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9-2 砂の国ロウカク ミゼラちゃんを見守り隊

今日もミゼラはポーションを納品しに冒険者ギルドに行っているのだが、俺は俺として別件で訪れることになっていた。

なんでも、俺が指輪をあげた冒険者のパーティのもう1つのペアが材料を取ってきたので、指輪を作って欲しいとのことで、デザインの相談をしたいらしいのだ。


ってことで、冒険者ギルドに着いたわけなんだが……。

現在取り囲まれています。

一体なにがあったんでしょうか。


「……」すっ。


とりあえず、タタナクナールの準備はしておこう。

俺がタタナクナールの試験管を一本取り出すと、俺を取り囲む男たちに緊張が走ったのか小さくどよめきが聞こえたが退くわけではないようだ。


「ん? おーいなにしてるんだ? こっちだこっち!」


俺を呼んだ魔法使いの男と女が、取り囲まれている俺を見つけて手を振って呼んでくれた。

つまりは、冒険者ギルド全体で俺になにかがあるというわけではないのだな。


俺が呼ばれたほうへ歩くと、その方向だけ道を開けてくれる男たち。

俺が歩くと、そのまま何をするでもなく取り囲んだ集団も移動してきた。

一体なんなんだ?


「お、おい。どうしたんだ? なにかあったのか?」


魔法使いの男が、取り囲まれたまま移動してきた俺に驚いて男たちへと聞いてくれた。


「気にしないでくれ」

「そ、そうか……。ちょっと俺たちはこれから大事な話をするんだが……」

「気にしないでくれ」

「え? あ、ああ……。じゃあ、その……デザインなんだが……奥さんと考えてみたんだが……えっと……」


いや、絶対気になるだろう。

奥さんの方とか、明らかに嫌悪感をあらわにしているし、旦那さんのほうも言葉に詰まりすぎてしっかりと内容が伝わってこない。


「……あーもう! なにか用でもあるのか?」


痺れを切らして直接聞いてみるも、やつ等は黙って俺の方を見ているだけ。

なんなの本当にもう……。


すると、一人の男が取り囲んでいる男達を割って歩み寄ってくる。

ええっとこいつは……あまり関わりはなかったが、仲が悪いというほどでもない冒険者だったはずだ。

もちろん名前は知らない。

その男がなにやらこの集団のリーダーのようで、厳つい顔をさらにしかめながら俺の前に来ると後ろに手を組んだ。


「貴君にはある疑惑が浮かんでいるため、現在監視を行わせていただいております! また、仮にクロであろうとも我々の鉄の掟により貴君に危害を加えるつもりはないと宣言させていただきます!」


リーダーの男に続くように彼らも頷いて俺に危害を加える気がないのを示してくれたので一応安心はしておくが……。


「疑惑ってなんだよ……」

「はっ! 現在調査中ですので、何事もなければ我々もすぐに解散させていただきます!」

「リーダー!」

「む。来たか。それで、どうだった?」


リーダーの後ろから小柄な男冒険者が走りこんでやってきた。

その瞳は俺を見て、そしてきっと睨み付けると悲しそうに言葉を続けた。


「それが……やはりクロでした……」

「「「「「ああああああああー!!!!」」」」」


小柄な男がクロだと言った瞬間に、男達が大絶叫し始めた。

本当に、一体何だというのか……。

クロって事は、俺が何かしたのか?

もしかして、お祭りの際のタタナクナールが発動されていたとか?

それだったら流石に謝って治してやるけどさ。


「俺らのミゼラちゃんがぁぁぁああああああああ!」

「ああああー! ア゛ア゛ア゛ー!」

「マイエンジェルミゼラちゃんがああアアアァ!」

「汚された! 純白が汚された……」


……。

ああ、なるほど……。

こいつら、ミゼラのファンか。

おそらく『一生の誓い(オンリーワン)』を俺に使った事を知って嘆いているのか。


「ううう……頼む! 頼むよ! 一発でいいから殴らせてくれ!」

「あほか。お前みたいな筋骨隆々の男に殴られたら死んでしまうわ」

「どうしてそんなに貧弱なんだよおおおお!」

「ばっ、おま、これでも最近鍛えてるんだぞ! HPもステータスも低いけどな!」


俺だって頑張ってるんだぞ……。

実は鍛えたら超強かった! とか、錬金ばりにステータスがもりもり上がるとかしないかなと考えてたいけど、まったくそんな様子もなく地道にこつこつとだけどな!

