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9-23 砂の国ロウカク 地龍現る

ロウカクの首都から北西に進んだ先にある大きな神殿。

『盟約の祭壇』と呼ばれ、古来より地龍が現れた際に姫巫女が己が身を賭して鎮めるために祈りを捧げるといわれる場所。


地龍との盟約は数百年に一度姫巫女の豊富で濃厚な魔力と肉体を捧げることでこの地を蹂躙しないという約束を交わしたもの。

地龍から見れば我らは唯の餌。

圧倒的な力を持つ地龍に抗う術を持たぬ我等は、人身御供を立てて安寧を手に入れていた。


とはいえ、姫巫女の儀式は命を落とす危険もあるもの。

当然のように、姫巫女がいない時期もあり、その時期に地龍が出現する場合もあった……。


その際は、地龍に懇願し王一人の命でどうかもう一時お眠りになっていただいたという話だったのですが……。

それは所詮地龍の機嫌と腹具合次第。

どうしようもなくお腹が空いていたり、機嫌が悪ければ力在る者との盟約故に、こちらが圧倒的に不利なものになっているのが現状である。


「……で、爺はどうして来たのですか?」

「ほっほ。コレン様お一人で行かせるわけにはいきますまい。お供しますぞ」

「はぁ……爺も酔狂ですね。次期国王の補佐をすべきでは?」

「私も年ですからな。なあに、良き人生は歩めましたぞ。コレン様も、姫様も立派に育たれました」


小さい頃から爺は私とお姉様の二人に振り回されてばかりなのだから、余生くらいは好きにすればいいのに。

……もう、心強いなあ。

はっきりいって、怖くて怖くて仕方ない。

でも、これでお姉様にようやく恩をお返しでき、王らしく民を守り、散る事ができる。

それだけは、凄く嬉しい……。


「……姫様は無事逃げ出せましたかな」

「大丈夫でしょう。お義兄さんもいますし、ちゃんとわかって逃げてくれていますよ」


お姉様はまた私を助けようとしていましたが、お義兄さんもいる以上、今回ばかりは理解してくれているでしょう。

しかしお姉様、久しぶりに会ったらすっかり女の顔になっていましたね。

……あんなにも格好いいお姉様でも、時折瞳に熱を込めていると言う事は、恋をすると誰だってああなるのでしょうか?


「ほっほ。『お義兄さん』ですか」

「……なんですか? お姉様の旦那様になるのですから、お義兄さんでしょう?」

「いやいや。私から見たらコレン様ももう少しでしたぞ?」

「……私はいいんですよ。どちらにせよ、ここで潰えるのですしね……。ふふ。こんな事なら、もっと早くお世継ぎを作るべきでしたね」


従姉妹に王位を譲ると言う事は、今まで続いてきた正当な王家からは外れてしまうという事。

とはいえそんな事は民には関係がありませんし、従姉妹は真面目で優しく、家族想いの家系ですから今後の心配は特にないでしょう。


しかし、姫巫女の儀式が大陸で禁止された今、これからの王は地龍の生贄になる事も踏まえねばいけないのがネックですね。

……どうにか、今回の盟約で終わりに出来ないでしょうか。

でも、安寧も求めてとなると、それこそ撃退しないといけないでしょうし難しいところですね。


「お世継ぎといっても、コレン様に相応しいお相手がおりませんでしたからな。見合いを持ち込む重鎮達の見る目がない事ない事」

「あら、爺は誰でもいいからお世継ぎを残してほしかったのではないのですか?」

「そんな訳ないでしょう。コレン様もまだお若いのですから、自由に恋愛をしていただきたかった老婆心がございますよ。ただし、信用できる相手に限りますがな」

「そうだったのですか。知りませんでした」


自由に、恋愛ですか……。

ロウカクの街を二人で回って、宝石なんかを見るのでしょうか?

