8-7 アインズヘイル記念祭 突撃! オリゴールとメイラ
加速する方向性を覚えてから俺はアイナに鍛錬をお願いする機会が増えた。
理由は単純で、ソルテとレンゲには空間魔法のレベルが上がったことを黙っていてもらうため。
初見の相手に試してみたいという気持ちと、もしかしたら一本取れるかもしれないという男心でお願いすると、アイナは笑いながら付き合ってくれたのだった。
「やはり直線的過ぎるな……。初見ならばともかく、二回目からは合わされてカウンターを取られるものだと想定した方がいいだろう」
「だよな……でも、途中にフェイントを混ぜると体がもたないんだよな……」
ジグザグ走行! とか考えたのだが、腰が逝くかと思ったし……。
急停止するにしても、あくまでも指定された方向への加速が促されるだけなので、逆方向への負担がかかり何度も使えるというものでもないのが難点だ。
「あとはまっすぐに走ったとしても現状では足がもつれてはな……」
「そればっかりは流石に慣れないとどうにもなんないか……」
夜練習では速さになれることを中心にやっていこう。
しばらくはその練習だな。
これなら一人でもできるし、フリードを呼ばなくてもいいのは助かるか。
あとで相談しに行くとするかな。
「さて、休憩は終わりにしてもう一本するか?」
「ああ、そうしよう――」
「ちょっと待ったあああああ!」
「な……」
俺が立ち上がろうと膝を立てると、頭上から声がした。
甲高くやっかましいくらい大きな声の持ち主を、俺はこの街でただ一人しか知らない。
「ふっふっふ。悪いんだけど、これからのお兄ちゃんの時間はボクのものだ!」
宙に浮き、腕を組んでスカートを翻すのはまあこの街の領主オリゴールだよな。
ニヤリと笑い、なんだか悪巧みを考えている様子のオリゴールが、ゆっくりとそのままの姿勢で降りてくる。
「凄いな……空中浮遊は上位の風魔法のはずだが……領主様は魔導師だったのか?」
「ううん。これは中位の『風の加護』だよ。ボクの種族ハーフリングは風の大妖精フローリア様の眷属と呼ばれているからね。それに体重が軽いから、浮かせるのは上位の魔法じゃなくても出来るのさ」
ドヤァ! っとイラつく顔を眼前まで寄せ付けてくるオリゴール。
「不法侵入だな。衛兵を呼んでくる」
「門番ちゃんにはちゃんとお邪魔するって伝えたよ!? というか人のパンツを凝視していおいてそれかい!?」
見たんじゃない。お前が見せたんだ。
だいたいお子様パンツを見たからなんだというんだ。
どうせならギャップ狙いで大人パンツを履いて来い。
……ああ、年上が子供パンツってのもギャップなのか。
「はいはい」
「ちょっと! 今日はお気に入りのやつだったんだぜ!? かわいい熊さんパンツだったのに!」
いやお前年上だよな?
そんななりしてても年上なんだから、もっとこう普通の……ああ、こいつに普通を求める俺が間違ってるのか。
「なんというか……二人は相変わらず仲が良いな」
「うん!」
「そうか?」
「えっ!? 嘘だろ? ボクとお兄ちゃんは……仲良し……だよね?」
いやそんな悲しそうな顔で震える手を向けられても……。
「なんで!? ボクのアピールが足りないのかい? やはり脱いでくるべきだったか……」
普通に、そう普通に接してくれるなら仲良くできる自信があるのに、なんでこう……残念なんだお前は。
「なんかお前、日に日に痴女度が上がってきてるな」
「痴女度!? なんだいそれ!」
そういえば男性は歳を重ねるうちに性欲が弱まり、女性は中年くらいが一番性欲が高くなるんだっけか。
なるほどな。欲求不満なのか。
「……まったく。普通に訪れることができませんの?」
「あ、メイラちゃん遅かったね」
「あなたが空を飛ぶから早いだけですわ。私は歩いてきましたので……」
メイラがどうにも疲れた様子で肩を抑えて回しながら現れる。
どうやら本来は二人で俺に用があったらしい。
「なんだかお疲れだな」
「お祭りの準備でてんやわんやですわ……。今日はゆっくりできると思ったのに、領主様に連れられて休むことも叶いませんの……」
なんだか本当に疲れてるな……。
あーそうだ。
「それなら、温泉なんていいんじゃないか?」
「ええ、いいですわね……。そういえばあなたはこの間ユートポーラに行ってきたのでしたわね」
「ああ。そこでちょっといいところを見つけてな。どうだ?」
「時間が合いましたら構いませんわよ。ただ、ユートポーラで休むとなると、長期休暇申請をしませんと……」
まあそんな必要は無いけどな。
今日はゆっくりする予定だったのなら、今日一日あれば十分だろう。
「温泉!? ボクもいくー! 行きたい行きたい行きたい!」
「いいよ」
「行きた……あれ!? いいの?」
「ああ」
「嘘だろ!? こんなすんなり許可が出るなんて……あ、わかった! アイナちゃんのボインとボクのぺったんこ、中間のメイラちゃんのを三つ並べて全部美味しく頂いちゃう――」
「ほら、行くぞ」
「あ、うん。行くー……う?」
「え? 今からです……の?」
二人は座標転移で現れた空間の渦に目をぱちくりとしてぽかんと口を開いたまま固まってしまった。
オリゴールには空間魔法の存在は知られているのだが、メイラには言ってなかったっけ。
でもメイラの上のダーウィンには知られている時点で、なんかあの一家にはとっくに知られてそうだよな……。
とりあえず固まっている二人の手を取り、アイナには肩に捕まってもらい温泉へと向かった。
「うおおおおお……なんだこれ……。気がついたら凄い温泉に連れて来られたぜ……」
「そういえばオリゴールも転移魔法初めてだったな。どうよ俺の温泉は」
「そ、そうだよ初めてだよ!? え、待ってそっちもだけど、この温泉がお兄ちゃんの……?」
「ああ。俺の所有物」
さっきのドヤ顔返しを行いつつ、驚いた様子のオリゴールの反応に内心喜んでいた。
やっぱり自慢したいぜこの温泉は!