ちくしょう食らえ。俺の渾身のジャブを。

ぺちぺち。


「……ううう。なんかすまん」

「謝るなよ……」


泣きたくなるだろ?

おい、そんな哀しい瞳で俺を見るんじゃない!


「いつかその瞳を変えてやるからな……」

「そんな日は来ない!」


断言するなよ! いつかもっと頑張ったら万に一つくらいならあるかもしれないだろう! 諦めるなよ! もっと俺に期待してくれよ!


「はぁ……それにしても、お前ら……ミゼラの事そんなに好きだったんだな」


ミゼラのポーションの依頼数が増えた原因は、こいつらが大量に購入していくから。

というか、ミゼラが卸しに来るのを待ち構え、商品棚に並んだ瞬間に列を作るのだ。

マスターも最近じゃあ俺のとミゼラので陳列棚を分けてるしな……俺の方はというと、テイルケアをされた獣人族や、弟子に人気を取られたと同情的な奴等が買ってくれている状態である。


「好きとか嫌いとか、そういう次元じゃない」

「俺らはただ純粋なミゼラちゃんを応援したいだけだ」

「あの子の笑顔を護りたい。ポーションを買って、薬体草を取ってきて、御礼を言われるだけで満足だ」

「尊い」

「この汗臭い冒険者ギルドに舞い降りた絶対不可侵の天使だ」


お前らも十分純粋だと思うのは、俺だけだろうか。

要するに、ミゼラの成長のお手伝いと見守る事がこいつらの主目的なのだろう。


まあ、わからなくはない。

正直、ミゼラは冒険者とは圧倒的に遠い位置にいる気がするほど線が細いし、透明感や清潔感が高く、触れてしまえば手折れてしまうような儚さを感じさせるのだ。

更には毎日健気にポーションを作り、甲斐甲斐しく自分の足で届けに来るのだからそりゃあ人気も出るだろう。


「それを、それをお前は……うわあああん!」


いや泣くなよ……。

確かに……そういうことも当然あるけれど、流石にプライバシーとか考えて欲しい。


「うう……俺らの天使が……」

「あーなんだ。じゃあもう、薬体草とか取ってきてくれないのか?」

「そんなわけないだろう!」

「そんな事をしたらミゼラちゃんが悲しむじゃないか!」

「俺達は……あくまでもミゼラちゃんに笑って欲しいだけなんだっ!」


なるほど。

俺を一発殴りたいくらいに悔しさは募らせてはいるが、何かしようものならミゼラが悲しむ。

やり場のない感情を拗らせているといった状態なのだろう。

仕方ない。ここは一発くらいなら殴られて――。


「はぁ……まったく。何を騒いでいるのかと思えば……」

「ミ、ミゼラちゃん……」

「おかえり。納品は終わったのか?」

「ええ。とっくにね。少し捕まってしまって……」

「あははは……すみません。ちょっと色々聞いてました」


ミゼラの後ろから現れた女冒険者達がなにやらにやにやとしているのが凄く気になる。


「あんまりうちの旦那様をいじめないでね」

「ち、違うんだ! いじめてなんかいない!」

「そうなの? でも、大勢で取り囲んで……暴力は絶対に駄目よ?」

「もちろんだ! 俺らは旦那に暴力なんて振るわねえよ!」

「そう……。ならいいけどね。もし、旦那様が危ない目にあいそうになってたら、助けてあげてね?」

「「「「「もちろんだ!!」」」」」


え、凄い従順。

男達が皆腕を曲げて筋肉をムキっとさせたポーズをとってる。

え、なに? ミゼラファンの決めポーズか何かなの?

あと女冒険者達は俺とミゼラを見てはこそこそ『キャー!』と喜んでいらっしゃるけどなんで?


「ミゼラ? ……一体何を話した……んだ?」


ミゼラに聞いたのだが、なぜか待ってましたと言わんばかりに後ろにいた女冒険者が一歩前に出て目をカッと見開き、


「『俺は、お前を幸せにすると決めた』」キリッ。


……。


「『俺も好きにする。だから……覚悟しておけよ?』」キリリッ


…………。


「『幸せにするよ。約束通りこれから――』」

「やめろおおおおおお!」


ちょ、なんで知ってるの!?

