8-24 アインズヘイル記念祭 余韻
鍵をかけた錬金室の中、ソファーに横たわりその上にはミゼラが顔を寄せて横になっていた。
「無理……休んでるのに一歩も動けない……」
ぐでーっと俺の上で潰れているミゼラが、まだ体に熱さを残しつつ呟いた。
「私初めてってわかってたわよね? ねえ、張り切りすぎじゃないかしら?」
「ん? ……あー……」
「……も、もしかして、あれで抑えてたつもりだったの? どこの絶倫皇なのよ……」
絶倫皇って、ヤーシスが俺が家を手に入れた際にくれたお薬の元のアレな人だったよな?
ミゼラまで知ってるって本当に有名なんだな……。
「……ねえ、私これからどんな顔をして錬金室に入ればいいのかしら? 初めてってベッドでだと思い描いていたのだけれど……」
「それはすまん……。でも、ミゼラもいいって言ってたじゃないか」
「それは……そうね。うん。雰囲気に押された私のせいでもあるわよね。でもね?」
ぴっと扉の方を指差すミゼラさん。
「ご主人様いらっしゃらないのですか?」
「ミゼラもいないっすよ? 一緒に錬金してるんすかね?」
「……集中してるんじゃない?」
「主君ならともかく、ミゼラは声に気づくだろう。まさか危険な薬品を作り倒れているとかじゃ……」
「ううん。かすかに中から声が聞こえる。はぁぁぁぁぁぁ……ミゼラまで……。主、手を出すのが早い……」
「「「「え?」」」」
それからドンドンと叩かれる錬金室の扉。
いやあ、流石はダーウィンが用意した家の扉だね。
耐久力が高くて頑丈でびくともしてないよ。
「……どうするつもり?」
「どうしよっか。二人で仕事に集中してたことにすれば……いけるか?」
「無理でしょ……この会話もシロに聞かれているようだし、それに私は今腰が抜けて動けないのよ……?」
あー……そうだよねえ。
だからこそ、ミゼラの重みを感じつつ幸せな気持ちでまどろんでいたわけだしね。
「ん……はぁ。やっぱりだめね」
腕をついて立ち上がろうと頑張ってみたようだが駄目だったらしく、また俺の上へと戻ってきた。
一度離れて再度くっつくぱいの感触が素晴らしい。
「……そういえば、ちょっと体締まってきたのね」
「ん? そうか?」
「ええ……あの時は着替えをしていたみたいだけど、申し訳ないけどちょっと情けない感じだったもの」
嗚呼、懐かしきファーストコンタクトの話ね。
あの時は終わった……と思ったもんだが、ずいぶんと仲良くなれたもんだ。
「まあ、あれだけ皆と鍛錬して、トレーニングもやってるんだから多少なりとも引き締まっては欲しいよなって、くすぐったいっての」
「いいじゃない。動けないし、暇なんだもの」
ミゼラが俺の体を指ですーっと撫でるので、ぞくぞくっと背筋が震えてしまう。
続いて指を立てて足に見立てているのか歩かせつつ小さな声で「てってってっ」と言い出した。
「おおう……」
「びくびくしてる。ちょっと面白いわね」
「こんにゃろめ……。じゃあ俺も」
「ひああああ!」
背中をすーっと指でなぞると、仰け反りながら声を上げ、体を離すことでもう一度柔らかい刺激を味わえたのだがやはり気持ち良、痛い!
「いきなりそんなことしたらびっくりするでしょ!」
いやだからって耳を引っ張らないでくれよ。
それに、先にやったのはミゼラだ!
「じゃあ、やるね」
「え、ちょっとひああああ!」
もう一度、今度は宣言をしてからやってみたらやはりミゼラは体を仰け反らせてしまった。
なるほど。背中が弱点だったのかって、痛い!
「もうやらない? もうやらないって言うなら離してあげる!」
「わかったわかった。やらないやらない」
涙目で俺の耳を抓るように摘み、訴えかけてくるミゼラに根負けしたので今日はもうやめておこう。
……また別の機会で楽しませてもらうけど。
「まったくもう……」
ミゼラは呆れた顔へと変わり、もう一度俺に体を預けるようにして倒れこんでくる。
しばしお互いが沈黙し、聞こえてくるのはドアをたたく音とウェンディ達の声。
そんな中、ミゼラが先に口を開いた。
「……それで、なにがあったの?」
「なにって?」
「隠さなくてもいいわよ。領主様と、なにかあったんでしょ?」
俺は少し考え込んでしまった。
ミゼラに話すべきか黙っておくべきか。
当然、ミゼラには知る権利があるだろうが……。
「……ハーフエルフのこと?」
「なっ……」
「わかるわよ。私に遠慮している時点で、私に関わることなんだろうなあって」
あー……。
仕方ない。
そこまでばれているのなら、逆に隠すほうがおかしいだろうと、俺は意を決してオリゴールから聞いた話をしたのだが……。
「ふーん……だから、あんな深刻そうな顔をしていたのね」
「いやふーんって……」
「なに? もしかして不安になっちゃったの?」
ぐぬぬぬ……。
そのとおりですよ……。
俺にあの問題を踏まえてミゼラを幸せに出来るかどうか少し不安になっちまったんですよ!
