9-4 砂の国ロウカク お昼寝もさもさ来訪者
はぁぁぁぁぁぁぁ……。
贅沢な時間だー。
「主悪い子。ご飯の後すぐ横になってる」
「シロもだろー」
「ん……このお日様が悪い」
「そうだなあ……このお日様が悪いよなあ……」
ぽかぽか陽気を惜しみなく降り注ぐこのお日様のせいで、昼ご飯の後は誘われるままにシロと屋根の上でお昼寝タイムだ。
シロは広げた俺の腕を枕にし、体をこちらへ向けて丸くなっている。
「今日はお仕事いいの?」
「ああ。今すべきことはなにもないしな」
「鍛錬は?」
「あー……しなきゃいけないところだけど、今日は……こっち優先で」
最近はアイナやミゼラ達とばかり鍛錬やお仕事をしていたから、あまりシロとの時間を取れていなかったもんな。
こうしてシロとまったり過ごすのも、忙しい毎日のリフレッシュにとても良いし。
「そういえば、シロは最近よく出かけるな。忙しいのか?」
アイナ達と鍛錬をしていると、シロは一人でどこかへと出かけている。
たまに『遊んできていいですか?』と、なれない敬語で言われる日は数日帰らない日もあるのだが、一体何をしているのだろうか。
「ん? 主が暇な日は暇。主が忙しい日は忙しい」
「なんだそれ」
「何を以ても主優先のシロの従順さに惚れて抱いて?」
「はいはい……」
腕枕はそのままにしてシロの方へ体を傾け、ぎゅっと抱きしめてあげる。
「んんー……あってるけど違うー……」
「違くないぞー。抱いてる抱いてる」
「はぁ……。まあ、これはこれで」
シロはうんしょと少し寄り、俺の胸の中で再度丸くなる。
収まってしまうのだから、シロはやっぱり小さいなあ。
「んんー……主あったかい」
「暑いか?」
「ううん。気持ちいい」
「そっか。シロもあったかいぞ?」
「ん? 主の方がぽかぽかだよ?」
基本的に子供の方が体温は高いと思うんだけど、どうにも俺はぽかぽからしい。
こればかりは譲らないシロである。
「あ、昨日はどうだったの?」
「昨日? ああ、模擬戦か。うん。剣先の少しだけど、ソルテにかすったよ」
まああれがもし本当の実戦だったら何にもならないくらいの成果だけど、それでも俺にとっては大きな成果だと思っている。
「おおー。主すごい。頑張った。犬ざまあ」
「ざまあって……、でもその後レンゲにぼこぼこにされたけどな……」
いやもう本当驚くほどにボコボコだった。
ボコボコにした張本人があれ? って疑問符を浮かべる顔をしていたし、アイナが慌てて間に入って止めてくれなければ今日はきっとベッドでうんうん言っていたことだろう。
レンゲには物凄い謝られたが……いや、あれはあれでいい経験になったよ。
浮かれず、自惚れず、自分を再度引き締めなおす事が出来たのだ。
「まあ、まだまだこれからって奴だ。ゆっくりだけど、頑張っていくよ」
「そっか……主。主が三人に絶対勝てる方法はあるよ?」
「お、なんだなんだ?」
鍛錬は基本的にまず基本がなっていないのでアイナ達が教えてくれている。
シロの戦闘スタイルははっきり言って規格外。
受けるより、何よりも速く殺すことが最優先なので、今の俺には学べるところがないのである。
だからなのか、シロは口を出さず鍛錬には入ってこないのだ。
だが、少しは成長したであろう俺にシロからのアドバイスである。
一体全体なんなのだろう。どうすればいいのだろうと期待した面持ちでシロを見つめる。
するとシロは自信満々にドヤ顔をして見せた。
「前の日の夜から朝までベッドで戦えばいい。そうしたら次の日は腰が抜けて絶対倒せる。主しか出来ない、主だから勝てる。シロもいちころ」
「……なあシロ。そもそもの目的が強くなることから勝つことに変わってる気がするんだが」
「……おお! 盲点だった」
一瞬考え込んだ顔をしたって事は今気づいたのか……。
しかも夜から朝まで……の後に模擬戦なんてしたら俺もふらふらだからね?
防御もままならず、打ち所が悪いと大怪我必至だよ?
あとね、シロはまだ小さいから駄目だよ?
胸がとかではなく、倫理観と条例的に絶対に駄目だからね?
主に後半部分を目で語りかけるとシロもわかったのか小さくため息をつく。
だがすぐに気を取り直して俺にぎゅーっと抱きついた。
「仕方ない。今日はお日様も主もぽかぽかだからこれで我慢する……。ん。幸せー」
俺の体にぴったりと密着するシロ。
残念だがちっぱいなので極上は味わえない。味わえないが……。
「俺も幸せ……って、んん? シロ少し胸が大きくなったんじゃないか?」
「本当っ!?」
「ああ……」
おそらく5ミリから7ミリくらいだと思うのだが、少し膨らんできた気がする。
というか、自分で気づかないものなのだろうか?
