9-1 砂の国ロウカク マイフレンド
9章スタートです。
今日はミゼラと二人で王城のとある一室へと招かれていた。
アイリスを経由し、俺へとコンタクトを取ってきたのだが、俺は喜んで承諾し、ミゼラも一緒に連れて行くと返信したのである。
そして訪れた一室のゴミの山、もとい大事な研究の末に打ち捨てられた失敗作の山に囲まれた中で、俺達は机に広げたそれぞれの錬金の成果について熱い談義を交わしていた。
「外装はとても重要なのデェェェス!」
「そうだな。見た目が納得いっていないと、なんかしっくりこないんだよな」
「そうなのデェェス! それをわからずあいつらときたら、『性能は変わらぬのだろう?』とか、ぶっ殺してやろうかと思ったデェェス!」
チャキっと据わった目で棒状の何かを取り出すエリオダルト。
鑑定してみると『エリオダルト専用圧縮魔法杖』と出た。
……専用武器か? 戦うのかエリオダルト……。
「不完全品を世に出されるというのは末代までの恥だというのに、それがわからない奴等が多すぎマァァス!」
「それもこれも、師匠が頼まれてから作るまでが遅いからでしょう……。チェスが再三そろそろ作ったほうがいいと言っても聞かないんですから」
「錬金とはひらめきデェス。ひらめきに勝る価値が依頼にはなかっただけデェェス!」
あーそれもわかるわ。
とはいえ仕事としての依頼ならばしっかりとやるべきだと思うけどな。
それだけ必要とされてるって事だし。
とは言え、やる気が出ないならしょうがないとも思う。
俺もやる気が無いときはやりたくないし、なによりも効率が悪いしな。
「それに、何時でもいいと言ってきたじゃないデェスカァ」
「だからといって、一年も二年も放置していいものではありませんよ……。ねえミゼラちゃん」
「え、ええ……」
「掃除が終ったら一緒に女子錬金談義をしましょうね!」
「ええ。それは勿論。ただ……終わるのかしら」
ミゼラとチェスちゃんが掃除をしながらまだ終わる気配の無いエリオダルト曰く失敗作の山を見てため息をついた。
ちなみに、俺が来たときはかろうじて足の踏み場がある程度だったが、これでも片付けたらしい……。チェスちゃんが。
エリオダルトは片づけが下手どころか邪魔にしかならないらしく、チェスちゃんに言われて俺に何を見せるかでずっと悩んでいたそうだ。
「なあ、俺も手伝おうか?」
「いえ、貴方は師匠の相手をしていてください……。そっちの方が助かります」
チェスちゃん……まだ小さいのに随分と苦労していそうだな……。
それに比べてこのおっさんは……きょとんとした顔をしていたのに俺が顔を向けると満面の笑みへと変わる暢気さである。
「そういえば、バイブレーターの構造を教えてくれて良かったのデェェスか?」
「ん? ああ、色々見せてもらったし。それにエリオダルトなら大方気づいてたろ? そこに注釈をいれたくらいだし、エリオダルトならいずれこれをもっと昇華させてくれるんじゃないかなって」
「Oh……。確かに興味はありますが、ワタシとしてはマイフレンドが更になにを作るかの方が気になりマァスね。それに、ワタシの専攻分野は、『属性』デェスからね」
「専攻分野が属性?」
「ハァイ。属性のついた魔石の活用デェェェスねえ」
ぽっと指先から火を出してみせるエリオダルト。
ああ、エリオダルトも魔法使えるんだなあ。
それにしても属性魔石の活用か。
あの空気清浄魔道具も、水と風の魔石、更には聖水を使った属性活用の魔道具だもんな。
「研究すればするほど奥が深いデェス……。最近は魔法との関係性も調べているので、まだまだやる事が多くて楽しみデェス!」
「魔法か……いいな。俺は魔法は使えないからな」
「そうなのデェスか!? 珍しいデェスね。属性適性がないのデェスか?」
「いや、属性適性は光以外あるんだけどな……魔法適性が皆無だったんだよ。正確には使える魔法もあるけどさ」
「ああ、空間魔法デェスね?」
「あれ? 何で知ってるんだ?」
「ワタシは研究者デェスからね。武術大会でのあの一幕を見れば、調べマァスよ」
「なるほどな……」
って事は、やはりある程度には知られていると見たほうがいいか。
それでも何もコンタクトが無いのは、おそらくアイリスのおかげ……ってところだろうか。
……帰りに寄ってアイスの差し入れでもしてやるか。
「ふうむ……属性適性はある、でも魔法適性はないデェスか……」
「ああ。普通の魔法も使ってみたかったんだが……どうにもならないらしい」
「なるほど………………っ」
「ん? どうした? 大丈夫か?」
ぶつぶつと何かをつぶやくと羽ペンと羊皮紙を取り出してなにやら書き始めるエリオダルト。
俺が話しかけても目の前で手を振ってみても一切気づく様子が無い。
「ああ、気にしないでください。おそらく師匠の言う『ひらめき』がやってきたのでしょう。放っておけば、いずれ正気に戻りますから」
「流石弟子。熟知してるな。それにしても凄い集中力だな」
「はい。師匠の集中力はとんでもないですよ。耳を引っ張って大声で話しかけないと気が付きません」
「ははは。そいつは難儀だな」
流石にそこまですれば気が付くよな。
というか、そこまでされないと気が付かないってのは本当にとんでもない集中力か、ちょっとやばい類だと思う。
「言っておくけど……旦那様も変わらないからね?」
「え?」
「旦那様も集中しだすと膝の上にシロが飛び乗っても、レンゲさんが抱きついても、ウェンディ様が胸をおしつけても気が付かないし、ソルテさんが体を揺すっても、アイナさんが飲み物を差し入れても気が付かないじゃない」
「はぁぁぁ……貴方も天才側でしたか……」
「いや、エリオダルトと一緒にされても困るんだが……」
今日話してみてエリオダルトは本当に天才なのだと確信した。
数多くの実験、着眼点、応用力、探究心、さらには自由奔放に錬金だけに情熱を燃やす。
まさしく錬金をするために産まれてきたような男だったし、自分のやりたい事と才能がマッチしている天才だと思った。
「俺はただ元の世界の知識があるだけの、平凡な錬金術師だよ」
「仰るとおりならば、確かにひらめきの部分ではそうかもしれませんが、何かに集中しすぎる事が出来るというのは、間違いなく天与の才だと思いますよ」
「そうね。集中しているときの旦那様は、なんというか追いつけそうもない……遠いところに行ってしまうような感覚を見ているようだったわね」
「とはいえ、世を作るのは天才だけではありません。我々凡人はそれを超える努力をしてみせるだけですよ」
「私は凡人よりも成長が遅いのだけどね」
「いえいえ。ミゼラちゃんは大変な努力家だと聞いております。チェス、努力家大好きです! 一緒にいずれお互いの師匠を超えられるように頑張りましょう! 勿論、ミゼラちゃんにも負けませんからね!」
チェスちゃんが掃除道具を放ってミゼラの両手をぎゅっと握り締め、きらきらとした視線を送っている。
ミゼラは驚きつつも嬉しそうに手を握り返し、こくんと頷いて見せていた。
ライバル……いや、錬金フレンドかな?
