閑話 夏だ! 2
んんー多分 2/4。
今週中には全部投稿したいところ……。
ふおおおお……最後の一縫い……。
出来た……。出来たぞ……。
とうとう出来た!
ちょっと、集中したい大切な仕事があるからと皆には入らないようにお願いし、食事も部屋で取るといい誰も近づかないようにして錬金室に篭りようやく完成した。
全部で予備も含めて17着……。疲れた……疲れたよ……。
王都の隼人が贔屓にしている服屋に教わりに行ったり、サイズをあわせる為にマネキンを作ったりと寄り道もしたが無事に完成した……。
滞在日数もそろそろ……といったところだったので、なんとか間に合った……。
だが、これで満足してはいけない。
まだ俺達の計画は終わっていないのだ。
むしろ、これからが始まりだろう。
ギルドカードを取り出して隼人の名前を押す。
隼人達にはスライム狩りに行ってもらっており、皆には2人でクエストを受けたので少し出てくると言ってある。
二人の仲は良いとは言えないので、勝負だって事にするといってらっしゃいと送り出されていた。
少しの間を置いて、カードの先から声が聞こえてきた。
『あ、イツキさん。もしかして……』
「ああ……完成したよ。これから迎えに行くけど大丈夫か?」
『今はちょっと危ないですね。おっと』
『おい隼人! 早く蹴散らしてくれ! ドロドロに! ドロドロに汚されるううう!』
『はいはい。それじゃあ一掃しますから、死なないでくださいね』
『てめえ! 光の聖剣打つ気だな! あれ当たるとめちゃくちゃ痛いんだぞ! ちょ、待てって! 避ける時間くらいくれっての。のおおおお! あぶねえええ!』
『ふう。殲滅完了です。今なら大丈夫ですよ』
『隼人てめえ! ギリギリだったぞ!』
『流石に避けられるように打ってますよ……』
「お、おーう」
……二人きりにしたのは問題だったかもしれないな。
もしかして、こんな感じで水竜蜥蜴もてこずったのだろうか……。
……これから同じような事があればそれぞれ別のところに行かせよう。
犬猿の仲がすぎる。
迎えに行くとそこはまさに凄惨な現場だった。
「回収が面倒臭いなあ……うわ、ドッロドロ……。お、皮膜発見」
鎧ごとドロドロの液体を頭からかぶったかのような真が、あたり一面ドロドロの中から薄い皮膜を摘み上げていた。
「すごいなこれ……」
「真のせいですよ。真の『重騎士の咆哮』の範囲が広すぎたんです」
「いやだって一気にやったほうが手っ取り早いと思って……」
「限度があるだろ……何百匹呼び寄せたんだよ……」
まじでこれ回収するの大変だぞ。
でもスライムの皮膜は俺の錬金でも普通に使えるし、勿体無いから回収していくしかないんだけどさ……。
とりあえず回収完了したが、三人ともヌルヌルのドロドロだ……。
このまま帰るわけにも行かず、とりあえずユートポーラでドロドロを洗い流してから帰る事となった。
家の地下室には戻ってきたのだが、思ったよりも長引いてしまったためお披露目会は中止し、確認は明日の朝へと持ち越された。
その日の晩飯後、隼人と真は早めに寝てしまい、俺は一人錬金室で作業の続き。
スライムの皮膜を使ってボールや浮き輪、ボートなんかを作っていく。
だが、健康状態を損ねるわけには行かないのでしっかりと睡眠時間を取る事だって忘れない。
この日だけは万全で望まねばならないのだ。
そして運命の日の朝。
朝ごはんを早めに食べ終えて庭にでた俺達は、早速計画を実行させる為に動いていた。
