9-12 砂の国ロウカク 地竜の味は?
「で……あるからして……おおおう……。破砕肉球拳とはぁぁぁ、長年の修練によっ、くぅぅ……て出来た拳だこならぬ、掌だこが肥大し、くああっ、肉球のようになった事からその名がついたので……すぅぅぅ……」
クドゥロさんに頼まれて、腰の周辺を揉み解すことになり、荷台で施術をすることに。
その際にせっかくなので破砕肉球拳について聞いてみた。
ちなみに、宙に浮いた際に驚いていたので空間魔法については、たとえレンゲの妹で女王様相手でも他言無用でとお願いして教えてある。
クドゥロさんには肉球があるのに、同じ獣人であるソルテやレンゲには肉球がないので気になっていたのだ。
その結果、聞かなければ良かったという内容だったのだが……。
なんだよ。岩を掌で延々砕けるまで殴り続ける修行って。
一撃で砕けるようになる頃には肉球が出来ており、柔らかいながらも破壊力を生み出す弾力がうんたらかんたらって……。
でも触らせてもらったら多少ざらつきはあれど、本当に肉球なんだよ!
気持ちいいじゃないか馬鹿野郎。
「……なんか、ご主人の手で気持ちよくなる爺とか見たくないっすよね」
「そんな事言われてもな……」
この後も戦わないといけないから治してくれって言われたんだもの……。
レンゲは叩けば治るとか阿呆なことを言うしさ。
「申し訳ありませぬ……くっああ……。それにしても、本当に助かりましたぞ……。ぬおおっ! 姫様、ありがとうございます」
痛気持ちよさそうに悶えつつもお礼をいうクドゥロさん。
それに対してレンゲはおざなりというか、適当にあしらおうと手をひらひらと振っていた。
「はいはい。そういうのはご主人に言えばいいっすよ。ったく、若くもないのに無茶するからっすよ」
「ほっほっ……似たもの夫婦というやつですかな? 主殿も姫様に言えとおっしゃっておりましたよ。うおあっっつあいっ!」
と、恥ずかしい事を言ったので少し強めに押してやる。
まあ、一度だけだ一度だけ。
それが原因で腰が……なんてなっても困るからね。
「そういえば、地竜って魔物なんだな」
「そうっすよ。というか、本当は地竜蜥蜴って奴っすね。天然の大きい魔石に地の魔力が加わると生まれるんすけど、見ためと強さから地竜って呼ばれてるっす」
てっきり竜種とかそういうのかと思ったんだが、実は蜥蜴だったそうだ。
このまま地竜を放置しておくと、魔石からまた地竜が生まれるらしく今シロとアイナとソルテが魔石を剥ぎ取りに行ってくれている。
ちなみに、肉は先に剥ぎ取ってから魔石を取るとちゃんと残るらしく、シロが吟味して剥ぎ取っていそうだな。
「よし。そろそろかな。どうですか?」
「はぁぁぁぁ……痛みもなく、大分腰が軽くなりましたな」
「一応、素人の腕なんで無理はしないでくださいね?」
「いやいや、中々の腕前ですぞ? どうです? 宮廷の専属按摩師として働きませぬか?」
「あー……爺、それはやめといた方がいいっす……。もう王国と帝国の一部のお偉いさんに目をつけられてるっすから、いらん恨みを買うことになるっすよ」
一部のってアイリスとシシリア様か?
いくらなんでもそのくらいで恨みなんて持たないだろう……。
っていうか……。
「宮仕えとか疲れそうだしやだよ……」
もう絶対気苦労が絶えないのが目に浮かぶもん。
今の生活が満足度120%と言ってもいいのに、変えるつもりなどあるわけもない。
権力だの貴族位だのにもまったくこれっぽっちも興味がないしな。
「むうう……。主殿がおりましたら私が戦闘教官に立候補できましたのに……。あの腑抜けどもを鍛えなおしてやれぬのは残念ですな」
どうやらロウカクの軍はそこまで強くはないらしい。
とはいえ地図を広げ、クドゥロさんの説明では王国から遠い半分は軍が対応しているらしく、首都から王都方面はクドゥロさんが全て一人で回るつもりだったようだ。
……一人で軍一つ分の仕事をこなそうとしていたとか、大分無茶が過ぎるだろう。
さて、クドゥロさんの腰が治ったところで、俺たちは地図を広げたまま今後の方針会議だ。
とはいっても、どうするかは決めてあるのでクドゥロさんにお願いし、伝えるだけなのだが。
「じゃあ、こっちは自分達が回るっすね」
「そんな姫様達の方が圧倒的に多いではないですか……」
「や、爺の腰が駄目になる方が怖いっすし……」
「そうだな……。離れてる場所もあるし、俺たちがこう回って、クドゥロさんはこことここを……」
「むう……この国の事なのに、お任せしてしまうのはとても心苦しいのですが……」
そうは言ってくれるがこの爺さん腰が治ったとまた張り切りそうだしな。
大人しく少ないほうを回ってくれたほうが、俺たちとしても迂回せずにすんで助かるのだ。
その後も説得を続け、あーだこーだどうするかと話合いが長引いてしまう。
「むうう……わかりました。それではよろしくお願いいたします」