イヤリングを耳に当てられ、これが似合うよ……なんて、腕なんかも組んじゃって甘えたりして、食事もあーんをしたりですかね? あ、でもそれは経験できましたね。

そして、疲れてしまったら……って、何で私はお相手をお義兄さんで想像をしているのでしょうか……。

……ま、まあお義兄さんが最近では一番関わりが深かった異性だからでしょう。


でも、あの人とデートにいったらきっと街中であろうとお尻を……ぎゅうって、ぐにってされてしまうんでしょうね。

それで、きっと発情したあの方に路地裏に連れて行かれて……。

……はっ! 私は一体何を!


「幸い主殿ならば女性の扱いに長けた信用できる女誑しでしたからな。稀有な存在ですが、預けるに足る……コレン様? どういたしました?」

「なななな、なんでもありません!」

「ふむ……お尻をお気にしたご様子ですが……。やはり主殿に調教されましたか?」

「されてません!」


……まあでも、あのマッサージとグルーミングの腕は中々……いえ、相当でしたけど。

死ぬ前にあの今まで感じた事のない天にも昇るような快感を知り得た事は良かったですね。

……別に、尻で得た訳ではありませんけど。


「さて、来たようですな……」

「……ええ。では、地龍を鎮めに参りましょうか。願わくば私の命一つで終えてくれればよいのですが……」

「なあに。足りねば私もおりますぞ」


ズシンズシンと砂漠を踏み鳴らして歩く地龍レアガイア。

大きい……とてつもなく。

祭壇は地龍の視界に入れるようにと設計されたもの。

だから眼前に、地龍の顔があるわけなのですが……歯一本を取っても私よりもずっと大きいなんて、やっぱり笑えてくるくらい怖いなあ……。

でも……。


「地龍レアガイア様でしょうか?」

『ウム キタ』

「本日はお早いお目覚めのようですね。まだ100年も経過しておりませんよ?」

『ハラヘッタ ユエニ クウ』


一言一言がズシンとお腹に沈むような声を上げてレアガイアがこちらを一瞥する。

龍とは恐ろしい存在ですね一睨みで体が竦んでしまいます……でも、女王として、毅然とした態度でいなければなりません。


『……ヒメミコ イナイ?』

「……はい。申し訳ありませんが、今回は姫巫女をご用意する事は適いませんでした。なので、盟約に従い私、女王コレンの体一つでご満足いただけないでしょうか?」

『……ムリ ハラヘッタ』


まあ、そうなりますよね……。

もともと濃厚で芳醇な魔力である姫巫女だからこそ、一人の生贄で満足し、数百年寝てもらえていたのですから、私程度の魔力では足りないでしょうね……。


「と、申されましても盟約に従っていただかねばなりません。龍種は盟約を守るものでしょう?」

『メイヤク マモル タリルマデ クウ』


……前回の姫巫女がおらず王が犠牲になった時から数百年は経過しているので、盟約の内容を上手く誤魔化し、王の命一つで……と出来ないかと思っていたのですが……やはり駄目でしたね。

備えはしてありますが……彼らには申し訳なく思います……。


「ほっほ……。では盟約に従いますかな!! 肉球ナックォォォーッ!!」

「爺!?」


爺がレアガイアの鼻先に強力な一撃を放つ。

ドズンと重い衝撃が、どれほどの威力を持っているかを表していた。


爺は『破砕肉球拳』の免許皆伝の師範。でも……

岩をも容易く砕く一撃のはずなのに、レアガイアは怯みも痛みを感じる事もなく、その場に留まったまま動かない。


「盟約にはこうもありましたな。貴方を追い返せばまた眠りに戻ると……。抗わせていただきますぞ?」

『カマワヌ カコ ヒメミコ ソウシテキタ タダ……』


一撃を入れられたというのに余裕ですね……。

虫が止まった程度にしか思っていないのでしょうか。

それよりも気になる言葉が……ただ、なんなのでしょう?


『ワガコモ ハラヘッテ ココニキテイル』


「まずい! コレン様!!」

「え、きゃあっ!」


突然爺に抱えられ、祭壇から飛び降りると同時に祭壇が破壊された。

とはいえ、レアガイア自身は何もしていなかったはず。

ワガコって……レアガイアの子供!?


