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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
213/444

8-23 アインズヘイル記念祭 王国の病魔

※ ちょっと暗いお話が混ざります。【】


※ 感想を見て説明不足があった事を実感しましたので修正しました!

  ・現王が発したようになっていましたので、前王と現王で区分しました。

きっと朝まで飲んでいたのだろう酔っ払いが、酒瓶を大事そうに抱えて道の端で寝ている横を通り抜け、片付けを終えた俺達は家へと向かっていた。

もう昼過ぎなのだが、昨日までの活気が嘘のように日常へと戻るのに少しの寂しさを感じてしまうな。


その後は普段どおり。

アイナ達はクエストの準備を、ウェンディとミゼラが家事を行い、シロはどこかへと散歩へ、そして俺は錬金室で仕事をこなしていると来訪者が訪れた。


「お兄ちゃん入るよー?」

「んー? どうぞ」

「わーい。あ、お仕事中だった? ごめんね?」

「いや、そろそろ休憩する予定だったからちょうどいいよ」


誰か確認しなくとも、俺のことをお兄ちゃんなんて呼ぶのはオリゴールしかいないよなと思っていると、案の定オリゴールがリュックサックを背負ってやってきた。

んんーっと同じ姿勢だった為に固まってしまった筋肉をほぐしつつ体を伸ばすとごりごりと音がなる。


「あはは、昨日まで大忙しだったんだから、今日くらい休めばいいのに」

「そうしたいところだったんだけどな……ヤーシスが休ませてくれないの……」


お祭り期間中はバイブレータの生産もストップしてたからな。

他領からのお客さんがわざわざ受け取りに来たらしく、ストックが無くなってしまいそうだったらしい。


既存の物ならば贋作(マルチコピー)既知の魔法陣エクスペリエンスサークルですぐに作れるのだが、そろそろ新作をと求められたので、現在開発中という訳である。

ちなみに、今の俺にも必要な純粋にマッサージ機能が強めの物の方が好まれるそうなので、自分の分を含めて開発中だ。


「あははそっかそっか。でも、更にごめんねなんだけど、ボクもお仕事のお話なんだよね。メイラちゃんから聞いたけど、お店任せちゃって良かったの?」

「ああ。それでこの街がもっと良くなるならそれでいいよ」

「ふーん。本音は?」

「自分でやるのは面倒くさい」

「あははは。相変わらずだねえ。でも、こちらとしては雇用が増えるのはありがたいよ」


愉快そうに後ろで手を結び、ゆっくりと俺のほうへ緩急をつけて前に来るとくるりと後ろ向きになり、背負っていたリュックサックを前方へと持ち直した。

俺は意図を察して椅子にもたれかかると、そのままお尻から飛び込んでくるように膝上に乗るのでそっと腰を抱き止める。


「ふふふ。ありがと」

「いえいえ。お前もお疲れだもんな」

「うん。疲れたよぉ……」


ぐでーっと俺に体重をかけるオリゴールの肩を軽く触ると、やはり大分凝っているようだ。

せっかくなので軽くほぐしてやりながら話を聞こう。


「あー……メイラちゃんに聞いたけど、いい腕だねえ……。テクニシャンだ」


何か別の意図を含んでいる気がしなくもないが、小さな体ながらも大人なので疲労は溜まりやすいのだろう。

体に触れていくといたるところから疲労が溜まっているよー! という自己主張が強かった。


「それで、その確認に来たのか?」

「うん。あとは約束を守りに来たんだよ。お仕事を頼んだときに、お礼はするって言っただろう?」

「あー……そうだっけ?」

「言ったよー。お礼はするから、よろしくねーって。で、何がいいかなー? と思ったんだけどさ」


よっとリュックサックの中身を開くと、薄い雑誌くらいの厚さの随分と年季の入った本を取り出すオリゴール。

一体何の本だ……って、これは……。


「最近足しげく図書館に通っていたろ? 領主の権限で貸し出し履歴を見れば何を求めていたかくらいはわかるもんさ」

「お前、これ……」