「このあたりで大丈夫ですか?」
「ああ」
「いきますよ……」
「加減しろよ!? ちゃんと加減しろよ!?」
「あなたこそ、しっかり止めてくださいね」
隼人が光の聖剣を出して地面に刺し、その直線状に真が立つ。
真はフル装備で鎧も盾も完備しており、俺も真と隼人の間に不可視の牢獄を数枚発動させていた。
「『奔る聖剣の光刃』」
隼人が突き刺した光の聖剣から光が生まれ、そのまま振りぬくと光の刃となって真へと真っ直ぐ奔る。
俺の不可視の牢獄は無残にも少しの抵抗をしたのちに切り裂かれ、真へと光の刃が迫る。
「ぐぬぬぬあああー! 『城砦の守護者』」
真がスキルを唱えると、持っていた盾の前に虚像の盾が生まれ、脚をわずかに後ずさりしながらもしっかりと光の刃の進行を防いでいた。
やがて光が収まり始め、真が盾を下ろすと一直線の深い溝が庭に出来ていた。
いや、威力は抑えているんだろうけど……こいつら半端ないな……。
「大丈夫そうですね……。さあ、まだいきますよ」
「はぁ……はぁ……この野郎……あとで泣かす……」
「やめとけ真……無理だ。すまんが頑張ってくれ。これが終われば……楽園が待ってるぞ」
「兄貴ぃ……。そうッスよね。楽園……水着……よし! 隼人来いやあああ!」
この後数程繰り返して四角形の溝が出来上がった。
そして、その形に庭をくり貫き、縁を一段下げて不可視の牢獄で溝を覆う。
くり貫いた土は魔法空間にしっかりと収納し、終わったら戻して土の魔法で固めてもらおう。
後は風呂場から流している水を吸入と排出で流せば……。
「プール完成。即席だけどまあ、悪くないな」
「「おおー!」」
傍から見れば池のように見えるだろう。
だが、土には触れておらず綺麗なまま溜められているので、これはプールで良いと思う。
「さあ、ここからが重要だ。まずは俺達で遊ぶぞ! 浮き輪やボールもある! とにかく楽しそうに遊ぶんだ!」
服を脱ぎ、三人とも海パンを履きプールの縁に仁王立ちをする。
今日の太陽も相変わらずやる気満々のようで遠くを見れば陽炎が見えるほどだが、今日に限ってはすばらしい!
「さあ遊ぶぞ!」
「「おー!」」
「の、前に……準備運動は忘れるなよ。水辺は事故が多いからな」
「「おー……」」
おいっちにーさんしーっと準備運動を各自しっかりとこなす。
手首や足首、アキレス腱を伸ばし万が一にも足がつらないようにと万全にこなしていく。
さあ、そろそろ十分だろうと思った矢先に、真がぼそっと呟いた。
「……なあ兄貴、本当にこれでいけるのかなあ? 俺達が遊んでるだけで、女の子達が参加するかなあ……?」
「馬鹿野郎!」
真の頬をたたく。
むしろ叩きつつプールに叩き込むと、水しぶきを上げてプールに落ちた真が驚いたように俺を見上げていた。
「天岩戸と一緒だと説明しただろうが! なあに、俺に任せておけ。俺の計画は……完璧だ!」
「兄貴……」
「おらああ! 隼人も行くぞおおおお!」
「え、ちょ、なんで抱きついて!? あ、ああああ!」
隼人を羽交い絞めにし一緒に飛び込んだ。
まだ冷たい水がゴボボボっと耳を鳴らし、体全体が冷たい水で覆われる。
熱い熱気を含んだ不快な空気から、あっという間に冷えた気持ちの良い感覚に包まれる。
「ぷはあ! 気持ちいいな!」
「げほっえほっ! もう! いきなりは危ないですよ!」
「男同士ならこんなもんだろ! うりゃあ!」
「わぶっ! 水が口に!」
水をかけた後はすかさず逃げる!
