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閑話 お留守番中のミゼラさん

旦那様達がロウカクへ行ってしまってから数日。

目を覚ましたエリオダルト様とチェスを見送ってから更に日が経ち、今日も私は一人錬金室でポーションを作っていた。


まだまだ見習いの私は師匠のように一度に沢山のポーションは作れない。

だから、一つ一つ丹念に全神経を集中して作るのがやっとなのだ。


「ふう……これで30個……。そろそろ持っていこうかしら」


早朝からの日課であるポーション作りを終えると肩をぐるんとまわし、冷めてしまったお茶を一口飲んで一息つく。

すると、ようやくお腹がすいている事に気がついた。


「集中しすぎてお昼を過ぎちゃったかしら……。師匠の事をあまり言えないわね……」


あの人は集中し始めると時間どころか周りで起きている事すら頭に入らないから、一緒ではないと思うけれど。

そして、よいしょっとポーションの箱を持ち上げて背負い込み階段を上って、門へと向かう。


「あ、ミゼラちゃん! 冒険者ギルドにポーションの納品ですか?」

「ええ。いつも悪いのだけど、お願いできるかしら」

「大丈夫です! ミゼラちゃんの安全は私にお任せです!」


ポーションの納品どころか、普段の買い物にまで護衛と称してついてきてくれる狸人族の子ポココ。

本来はアイリス様の護衛らしく非情なこともするそうなのだけれど、普段の振る舞いからは想像もつかないくらい可愛い。


「今日もいっぱい作ったのですね!」

「そうね。納品数もあげてもらえたし、頑張っちゃった」

「ミゼラちゃんのポーションは大人気だと聞いています! このままだと主さんが帰ってきても主さんのポーションはいらないと言われてしまいかねません……」

「そんなことはないと思うわよ?」


私が作れるのは効果の低いポーションだけだし、旦那様はもっと効果の大きいポーションも作れるもの。

それに、完成品を見てもやっぱり旦那様のポーションの方が綺麗だし美味しいし……。

私じゃどうやっても苦味を抑える事が出来ないから、味を変えるって、難しいのよね……。


「おやミゼラちゃん。今日も納品かい?」

「はい。ありがたいことに売れ行きがいいみたいです」

「そうかいそうかい。そいつは景気がいいね! 景気を分けてくれるって事でどうだい? 今日は野菜が安いよ?」

「はい。じゃあトメトを一つと……あとは帰りに寄らせてもらいますね」


夕食までの繋ぎに大きめのトメトを一つ買って、後は納品が終わった後に買わせてもらうことにする。


「やあ、ミゼラちゃんこんにちは。いい天気だね」

「ええ、こんにちは。気持ちがいい天気ね」


ポココと話しながら歩いていると、いろいろな人が話しかけてくれる。

世間話からお得な情報まで様々で、旦那様と冒険者ギルドに行くよりもずっと長い時間がかかってしまうのだけれど、皆の優しさについ嬉しくて足を止めてしまう。


「ミゼラちゃんもてもてですね」

「そうかしら?」

「ミゼラちゃんは綺麗ですからね……。私もいつかきっと……」

「ポココは今も可愛いけれど、もっと可愛くなると思うわ」

「はいです!」


この子は本当に素直で可愛いわね……。

旦那様がきゅんきゅんするのがよくわかるわ。

一緒にお風呂に入った後、乾かす際に触らせてくれたのだけれど、尻尾もふわふわのもふもふで凄く気持ちよかったのよね。

