8-14 アインズヘイル記念祭 二日目の1
「はいどーぞ。気をつけてな」
「うん! ありがとー!」
家族連れの小さな女の子にわたあめを手渡すと、とても嬉しそうに受け取り去っていった。
「それにしても……予想よりも売れてないなあ」
「そうねえ……。どうしてかしら?」
祭りも二日目だというのにお客さんの入りはまばら。
まあまだ午前中だからだとしても、やはり大忙しには程遠いんだよなあ……。
おかげでステージでやってる出し物をここからしっかりと見れる余裕まであるよ。
「だが、お昼過ぎからは少し忙しくなるだろう。昨日もそうだったしな」
アイナの言うとおり、俺とレンゲが帰ってきてからは少し忙しかった。
エリオダルトが騒いだ後に来てくれた、孤児院の子供達が噂を流してくれたのか他の子供達がたくさんやってきて、それにつられてか家族連れや、ステージ見学をする際に買っていくカップルなんかが訪れてくれたのだ。
600ノールでいいの!? と驚いた様子だったので、やはり値段は高くないよな?
テレサも言っていたとおり、もっと忙しくなると思ってたんだけどなあ……。
「よし、お昼前に先に休憩を回しちゃうか。お昼ごはんを先に買っておくってのもありだろうし」
少しお腹の具合としては早いが、露店で買った物を持ち帰っておけばいいだろう。
魔法空間にしまっておけばいつでも熱々なものを食べる事も出来るし。
忙しい時間を外して休憩を取るのは基本なので、今のうちに回してしまおうという算段だ。
「そうっすね。それがいいかもしれないっす」
「で、今日の休憩の相手は誰なんだ?」
「はい! 私と」「ん。シロ」
ぴしっと真っ直ぐウェンディが手を上げて、続いてシロがぴしっと真っ直ぐ手を上げる。
そうか。今日はウェンディとシロの二人と休憩をするのか。
昨日ソルテが4番目だ5番目だと言っていたのでなんとなく予想は出来ていたけども。
「で、だ……」
まあ二人と一緒に休憩中にお祭りを回るのは構わない。
というか、普通に嬉しいんだけど……。
「……なんで浴衣なんだ?」
朝起きて朝食を取り、露店の準備をして販売を開始し、今に至るまで疑問だった事にあえて触れてこなかったが触れてみた。
「お祭りの正装は浴衣だとお聞きしましたので!」
むふーとドヤ顔に近い顔で言うウェンディの横でシロもこくこくとうなずいた。
ただ、ウェンディとシロの着ている浴衣は、以前ユウキさんから購入したものではなく、俺には見覚えが無いんだが……。
ウェンディのは濃い紺色に大きな朝顔の描かれたもの、シロのは白地の生地にシャボン玉のような絵柄の入った物……つまり、元の世界のお祭りでよく見る浴衣だったのだ。
そして、何故かシロの浴衣は裾が短い。
前かがみになると、後ろから下着が見えるんじゃないか? ってくらい短いものだ。
「……美沙が、お祭りでこの服を着れば悩殺間違いなしって言ってた」
元の世界のデザインって事は、流れ人が関係しているとは思っていた。
情報源が隼人か美香ちゃんだったらシロの裾を短くはしないだろうし、真は……情緒よりも露出を取りそうだ。
情緒といたずら心を含んでいると考えると、やはり美沙ちゃんという結果になるよなー。
「その……似合っていませんか?」
「いや、ばっちり似合ってます!」
温泉街の時の浴衣とは雰囲気が違うものの、結われた髪と今回は布を当ててないのか胸の形がわかるのも俺個人としては素晴らしかった。
「主、シロはシロは?」
「勿論。シロも凄く可愛いよ」
「やたー!」
両手を上げて喜ぶシロ。
裾が短く尻尾穴がないのか下から尻尾がのぞいていて、動きやすくはありそうなのだが……あまり動くと裾が上がっていきそうで心配になるな……。
シロ、普段の癖で尻尾は上に上げるなよ?
「ちょ、朝から気にはなってたけど、主様の世界の服だったの!?」
「ふーむ……また先手を打たれてしまった……。私も美香殿に聞いておけばよかった……」
「ずーるーいーっすー! 自分も着て褒めてもらいたいっすー!」
「あら、皆さんの分もいただいていますよ?」
「ウェンディ流石っすー! 自分だけ独占とかしないところにウェンディの器の大きさを感じるっす!」
「調子いいですねえ……。でも、理由は皆さんも着た方がご主人様が喜ぶと思ったからですよ」
「主様の為なら流石ね……! 私達も休憩の時に着替えましょう」
お、どうやら皆も着るらしい。
いっそ俺も着て元の世界をイメージした露店にしてしまうか。
とか考えていると、くいくいっと袖を引っ張られる。
振り返ってみるとミゼラが俺の袖を持ち、こそっと耳打ちをしてきた。
「ねえ、美沙さんって……」
「ああ。ミゼラが来る前に温泉街で出会った俺と同じ流れ人だよ」
「そうなのね……」
と、言ったあとにはっと気がついた。
美沙ちゃんと出会った頃にミゼラはいない。
つまり、浴衣が足りないんじゃなかろうか!?
