10-1 アインズヘイルで休息を 龍の肝の使い道
章が始まると、毎回思う事。
『あれ? どうやって章って分けるんだっけ?』
アインズヘイルに帰還して我が家で1日を送り、このまま2、3日は家でだらだらと過ごしたい。そう思っていたんだけど、そうする訳にはいかないのだった。
「で、まず私の元に来たんだね。偉いじゃないか」
というわけで、ミゼラと一緒にやってまいりました俺が所属する錬金術師ギルドです。
普段顔を出すことが少ないので、こうしてお土産を持ってくる際などには一番に来るべきだと判断したのだ。
……レインリヒが一番怖いしね。
「まあな……。一応師匠だし、尊敬もしているしな」
「殊勝な態度だね。……リート踊るのをやめな!」
「だってだってだってー! 龍の血、脂、骨ですよ! キャーキャー! どうしましょう! 魔法の袋もなんとか自分用を買ったばかりですし、安いお給料じゃ手が出せなかったから……化粧品に保水液、洗浄剤なんかもグレードアップできますー!」
キャー! と叫びながら俺のお土産を抱えて乙女のようにキャピキャピと跳ね回りくるくると回っているリートさん。
口元が緩みすぎて閉じなくなっているようで、にへへとだらしなく開けて喜びを体全体で表していた。
「リートさんあんまり暴れていると瓶を落として割っちゃいますよ」
「そ、そうですよね! しっかり仕舞ってっと……」
割れたら流石に急転直下でどん底まで落ち込むだろうと、しっかり自分の魔法の袋に入れていくリートさん。
そして、笑顔のまま椅子に座る俺に近づいてくると、後ろからぎゅうっと抱きしめてくる。
「ありがとうございます後輩君。お姉さんはとても嬉しいですよ!」
「あの、リートさん? 当たってますよ?」
普段服の上からもはっきりとわかるぱいが俺の背中、肩甲骨の間ぐらいにばっちりと当たってますよ?
ミゼラがあわあわして手を浮かせ、どうするべきか悩んでいる姿も可愛い。
「当ててるんです。これが一番お好きでしょう?」
確かに好きだ。
しかし、物凄く柔らかいぱいだな……。
マシュマロ……いや、どちらかといえばプリンだろうか?
今までリートさんのぱいは想像上だけであったが、なるほどこれは情報を更新しておかねばならない。
「浮かれすぎだね……」
「ええー。レインリヒ様だって笑ってるじゃないですかー」
首元から手を回されたままレインリヒへと頬を膨らませるリートさん。
顔、近いです。
よく見なくても綺麗なリートさんのお顔が近いです。
本当、なんでこの人独身なんだろう。
何か致命的な欠点があるのか、それともリートさんの理想が空飛ぶ龍よりも高いのかのどちらかだろうか。
「まあね。土産は買ってくるだろうと思ってはいたが、せいぜいが宝石か鉱石だと思っていたからね。まさか、欲しかったものが手に入ったんだ。こうも都合がいいと笑いもするさ」
「まあ、レインリヒに渡すならこれだろうなって」
三人で目を落とした先にあるのは『龍の肝』だ。
レアガイアからもらった物を半分にしてレインリヒへのお土産とさせてもらった。
「ひっひっひっひ。そろそろ在庫が無くなりそうだったから、また隼人にでも頼もうと思ったんだがね」
「元々持ってたのかよ……。そういえば隼人は『龍殺し』だったか」
以前ポーションバリーン事件の際に冒険者ギルドのマスターとアイナ達が隼人の名を出した際に叫んでいたな。
Sランクで龍殺しで伯爵で英雄……と、思いかえしてみてもあいつとんでもない道を歩んでるな。
今度あったら、龍肉をご馳走してやろう。
「レインリヒ様が自ら取りに行くと、あたり一面地域ごと死滅しますもんね」
「面倒くさいったらないよ。どうせ誰も住んじゃいないんだから、取りに行ったほうが早いってのにね」
「ぜ、全滅って、まさか…………本当に?」
初め冗談だと思っていたミゼラが、段々と冗談じゃないことに気がつき引き気味に苦笑いを浮かべるが、その気持ちに激しく同意する。
……相変わらずレインリヒは怖い。
地龍を見た後で、もう殆ど怖いものなんてないんじゃないか? って思っていたのに、レインリヒの笑顔は寒気が走るほどに怖い。
「確か隼人卿の取ってきたのははぐれの龍でしたよね?」
「そうだね。はぐれの火龍だよ」
「今回のは地龍ですよね? 種類も大きさも違いますけど、問題ないんですか?」
「ああ。龍皮や歯、角、翼なんかは種類によって違いも出るが、中身は大概同じだよ。肝なんかは特にね。こいつは前回の火龍のものよりも小さいが、純度が段違いだ。さぞ立派な地龍のものだね。魔力純度が高い肝は少量で十分効果が出るから覚えておきな」
おおー。流石はレインリヒ。
長生きしているだけあって博識だ。
だが、レアガイアは立派な地龍でいいのだろうか……?
立派……腹肉は立派なのだが、でも大人の地龍であり長だったから立派でいいのか?