……旦那様が帰ってきたら、自慢しちゃおうかしら。


さて、冒険者ギルドの前まで来たのだけれど、ここの扉は相変わらず入りにくい雰囲気を放っているわよね……。

中からはお昼過ぎから飲んでいるのか賑やかな声も聞こえてくるし……。

とはいっても、もう入りなれているのだけれど。


「こんにちは。ポーションの納品にやってきたのだけれど……」

「おーミゼラちゃーん! 野郎共道あけろー」

「いらっしゃいー。おら、寝てんじゃねえよ。テーブル動かせって」


乱雑にテーブルが並び、受付までの道も出来ていなかったのがあっという間に一直線に道が出来る。


「おっと、その前に……荷物預かりますぜ」

「あ……ありがとう。その……大切にね」


私が持っていた箱を屈強な冒険者さんに預けると、背中にずっと感じていた重みがなくなって少しだけ違和感を覚えるが、すぐに体が馴染んでいく。


「わかってますって。ミゼラちゃんが作った大切なポーションですからね!」

「あ、えと。そうじゃなくて……皆が回復できなくて死んじゃったら困るから……」


私が作れるポーションは(小)とか(微)ばかりだから、まだ新人の子達が使うのだろうし、足りなかったら困るなって……。


「ミゼラちゃん……っ。おいお前ら!」

「「「「「おうっ!!」」」」」


荷物を受け取った冒険者の人が声をかけると、いつも迎えてくれる方々が空けられた道に沿って立ち並び、周囲への警戒をし始める。


「うわぁ……あいかわらずです……」

「そうね……ちょっとだけ、やりすぎじゃないかしら……」


なんというか、ただポーションを運ぶだけなのだけれど殺気立ちすぎているような……。

箱を持った人も一歩一歩をしっかりと踏みしめて、躓くことがないように慎重で、私が歩くよりもずっと遅いのだけれど……あの、ギルドマスターが机をトントンしながら頬杖をついて待っているのだけれど……。


そしてようやくギルドマスターの前にたどり着き、そっと、本当に優しく机の上に置くと振り返り並んでいた人達に対して頷いてから、私のほうに向き直って……。


「任務完了です!」

「え、ええ……ありがとう。皆もありがとう……」

「「「「「「当然のことです!」」」」」」


そのまま颯爽と去っていき、何事もなかったかのように元の席に座りなおす皆。

そういえば、普段組んでいるパーティなんかは皆違うのよね……。


「……すまねえな。悪いやつらじゃないんだが……」

「いえ、ちょっと大げさではあるけれど、ありがたいですから」

「そう言ってくれると助かるよ……。さて、今日は……お、(小)が多いな。成長したんじゃないか?」

「ええ。少しずつだけど、(微)よりも(小)を作れるようになってきたの。成功率は相変わらずなんだけどね……」

「そうかそうか。若旦那が帰ってきたら報告できるな」

「もっと成長してから報告したいわ……」


できればレベル2になりました……。って報告できればいいのだけれど、まだまだ全然遠い話だし、そこまで旦那様が帰って来ないというのは流石に心配で、今まで稼いだお金でロウカクまで様子を見てきてもらいにここに依頼をしてしまいそうよね。


「それじゃあ、査定をするから待っててくれ。おっと、今日は二人ともなんにする?」


ギルドマスターが査定をして値段を計算してくれる間は待機なのだけれど、手持ち無沙汰でぼーっとしていたのが気になったのか、飲み物をサービスしてくれるようになっていた。


