9-16 砂の国ロウカク 晩餐会の悲劇
晩餐会は地竜討伐に出ていた軍の者達も参加し、大広間にて行われた。
先ほどの警備をしていた兵士達は居残り組らしく、危険は無い代わりに晩餐にはありつけず今回も警備をし、大臣や貴族も参加しての大賑わいである。
晩餐会と言われ、コレン様もいるので厳かなものを予想していたのだが大賑わいなのだ。
コレン様が無礼講だと言ったというのもあるのだが、それ以外にも理由が二つあった。
「はぐはぐはぐはぐ。がつがつがつがつ。もぐもぐもぐもぐ」
「おお、まだ食べるぞこの子」
「んまんま……ん。終わり?」
「どれ、これも美味いぞ。我が領の特産品だ」
「ん。いただきます」
「良い食べっぷりだ。見ているだけで清清しい」
と、シロが物凄く食べるので、お偉いさん一同が面白がり、従者が止めるのも聞かずに自ら食事を取ってきてはシロに与えているのだ。
シロは動かずテーブルに座り、まるでお姫様待遇である。
「うむ。やはり子は宝ですな。たくさん食べる姿は良い」
「最近は仕事尽くめで可愛い孫の顔も見れておりませんからな……」
「ああ。癒される。私のところの娘も、そろそろ出産日か……。この子の様にたくましく育ってもらいたいですな」
なにやら貴族さん達は遠くを見つめ、懐かしき故郷に想いを馳せているようだ。
おそらく地竜騒ぎでてんてこ舞いだったのだろう。
「しかも、この子は地竜を討伐するほど強いらしいですぞ」
「なんと! 強さの秘訣はやはり食べる事ですかな? 軍の諸君? もっと頑張らねばなりませんな」
はっはっは。とお偉いさんが笑うが、フォークを持ちはすれど食事を口に運ぶ気力の無くなった軍人さんが、『言うだけなら簡単だ』といわんばかりの視線をぶつけている。
その軍人さんも結構な量を食べていたはずだが、ギブアップ寸前のようだ。
テーブルから少し離れた壁際には料理を食べ過ぎて、腹を押さえて休んでいる兵士達の姿も見えている。
皆軽い気持ちでシロに挑み、敗れていった敗残兵だった。
「愛くるしいだけでなく強く、そしてまだ成長する子供とは……どうですかな? 私の私兵になりませぬか? 高待遇を約束しますぞ」
「なんと、それならば私の私兵にしたいくらいですぞ。給金も弾みますし、我が領は食べ物が美味いと有名です。お腹一杯食べられることは保障しましょう」
「ん。シロは主のだから駄目。シロは主以外には仕えない」
「むむ……義に厚い所も良いですなあ……。とはいえ、あの主殿では諦めざるをえませんな。では、またロウカクに来た際には私の領においでなさい。貴方にも皆様にもご馳走を用意しておきますよ」
ちらりとこちらを見たお偉いさんと目が合ったので、苦笑いを浮かべると、あちらもなんだか申し訳なさそうに、とはいえ少しの期待を持たれた目を向けられてしまう。
「ん。主に言っておく」
と、なぜかお偉いさんのファンを作り、では私のところにも! と次々に手が挙がるアイドルシロ。
次回ロウカクに来た際には、どれだけの領を回らなければいけないのだろう……。
その後も人が人を呼び、次から次へと食事を持ってきてもらっては食べつくし、人気を集めていた。
そしてもうひとつの理由なのだが……。
「はい、こちらは私も大好きな熱毒蛇です。勿論毒抜きはしております。舌がぴりりとしてとても美味しいですよ」
「あ、ああ。ありがとうございますコレン様」
「そんな他人行儀な真似はなさらないでください。コ・レ・ンで構いませんよ」
呼べるかっての……。
っていうか、初対面と大きく変わりすぎてそのギャップにヒッとなるわ。
ドキっ! じゃなくて、ヒッだからね。
一種の恐怖に似た何かを感じるよ。
「それでは、食べさせて差し上げますね。はい、あーん……」
「いや、女王様にそんな事させるわけにはいかないですって」
「もう。コレンでいいですってば。私がしたくてしている事ですから、お気にせず」
いや気にしないわけが無いよね。
さっきから、この光景を見て多くのお偉いさん達がこちらに目を向けては驚いてクドゥロさんの下に走るのだ。
その内容は皆が皆まるっと一言一句一緒で、もう聞き飽きたのだが……。
「ク、クドゥロ殿あれはいったいどういうことですか!?」
「はて? どうとは?」
「コレン様がお、男にあんなにも寄り添っておりますぞ!?」
「そうですな」
「何故冷静なのです!? あのどんな男を紹介しても、一瞥もする事無く一蹴しておりましたコレン様がですぞ!? あの男はどこの国の貴族なのですか!? 黒髪黒目という事は流れ人の……まさか英雄なのですか!?」