「うん。図書館にはない真実を記したこの国の黒い過去だよ」


そういって俺に本を手渡してきた。

タイトルは『ハーフエルフの真実』。

どう見ても直球なタイトルに、緊張からか喉を小さく鳴らして俺はゆっくりと読み進めていった。


「笑えない話さ……。本当に……」


読み進めていくと、登場人物は三人に絞られていた。

有能な男爵の男と、男爵を支える妻のハーフエルフ。

そして、そのハーフエルフの美貌と才覚に一目惚れをした若き王族の男だ。


【出会いは男爵の寄り親である侯爵家でのパーティだった。

そこで男爵の妻に一目惚れをした王族の男がそれから数多くのアプローチをするのだが、夫のいるハーフエルフはまさしく貴族の妻らしく軽やかにかわしていた。


男爵はやがて妻の手助けもあって子爵となる。

やがては一代で伯爵となりうる事も可能なほどに有能で、領民には愛されながらも、納税は年々増えるという国にとっても有益な男であった。


しかしいくらアプローチをしても靡かぬハーフエルフに痺れを切らした王族の男が手を回した。

ハーフエルフには特徴があった。

寿命が人間の約二倍であり、その分スキルの成長が遅いこと。

スキル抵抗が高いという長所には触れず、それらがあまり浸透していなかったことを良いことにこう宣言したのだ。


『ハーフエルフは人族に比べスキル成長の乏しい劣等種である。その美貌は他の有能な種を誘惑し利用するためのもの。ゆえに、わが王国の貴族は妻に取ることも、重用することも禁ずる』


こうすれば、夫は妻を捨てざるを得なくなるだろうと。

そして行き場を失ったハーフエルフの女を自分が救う形で惚れさせようとしたのだろう。

その後に宣言など、簡単に無かった事にも出来ると考えて。

浅はかな考えである。

そんなことになるはずもないのに、恋は盲目の最たるものということだろうか。


当然、王族の男の夢は叶わなかった。

子爵は国よりも妻を取ったのだ。

他国に逃げることを決めた子爵だが、親しまれている領民にはしっかりと真意を告げることにした。


すると子爵を慕う領民の多くが住み慣れた家を捨て、子爵についていくと言った。

その想いに……子爵と妻は応えてしまった。

二人きりであれば、逃げ切れたかもしれないというのに。

多くの民を連れて国外に逃げるのは、速度が遅くなってしまうと知りながらも彼らは自分を慕う民を見捨てられなかったのだ。


そして、子爵と妻を見張っていた斥候から王族の男へ知らせが入ると王族の男は権力を行使して軍を送った。

その事に気がついた子爵は民を逃がそうと軍へ向かって行った。

子爵に続いて軍を迎え撃とうとした兵はいたが、多勢に無勢……。

数も当然のことながら、田舎の警備兵と王都で鍛えられた騎士ではどうすることもできず、子爵とハーフエルフの妻は捕まってしまう。


領民は散り散りとなりながらも、その多くが逃げ延びることは出来たようだった。

そして、子爵は処刑された。

彼の最後の言葉は……。


『民は新たな地で新たな主を仰ぎ、幸せに暮らせるだろう……。良き妻、良き民に慕われる男になれた。私は、幸せだった』


子爵は安らかな面持ちで首を刎ねられたのだった。

そして子爵の首を持ち、ハーフエルフの妻の前に持って行く王族の男。


『これが最後だ。私の物になれ。断れば……力ずくでも物にするぞ』


妻の前に夫の首を持ち、心を折るつもりだったのだろう。

だが、安らかな顔で逝った夫を見て妻はその首をぎゅっと抱きしめ力強くこう答えた。


『お断りです。私が生涯愛した男はただ一人。私と夫の誇りにかけて……貴方に捧げる物は何一つありません。私も……夫の下へすぐにでも自らの命を絶ちましょう』


その言葉を聴いて王族の男は惚れた弱みを捨て、普段の冷酷な瞳へと変わった。

そして、ハーフエルフを無理やりに組み伏せる。

だが、そこで奇跡が起こった。


ハーフエルフの体が光を纏い、王族の手を弾き飛ばしたのだ。

それはまさしく奇跡。

神様からの、加護であった。


一生の誓い(オンリーワン)