身内だけで内緒にしておくにはもったいないからな。
「……転移……転移魔法……これがあれば、物流にかかるコストが0に……」
メイラがなにやら呟きつつ、ぷるぷると震えている。
「なるほど……だからお父様は……」
「凄い……まさか本当に三つ並べて食べられちゃうんじゃないかこれは……? さすがお兄ちゃんナイス変態だぜ……」
こっちはこっちでオリゴールがなにやら的外れに褒めているようだが……これは無視でいいな。
「おーいメイラ? 風呂先に入ってるぞー?」
「ええ貴方。まいりましょう」
ぱっと顔を上げるやいなや俺の腕を取るメイラ。
決して大きくは無いが、小さめのぱいがやわらかく俺の肘を迎えてくれる。
「ちょっと待った! お兄ちゃんは渡さないぞ! うへへ。おじいちゃんおばあちゃんになったらこの温泉で女将と大将ってのも悪くないね!」
反対側の腕をオリゴールにとられるが……この硬いのは……あばら骨かな?
えいえいとがんばって押し付けてるつもりなのかもしれないが、こつこつと骨と骨がぶつかるだけだぞ……。
「まさか仲間内以外にも遅れを取るなんて……。やはり私は行動が遅く、自発性に欠けるのだな……。うーむ……どうするべきか……」
そんな俺たちを見ながら真剣なまなざしで悩みだすアイナ。
いや、あの、腕とられてもこの後服を脱ぐからすぐに離してもらうんだけど……。
「いい加減離してくださらない? そんな無い乳を押し付けても嬉しく思われませんわよ?」
「そっちこそ……たいした胸でもないくせに偉そうだねえ」
「……あのさ。二人ともちょっと、離れない?」
「だめですわ」
「だめだね」
「なんでだよ……」
服を着替えるときは手を離してくれたのに、いざ温泉へ! となったらまた腕を取られてしまった。
アイナは鎧を脱ぐのにもたついてしまい、またも後ろでむむむとうなり声を上げている。
体を湯で一度流すと、今度はどっちが俺の背中を洗うかということになり、今に至るのだが……。
「大体ねえ。こういうのは年功序列なんだよ? それに、年齢よりもお子様体型の癖に」
「あーら。悔しいんですの? この方は胸が大好きだと聞いていますわ。それでしたら、領主様より胸の大きな私が背中を洗って差し上げたほうが喜ばれますわ。もちろん……胸を使って洗って差し上げますわよ」
なん……だと……!?
乳洗い。
それは男の夢パート9。
布を隔てず乳に泡をつけそれで背中を洗うという幸せな儀式!
柔らかさに加え、ぽっちのわずかな刺激が男の脳を幸せへと誘うと言われるあの伝説のいやらしい洗い方!
それを、メイラが……?
「ぐぬぬぬ……ボクだってできるぞそれくらい!」
「……はっ。そのまな板で洗えるのは洗濯物くらいでしょう?」
「メイラちゃん……君は……ボクを怒らせた!」
二人の間で石鹸水の入ったボトルを取り合い、両者の力が拮抗したのかお互いの中間で止まったままだ。
ところで、今お前らの姿はタオル一枚で、足を大きく開き、とてもじゃあないが人に言えないような強張った顔をしているのだが気づいているのか?
残念ながらその姿には色気もへったくれもありゃしないぞ。
「ふむ……ならば、ここは一番胸が大きな私がすべきだろう。二人はお互いを洗い合えばいいのではないかな?」
そんな二人が争うボトルの上部を押し、白い白濁の石鹸水を手のひらに出して自身のおっぱいへと塗りたくるアイナ。
これはまさか? アイナにしていただけるのでしょうか?
あの! 乳洗いを! アイナにしていただけるのでしょうか!?
「ちょ!」
「待っ……!」
「ふむ……少し恥ずかしいが……。主君私でも良いだろうか?」
「もちろんだ!!」
力強くうなずいた!
これで断るやつがいるのなら、たぶん貧乳党の方か女性に興味が無いやつだけだろう。
俺はどちらでもないので二つ返事だ当然だろう。
「なななな……アイナさんは積極的じゃないと思いましたのに……。とんだ伏兵でしたわ……」
「うおおお……戦力差が……ボクのまな板じゃあ戦力の差が歴然じゃないか!!」
「……うむ。どうやら私は思いのほか負けず嫌いのようだ。ソルテやウェンディたちならばともかく、二人には負けられないと思っているみたいだ」
負けず嫌いか。
そういえば、前はよくソルテ達とばかり仲良くしていると拗ねている時もあったな。
「それでは主君……失礼する……」
ぴと、っと背中に密着する圧倒的な圧力。
嗚呼……これが、乳洗い……。
全神経を背中に集中し、その感触を逃すまいと身構え、俺は天を仰いだ。
女神よ。貴方に感謝を。
我、ここにありて、至上の幸福を謳歌せり……。
描写の細かさが危険かなとも思ったので、少々マイルドに修正しました。
直接どうしたということも無いので大丈夫かなと。