「今日は……温かいジンジャールにしようかしら」

「私はモモモの果肉水がいいです! 果肉多め、果汁ソースがけ、乾燥モモモチップ追加でお願いします!」

「こだわりが強いな……。あいよ」

「美味しいものを食べるのに遠慮はしないです!」

「ふふ。ギルドマスターが参考になるって言っていたしいいんじゃない?」


冒険者用のお酒のメニューにも応用が利いたようでよく売れるようになったと言っていたし、多分夜には今頼んだメニューをお酒にアレンジして出されているのだろう。

早速後ろの方ではお酒の種類を何にするか、果肉をなににするかなど話し声が聞こえてくる。


「んんーごろごろでとろとろのモモモ果肉がたまりません。乾燥チップの別の歯ごたえと舌触り、それに追加の果汁で濃厚なモモモが更に濃くなります!」

「それは……濃そうね……」


私は買ったトメトを一口食べ、その後にジンジャールを飲んでほっこりする。

今日のトメトは美味しかったので、ポココにもおすそ分けをしつつ食べ終えるとあとはゆっくりとギルドマスターの査定を待つだけだ。


「しかし、若旦那はまだ帰ってこないのか。連絡も無しかい?」

「ええ……。まだなんにも。というか、旦那様は連絡なく帰ってくると思うの」

「ははっちげえねえ。若旦那はそういうタイプだな。でも、必ず帰ってくるタイプだ」

「そうね。旦那様は絶対に帰ってくる。それは信じてるわ」


ギルドマスターが査定をしながら他愛のない話をしてくれる。

ポココは果肉を味わい頬を緩めて年相応の子供のようになっているが、一瞬だけ真剣な顔をして振り向くと今日私の荷物を持ってくれた冒険者が近づいてきていた。

まだ私が突然近づかれるのは苦手だと知っているからか、その男は結構手前で止まってくれるので、ポココは果肉との戦闘を再開したみたいだ。


「どうしたの?」

「あ、あー……ミゼラちゃん。良かったら今日の夕食はここで皆と取りませんか?」

「……お誘いはありがたいのだけど、今日はまだ家の事が済んでいないのよ」

「それは明日に回すとか……」

「駄目よ。もし今日帰ってきたら、お迎えできなくなっちゃうもの。だから、ごめんなさい」

「そう……ですか……その、今は皆が……」

「気を使ってくれてありがとう。でも、ポココもいるし大丈夫よ」

「いえいえ、ミゼラちゃんが大丈夫だと言うのならいいんですよ!」


おそらく旦那様や皆がいないから寂しいだろうと誘ってくれたのだろう。

その優しさは嬉しいのだけれど、私は旦那様の奴隷。

今はお家の管理がお仕事で、いつ旦那様が帰ってきても迎えられるように整えておかねばならないのだ。


「おっし、査定終わったぞ。金額を確認してくれ」

「はい。……大丈夫ね。それじゃあ行きましょうか」

「か、果肉が、最後の果肉が取れないです……むむむ。えいっ」


必死にスプーンで底の方にある小さな一欠けらのモモモの果肉と悪戦苦闘していたのだけれど、最後は器を反対にして食べたみたいね。

頬に小さく濡れた跡をつけたまま椅子から降りるので、ハンカチで口元を拭いてあげる。


「ふふ、要改善ね」

「ですね……。もっと取りやすいスプーンがあれば……」

「旦那様に相談してみましょうか」

「はいです! それはいいと思います!」


こうして、私たちは冒険者ギルドを後にし夕食の買出しを済ませて帰路につく。


「それじゃあ、夜ご飯が出来たら呼ぶわね」

「はいです! それまでしっかり警備をしてお腹を空かせておきます!」

「ええ。まずはお掃除からやらないと……」


皆で住むには広くていい家なのだけれど大きいから大変なのよね。

まあ、個人の部屋はやらなくていいって言われているし、鍵もかかっているので出来ないのだけれど共通の部屋だけでも結構な数があるからテキパキやらないと……。


玄関、廊下、厨房とリビング。

普段から綺麗に使ってあるので頑固な汚れなんかはないから楽ではあるのだが、やっぱり大変ね……。

一つ一つ終わらせるたびに水を換えに行くのも一苦労。

でももう何日もやっているし、軽くでいいと言われているからなんだかんだあっという間なのよね。


あとは私の私室は……今度でいいとして……旦那様の部屋ね。

旦那様の部屋も別にしなくてもいいと言われたのだけれど、ここは断固として死守させてもらった。

家主の部屋が汚いなんていうのは、そこに住まう奴隷として認められることではない。

だから、絶対に毎日掃除をするようにして、床や棚を綺麗にする。

そして……最後に残すのはベッドだ。


「ふぅ……」


ベッドを掃除する前に腰掛け、体を後ろへと倒す。

ここでちょっとだけ休憩をするのが、いつもの日課なのだ。

