8-20 アインズヘイル記念祭 三日目その1
あけましておめでとうございます!
新年一発目!
よろしくお願いします!
今日で祭りは終わり……と思うと、なんだか感慨深くなってしまう。
準備からなにから、色々な事があったなあ……。
今、目の前で真っ赤になり小さく縮んでしまっているミゼラを見てもそう思うよな。
「うふふふ。やっぱり、私の言うとおりになりましたね」
「んー。シロもまあ……わかってた」
状況的には顔を真っ赤にしたミゼラを、皆がにやつきながら取り囲んでいる感じだ。
朝からそわそわしていたミゼラなのだが、どうやら昨日の出来事をいつ言おうか悩んでいたらしい。
ついつい言うタイミングを計っていたら遅れてしまい、とうとうテントまでやってきてから思い切って言ってみたらこうなったのだ。
「おめでとミゼラ! でも、そうよねえ……まあそうなるわよね」
「そうだな。なるべくしてなったというか……。ともかく、おめでとうミゼラ」
「自分は大歓迎っすよー! ちっぱい連合とおっぱい同盟に対抗すべくぱい連盟を結ぶっすよー!」
「はいっ……はいっ……。ありがとうございます……っ!」
ミゼラは耳まで真っ赤にしてぺこぺこしているのが、愛らしいなあ。
ただ、ミゼラは肌が白いから、余計に顔の赤らみが目立つのだが……もうこれ以上赤くなりようがないほどに真っ赤になっていた。
そして今は前夜についての質問を受けるようになってしまっているのだが……大丈夫だろうか。
「うんうん。ミゼラもぎゅってされたんですね。私もされましたよ。こう……息が少し苦しくなるんですけど、それがまた良くて……幸せが胸いっぱいに入ってくる感じでしたよね」
「そ、ソウデスネ……」
「星空の下で街の光を眺めながらの告白とは……ロマンチックだなあ」
「ハイ……」
「ん。みるくせーき美味しかった?」
「アッタカクテ、オイシカッタデス……」
もはや恥ずかしさも限界に到達したのか、普通の質問にまで消え入りそうな片言のようになってしまっている。
「ご主人? ぶっちゃけ昨日はどうだったんすか!?」
おっと、俺のほうにまで来たか。
まあミゼラの今の状態じゃあまともに答えられそうも無いしな。
「んー? 可愛かったぞ。こう……甘えてくる感じで」
「ほう……それはまた、愛らしいなあ」
「もー。そっちじゃないっすよー! ほら、ご主人の得意分野があるじゃないっすか!」
得意分野って……。
いや、何の事かわかっちゃう自分がいるんだけどさ……。
「いや、してないけど……」
「ええ!? 昨日してないんすか? ご主人が!?」
「どういう意味だそれ……。普通に街を見ながら話しただけだよ。寄り添いながらな」
「っ!? 旦那様! それ以上は言わないで!」
「わかってるよ。二人だけの秘密だもんな」
「それを言ったら何か意味深になってもっと怪しくなるじゃない!」
いやあ、離れたくないからって、ミルクセーキを取りにいかないでおねだりした事は話してないぞ。
だからセーフだ。
……まあ、この調子で色々根掘り葉掘り聞かれていれば自分からポロっと言ってしまいそうだけどな。
「それじゃあ今日はどうする? 私たちと一緒に主様とお祭り回る?」
「そうだな。ミゼラは会議で辞退していたが、こうなったのならば平等に行こう」
「い、いえ……私は……」
「たはー!! 昨日でお腹いっぱいって事っすかねー!?」
レンゲはぱい連盟ができた事が相当嬉しいのかずっとテンションが高い。
というか、レンゲってたまにおやじみたいになるよな。
それとウェンディも上機嫌でうふふと微笑み続けているのだが……ウェンディはどうしてなのだろうか。
「ミゼラ。この前話したことが現実になりそうですね」
「ウェンディ様!? こ、この前のって一緒に……」
そこではっとなって俺のほうを見るミゼラ。
俺にはいったい何のことだかわからない。
……わからなかったのだが……ミゼラの反応とウェンディの微笑みから察するにきっとエロイ事だ。間違いない。何をしてくるのか楽しみだな!
「ねえ何でニヤけたの!? しないからね!」
「ええー……」
「ええー」
「ウェンディ様も残念がらないでください! というか、何でウェンディ様が積極的なんですか!?」
「ご主人様が喜ぶからですけど……」
「あなたの基準はそこなんですか!? もっと、恥じらいとか、まともな倫理観は……」
「勿論ありますけど……。ご主人様が喜ばれるのであればそれが一番です」
口をぽかーんと開けたまま固まってしまうミゼラ。
それとは対照的に、俺とウェンディはニコニコ笑顔である。
「……私、決断を誤ったのかしら」
「うふふ。本当にそう思っていますか?」
「……いいえ。これもきっと、徐々に慣れていくのでしょうと思っています」
「その通りですよ。すぐに慣れます」
「それが、ここの普通」
「はあ。普通が素敵だと思ったのに、どうして一番身近な場所が特殊なのかしら……」
そんなことはないはずだ。
俺は普通に暮らし、普通を愛する普通に幸せを求める男だもの。
……求めている時点でだめなのかもしれないけど。
※
先ほどまではきゃっきゃきゃっきゃと色めきたっていた俺達だが、お祭りが始まると途端に全員が真面目に仕事をし始めた。
オンオフがしっかりしているというのは、働くに当たって大切なことだと思う。
だが……。
「はい! お二つですね! それでは1200ノールをご準備の上で左にずれてお待ちください」
「二つ注文入ったっすよー! あ、こちらお釣りの800ノールっす!」
「ソルテ! 材料追加しておくぞ!」
「ありがとう! アイナ、出来たの持っていって!」
「ああ。わかった。主君のほうも出来たみたいだな」
「お待たせしました。棒が喉に刺さらないように気をつけてくださいね」
列が! 途切れない!
