8-15 アインズヘイル記念祭 二日目の2
『さあさあ、キャタピラス焼きはどうだい? 今なら二時間待ちだよー! この後まだまだ時間はかかるぞー!』
誰か嘘だと言ってくれ……。
虫を焼いたものが二時間待ち?
他の領や国から来た人達がこぞって楽しみにしていたとしてもおかしいよ! こんなのってないよ!
絶対に今並んでいるこのお好み焼きの方が美味しいはずだ。
うん。間違いない。
「おーっす。盛況だな」
「あ、兄ちゃん!」
忙しそうに鉄板を操るのは生徒第一号である料理人志望の少年だ。
俺に気づきながらも作業を止めないところからも、達者になったと言えるだろう。
「んんーいい匂い。涎が出る」
「上手になりましたね。とても美味しそうです」
「シロさんとウェンディ先生!」
「ウェンディ先生綺麗ー!」「シロちゃん可愛いー!」
後ろでキャレスを切ったり、粉を混ぜていたりする子達が浴衣に気づき手を止めてやんややんやと騒ぎ始める。
「ほーら。手を止めるなよー」
少年がたしなめると作業を再開したのだが、やはり気になるのかちらちらと視線を向けていた。
少年は頭に布を巻き、流れ落ちる汗を食い止めているのかじんわりと濡れているようだ。
「あれ、冷房機能効いてないのか?」
「うん。今はつけていないんだ。三日間ずっと動かすとなると、僕達じゃ魔力が足りないんだよ」
「そっか……悪いな。あんまり効率良くできてなかったか」
「悪いなんてことはないよ! 兄ちゃんのおかげで皆マザー達や街の皆に貢献できて感謝してるんだから! ほらほら、特別美味しく作るから食べていってよー!」
「ああ。それじゃあ豚玉2枚とシロ用に豚玉3枚を別の器で、どっちもチーズトッピングで頼む」
「はい豚玉5つ! チーズトッピングも!」
「「「「はい! ありがとうございます!」」」」
少年が注文を繰り返すと、後ろの子達が声をそろえてお礼を言うなんてなんとも活気があるねえ。
少年が見事なヘラ捌きでひっくり返すと隣の少女の前にスライドさせ、そこにソースとマヨネーズが振られ、さらにチーズが乗せられる。
チーズがじわりと溶けるまで待ち、後は余熱で溶けるだろうというタイミングで木製の箱に入れられ手渡される。
おっと、熱いのではないだろうか? と思ったのだが、熱伝導率の悪い木を使っているのでそんなことはなかった。
「はい。お待たせしました! わたあめ美味しかったです! また食べに行きますね!」
「ああ。ありがとう。まだ暇してるからなあ……是非来てくれ」
笑顔の少女からお好み焼きを受け取り、列の邪魔にならぬようにまたなと声をかけてその場を去る。
シロはお好み焼きを早く食べたいのかちらちらとこちらを見上げているが、さすがにこれは食べながら歩くのはまずいだろう。
「お、ベンチ空いたぞ」
「ん。座る。食べる。ダッシュ!」
たまたま空いたばかりのベンチを見つけると、シロがあっという間に椅子を飛び越えて座り、早く早くと俺達を急かすのでウェンディと共にベンチへと向かう。
「ほい。火傷するなよ」
「いただきます」
「あ、シロ。あわてて食べたらこぼしちゃいます。浴衣にシミが!」
しっかりと日本式に手を合わせてから食べ始めるシロを見て、ウェンディが気にしつつも、俺達も食べ始めることにした。
「んんー……チーズが濃厚だな。ソースに負けてない」
「ん。はふっはふっ……んんー。美味しい。お肉も美味しい」
「ふー……ふー……キャレスの甘みが感じられますね。孤児院で育てられたお野菜がとても美味しいです」
ソース、マヨネーズ、肉の脂とキャレスの甘み、チーズの旨みと香ばしさがそれぞれ主張しているのだが、お互いがお互いを引き立てあうように調和していて、まだ熱いのに食べるのを止められない。
「ふー……ふー……。ご主人様。あーん」
「お、ありがとう。あーん」
冷ましてくれたおかげで食べやすく、先ほどと同じものなのに、間違いなく今食べたお好み焼きの方が美味しかった。
「ふー……お返し」
「ありがとうございます。では……あーん」
俺もお好み焼きを一口に切り分けウェンディに向けると、ソースに髪がつかぬように髪をかき上げつつ食べる姿にドキっとする。
「んふー……ご馳走様」
「シロ。ほっぺについてますから動かないでくださいね。袖で拭いたらだめですよ」
熱々だったからかゆっくりと食べ終えたシロを連れ、子供達の露店でごみをお願いした。
「それで、どこに行くかは決めているのか?」
「はい。あまり時間はないのですでに決めてあります! 一先ず東地区の方へ向かいましょうか」
「東地区? 地区によって出し物が違うんだっけ?」
「はい! 東地区では参加型の遊戯系露店が固まっているようですので、どうでしょうか?」
参加型? えーっと、金魚すくいとかヨーヨー釣りとかか……?
あとはなんだ。クジか? クジを引くと言う行為に金銭を払い、おまけとして何かしらもらえるという……。
あとは……なんだろう。異世界らしさとかあるのだろうか。
「シロもそれでいいのか?」
「ん。大丈夫」
シロならもっと食べ歩きー! って言うと思ったのだが構わないらしい。それなら――。
「よし。それじゃあ東地区に行こうか」
「はい!」「ん!」
ってことでやってきました東地区!