何この羞恥プレイ!

あ、羞恥って周知にかかってるのかな? ってやかましいわ!


キャーキャーと騒ぐ女冒険者に、気の毒そうな視線を俺に向ける男冒険者。

更にはメモに取る奴まで現れてるんだけどなに? なんなの? 後で強請る気なの? いくら払ったらそのメモ燃やしてくれるの?


今日は冒険者ギルドに来てから疑問ばっかりなんだけど。

っていうか、なんで……いや待て俺の事じゃあないかもしれない。

でも……心当たりしかない。


「ミ、ミゼラさん……? 一体どんなお話をしてたの?」

「旦那様に『一生の誓い』を使うまでの流れを一通りなのだけれど……駄目だったかしら」


心底驚いたご様子のミゼラさん。

駄目……ではないんだけど、良くはないんだよぉ……。

ミゼラの心の中にひっそりと鍵をかけてしまっておいて欲しかった……。


「やばい超格好いい。イケメンに言われたいわよね」

「そうね。隼人卿とかに言われたいー!」


ごめんねイケメンじゃなくて!


「っ……! よし、お前、一発殴りたかったんだろう? 今なら殴られてやる。出来れば気絶して目覚めたら記憶が無くなってる感じで頼む。さあ!」

「だ、旦那。落ち着いてくれ! そんな調整なんか出来ねえし、気持ちはわからなくもないが、俺らは旦那を殴れねえ! ミゼラちゃんの前で誓ったからな!」


ちくしょう、こいつら使えねえ!

どうする? どうすればこの羞恥心に耐えられる!?


「そうか……俺じゃなくて、ここにいるやつらの記憶を消せばいいのか……」


そうと決まれば話は早い。

今すぐ記憶を消す薬を作ろう。

材料は……ドクテング、シロドク、スイセン、カエンキノコでいいかな?

たぶんこれで作れるよね。

駄目だったらレインリヒ様に土下座して媚びへつらって靴を舐めてお願いしよう。


「駄目よ旦那様」

「止めるなミゼラ! 記憶を消さないと、俺が! 恥ずかしさに殺される!」

「……私には大切な思い出なのだから、私の記憶まで消えたらとても困るわ。それに……私には世界で一番素敵だったわ」


ミゼラのその言葉に一瞬時が止まり、俺はミゼラの顔を見る。

ん? と、笑顔で澄ましたような顔をして、俺の腕を取るミゼラ。

そして時が流れ始め、女冒険者は最大の『キャー!』を、男冒険者は最大の『ア゛ア゛ア゛ァァ!』を叫んでいた。


「さあ、帰りましょう旦那様」

「いや、収拾つけなくていいのかよ……」

「いいのよ。明日には収まっているでしょう。夕食の準備もあるし、帰りましょう」


俺の腕から一度手を離し、いつもの帽子をつける際にさりげなく耳が真っ赤になっている事に気づく。

それを見て小さく笑うと視線に気づいたのか顔まで赤くなっていくが、冒険者達には背を向けていたので気づいたのは俺だけだろうな。


まあ、ミゼラが世界で一番……なんて言うのなら恥ずかしいくらいはいいかと息を吐き、寄り道デートをしつつ家へと帰るのだった。




「……あの、指輪のデザイン……」

「こいつら……絞めよう」

「ああ……そうしようか」


後日、こってりと二人に絞められた冒険者たちがより多くの上質な材料を持って来て、とても豪華な指輪を作る事になった。

もちろん、俺も忘れてしまったので謝罪の意味を込めて料金は取らず、奥さんのほうには追加でイヤリングもプレゼントして事なきを得たのであった。

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― 新着の感想 ―
顔中の穴という穴からザラメ出てきそうな甘さである
[一言] >「止めるなミゼラ! 記憶を消さないと、俺が! 恥ずかしさに殺される!」 薩摩訳「おいは恥ずかしかっ!生きておられんごっ!!」
[一言] 錬金薬で ・オナベニナール  コカンの紳士がなくなって、マッチョなおなべに。 ・ヤラナイカ  その手の人が敏感に感じる、特殊なフェロモンを発するようになる。 ・ミジカクナール  ご想像…
2021/01/11 12:56 退会済み
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