「それにしても後輩君が龍と戦ったんですよね? 命知らずですねえ」
「それは散々ミゼラに言われましたよ……」
「だ、だって、普通そうでしょう? 龍よ? 私ですら、龍が危険だなんて知っている相手なのよ?」
隠すべきではないと思い、ミゼラにはしっかりとロウカクで何をしてきたのかを話したのだが、
『龍!? 竜を狩りに行ったのに、なんで龍と戦うことになったのよ! 無理しちゃ駄目って言ったでしょうっ!』
と、大変お冠であった。
とりあえず、全員正座をしてミゼラさんのお気持ちを拝聴し、なんとか理由も説明して事なきを得たのだが……。
『ぐすっ……旦那様が……ひぐっ、皆が死んじゃったら、わた、私どうすればいいのよ……』
と、最終的には泣いてしまい全員がミゼラに謝りながら一日ずっと皆でいる事になり、ぐずって服が皺になるほど握り締めたままベッドで過ごして、どうにか機嫌を直して貰う事が出来たのだった。
「まあまあミゼラちゃん。この人は元々こういう人じゃないですか。アインズヘイルが誇るトラブルメイカーですし、これくらいはしょっちゅう起きるものと考えていたほうが楽ですよ」
「……私が来る前のお話を聞く限り、そうかもしれませんけど……」
「心配するだけ無駄だよ。馬鹿は死ねば治るが、こいつのは死んでも治らないからね」
酷い言われようだ。
それにちょっと待ってほしい。
いつの間に俺はアインズヘイルに誇られるようになったんだ?
しかも内容がトラブルメイカーって……特に俺が何かをしてトラブルが起きるような事はなかったはずなのに、トラブルメイカーって……!
確かに思い当たるふしが無いのかと言われれば否定はしきれないところだが、某名探偵のようにちょっと出先や身近な所で事件が起こる事が多いだけだと思う。
俺が、俺自身がトラブルメイカーな訳ではないはずだ!
「でも……ちゃんと帰ってきてくれるって、これだけは守ってくれるって信じてますから」
「ふふ。そうですね。仮令相手が魔王でもきっと帰ってきてくれますよー」
流石に魔王と戦うことは無いと思うの……。
俺が魔王と戦わざるを得ない流れとか、まったく想像もつかないからね?
目の前に魔王が現れたら、四の五の言わずに一目散に座標転移を使って逃げるからね?
「な、なあ……」
「ん?」
どうした? ずっといたのは気づいていたけど口を開けたまま固まっていたので空気として扱わせてもらった冒険者ギルドギルドマスターよ。
おそらくレインリヒに用事があって来ていたのだろうけど、石化したように大きく口を開けて固まられては反応しづらいぞ?
「あー……んんん? いやいやいや……。まさか……その、今信じられん事を聞いた気がするんだが……龍?」
「おう。あ、内緒な?」
「お、おう。それは勿論、若旦那が黙っていて欲しいなら誰にも言わねえが……その、うちにも……」
レインリヒの方を、正確にはレインリヒが手に持つ龍の肝をちらちらと見ながら言いづらそうにしているが、まあ察しはつく。
「……今頃、アイナ達が皮と肉と骨を持っていっているはずだぞ」
「おおおお! そうかぁ! そいつはじっとしていられねえな。俺がいねえと値段もつけられねえだろうし、レインリヒ、すまんがまた来る!」
「はいよ。目を輝かせちまって、全く子供だねえ」
「馬鹿野郎。龍の素材だぞ? 目が輝かなきゃ、冒険者ギルドじゃねえよ!」
そう言い残すと来たばかりだというのに駆け足で錬金術師ギルドを出て行く冒険者ギルドのギルドマスター。
足取りは踊っているのかというほど軽やかで、これからおもちゃを買いに行く事がわかっている子供のように無邪気であった。
「で、あんたはじっとしていていいのかい? まだまだ回るところがあるんだろう?」
「ん? まあ、この後ヤーシスとか、メイラの所に顔は出すけどまだゆっくりでいいだろう。それより、龍の肝って何に使えばいいのか聞こうと思ってさ」
龍の肝。
ファンタジー世界ではよく見るアイテムだが、かなりの効果を有するものだろう。
薬的な扱いができる事は間違いないだろうと予想はできるのだが、せっかくなので大事に使いたい。
「まあ、基本的には何にでも使えて薬にも毒にもなるが、主な効果ならあんたにぴったりなものさ」
「俺にぴったり?」
「あ……」
俺にはぴんと来ないのだが、なぜかミゼラは分かったらしい。
顔を徐々に赤くさせ、俯いてしまう。
リートさんはキャーと頬を押さえて顔を振り、恥ずかしがる振りをしている。
んー……この反応から察するに……なるほど。
精力増強系か……。
「わかったようだね。ちなみに龍の肝は永薬でね。一時的な効果ではなく、基礎能力を向上させるんだ。つまり……」
「旦那様が……これからもっととんでもなくっ……!」
「キャー! もうミゼラちゃんったらー!」
ミゼラの真剣な表情に対して、リートさんの楽しそうな表情が対比のように映るのだった。
「ちなみに、レインリヒは何に使うんだ?」
「知りたいかい? 知ったら実験に付き合ってもらうが……」
「うん。超遠慮します」
どんな目に遭うか想像もできないが、間違いなく俺が想像できる範囲を軽く超えた酷い目にあうだろうと確信するのだった。
はい。10章開始ですね。
タイトルのとおり、アインズヘイルで日常的な事をやっていこうと思っております。
いいからもっと話を進めろとのご意見等もあるかと思いますが、こういうだらだらーっと日常を書くのも好きな作者なので仕方ない。
あと、次の章はまたお出かけする予定ですので、二連続お出かけは今後おそらくあるだろうからちょっとね……。