遊戯が多いのなら子供や家族連れが多いのかな? とか思っていたのだが、意外といかつい人たちが多い。
いや、もちろん家族連れや子供達もいるんだけど、客層の幅が広すぎる。
「さあさあ挑戦者はいないか!? 8つの玉を同時に上に投げるから地面につく前にキャッチするんだ! 個数によって景品が貰えるよー! 今までの最高記録は5つだよー!」
「俺に腕相撲で勝てたら、賭けた分の倍の金をやるぞー! 最大掛け金は10万ノールまでだ!」
「一撃入れて、俺がこの円から動いたら景品プレゼント! 景品は露店で使える金券が1万ノール分! 一回5000ノールだ! 魔法と武器は禁止だが、強化スキルは構わないぞー!」
……なるほど。パワー系なのね。
当然だが、スキルの使用は一部を除いて原則として禁止のようだ。
「さあ、輪投げはどうだい? 5つ投げて潜り抜けた数だけ景品のグレードが上がるよー」
ああ、普通っぽいのもあるんだ。
子供達がいるのはこっち目的なのかな?
「ん。主。玉取りたい」
玉取りたいて……。
「あれか?」
「うん。全部取ってくる」
まじか……俺にはどう頑張っても2つ、それか利き手で一つしか取れる気しないんだけど。
でもシロが言い切るからには自信あるんだろうな。
「お、可愛らしいお嬢ちゃんだねえ! やるかい?」
「ん」
「よし! それじゃあ1000ノールいただくぜ」
「はいよ。それで、賞品はなんなんだ?」
俺がお金を払いつつ男に聞く。
シロはそのまま奥へ行き、舞台の上で可愛らしい挑戦者が現れたと宣伝に使われていた。
「一等は8個キャッチでキャタピラス焼きを並ばずに購入できる券と、キャタピラス焼きの引換券が100枚! こいつは祭りの後でも使えるぞ。さらに……こいつはすげえぞう。今度ネオキャタピラスが出た時、丸々一匹俺らが購入したものをプレゼントだ!」
いらねえ!
一等いらねえええ!!
キャタピラス焼き系統だけでもいらないのに、なんだネオキャタピラスって!
第二段階か? 突然変異か? ふざけるなぶっ殺すぞ虫世界め!
「に、二等は?」
「7つキャッチでお食事券10万ノール分だね」
二等いいじゃない。
懐が深いじゃないの。
二等。二等がいいよシロって、ああああああ!
もう舞台に乗ってらっしゃるんだった!
ギャラリーもいつの間にかできており、頑張れよーや可愛いー! などの声がシロへと向けられていた。
「それじゃあ行きましょうー!」
「ん。いつでもいい」
そして、4人の男がシロを囲み、同時に8個の玉がシロの真上へと投げられる。
玉のサイズはちょうど野球ボールくらいだろうか。
普通にキャッチしていたら無理だと思われるが、そこはシロ。余裕のよっちゃんですよ……。
シロはボールと同じ高さまで飛ぶと右手で玉を掴み、左手で掴んだ玉を落とさぬようにがっちりとホールドして、あっという間に5個、いや6個を両手に抱えていた。
さらには尻尾を使って7個目をキャッチ!
最後の一個は先に地面に着地し、見事に頭でキャッチしてバランスを……と思ったら、コロンと落ちてしまう。
「ああー惜しい! パーフェクトが見えるかと思ったんだがねえ。でも7つはすごい! 皆様拍手をお願いしますー!」
「んー。満足」
シロがひゅっとしっぽからボールを投げて7個目を抱えると、玉を男に渡して戻ってきた。
「いやー惜しかったな! それでは、2等の10万ノール分のお食事券だ!」
「ん。ありがとう」
「また来てくれよー! 良い客引きになったぜ!」
シロが去った後に簡単だと思ったのか同じく獣人の男が参加したのを見て俺達はその場を後にした。
「ん。主。あげる」
「それはシロが持ってていいよ。好きなもの食べな」
「んー……わかった」
「惜しかったですねえ。もう少しで全部取れましたのに」
「最後落としたのはわざとだろ?」
「うん。キャタピラスはいらない」
やっぱりそうだよな。
シロらしくもないあんなミス。そうとしか思えない。
「ありがとな」
「んーん。シロはこれで、大満足」
俺の手を取りシロの頭の上に乗せるので、俺は察して頭を撫でる。
すると目を細め、口元が緩んで自ら頭を動かし、もっともっととおねだりをするので、シロが満足するまで続けると……。
「つ、次は私が挑戦します!」
と、何か自分でも出来そうなものがないかを探すウェンディ。
ウェンディがいい結果を残せるような物は流石にちょっとないだろう……。
仕方なく輪投げに挑戦したのだが、記録は5つ中1つ。
こっちでもあるんだな。土台に引っかかったら駄目とか……。
ウェンディは抗議していたが、駄目なものは駄目だと言われてしまったとさ……。
「ううー……」
と、悔しそうに唸るウェンディの頭に手を置き慰めるように撫でると、納得がいかないような嬉しいような微妙な顔をしながらも帰路につくのであった。
ちなみにシロだが。
「あ、いや……シロさんはちょっと……」
一撃で円の外に出したらという企画をしていた男は冒険者だったらしく、シロの事を知っていたのかNGを食らったのだった。
活動報告にて、三巻の情報公開についても触れていますのでよろしければご確認ください。