「ヒャッハー!! 俺様よりもデカイ建物なんて生意気なんだよー!」

「兄チャン格好いいー!」

「……嘘でしょう?」


地龍が1、2、3……違う、少し離れたところにゆっくりとこちらに来ているのが1体見える……4?

レアガイアを含めて地龍が……4体も……?


「4体ものお腹を満足って……民にまで影響が……」

「これは……尚更どうにかせねばいきませんな……」

「……そうですね。私も戦います。せめて、せめて一体でも倒さねば……ロウカクは滅んでしまいます……」

『リュウハ チカラナリ チカラヲ シメセ』


流石にレアガイアを仕留めるのは無理でしょう……。

爺の肉球ナックルでダメージすらなく、傷一つついていないとなると、子供の方に集中した方が良さそうです。

とはいえレアガイア程ではないにせよ、地竜よりも硬い鱗を持つ地龍を相手に……どれだけ戦えるでしょうか……。



「ご主人! 場所はおそらくロウカクから北西の神殿っす!」

「おう。頼むぞデザートパラサウロ」

「ううう……間に合えっすー……」


キュロロロっと鳴き声を上げて全速力で進むデザートパラサウロ。

遠くにはロウカクの街から住人達が、家財道具を抱えて避難をはじめており、軍の連中は彼らの護衛と誘導を行っていた。


「シロはナイフで大丈夫なの?」

「ん。これが一番いい」

「しかし、地龍の大きさを考えると致命傷を与えにくいのではないか? 私の予備武器を使った方が良いのでは?」

被装纏衣(ひそうてんい)があれば、武器の大きさは関係ない。誰が相手でも、どんな大きさでもチョンパする。でも……硬さは心配。アイナやソルテは真っ直ぐ打つと武器が壊れる恐れがある」

「そうね……油も塗っておいた方が良さそうかも……」

「ソルテは槍だからな。龍鱗の隙間を縫えるかもしれないし、滑る方が詰まるよりはいいかもしれないな。逆に私は叩き潰す方が早そうだ。より頑丈な物を得物にした方が良いか……」


俺とレンゲからの地龍の情報を聞いて、後ろで武具や回復ポーションの準備、戦略や注意点などに余念が無い。


「はい! 簡単なものですが、ご飯の準備ができましたよ!」

「ん! ウェンディ流石!」

「ご主人様がご用意してくださったお肉を盛り付けただけですけどね。……いっぱい食べて、無事に帰ってくるんですよ」

「ん。モグモグ……。大丈夫。モグモグ。シロも……本気でモグモグやる」

「そうだな……いざとなれば、私も本気を出すとここに誓おう」


頼もしい限りだよ俺の仲間は。

これからおっかねえ場所に行くっていうのに、妙に安心する事が出来ているんだからさ。


「私は…………」


と、ソルテは何故か言い淀んだ後に俺の方をちらりと見る。

俺が「ん?」とよくわからずにソルテに目で問いかけると、横からレンゲが手を差し出して、拳を握った。


「……自分も、本気で行くっすよ」


レンゲの手に赤い紋様が浮かび上がり、それが体中に広がっていく。


「レンゲ! ……いいの?」

「だーいじょうぶっすよ。ご主人はもう一回見てるっすし……ご主人は、やっぱりご主人だったっすから!」

「……そっか」

「まあでも、自分の事はきちんと自分で決めるべきっすよ。何よりも、自分自身のために……」

「うん……頑張るね」


えーっと?

ソルテが俺の瞳をじっと見つめるのでとりあえず頷いておいた。

うん。頑張れ? でいいのかな?


