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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
8章 アインズヘイルという街
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8-8 アインズヘイル記念祭 オリゴールの用事

「ああー……いいお湯だねえ……」

「泉質も良好……温度も熱すぎず、この開放的な外での温泉というのも素晴らしいですわね……」

「うむ。私もこの温泉は気に入っているんだ。主君に連れてきてもらえるのが楽しみなのだ」


あー……基本的に朝風呂で行くのが多いから、一人のときが多いんだよな。

それにたまには一人でゆっくりとしたいときに、ここは最高なんだが……アイナが気に入っているのなら今度からなるべく声をかけるようにしよう。


「しかしあれだねえ……。メイラちゃんって、あんなに献身的で情熱的だったっけ?」

「あら、私は目的の為ならば尽くしますし、情熱的ですわよ?」

「いやでも、前浮気したら触れた部分を切り取るだのなんだの言ってたような……」


なんかすげえ怖いことを言っていた気がするんだけど。

あれ、別人だったっけかな? いや、メイラのはずだ。


「それはどうでもいい相手を夫にした場合ですわよ。財産を築けば跡取りも必要ですもの。適当な豪商の息子辺りを想定していましたの。ですが……是が非でも手に入れたい相手なら、二番目でも三番目でも構いませんわよ?」


妖艶な微笑を向けるメイラに、やはりどこかダーウィンに似た腹黒さを感じざるを得ない。

豪商の息子って、世間一般的に見れば相当な勝ち組なのにどうでもいい相手って……。

いやー怖いねえダーウィン一家。

何が怖いって、メイラは義理の娘のはずなのになんで似てきているんだって話だよ。


「それにしても、ずるいですわね……いつでもこの温泉に入りたい放題だなんて……。まったく。いつになったら私が頼んだお風呂の魔道具を作ってくださるのやら……」

「ああー……」


そういえばそんな約束もしていたな……。

あの後もいろいろ立て込んでて全く覚えていなかった。

さらにはこの温泉が手に入ったことにより、俺自身にも必要性が無くなったことからどうにも優先順位が下がっていたようだ。


「ああーって……今更思い出しましたの? もう。別にまたここに連れてきてくださるのなら構いませんわよ? 勿論……次は二人きりですけどもね」

「すまなかった。いや、ちゃんと作るよ……。約束は約束だしな。それに、来たければまた連れて来るって」

「あら、大盤振る舞いですわね。転移スキルのことは私からはお父様にも黙っていて差し上げますから、よろしくお願いしますわね」


空間魔法についてはダーウィンにも知られてはいるが、俺が転移スキルを覚えたことはまだ知られていないのか。

知られていれば何かしらに利用されそうだよなあ……怖い怖い。

そのためにもメイラが望むのであればここに連れて来よう。


だがいつでも風呂に入れるようにする魔道具か……。

水を浄化して常に綺麗にする必要がある以上、聖水は不可欠だろう。

ちょっとテレサに融通してもらえないか王都に行かないとだな。


「ふふ。主君は相変わらず大忙しだな……。温泉ならば、いつでも付き合うぞ」


アイナは大きめの石に座り足だけを湯につけ、涼んでいた。

前面はタオルで隠れてはいるが、湯を掬い、腕にかけるなどしているせいで濡れ透け状態になっていて、逆になんか色気が増して見えてしまう。

湯を掬う際に前かがみになって、タオルがぺらっと剥がれて慌てて抑えるなんてのはずるい。

不意打ちだ。ありがとうございます!


「……さっきの凄かったですわね……」

「何が? って、ああ、アイナちゃんの乳洗いね……。うん凄かった。ドキドキした。エロかった……」

「エロかったはやめてくれ……。人に言われると恥ずかしくなってしまう……」


いやでもエロかったとしか言いようが無い。

口から漏れる吐息とか、小さな喘ぎ声とか、背中の感触とか……。

思い出しただけでも……なので、話題を変えよう。

じゃないと危険だ……!


「そういえばオリゴール達は何か用があったんじゃないのか?」

「ああ、そうだった! 忘れてたよ! 大事な用があるんだった!」

「はあ……忘れないでくださいまし……。今日の目的はそっちですわよ」

「ぶー。なんだいメイラちゃんは覚えていたのかい?」

「当然ですわ」


なんだかんだ仕事のことなら真面目な印象のメイラに嘘は無いだろう。

まあ、オリゴールが覚えていたと言っても信じないが。


「それで、何の用なんだよ?」

「ふっふっふー知りたいかい?」


いや、用があるのはお前なんだから知りたいも何もそれを告げなきゃ話が進まないだろうに。


「どーしよっかなー? ふふーん」

「貴方、今度露店をだしてみませんこと?」

「ちょっと!? もったいぶりたかったのにどうしてメイラちゃんが言うのさ! せっかくお兄ちゃんにあんなことやこんなことを言わせるチャンスだったのに!」

「時間がかかりますもの。ここであんまり話していると、のぼせてしまいますわよ」


おお、メイラがいるとオリゴールとの話がすいすい進むな。

これからはぜひ二人セットで来て欲しいものだ。

で、だ。


「それでなんで俺が露店なんだ?」

「ええ。あなたのお菓子の技術も錬金の実力も私は認めております。ですが、貴方はお店を持っておらず、また、出すつもりもないのでしょう?」

「そう……だな。今のところは多忙な店を持つ気はないかな」


まだまだ行きたい所もあるし、なにより店なんて持ったらせわしなく働かなきゃいけなくなるだろう。

店員を雇って錬金で作った物を売ることも考えたが、それならオークションに出したほうが手っ取り早いしな。


「でしょうね。ですが、あまりにもったいないと思いますの。とはいえ強制するものでもありませんし、ならばお試しとしてお祭り限定で露店などどうかなと思いまして」


なるほどお祭り限定で露店販売か。

ほー……いいかもしれない。

むしろ、興味はある。


ただそうなると、どんな店を出すかだよな……。

アクセサリーの商店……は、ちょっとお祭りというよりも高額になりすぎるか……。


出来れば手軽に相手できるような、それこそ子供でも利用できるようなものがいいか。

となると、やはり飲食関係かな?