一体何がって……昨日のうちに冒険者には知れ渡っているし、あの出来事でかなりの注目を得たらしく、アインズヘイルの住人達の多くが訪れてくれているみたいだ。
更には列が列を呼ぶ法則だ。
人気があるのならば、食べてみたいと思うのが人の心理だと思う。
しかも、特別高いわけじゃないのだから尚更だろう……。
「ん。最後尾はこっちじゃない。あっちの角を曲がった先」
「はーい! 最後尾はこっちにありますよー!」
今や列の最後尾はここから見えない。
それどころかセレンさんが手伝ってくれるまでになっているのだ。
ちなみにシシリア様はアイリスと後ろで優雅に紅茶を嗜んでいる。
流石に二人に手伝え! とは言えないが、護衛はアヤメさんが一人で担う代わりにセレンさんを貸してくれたのだ。
「終わらないよう……終わらないよう……」
「主様泣き言を言わないで、手を動かして!」
「動かしてるよう……腱鞘炎になりそうだよう……」
今日何個作ったかも覚えていない。
もう見なくても完璧に作れるくらい、極めてしまっているのだ。
手の感覚だけで、どこが太くどこが細いかもわかってしまう……。
「泣きたいのはこっちなのよ……。せっかく、せっかく今日は主様とお祭りを回れると思ったのに……。このままじゃお昼休みも取れないわよ……」
「仕方ないさ。休みを取っていたらこのお客さんの数は捌けないからな……。食べられない人が出るのは可哀想だ」
「そうだけどぉ……。うう。今日は主様とどうしても見たいものがあったのに……」
ソルテが悲しげに憂いているのだが、手はしっかりと動いているのがなんとも言いがたいところだ。
それにしてもそんなにも見たいものがあったとは……。
一体なんだったのか気になってしまうな。
だが、確かにこの感じだと休みを取っている暇はないな……。
「ミゼラも残念だったなあ……せっかくの機会だったというのに」
「私は別に……色々な人に声をかけて貰えるだけで十分よ。皆優しくて……でも、列が止まっちゃうのは困るわね……」
わたあめを受け取りに来たミゼラは困るとは言いつつも嬉しそうである。
昨日の事件が原因なのだと思うのだが、アインズヘイルの住人が皆ミゼラに声をかけていくのだ。
しかしこれだと昼飯を買いに行く暇もないな……。
仕方ない、一度シロを戻してすぐに買えそうなものを買ってきてもらうか。
申し訳ないが今見える列の最後尾の人に『ここは最後尾ではありません』という札を持ってもらうとしよう。
「あ、あのう……」
「ん? 狸人族の門番ちゃんじゃないか。どうしたんだ?」
「隊長からの差し入れです。あの、皆さんお昼ご飯に困るのではないかと思ったそうで……」
んんんんー! と一生懸命に重そうな木箱を持ち上げる門番ちゃんから、俺は箱を受け取ると結構な重さだった。
隊長って、アヤメさんだよな?
え、なに? お昼ごはんを買ってきてくれたの?
これはもうあれだ。デレだろう。ついにきたかデレ期が。
「何を見ているのですか? あなたの分はありませんよ?」
「辛辣だった。全然違った」
春は遠いなあ……。
そして、俺の分ないのか……。
「へ? アヤメお姉ちゃん7人分って言ってましたよね……? シシリア様とアイリス様と自分の分はいらないからって……」
7人?
ウェンディ、シロ、アイナ、ソルテ、レンゲ、ミゼラと俺で7人じゃないか!
なあんだ。やっぱり買ってきてくれているじゃないですか。
「ち、違います。あれです……これはセレンの分です」
「セレンの分ならばいらぬぞ。奴はここに来る前に大量に肉を頬張っておったからな。お主も見ただろうに……」
「ぐっ……ええ。ありますよあなたの分も。好きに食べればいいでしょう」
「はーい。ありがとうアヤメさん。おい皆。アヤメさんがご飯を買ってきてくれたから、持ち場をローテーションで回して食べていってくれ」
アヤメさんのおかげでなんとか昼飯問題は解決だな。
だが、未だ減るどころか増えるお客さんの数を見ると……下手すると夜の部にまで突入してしまいそうなのが不安なところだ……。