泳ぐのも久しぶりだが、体は覚えているものだな。
照りつける太陽によって徐々に温度が上がってくるので、水を足したりして調整しつつ俺達は遊ぶ。
「兄貴! 行きますよー!」
「おーういいぞー!」
不可視の牢獄を足場に高くまで上がった真が、ふぉう! っと飛び込む。
すると、大きな水柱が上がり浮き輪で浮かぶ俺と隼人は大きく揺られて爆笑。
おい、普通に楽しいぞどうしよう。
「……主?」
「おうシロ!」
来たか。ついに来たな。
俺の思惑通り、まずはやはりシロか。
出来ればミィも一緒だと良かったんだが……シロが来ればミィもいずれ来るだろう。
「何してるの?」
「水遊びだよ。シロもするか?」
「ん。する。冷たくて気持ち良さそう」
「じゃあシロはこれに着替えてきてな! 水遊び専用の衣装だから。あ、当たり前だけど着替えは家でだぞ」
「わかった」
シロ用の水着を渡し、家に入るのを見送る。
「兄貴……」
「ふっふっふ。計画は順調だ! それよりほら、まだまだ遊ぶぞ!」
「イツキさん! 次は僕が飛び込みをやりたいです!」
「ようし、高さはどれくらいだ? 真よりも高くするか?」
「勿論!」
「お、挑戦か? 俺だってまだ高くいけるぜ!」
「順番だ順番。俺は怖いからやらないけど。真もほれ、浮き輪で揺られるのも楽しいぞ」
こうして俺等は当初の目的を忘れつつも楽しんでいた。
そして……。
「主、着てきた」
「「「おおー」」」
シロに渡したのはピンク色のワンピース型の水着。
正直別の水着と悩んだのだが……ピンク色のワンピースのような水着にしてみた。
「シロ可愛い!」
「ん。これ可愛い」
そして、とうっと飛び込み、潜水のまま俺のところまで泳ぎがばあっと飛び出て抱きついてくる。
「おお、泳ぎも得意なのですね」
「今かなり速かったぞ……」
「ん。エルデュークの森の池に美味しい魚がいたから頑張った」
エルデュークって、確かシロが小さい頃育った凶悪な森だろ?
そんな森にいる魚ってのも、多分凶悪な奴だったんじゃないか?
そんな魚を相手に泳ぎで対抗してたのか……。
「ん。シロもさっきの飛び込みやりたい」
「お、やるか? あ、じゃあシロ……ごにょごにょでごにょにょにょ出来るか?」
「ん。出来る。やってみる」
俺はシロを上まで運び、浮き輪でぷかぷかと浮いたまま高さを調整する。
「何を話していたんですか?」
「内緒内緒。見ればわかるよ」
「それにしても、小さくて可愛いなあ……」
「……真、ロリコンじゃないだろうな?」
「ち、違う! 普通に美少女だから感想を言っただけッスよ!」
「そりゃあシロは間違いなく美少女と呼べるほど可愛い子だが、手を出したら……ひねる」
「どこを!?」
「隼人が」
「場所を聞いたのになんで執行人を答えてるんッスか!?」
「わかりました。ひねります」
「何もしてないのに!?」
こんなやり取りをしている間にシロが不可視の牢獄の縁を確かめ、数歩戻って手を上げて合図を送ってくれる。
こちらも手をあげると、俺達はシロを見上げた。
するとシロは走り出し、両手をついて前方倒立回転、ロンダート、バク転をし、そしてバク宙のまま飛込みへ。
「まさかそのまま!?」
「すげえええ!」
飛び込み競技のように身体を丸くし、くるくると回転しつつも着水の際に腕を伸ばし、静かに入水をこなすと少ない水しぶきをあげてフィニッシュした。
そして、そのまま潜水で俺の前まで泳ぎ浮かび上がると
「ん、どうだった? 出来てた?」
「出来てたよ。凄かったぞ」
「んんー! 水遊び楽しい」
シロは浮き輪に尻を入れた俺の上に乗り、背中を預けると満足そうに笑う。
そして、俺達にとって待望の時間が訪れた。