仲間はずれになってしまうのではなかろうか!?
徹夜をすれば……間に合うか?
「あ、ミゼラの分もありますよ?」
「「え?」」
「その……私の手作りで申し訳ないんですが……」
と、取り出したのは薄い桃色で、花柄の浴衣だった。
おそらく生地は違うのかもしれないが、それは立派な浴衣で間違いないだろう。
帯までしっかりとしていて、ウェンディの本気度が窺えた。
「ウェンディ様の手作り……!? え、あの、私は……恐れ多いですし、目立ちたくないのですが……」
「でも皆着るのなら、ミゼラだけ普通の服になるわよ? そっちの方が目立つんじゃない?」
確かに。
現在浴衣はウェンディとシロの二人であり、周囲が皆洋服なので二人だけ浮いているように見えてしまっている。
だがこの後休憩後にアイナ達も着替えるのなら、スペース内でお揃いの衣装を着ているようにしか見えなくなるだろう。
その中でミゼラだけ洋服となれば、逆にミゼラだけ目立ってしまうだろう。
「それに、ミゼラに良く似合うと思うぞ?」
「ん。似合うはず」
「絶対似合うっすよー!」
「そうですよー。それに皆で着れば恥ずかしくもないですよ」
浴衣はなるべく凹凸が少ない方が似合うと言われている。
まあ元々日本人は胸が大きくはないので、その日本人のために作られた浴衣なのだからそういう作りになっていて当然なのだが。
とはいえ真っ直ぐストーンというのも味気ない事を考えると、小さめのぱいであるミゼラが最も似合うと思われる。
真っ白で透き通るような肌にうなじがきっと映える事だろう……是非、見たい。
「そうだな。俺もミゼラに似合うと思う」
「だ、旦那様ぁ……」
皆に褒められすぎて恥ずかしくなったのか、ミゼラが俺に助けを求めて見上げていたのを裏切って差し上げた。
すると、
「……わかりました」
と諦めたように言う。
だけど、ちょっぴり嬉しそうにしていたのを俺は見逃しなどしなかった。
で、休憩時間となったわけで。
俺は後ろの方で大きめの布でブラインドを作り隠してもらい着替えたわけだが……。
「わあ……」「おお……」「おー……」
と、ソルテ、アイナ、レンゲが声を漏らす。
「なんだよ……」
なんだかちょっと照れくさい。
せっかくなので俺も浴衣を着てみたのだ。
ちなみに、これはユウキさんから購入した男性用の灰色のシンプルな浴衣である。
「なんでだろうか? しっくりくるな」
「うんうん。ご主人似合うっす」
「しっかりして見えるわね」
「旦那様……格好いい……」
褒められるのは悪くない。というか、嬉しいもんなのだがソルテ? 普段の俺って、そんなにしっかりして見えないのだろうか……。いや、見えないな。うん。
「うふふふ。ご主人様格好いいです!」
「ん。主格好良い。似合う」
「三人並ぶとまた違うわね……。いいなあ……」
確かに。
こうしてみればまさしくお祭りの光景に見えるんだろうなあ。
ただ、異世界のお祭りに日本の浴衣で……というのはどうなのだろう。
目立ちすぎる気もするが……人通りを見ると、他国の方なのかもっと派手な服を着て歩いている人もいるのでまあいいか。
「それでは早速行きましょうか!」
ぎゅっと俺の腕を抱きしめるウェンディ。
布を当ててないせいか、ばっちり俺の腕は270°程、柔らかく幸せな感触に包まれる。
「おほ……」
浴衣って涼しそうに見えて意外と暑いのか、ウェンディの体温までをしっかりと感じる事ができ、思わず声が漏れてしまった。
「むう。太って見えると言ったのが逆効果だった……」
シロはおとなしく反対側の手を握るのだが、頑張って恋人つなぎにしたいようだが手の大きさが違うため難しく、仕方なさそうに普通に繋ぎなおしていた。
「なるほど。だから今日は布を当ててなかったのか……」
「だってシロが太って見えるって言うんですもん! 美沙さんも布を当てて凹凸を無くした方が綺麗だとはおっしゃっていたのですが……」
いや問題なく良いと思う。
帯の上にその立派で豊満で愛すべきおっぱいが乗ってしまい、ずいぶんと自己主張が激しいのも素晴らしいと思う。
正道からは外れるのかもしれないが、これはこれで素の良いところを生かした着こなしだと思うの。
「むう……主がデレッデレ。やはりおっぱいは敵……」
「おいおい……せっかくの祭りなんだ。そんなむくれた顔するなって。で、まずは何処に行きたいんだ?」
「ご飯。お好み焼き食べたい」
「わかったわかった。お披露目もしつつお好み焼き食べ行こうか」
浴衣でお好み焼きか……。
まさか青春の日々で体験できなかったリア充の夏の象徴とも言える浴衣デートが、異世界で経験できるとは思わなかったな……。
書影公開されましたね!
是非見ていってくださいな!