「レンゲさん……それは……」

「ウェンディは初めて見たっすよね。これは姫巫女の儀式を受けた副産物ってやつっすよ」


ウェンディはってことはシロは一回見ているのか。

どうりで反応が薄く、肉にがっついたままだと思ったよ。


「これは……魔力が……濃い?」

「流石っすねえ。一発で見抜くっすか。そうっすよ。濃厚な魔力が体内にあるんすよ。……おそらく、レアガイアはこれが大好物で、これを求めているはずっす」

「なるほどな……。だから、姫巫女が生贄になってたって訳か……」


ん? でもそうなるとおかしくないか?

姫巫女の濃厚な魔力を求めてきているのであれば、コレン様の普通の魔力じゃ足りないんじゃないか?


「ん。何かいる?」


シロが肉を頬張りつつ指差した方向を見ると、小さい岩のような何かが砂漠にぽつんと鎮座していた。


「あれは……人か? 何でこんなところに……?」


しかもあれは軍の魔法部隊の連中か……。

よく見るとこの先にも距離を空けて何人かがぽつんぽつんと座りこんでいる。


「おい! 何してんだあんたら!」

「なっ……姫様方!? なぜ戻って来られたのですか!」

「そりゃあ地龍をぶっ倒しに行くからだよ!」

「なんと!? 貴方方が強いのは承知ですが、無茶でございます!! 今すぐ引き返して逃げるべきです!!」

「それこそ承知だよ! で、あんたらは何を……」


と、言いかけて気がついた。

コレン様一人の命で足りるのかということへの疑問が、ここで晴れてしまう。


「……お前ら、コレン様だけじゃ足りなかった時のためにここにいるのか?」

「……そのとおりです。年老いた者から祭壇に近くなるように並んでおります。魔力を最大限にまで練りつつ、どこまでが食われるかはわかりませぬが、こうせねば……民にも被害が出ますからな」


だから魔法部隊ばかりなのか……。

正直な話、姫巫女であるレンゲとコレン様では魔力の量も質も違いすぎる。

いくらなんでも通常の魔術師程度のコレン様じゃあ、あの地龍が足りる訳ないだろうと思ってはいたが……。


「……命を捨てる気か?」

「……いいえ捨てる気などはございませんよ。生かすのです。我らの命をもって、多くの民を、家族を守るために」

「そうか……俺らは倒すつもりだけどな。どうする? 一緒に来るか?」

「……申し訳ございませんが」

「そうか……」

「……こうして間隔を空けておいたほうが、まとまって食われるよりも時間が稼げますので。……ご武運を」


座り直し目を瞑り、死を待つ男を置いて俺達は進む。

近づくにつれ何人もの男達の横を通り抜けるが、皆一様に目を瞑って集中し死ぬ覚悟は出来ているといった様子だった。


「……ご主人」

「ん? 別に何も思っちゃいないよ。ただ、こいつらも……民を、家族を守ろうって必死なんだなって」


現実的に、挑むよりもどう時間を稼ぎ被害を少なくするかを考えた結果なのだろうさ……。

そして、俺達が挑んでも勝てないと考えての事なんだろう。


そもそも挑む事すら阿呆らしいと思っているだろうな。

俺が、座して死を待つ事を同じように思っているように。

だから……。


「だったら、後で飲み屋で話す笑い話にしてやろうぜ。俺はあの時死を覚悟したねって、酒飲みながら、笑って済ませられるような結果にさ」

「……っすね。自分達がぶっ倒して、もう終わったっすよーって言ってやるっすよ!」


……本当は少しでも手助けをしてもらえるんじゃないかなとか考えてたんだけどな。

とはいえ、問答している時間もないからな……。


「主、音が聞こえる。おそらく……二人戦ってる」

「クドゥロさんとコレン様か……。わかった。これから突っ込むけど……皆、死ぬなよ」

「ご主人様こそ、無茶はしてはいけませんからね?」


ああわかってる。

誰か一人でも欠けたら意味が無いからな。

警戒は怠らないよ。

ギリッギリの平日投稿!

明日も投稿したいとは思っている……。


それと! コミカライズ始まりました! 続きは活動報告で!

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2021/07/10 23:53 退会済み
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