「装備が勝手にリサイズするから気がつかなかった……。シロの『おっぱい』への道が今日から始まる」
それは……どうなんだろう。
でも、確かに大きくはなっている。
シロが驚いて起き上がった際にも確認したので間違いない。
「後で犬に自慢しよう。成長期のシロはあっという間に犬を抜かしてしまうから」
「やめたげて……ソルテ泣いちゃうから……」
いやしかし、それもありと言えばありか……?
ちっぱいは可愛い。だが、一番可愛いのは本人がちっぱいを気にしているときだ。
もう何度も見ているというのに必死で見られぬように涙目で隠すソルテのなんと萌える事か……。
「主が他の女のことで鼻の下を伸ばしている……シロと一緒なのにー」
他の女て……。
まあでも、確かにそうなんだけど。
「ごめんごめん。じゃあほら、寝よう。こんなぽかぽかで昼寝に最高の日なんだ。寝ないともったいない」
「ん。主とお話もいいけど、お昼寝もいい。とてもいい」
二人で大きく欠伸をし、俺はシロを抱きしめるように抱えて目を閉じる。
早速寝てしまっているのか、シロの寝息を子守唄として昼間から惰眠を貪るのだった。
「……いします! ……に会わせてくだされ!」
何か大きな声が聞こえ、うつろな瞳で天を見上げるとお日様は真上から大分降りて、帰宅準備を始めていた。
代わりに月が出勤準備を始めたのか、遠くの方では夜が侵食し始めている。
「無理です。もうお日様も見えませんので、明日、日を改めてください!」
狸人族の門番ちゃんがかわいらしい声を張り上げて来訪者に対峙しているようだ。
「そう言わずお願いします! 急ぎお願いしたい事があるのです!」
お相手の来訪者は……おお。毛むくじゃらだ。
いや、髪も髭も尻尾も耳も長いせいでそう見えるのだろう。
しかし、俺の獣人族の知り合いじゃあないな。
俺の知り合いの獣人族はみな毛並みがいい。
俺がそうしたはずだ。
「どうかこの家の主殿にお会いさせてくだされ!」
しかし俺を求めている……。
あれか。俺のグルーミング技術が広まりつつあるのだろうか。
確かにあの毛並み……やりがいしか感じない。
あれは駄目だ。駄目駄目だ。
手入れの手の字もなっちゃいない。
長旅をしてその間一切手入れもしなかったレベルの残念さだ。
いち獣人愛好家として、認められないレベルである。
「ん……主?」
「お客さんみたいだ。ちょっと行って来る」
「んんー……あい」
あいって返事はしたものの、足まで使って俺にしがみついたままのシロ。
そして立ち上がったにもかかわらずそのまま寝てしまっているので、お尻を支えたまま不可視の牢獄に乗り門の手前で降りて近づいていく。
「あ、主さん……」
「おお、貴方がここの主殿ですか!?」
「はい。どうやら俺に用があるらしいですが……悪いんだけど日が落ちたら用事は明日にしてもらっているんですよ」
狸人族ちゃん達は昼夜を問わず交代制で門を守っている。
勿論表向きの理由はアイリスの邸宅の警護だが、普段アイリスはいないので主に俺の為のものなのだ。
夜は団欒する時間なので、なるべく邪魔が入らぬようにと知り合いでもない限りは日が落ちた後の来訪はお断りをし、次の日にとお願いしているのだ。
「そうもいかないのです! お願いします! どうか、どうかお話を聞いていただけないでしょうか!」
やはり毛がもっさもさだ。
茶、黒、灰、白のもっさもさの毛の年老いた来訪者である。
これはどう見てもグルーミングをお願いしに来たのだろう。
おそらくは……犬系の獣人だと思うのだが、ヨークシャーテリア人族は、流石にいないよな?
「……わかりました。それではとりあえず中へどうぞ。そしてまずはお風呂に入ってください。お風呂を沸かすので用件は入ってもらってからにしましょう」
まあ招き入れる予定ではあったからな。
昼寝でゆっくり休むことが出来たってのもあるが、その状態で放置することは俺が許さん。
とはいえ、グルーミングするにしてもその状態じゃあ櫛も通らず、一度綺麗にしないとどうにもならないだろう。
というか、これはカットまで必要かもしれない。
「え? ……あ……これは失礼を……長旅と急ぎの用件ゆえ自分の状態を忘れておりました……」
「気にしなくて構いませんよ。お風呂でゆっくりしても時間はいくらでもありますから。それに、俺にとっても悪い話じゃあなさそうですし」
あの毛質……綺麗になれば間違いなく指を流れるような綺麗な直毛になるだろう。
光沢を持ち、長く錦糸のような柔らかくてコシがあり、手触りの良いものになるはずだ。
「おお……もしやすでにお話が……わかりました。まずはお風呂をいただきます。ありがとうございます……」
よし、一名様ご案内だ。
この爺さんがお風呂に入っている間にグルーミングの道具の手入れと、よく切れる鋏を用意しておこう。