ほんの少し万が一にもあるかないかの僅かだけどね!
「馬鹿ね……。旦那様は難しく考えすぎなのよ」
「いや、でもさ……」
「変に肩肘張らなくていいの。ありのまま、強引でわがままで、集中したらそこだけしか見えなくなって、その癖他人思いで優しくて厳しい、ちょっとエッチな旦那様のままでいいの」
「褒められてる気がしない!」
他人思いと優しい以外全部褒め言葉じゃないと思うの!
あれ? 俺ってそんな……?
これでもそれなりにいい大人なんですけど……。
「褒めてるわよ。だって、私はその全部を、好きになったんだもの」
顔を上げて微笑みかけるミゼラは見蕩れてしまうほどに幸せそうな可愛い笑顔を浮かべてくれた。
俺がぼーっとしているせいか、きょとんとして首を傾げるミゼラに、思わず顔が熱くなってきてしまった。
「あ、照れてるの?」
「そりゃ好きだって言われたら照れるだろ……」
「そういえば、私はまだ言ってもらってないのよね」
「っ……」
もちろん言葉にして伝えるというのはとても大切ですし、男としてしっかりと言わねばならないのはわかってるんですけども……。
この段取りで言うのは些か恥ずかしすぎやしませんかね!?
「ねえ、言ってくれないの? 皆にはしょっちゅう言ってる癖に……私は駄目なのかしら……」
いじけた様子を見せるミゼラさん。
だが俺にはわかる! 口の端が少しばかり上がっているからな! からかわれていると!
だがしかし! ここで言わねば男がすたる!
「あーあ……もっと頑張らなきゃなのかしら」
「好きです……」
「ん? なあに?」
「好きだよ……。ミゼラの事、好きだよ」
「…………うん。私も好きよ」
たっぷりと目を瞑り余韻に浸るようにしながらも笑顔とともに好意を返してくれるミゼラ。
「ふふ。旦那様顔が赤いわよ?」
「あー……不覚だ」
「あら、いいじゃない別に。旦那様の知らないところをまだまだ私は知りたいわ」
「なんか悔しいな……」
「ふふふ。一本取ったわね。旦那様って結構可愛いところもあるのね」
俺の方が経験の差があると自負していたので、リードをするのは俺だと思っていたのだけどな……。
とはいえ、こちらにだってまだ持ち球はあるのだよ。
「……ちなみに、ミゼラもさっきから顔真っ赤だけどな」
「えっ!? いつからよ!?」
「全部を好きに――のあたりから」
そりゃあもう真っ赤でしたよ。
先生をお母さんって言ってしまった、小学生くらい顔真っ赤でした。
「嘘よ嘘ね。そんなわけないもの!」
「いーや。本当だよ。アイナの髪色くらい赤かった」
「そんなわけないでしょ! 一本取られたからって悔し紛れに言っているのでしょう!」
「本当ですー。鏡見せようか?」
「いいわよ! 見せてみなさいよ!」
どら見てみんしゃい!
耳まで真っ赤のご尊顔をー!
「っ!」
「ほれー」
「い、今赤くなったのかもしれないじゃない」
「往生際が悪いなあ……。ミゼラは肌が白くて綺麗だからわかりやすいんだけどなあ」
「んんんぅーっ!」
悔しそうに頬を膨らますミゼラに、よっしゃ一本取り返した! と喜ぶ俺。
このまま追撃の手を忘れる俺じゃあない。
「よしよし。ミゼラちゃんは可愛いねえ」
「うるさい……。頭、撫でないでよぉ……」
さらさらと流れていくミゼラの髪が、汗ばんでいるせいで少しさわり心地に違和感を感じる。
とはいえ、それ以上に幸せな温もりを感じるので、お風呂は後の楽しみにし、今はその感触をしっかりと確かめるように慈しむのだった。
「……あの、ご主人様ぁー?」
「あー……寝息立ててる。寝てる……」
「「「「「「……」」」」」」
5人が扉の外にいた事をすっかり忘れ、俺とミゼラは疲れた体を癒すために、そのまま寝入ってしまいました。
その日の夜。
浴衣でいたしていない事に気づいて夜中におそるおそる求めてみると、いつも以上に皆が燃えているようで、流石に次の日は俺が白く燃え尽きたため、完全にお休みにしたのでした。
これにて、8章を終わります。
X'masのSSは次の閑話を投稿する際に移動する予定です。
よろしければ、まだまだお付き合いくださいな!