「いえ。彼は平民だったはずですが」
「なんと……。平民が我らが王と睦まじくなどなぜ止めないのです! それは貴方の仕事でしょう!」
「ふむ……。今御自分でおっしゃられたように、どんな男でも一蹴しておりましたコレン様がようやく奇跡的に、初めて好意を寄せておられるのですぞ? 今更平民がどうのより、絶望的だと思われたお世継ぎが生まれる可能性が出てきているのですぞ? 次があるかどうかもわからぬというのに、何故止める必要があると言うのですか?」
「それは……ふむ。それもそうですな」
「ええ。主殿には頑張ってもらわねば」
「うむ。頑張れ……」
どいつもこいつも頑張れじゃねえよ。
他力本願はやめ……ああ、駄目だ俺がそれを言う事は出来ないな。
基本的に俺が他力本願だし。
「どうかいたしました?」
「いや……兵士とか、貴族とか皆さんが見てるどころか凝視していらっしゃってますけど……」
「良いではないですか。責任を取れとは申しませんが、子をなした際の父親としていずれ伝わる事ですから。それより、はい、あーん……」
貴族や大臣達がおお!? と、目を見開いて驚き、期待しながら両の拳を握って応援しているのさ。
そんな中で口元まで持ってこられてしまうと『あーんはちょっと……』と断るとかさ、もう無理なわけよ。
ここのお偉いさん達ときたら、若い女が王など! って定番の権力争い的な仄暗い感じもないんだよ。
皆コレン様の事を良き王として信頼していて、我こそが次の王に! って人が一人もいないの。
もうびっくり。
それでもってお世継ぎの事を本気で心配していたらしい。
そんな中でさ、断れるわけないよね。
見てよあの興奮気味に見開いた目。
断ったら怖いよね……。
だから仕方なく、別に衣装チェンジしたコレン様の丈の短いスカートから伸びる組まれた足に気を取られてとかではなく、レンゲとは違った意味で良い太ももだなとか関係なく、仕方なくぱくっと食べると、美味いんだよなあ……。
確かにぴりっとしているのだが、それが毒なのか香辛料なのかはわからない程度だし、凄く後をひくんだよね。
だからついもう一口と差し出されると食べてしまうんだよ。
とはいえ……。
「なーんでコレンがご主人にあーんしてるんすかね? 今日は自分の番なんすけど」
レンゲさんが俺を隔てた反対側の席から、妹であるコレン様に青筋を立ててガンをつけているんだよね。
何この板ばさみ……。
「ごめんなさいお姉様。でも、滞在期間が短いのですし、私との仲を深めてもらわねば困るではないですか。すべては……お姉様とのお子の為に!」
いつの間にかこの子の中で俺との間に子を作るとレンゲとの子が出来ると思い込んでいるようだ。
もうね。目がマジだもん。
狂信って……恐ろしいなあ。
「あ、あの女王様? そのような事はご主人様の『奴隷!』であります私共が致しますから……」
「気にしなくても構いませんよ。私の宣言で、ここには兵士も貴族も奴隷も無礼講で楽しむようにと告げています。皆様にも話しかけたい殿方が沢山いるようですし、各々楽しんでいらしては?」
「興味ありません。私はご主人様一筋ですから」
「私達は『主様の奴隷』ですので仮令女王様の命令でも聞けません。まあ、主様が離れるように言っても離れないけど」
「私は主君の騎士。仮令許可があろうとも離れるわけにはいかないのでな」
と、即座に断言してくれるのは嬉しい。
というか居てください……。
今の言葉を聞いて多くの男たちが首をガクっと落としていたが、悪いな諦めてくれ。
「そうですか。とはいえ、我が軍にとっても恩人であるこの方への感謝と褒美の意味も含めての行いです。私は恩人には感謝を示せと教えられておりますのでお気にせず」
強かだなあ……。
軍の恩人って、俺はただ回復ポーションが足りなさそうだと判断したので供給しただけである。
思った以上に負傷者が多かった事と、この砂漠ではなかなか薬草が採取しづらいらしく、回復ポーション(大)や、万能薬の数が足りなかったそうなのだ。
これは……ポーション販売の販路を作れさえすれば、安定した儲けの予感がするな。
帰ったらアインズヘイルからの供給やバランスを、ミゼラやレインリヒと相談してみることにしよう。
「ご主人との諍いは起こるとは思ってたっすけど、まさかこうなるとは……」
「レンゲさん。レンゲさんのあーん権はこれで一回ですからね」
「そんな!? だ、駄目っすよ! まだ自分は一回も出来てないんすよ!?」
あーん権ってなんだあーん権って……。
っていうかレンゲちょっと待て!? それは湯気がまだ凄いやつだから掬っちゃ駄目!