良質なベッドは反発と包み込むような感覚を私に与えてくれて、気持ちがいい。


「すぅー……」


天井を見上げながら、鼻で大きく息を吸う。

ほんの少しだけ、旦那様の香りを感じながら目を瞑る。


とても、とても静かな家の中。

何の音もせず、何の気配も無い家の中。


「……皆優しかったな」


思い出すのは街や冒険者ギルドでの事だ。

街を歩けば声をかけてくれて、冒険者ギルドではご飯にも誘ってくれた。

誰もが旦那様が今は出かけていることを知っており、だからこそ積極的に声をかけ、一人にならないようにとしてくれているのが良くわかった。


「心配……されてるのかな」


靴を脱ぎ、もぞもぞっと動いてベッド上方の枕があるほうへと移動をする。

そして、枕と一緒においてあるクッションを手にとり抱きしめて横になるとそこからは旦那様の匂いが色濃く残っていた。

当然だ。クッションだけは洗濯していなかったのだから。


「……早く、帰ってきてよね。信じていても、心配なんだから……」


ついていけば良かった……って少しだけ思う。

でも、あの時挙げた理由以外にも明確に体力がもたないだろうとわかっていたこともある。

砂漠の暑さもあるだろう。

移動中に倒れてしまえばそれだけで迷惑をかけてしまう。

だから、私はついて行く事が出来なかった。


「……よし。晩御飯と、お風呂のお掃除しよ」


ついて行く事が出来なかった私は、出来ることをしよう。

帰ってくる旦那様のために、この家を綺麗に保ち行く前と変わらない生活をすぐに始められるように。

それに……ここは旦那様と皆と私の大切な場所だから。

家を守る私は、旦那様におかえりって言うのだから万全で迎えよう。

そう心に宿した想いを再燃させた直後、なにやら外から声が聞こえてきた。


「……さん!? 主さん! おかえりなさ……大丈夫ですかっ!?」

「……え?」


ちょ、ちょっと! もう帰ってきたの?

いや、帰ってきてくれて嬉しいのだけれどまだお掃除が……じゃなくて、お迎え、おかえりって言わなきゃ!


「あ、主さんしっかりです! もうすぐお家ですよ!」


いまどんな状況なの!?

はや、早くいかなきゃあ! 痛た……顔……ううう、そんな事より早く、行くの!


「主さああああああん!!」

「……何をやっているのよ」


急いで出迎えたって思われるのは少し恥ずかしいので落ち着いた表情で迎えたのだけれど……ポココが旦那様を抱えて天に向かって吼えていた。

……どんな状況なの?

でも、よくよく見てみると旦那様の顔色が……悪いわね。

魂でも吸われたのかっていうくらい……。


「ちょ、ちょっと……顔色悪過ぎない? どうしたのよ……」

「「「「っ……!」」」」


え、何で皆が顔を逸らすの?

シロだけは頬を膨らませてって……ああ、そういう事……。

でも、いったい何をしたらここまで搾り取られるのかしら……。

というか、シロじゃあないけど私も不満なのだけれど。


「……普通におかえりって、言わせてもらえないのかしら……」

「普通にただいまって言いたかったよ……」


はぁ……もう。

旦那様ったら困った人よね。

ううん。困らせる人よね。

でも……。


「はあ……でも、おかえりなさい。無事? ……かどうかはわからないけれど、帰ってきてくれて嬉しいわ」

「ああ。ただいま……とりあえず休んでから色々話をするよ」


帰ってきてくれた。

信じていたけど、ちゃんと帰ってきてくれた。

だから嬉しい。

どんなお土産よりも、それが一番嬉しい。

旦那様の手に優しく抱きしめられ、それを強く感じることができる。

それが、とても嬉しくて、理想のおかえりは出来なかったけれど、思わず笑顔を浮かべて迎えてしまうのだった。


旦那様が起きた後、お土産話として地龍と戦ったと聞くまで、私の心の中には一片の曇りも無い幸せで満たされているのだった。

当たり前だけど、お説教よ。

困らせる人でも限度があると思うの!

コミカライズ第三話9/13に公開開始!


それと、大変申し訳ないのですが来週はお休みさせていただきます。

正直に申し上げると、5巻作業が自身の予想よりも進んでおらず一度集中して書き連ねたいのと、10章はともかく11章の煮詰まっていない部分を少し詰めたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミゼラ・・肉食系の中のオアシスですね。変わらないで・・
[一言] ミゼラの日常良かったです。 護衛のポココも可愛いし最高でした。
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