そして渋々ではあるが、ようやくクドゥロさんが認めてくれた。
疲れた……頑固な爺さんだよ……。
「あ、くれぐれも城には寄ってくだされ。当然、報酬もありますからな! それに……」
「わかってるっすよ。報酬もちゃんと貰うっすし、コレンうるさいっすからね……。でも、顔出したらすぐに帰るっすよ」
ってことで、俺たちのこれからの方針は二手に分かれて地竜を討伐しつつ、報酬を受け取りに行くついでにレンゲの妹さんの元へ。
その後は座標転移で家に帰るという事に決定した。
「主、魔石取り終わった。お肉! お肉焼いて!」
「ああ、今ウェンディがやってくれてるよ。……っていうか、やっぱりすぐ食べるのな」
「ん。動いてお腹すいた」
「肉というと地竜の肉ですかな? あれは……」
「シロ。お肉焼けましたけど……正直これは、どうでしょう……」
ウェンディが皿に載せた地竜の肉を持ってくると、早速お女将さんから教わった料理を試したのか、香ばしく美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
だが、ウェンディはなんとも微妙そうな顔をしている。
「主食べてみていい?」
「ああ、どうぞ」
シロはそんな事など関係ないように皿へと手を伸ばし、フォークで豪快に刺して一口……一口……。
「んんー……んんんんー!?」
噛み付いたまま思い切り引っ張るシロ。
思い切り力を込めているようだが、引きちぎるのも難しそうだ。
「地竜の肉は食べるとなると硬すぎますからな。食べるならば、何時間も煮込まねば柔らかくなりませんぞ? それに、手間隙をかけてまで食すほどでは……」
「そうなのか……」
「んんんー!! ……ん。もくもくもくもくもく……」
シロはようやく噛みちぎれたようだが、なんというか表情が変わらないまま口だけが高速で動いている。
「一応焼いたのはこれ一枚なのですが……どうしましょうか……?」
「あー……俺の魔法空間で煮込んでおくか?」
そうすれば移動中も調理は出来るだろう。
手間隙かけて食べるものでもないそうだが、肉は大量にあるので処理する意味でそうするか。
「コクン。んんー……微妙……。残りはシロが責任を持って食べるけど、微妙……」
「いや、俺も食べるよ。味わってみないとな……」
でも噛み切れないので、煮沸消毒したシロのナイフで切り取ってもらってからだ。
……確かにこれは、つらいな……。
柔らかくない赤身のような、噛み切れない脂身を無限に噛み続けなければいけない感覚だ。
これは顎が疲れるな……。
「がっかり肉……」
こりゃあ、普段食べているブラックモームの方が圧倒的に美味い。
シロは見るからにテンションが下がっている。
ま、まあ地竜と言っても魔物だったしな。
しかも蜥蜴。蜥蜴肉ってわけだし……。
「そうですな……お、あそこに見えるのはロウカク名物の地中海ミミズですぞ! 普段は地中深くにいて、砂漠をまるで海のように泳ぐ滅多に地上には顔を出さぬ貴重で高価な上に大変美味な肉で――」
クドゥロさんが指差した先に見えたのは、超巨大なミミズが息継ぎをしながら砂漠を悠然と泳いでいる姿だった。
おおおお…………でかいよう……。
「あー……悪いんだが、俺虫は駄目なんだ……」
「なんと……っ。ふむ。意外な弱点ですな」
まあこの世界では虫も一般的な食料みたいだし、俺みたいな方が少ないのかもしれないが……。
なんでロウカクも名物が虫なんだよ!!
キャタピラスだけでお腹いっぱいだっての!
食べたこと無いけどね!
「ご主人、女将さんの料理には入れてもらってないから大丈夫っすよ!」
「ありがとう………」
そういえばさっきも肉食べたもんな。
あれがミミズ肉じゃなくてよかった……。
本当に良かった……。
「悪いなシロ。美味いそうだけど……」
「ん。大丈夫。主が嫌ならシロも食べない。地竜は美味しくなかったけど、ちゃんと狩る」
「そういえば、姫様のお仲間も強かったですが、シロ殿も大変強いですな」
「ん? シロは強いよー」
「ははは。そう言えるだけの力は確かにありますな。ふむ。確か主殿は錬金術師でしたか。戦闘の方は……」
「てんで駄目なんだ。今鍛え中だけど、あくまでも護身って感じでさ」
「流れ人なのに珍しいですな……。なるほど。だからこそ、退避していたと……。自分の力量を弁え、行動することが出来る。それも立派なことですぞ」
「ああ、俺が原因でなにかあったら、クドゥロさんとの約束も守れないからな」
大人しく、余計な真似はせず邪魔をしない。
これが俺の役目だと、ちゃんとわかってる。
……いざという時は、その限りではないけどな。
「ほっほ。心配しておりませぬよ。私との約束は、必ず守っていただけると確信しておりますからな」
クドゥロさんは穏やかな表情で笑い、ウィンクをパチリと俺へ送る。
古……くはないのか。
でも、男にウィンクはないんじゃないかな……。