なんにしても、同世代で切磋琢磨が出来、同じ話題で話せる相手がいるというのは良いもんだ。
俺も……変だけどエリオダルトと今日話ができて嬉しかったし、楽しかったしな。
エリオダルトが子供のように錬金について話すので、聞いているだけでもためになったし面白かった。
「よし。それじゃあ俺も片付け手伝うかな」
「いえ、お客様なのですし……って、ミゼラちゃんもお客様でした……お友達感覚で頼んでしまってごめんなさいいい」
「構わないわよ。お客様よりも、お友達の方が嬉しいしね」
「じゃあ俺ともお友達って事で、ここらに俺に知られたらまずいものはあるのか?」
「あ、いえ、全部失敗作と言っていますし、大丈夫ですけど……」
「じゃあ問題ないって事だな。とは言え、分類別にはしたほうがいいよな……」
ってことで、吸入で次々に魔法空間へと収納。
そして、鑑定を用いて種類別にして、それぞれ別の場所へと集めていく。
「なっ……」
「ん? おーい。なんか請求書出てきたけど大丈夫か?」
「ええっ!? ちょ、見せてください! うわぁ……しかもこれ支払いのやつじゃないですか! 期限? 明日!? ギリギリですー! って、ぎゃあああ!」
焦った様子のチェスちゃんが山を倒してしまって埋もれてしまったので、俺とミゼラが慌てて救出。
掃除が終わり次第支払いを済ませてくるというので、俺達もそのタイミングでお暇させてもらうのだった。
帰り道、アイリスの部屋によったのだがアイリスはおらず、仕方ないのでアヤメさんに預けようとしたのだが……『アイスがあるような気がした!』と、勢いよく扉を開けて自分の部屋に入ってきたアイリスには心底驚かされるのだった。
※
「出来たデェェス! ……おや? ここはどこデェスか? マイフレンド?」
周囲を見回してもマイフレンドもいないデェスし、あの山のようにあった失敗作もありまセェン。
「……師匠の部屋が片付いただけですよ。それと、お二人はもう帰ってしまいましたよ。というか、もう夜です」
「Oh……。それは残念デェス。マイフレンドの意見も欲しかったのデェスが……」
「これは……設計図ですか? うわ、属性魔石もふんだんで複雑な……これ、材料費も結構かかりますし、加工の手間も……。またとんでもないもの作ろうとしていませんか?」
「イェェエエエス!」
「……これ、下手すると師匠が嫌いな軍事転用されるのでは?」
Oh。チェスも設計図からどういうものが出来るのか読み取れるようになったのデェスね。
……そろそろ。真面目に錬金を教えても良い頃かもしれないデェスね。
「HAHAHA-! これはマイフレンドのための個人的な研究デェスから? 国のために作るわけではないのデェス! それに、国に頼まれたらここまで本気で作らないデェェエス!」
「……はぁ。まあ、チェス個人としては構いませんけどね。他の方がいる前ではそれ、絶対言わないでくださいね」
Oh……チェスの目が怖いデェェス。
こういう時は、素直に従うのが良いとワタシも学習していマァス。
「……師匠。今日は楽しかったですか?」
「ハイ! とても、とても楽しかったデェス!」
「そうですか。それはよかったです。……また、お呼びしましょうね」
「ノンノンノーン。今度はこっちから行くのデェェース! この試作が、完成しだいアインズヘイルに行きマァス!」
「わかりました。それでは、必要な材料を出してきますね。幸いにも、片付いたばかりですから。すぐにお出しできますよ」
OH。それはありがたいデェェス!
この情熱が冷める前に、早く製作に取り掛かりたいデェェス。
そしていち早く、マイフレンドに試してもらうのデェェス!
それでは9章やっていきましょう!
章の名前に特に意味はありませんが、町や人が増えてくるとどこだっけ? ってなるので、分かりやすくしました!
基本的に街の名前や人の名前はフィーリングとぱっと浮かんだものをつけていますので……。
日本名っぽいですが、アマツクニなどとは深く関係はありません。たまたまのはずです。