生涯愛した男以外には体を許すことがなくなる。

邪な考えを抱くものを、排除する力を有するもの。


触れられなくなったと気づいた王族は、怒りのあまりハーフエルフを殺してしまう。

夫の首の横でハーフエルフは安らかな顔で一生の眠りについた。


秘密裏に動いていたため、王族の男のうつつを抜かした話は誰も知るよしのないはずだった。

ただ子爵が反逆し、その責で妻共々殺したという形ですべてが終わる予定だった。

誤算だったのは、筆者の私が全てを見ていたこと。

そして、私がその王族の敵対派であったことだ。


私はすぐに噂を広めた。

自身の陣営の利のために。

そして……内乱が起こった。

ハーフエルフの奇跡はその種全てに付与されたらしい。

その事実から、この噂が真実であると広まったのだ。

その内乱は周辺の小さな国をも巻き込み、大戦火を巻き起こした。


激戦の末に我等が勝利を収め、優しく賢い良政を敷く王族を王へとすることが出来たのだ。

当然、我らは今回の責を取らせ男を処刑するものだと思っていたが……我等の王は優しすぎた。


『あの家は必ずこの国にとって病魔となりましょう。今のうちに取り除くべきです!』

『……余はもうこれ以上身内で争いたくはない。無益な血を流すことを望まぬ。家族も守れずして、民を守れる訳がない。故に……余は小を切り捨てる』


そして……全ての責を子爵とハーフエルフのせいにし、公爵家を滅ぼさずに末代まで王族にすることはないという軽い罰を与えるに留まったのだ。


そこから、王は良政を敷き民からの信頼を勝ち取っていく。

長きに渡り毎年のように争っていた帝国との和平。

税の緩和、貿易の拡大などこの国は潤っていった。


だが、小を切り捨てた王はどこまでも王であった。

家族を守ると決めた王はこの国からハーフエルフの記述があるものを全て無くし、持っているだけで大罪として禁書扱いにした。

残ったのは神の奇跡を記した書を処分すれば天罰が下ると、手出しが出来ない教会に保存された書物のみとなったのだ。


だが、その教会にも王は手を打った。

処分は出来ぬと頑なな教会に対し、保存は許すが、非公開書物とすること。

その代わりに、王国内での自由な布教活動、王国からの圧倒的な支援等、破格の優遇を約束されたのだった。


平和な世界、幸せな生活で噂は沈静化し、王の目論見どおりの結果となるだろう。

だがいまや、関係のないハーフ種にまで被害は拡大の一途を辿り始めている。

混血は、悪だと……王都を中心に田舎にまで理由もなく噂が悪化し、伝わっているのだろう。


……私には、これで良かったのかはわからない。

現在、多くの民は幸せに暮らしている、我々の理想は確かに叶った。

皆が笑い、飢える者がいなくなる世界をと望んだ結果大きな成果は得られている。

だが……罪もないハーフエルフが迫害されたまま、その上に成り立つ幸せは……本当に我々が目指した理想であったのだろうか。


……この本もいずれ見つかり処分されることになるだろう。

だが、真実を消してしまう訳にはいかない。

万が一の可能性にかけて、私はこの書を残すことに決めた。

まだ見ぬ未来に結末を預けることをふがいなく、また申し訳なく思う。】


「……」


俺はゆっくりと本を閉じた。


「……どうだった? 真実を知った感想は」

「これが、真実……なのか?」

「うん。……この街は戦火に村を焼かれ、住むところを無くした者達が作り上げた街だからね……。いわば、この街こそが証拠だよ」

「でも……筆者が作り上げた話って可能性もあるんじゃないか?」

「勿論確証はないけどね。でもそれはないと思うよ。……それを書いたのはボクのお父さんだから」


それを聞いて、妙に納得してしまう自分がいた。

オリゴールの領主としての仕事にかけては至って真面目な姿を思い浮かべ、信用に値すると思ってしまったのだ。


「……数十年だぜ? たったそれだけで……事実を忘れ、ハーフエルフが劣っているだ、悪だなんて間違った認識がまかり通るんだ。人は自分達の幸せの前にはなんて薄情なんだろうね……」

「……本当に、笑えない話だな。今の王様は何も思わないのか?」

「どうだろうね。今の王様も当時は小さな子供だったし、国が良くなっていくという前王の良い所しか目に映らなかったのかもしれないね……。お城の中でぬくぬくと育っていれば、消し去られていく歴史に気がつかなかったという可能性だってある。現王の兄はそれに気づいたばかりに公爵に狙われて王家から出て行かざるを得なくなったわけだしね」


現王の兄って、確かアイリスの親父さんだよな?

王位継承権を捨てて家族と共に雲隠れしたっていう……。


「……悪い王様ではないんだよ。前王の政治を引き継いで民からは慕われているし、税金だって安い。国防にもお金を割くし、スラムの改善にも手を入れている。事実飢えて死ぬ民は激減しているし、他国との関係も悪くはないんだ」

「……それだけ聞くと後世にまで語り継がれそうな良き王だな」

「そうだね……だからこそ、病魔にも気づいてほしいんだけどね……。気づかせられる人がいないんだ。中枢には公爵の息が掛かっているし、唯一進言出来そうだった騎士団長も今はいないし。アイリスちゃんも動いてはいるようだけど……分の悪い賭けになってしまいそうだからね」


でもね、とオリゴールは続ける。


「ま、ボクらも指を咥えてただ僅かな希望を求めて待つだけじゃあないさ。気づかせる人がいないならボクがやる。ミゼラちゃんも、これから苦しむハーフエルフちゃん達も皆救ってみせるよ」

