10-2 アインズヘイルで休息を シロと一緒
「今日は一日シロが主と一緒」
朝起きて目を覚ましたら目の前にシロがいて、そう宣言された。
起きたばかりのまだ働かない頭が、時間をかけてシロの言った事を理解しようと回り始める。
「今日の主はシロの主」
「あー……構わないけど……」
「ん。主、おでかけする」
「おでかけ? いや、今日は錬金をしようかなと……」
「お仕事?」
「いや、そういう訳じゃないが……」
「ん。なら、シロとお出かけしよ」
うーん……まあいいか。
錬金はいつでも出来るし、今日は出かけるのも悪くないか。
「それじゃあ皆に声をかけて――」
「んーん。シロとお出かけ」
「シロと? 二人でか?」
「うん」
「……怒られないか?」
「大丈夫。ウェンディ達から許可は取った」
おお……。
普段なら二人でお出かけ……となると、ソルテやウェンディから私達も! となるもんだが、許可を取ったのか……。
いや、そもそも二人で出かけるのに許可が必要というのもおかしいのだが……。
「んー……」
「駄目? 駄目なら、皆がいてもいい」
「いや、二人で出かけようか」
シロと二人で出かけるっていうのも久しぶりだし、シロは……ロウカクからの帰りの際に毎日見張りをしてくれていたからな……。
うん……今日くらいはシロのお願いを全部聞こう。
「やたー! じゃあ主、準備する」
「ああ、わかった。それじゃあ着替えるよ」
「お手伝いする!」
「おいおい、そんな急かすなって、何も逃げないぞ」
「時間は逃げるの!」
はいはい。って笑いながら、俺は早々に服を着替えて身支度をし、シロと二人で外に出る。
朝食も外で食べるらしく、ウェンディもそれを先に聞いていたようだった。
「で、まずは何からするんだ?」
「ご飯!」
「だろうな……。何食べる?」
「シロと主のお外ご飯と言えば、アレしかない」
アレか……そういえば、久しぶりな気がするな。
んんー思い出しただけで腹が減ってきたし、シロと顔を合わせて少し早足で向かうことにした。
「お! 久しぶりだなあんちゃん!」
「おう。ちょっと出かけててな」
「待ってろー。今出来たてを出すからよ!」
牛串屋の親父が目を輝かせ、俺が頼む前に肉を焼き始めてくれる。
「おいおいあんちゃん! シロパンはいらねえのかい?」
「今日は食べていくさ。一斤もらうぞ」
「任せとけ! それじゃあ牛串屋」
「おう!」
二人が目配せをすると、鮮やかな手付きでパンをスライスし、牛串屋は焼きあがった牛肉をはずしてスパイスとソースを追加していく。
そして、俺らが普段しているような牛串サンドが出来上がった。
「おおー」
「凄いな。提携したのか?」
「おうよ。あんちゃん達のおかげで二つとも買っていく客が増えたからな。どうせならって事で、より美味くなるように二人で工夫したのさ!」
早速一口食べさせてもらうと、本当に今までよりも美味い。
少し濃いめのソースと、強めの香辛料。
肉厚な牛の脂を吸い取ったパンには新鮮な野菜も挟まれているが、脂と水分でべしゃべしゃにはならずにふわふわで、シロパンのほんのりとした甘さは消えていない。
「美味しい!」
「だな。結構売れるんじゃないか?」
「へへ。まあな」
「おかげで最近の昼間は大忙しさ」
牛串が800ノールでシロパンが1000ノール。
だが、このセットを注文すると1600ノールになるのも商売上手なところだろう。
「主。普通の牛串とシロパンも食べたい」
「ああ、わかった。悪いけど、2、3本焼いてくれるか? シロパンも一斤頼む」
「あいよー! 毎度あり!」
再度購入したものを待つ間も牛串サンドを食べ、新しく焼いてもらった牛串とパンを持ってベンチへと座る。
相変わらず朝から皆忙しそうだなと、周囲を見回すとシロは待ちきれないのか俺の手元にある二つを見つめていた。
「ほら、食べていいぞ」
「ん。でも、やっぱりサンド」
「ん? なら、サンドで頼んだほうが良かったんじゃないのか?」
「んーん。あれはあれで美味しいけど、シロの牛串サンドはやっぱりこれだから」
そういって牛串をパンに挟んで串を引き抜き、俺にはいっと向けてくる。
「主、あーん!」
「俺からか? あーん……んっ……やっぱり、こっちも美味いな」
純粋に肉とシロパンの食べなれた味……いや、少し違うか。
「主、主! シロも!」
「ああ。ほれあーん」
「あーん……んんー! やっぱり美味しい!」
美味いのは……シロと、二人で食べた味だからだろうな。
シロが頬を抑えて嬉しそうに食べる姿を見て、やっぱり俺達の牛串サンドはこっちだなと、これからは二種類買おうと改めて思うのだった。
その後は二人でぶらぶらと、特に予定もなく歩き回りながら店を外から見て回り、食べ歩き等をしながら気になったお店なんかに入っていたんだが……。
「主は知り合いが多い……」
シロが俺の肩に乗り、頬を膨らませて不満を漏らした。
「いや、仕方ないだろう? 皆に戻ってきたって言ってなかったんだしさ……」
シロと歩いていると、色んな人が俺に話しかけてくれた。
野菜売りのおばちゃんや冒険者、ダーウィンの所の部下なんかまで、ダーウィンに報告せねばとか今度時間があれば来て欲しいなどと話しかけられて時間を取られてしまったのだ。
極めつけはメイラとダーマだろう。
ダーマが美味しいお店があるので一緒にどうか? と聞いてきたのだが、シロが俺を引っ張り早く次に行こうと急かしたのだ。
その際はメイラが何かに気がついてダーマを諌めてくれたのだが、メイラには今度会いに来るようにと約束を取り付けさせられたのだった。
「主は人に好かれすぎ」
「ええー。好かれるなら嫌われるより良くないか?」
「ううー……今日はシロの主なの」
可愛い顔をぶーたれてぶちゃいくにしているシロ。
やきもち……かな?