せめてフーフーして!
「ごっ主人んんー! ああーん!!」
「うわっちゃ!! あっついんですけど!?」
フーフーは無かった!
っていうか、速達だった!
舌を火傷したのか熱毒蛇の残りなのかひりひりする!
「あら、大丈夫ですか? ポーションを……」
「へあ……、ありがと……う? おい、どうして自分で飲んだ?」
「ふぁい……ろうろ……」
いや待て待て待て。
それは駄目だろう!
そもそも口移しをする意味!
あれは飲む気力も体力も無い人に行う救助行動のようなものだ。
俺は自分で飲めますって、早い、近い!
おいこらクドゥロさん、いやクドゥロお前いい加減に止めろ!
一体どういう教育をしたらこんな極端な育ち方をするんだよ!
何貴族の驚いた顔を見て腹を抱えて笑ってるんだよ!
あ、こっち見た。
爆笑してんじゃねえ!
「それは流石に自分もしてないっす! 絶対に駄目っすよおおおおおお!」
お、ナイスだレンゲ!
上手く俺とコレン様の間に入って妨げてくれた!
その隙に俺は自分で回復ポーションを飲んでしまおう。
「れはおれえはまり……」
「へ? んんんんぅー!!」
ん? 俺からは見えないが、しっかりと大広間にレンゲの声のない絶叫が響きわたった。
一体何がと確認しようとすると、ウェンディの手が俺の視界を塞ぐ。
「……レンゲさんの名誉のために、見なかった事にしてあげてください」
……そうか。
レンゲ……お前の事は忘れないよ。
ぷはぁ、とした声が聞こえ、俺の手が離される。
見ると、コレン様がぺろりと自分の唇を舐め、レンゲが口からだばだばと薄緑色の液体を垂れ流している。
レンゲは真っ白な灰になって糸の切れた人形のように机に突っ伏してしまい、アイナやソルテ、ウェンディがレンゲをねぎらう為に肩や頭にぽんと手を置いた。
「えっと……だな。身を挺して主君を庇うとは。見事だったぞレンゲ」
「う、うう…………」
「ほ、ほら、女の子同士だし……血の繋がった姉妹……は、余計にまずいのかしら……。でも、主様は守れたわ……凄いわよ! 流石レンゲね!」
「ご立派でした。今日のお部屋はレンゲさんにお譲りしますから……その、元気出してください……」
「ひぐっ……今日は……抱きしめて寝かせて欲しいっす……」
「ああ。しっかり抱きしめるよ……」
レンゲはなんとかかろうじて堪えているようだが、件の女王様はと言うと……。
「はぁ、甘露です……。お姉様の嫉妬するお姿も素敵でした……。この方と一緒にいると新たなお姉様の魅力に出会えますし、お姉様に隙が出来てなんでも容易くなりますね……。となれば、次はとうとう……うふふふ」
恍惚とした笑みを浮かべた後に怪しげに笑う女王様のなんと、恐ろしい事か……。
はぁぁぁぁぁ…………。
次は何をするつもりなのか、不安しかない……。
2案あってどっちも書いたけど、こっちの方が面白かったんや……。