「もし? 聞いてますの?」

「ふむ。どうやら考え事中みたいだな」

「凄い集中力だねえ……聞こえてないみたいだよ」

「おそらくだが、何を出そうか考えているのだろう」

「そうなんですのね……。ということは肯定的と捉えてもよさそうですわね」


飲食、飲食か……。

お祭りらしいお好み焼きは孤児院の子達とかぶるし、となるとたこ焼き……? たこの入手が難しいな。

あ、ベビーカステラとかもいいかもな。


「……テントの広さはどれくらいなんだ?」

「あ、そうですわよね……。その……実は少し手狭なのですわよ……。孤児院のスペースは知っておりますわよね? そこの近くで、あれより一回り小さいスペースになってしまいますの」


孤児院のテントよりも一回り小さいのか。

絶妙に嫌な広さだな。


「はっはっはー! 各露店のテントの大きさの都合で空いたスペースだからね。もしダメなら臨時の救護室にするから無理強いする気はないよ! でも立地は中央噴水公園の一等地も一等地! 列が出来たって問題ないんだぜ!」

「そうか……。なら、コンパクトで物珍しい方がいいよな」

「そうですわね……。どうせなら、アインズヘイルの名産になるようなものがいいですわね、なんて……」

「名産か……」

「じょ、冗談ですわよ?」


名産。名産か……。

とはいえここの地域で取れる名産品は虫。

キャタピラスを俺が扱うことは不可能だし、となると技術面で突出せざるを得ない。

さらにはあまり場所を取らない設備でとなると……鉄板焼きは客をさばき切れないし難しいか。

で、見た目も新しく、おもわず食べてみたくなるような……お祭りでの定番品とくれば……。


「……メイラ。大量にザラメは用意できるか?」

「ザラメ? 出来ますけど……他にはなにがいるんですの? 無理を言っているのは承知していますので、何でもご用意いたしますわよ?」

「いや、とりあえずザラメだけでいいよ」

「ザラメだけですの? ザラメで飴細工でも作る気ですの?」

「いや。それも面白そうではあるんだけど……でも近いと言えば近いか。ちょっと元の世界の『わたあめ』でも作ろうかなって」


わたあめならば目を引くだろうし、片手でも食べられて祭りにぴったりだろう。

それに、機械は複雑だが作り方はシンプルであり誰にでも作れるしな。


「わたあめ……。わたのようなあめですの?」

「ああ。甘いしふわふわだぞ」

「おおお……ふわふわの飴かあ……。なんだろう。胸がときめくんだけど!」


さすが小さいだけあって、そういうの好きそうだよな。

でも、なんでか見ると一口って食べたくなるんだよなあ。


「主君。それは私達でも手伝うことができるのだろうか?」

「ああ。作り方の練習を少しすれば出来ると思うぞ」

「そうか。ならば皆で手伝えるな。主君と露店か……今年の祭りも楽しくなりそうだ」


そう。誰にでも作れるというのが肝だ。

誰にでも作れるのであれば、祭り自体も交代制で楽しむことが出来る。


それに、もし名産として扱われるようになったら他の街人もこぞって作ることになるだろう。

その際、俺は権利を主張せず店も持たない。

その代わり、機材をリースし、修理とリース代で稼がせてもらおうという算段だ。


俺が出かけている間に故障が起きたら、替えの物を用意しておけばいいし、うまくいけば俺の願望の第一歩、働かずにお金が入ってくるようになるだろう。


「ってことは、受けてくれるってことでいいのかな?」

「ああ。やらせてもらうぞ」

「そっか! いやあ、良かった良かった。招待客は豪華なのに、うちから何か目玉になるものが無いかと悩んでいたんだよ。本当に助かるね。お礼は用意するから、よろしく頼むよー!」

「おう。やる以上は本気でやるからな」

「ザラメのほうは任せてくださいまし。近隣諸国からいくらでも集めて見せますわ」

「とりあえず発注する量は後で話すとして、アイナ、戻ったら試作用に使うザラメを市場に買いにいってもらえるか?」

「承った」


さて、戻ったらまずは試作のわたあめ機作りだな。

回転球体様にまた頼ることになりそうだ。

今後のことを考えると、ミゼラにも覚えてもらう必要がありそうだ。


「あ、隣の店舗で虫を扱ったりはないよな?」

「え? あ、うん。確認してみるね」


もし近場、しかも隣なんかで虫を扱われたら残念だが無理だ。と思っていたのだが、名物キャタピラス焼きの店舗は同じく中央広場にはあれど、真逆の位置だそうで改めて俺は露店の件を了承するのだった。

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