そうだな。今日の俺は、シロのだもんな。
「それじゃあ、次知り合いに会ったら逃げちまうか」
「ん。後で謝ろー!」
ははっと笑いあいシロのご機嫌も直ったようだ。
肩車をしているにもかかわらず激しく動くので、ふらふらとしてしまうがそれすらも楽しい。
そして、案の定この街でもっとも厄介そうな領主オリゴールに出会ってしまう。
シロに視線を向けるとシロがうなずくので一目散に逃げることにした。
すると、
「逃げた!? やましいことがあるのかい!? いや……あるな。ボクはそれを知っている!」
と、街中での追いかけっこが始まった。
やましいことなどないはずなのだが、オリゴールは何を知っているのだろう……。
そして、俺の脚が限界になると恥ずかしいことにシロが俺を抱っこして逃げることに……。
「あ、いいところに! ダーウィン手伝って! お兄ちゃんを捕まえるんだ!」
「ああ? 何で俺がそんな面倒な事を……ぶわっはっはっは! おいおい兄ちゃん! なんでお姫様抱っこされてんだよ! おら、顔隠すなって! もう遅えって!」
うるさいダーウィン! 小さい女の子にお姫様抱っこされる俺の気持ちがわかるか! 顔くらい隠さないと、明日から街を歩けないだろう!
「主、主」
「どうした?」
「楽しい!」
「そうか……」
俺もまあ楽しいか楽しくないかの二択で言えば楽しいのだが、それよりも恥ずかしい……。
路地裏に行ってから座標転移を使いたいのだが、徐々に増えていく追跡者のせいでどこもかしこも人の目ばかりなのだ!
よく事情を知らない子供達なんかまで、領主が追いかけているからと追いかけてくる。
よく見ると孤児院の子も混じっているようだ。
やがて結構な人数に追われることになり、迷惑をかけてはまずいからと屋根をつたうのは無しにしたせいでついに袋小路に追い詰められてしまった。
「ふっふっふ……追い詰めたぞ?」
両腕を組み、勝ち誇るように先頭に立つオリゴールが、一歩を踏み出し、手を解いてわきわきと指先を動かして近づいてくる。
他の皆はなんとなく追いかけていただけなので特に何かをするつもりはないようだ。
それどころか……なぜか追い詰めたというのに端に寄り、道を開け始めた。
あ……あー。
「さあシロ! お兄ちゃんを渡すんだ! 観念しろ!」
「……観念するのは貴方です」
「街中を走り回るなど……迷惑を考えなさい」
二人の老紳士の声がしたと同時に、オリゴールが動きを止める。
「……ワタシ、オリゴールジャナイヨ?」
「それで誤魔化せると思っているのですか?」
「皆様も、ご迷惑をおかけしました。解散していただいてかまいませんよ」
迷惑……をかけられたわけではないのだが、皆が空気を読んで『い、いやまあ……』といった具合に散り散りに捌けていき、やがてオリゴール一人が取り残されてしまう。
シロが勝ち誇った顔をし、俺の手を引いて歩き出しオリゴールの横をわざとらしく通ると、オリゴールは手を伸ばそうとピクリと動いたのだが、ソーマさんとウォーカスさんに捕まってしまう。
「さあ、帰ってお仕事ですぞ」
「今日は朝までかかりそうですな」
「い、いやだああああああああ!」
「あ、こら逃げるな! やましいことがあるのですか!? 行きますぞウォーカス!」
「あんのガキャ! いい加減にしろおおお!」
今度はオリゴールが逃げる番になったようで、シロは笑いながら手を引いて夕暮れ時に俺達の家へと帰るのだった。
「主。今日は楽しかった」
「そうだな……結局慌ただしかったけど、楽しかったな」
「ん。今度はゆっくり街を回ろう」
「また二人でか?」
「ん」
シロは短い返事と共に笑顔を向ける。
それは、小さな月のように輝く可愛らしいまでに純粋な笑顔だった。
そして、夕食時もお風呂、寝る際までシロは俺と一緒で、次の日の朝、おはようまで俺はシロの俺になっていたのだった。
うん。超まったり話。
10章は名前だけでも色々なキャラを出していく予定。
……ゴンザは流石に出せそうもないけれども。




