわけじゃないのよね」
背筋がゾクっとするような予感じゃなくて、こう……女の勘に警鐘を鳴らすようなものなのよ。
「となると……主君か?」
「うん……。なんだろう。何か起こる気が……ううん、下手するともう起こっている気がするのよね……」
「何かってなんすか? なんか怖いっすねえ」
「……ふむ。ソルテもか……実は私も少し違和感というか、感じるところがあったのだが……」
「うええ、二人ともっすか? そう言われるとなんとなく不安になってくるっすね……」
「……早くクエストを終わらせて帰りましょうか」
「そうだな。だが、きっちりと周辺は焼き払っておこう」
「っすね! 根があった周囲まで焼かないと、また出てくるかもっすからね!」
そうね……。
クエストはクエスト。
完全に駆除しないと皆が困るんだから、割り切ってしっかりとこなさないと。
ただ、この心に引っかかる不安は杞憂であって欲しいところだけど……そうはならない気がするのよね……。
遅くなってしまいました……。
楽しみに待っていてくれた方がいましたら、申し訳ない……。