「お前……戦争でもする気か?」

「あははは。流石にそれはないね。無駄な血を流す気はないよ。……あっちから仕掛けてくる可能性はあるかもしれないけれど、それでもあくまでも平和的に、解決させてもらうのさ」


オリゴールが本気の悪巧みをする顔になると、まるでダーウィンみたいだなと思ってしまう。

でも、それを聞いてほっと息を吐いた。

戦なんてのは……無いほうがいいに決まっている。

この街の……自分の知っている誰かが死ぬなんて、考えたくもない。


「ボクらは仲間を見捨てない。ボクらは真実を守り抜く。今までも、これからもね。さて、これはボクの宝物だからね。持って帰らせて貰うよ。お兄ちゃんの家で見つかると、お兄ちゃんが処罰されちゃうかもしれないからね」


ぴょんっと俺の膝上から降りると同時に、本をリュックサックへと仕舞うオリゴール。


「お前は大丈夫なのか?」

「はっはっはー。エッチな本と一緒に隠しておくから大丈夫さ! ボクの隠蔽は完璧だからね!」


それは……多分ウォーカスさんやソーマさんにはばれているんじゃないだろうか。

そう思いつつ、去って行くオリゴールを見送って天井を見上げ、大きくため息を吐いて目を瞑った。


原因は王族の公爵家か……。

公爵家ねえ……騎士団長の時の黒幕も確か公爵家だったな……。

……愛し合った二人は、最後は安らかな表情だった、幸せだったというが……やるせないな……。

二人は本当に、こんな結末で幸せだったのだろうか……。


「……旦那様?」

「っ……どうした? ミゼラ」

「いえ、なんだか顔色が悪そうだったと領主様から言われて心配で来たのだけれど……大丈夫?」


俺の顔色を見るや横に来て額に手を当ててくれるミゼラ。

なんでだろうな……その優しさに、ここに来たばかりの時のミゼラと比べて、回復し元気でいてくれている事に目の奥が熱くなってしまう。


「熱は……なさそう、きゃっ」


思わず、座ったままミゼラを強く抱きしめた。


「ちょ、ちょっと……どうしたの?」

「悪い。ちょっとだけ、このままで」

「…………いいけど。ちょっとだけよ……?」

「ああ……」


ミゼラもそっと俺の背中に手を回し抱きしめ返してくれる。

胸元に顔を寄せると、少し落ち着きのない心音がはっきりと聞こえる。

なんだかそれが……とても、心地の良いものだった。


「もう……本当にどうしたの?」

「ミゼラ……俺さ、改めてお前を幸せにするって誓うよ」


もう一度、心から。


「……そんなの。言わなくても大丈夫よ」

「うん。でも、言いたくなったんだ」

「そう……。でもね、そんなに気負わなくても構わないわよ」

「え……?」


ミゼラが俺から手を離したので顔を上げると……。


ちゅっ。


「もう、幸せだもの」


頬に手を添えられて一瞬、唇と唇が触れ合ったと思った矢先に離れた後、ミゼラが顔を少し赤くしながらもにこりと微笑んだ。

俺は少し呆けた後に立ち上がってミゼラを強く抱きしめる。


「え、え? ちょっと、きゃぁ……」


そのまま俺はミゼラを抱きかかえ、ソファーにそっと下ろして顔を近づけて俺から口付けを返した。


「んんっ……はぁっ」


唇を離すと、まだ緊張しているのか体が強張っているミゼラ。

その姿が愛しくてもう一度唇を押し付けると、しっかりと受け止めてくれる。


「ん、ちゅ……っぁ……ん、ふー……」


口付けの合間に甘い吐息が漏れ出し、とろんとした瞳が俺の瞳を力なく見つめ返していた。


「……ミゼラ。いいかな?」

「ぁ……。うん……いいわよ。いっぱい、幸せにして」


俺は錬金室に鍵をかけ、ゆっくりと優しくミゼラの上に覆いかぶさるのだった。

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― 新着の感想 ―
人間って、感じが良いな
[一言] >余はもうこれ以上身内で争いたくはない。 これは私情。 >無益な血を流すことを望まぬ。 これも私情。 この王の言う無益とは「自分にとって」という話。決して「国にとって」ではない。 国で言え…
[気になる点] 激戦の末に我等が勝利を収め、優しく賢い良政を敷く王族を王へとすることが出来たのだ。 当然、我らは今回の責を取らせ男を処刑するものだと思っていたが……我等の王は優しすぎた。 『あの家は…
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