「あんたたち……なにしてるの?」
「これ、掘ったんすか? お風呂じゃなくて、水っすか……?」
「これは……プールですか?」
俺たちの様子が気になったのか、ぞろぞろと家の中からこちらを窺いにやってくる女性陣。
「そそ。今日は暑いからさ。プールを作って水浴びしようってなったんだよ。ほら、水着も作ったんだぜ」
「水着……とはなんだ? それは普通のズボンではないのか?」
「ああ。水はけの良い素材を使ってるんだ。まあ、プールで遊ぶときの正装だと思ってくれれば良いよ」
わざわざ正装という言葉を使う事により、これでこの場で遊ぶには水着なるものを着なければいけないと思うはず。
そして、水着がどういう物かを知っている美香ちゃん美沙ちゃんが問題ではあったのだが……。
「なるほど。だからサイズを聞いてきたのね……」
美沙ちゃんの顔を見る限り、どうやら俺たちの計画は気づかれたらしい。
だが美沙ちゃんならば気づくだろうと思っていたし、そしてその表情を見てノってくれるだろうと確信した。
「冷たくて気持ち良さそうなのです……」
「ん。とっても気持ち良い」
「羨ましいのです。ミィも入りたいのです!」
「水着ならあるぞー。皆の分もあるからな」
ラックを作り、そこにかけられた水着を指差す。
「なによアレ! 下着じゃない!」
「いやいや、れっきとした女性用水着だからな? なあ、美沙ちゃん」
「ええそうね。どこもおかしくない水着だわ」
「そうなの!? 下着と変わらないと思うんだけど……」
「まあ、初めて見たらそう思うわよね。ねえ、美香ちゃん」
「う、うん。一応……下着とは違うものです」
「ふむ。美香殿が言うなら間違いないだろう」
ふっふっふ。
美沙ちゃんナイスアシストだ。
こちらにウィンクをパチリとしたということは……最早任せてしまった方がいいかもしれない。
ん? なにやら口パクで伝えようとしてきているが……。
『か・し・ひ・と・つ・ね』
……え?
俺に!?
うわ、怖い。何を要求されるんだろう。
「むむむむ。でも、シロは可愛いのを着て入っているのです」
「ミィも遊びましょう。とっても気持ち良いですよ」
「ん。ミィ、遊ぼう」
「隼人様以外に見られるのは恥ずかしいですが、シロもいるのでミィは入るのです! 着替えてくるのです!」
そう。今回の大きな弊害の一つは他の男の存在だ。
下着ではないとは言え、他の男に水着姿を見られるのは抵抗があると思う。
俺達男同士はお互い様だと同盟を結び納得したが、女性陣自体はまた別の話だ。
元の世界ならば水着は一般的であり、プールなどは人が多いものだ。
だが、やはり知人に水着姿を見られるのは……と抵抗のある人も多い。
プールや水着に対して知識の無いこの世界の住人には尚更だろうと。
だがシロが先に水着を着て入り、そしてミィが入るとなれば……。
「エミリーどうする?」
「私は別に構わないわよ」
「本当? 他の男もいるのにあんな服って……」
「水着という正装なのでしょう? それに、安全に水遊びなんて中々出来るものでもないわよ」
「それはそうだけど……クリスはどうするの?」
「私は……その、恥ずかしいですけど……ミィさんも入るなら、隼人様と水遊びがしたいです……」
「そう……。なら私だけ入らないわけにもいかないわよね」
「うん。皆で遊ぼう!」
「べ、別に遊びたいわけじゃないわよ! 今日はちょっと暑いから、水浴びが気持ち良さそうって思っただけなんだからね!」
これで隼人チームは全員参加だ。
隼人のところは一人参加すれば芋ヅル的に参加するだろうと思っていたので、ミィが参加すれば大丈夫だろうと考えていた。
「でも、人前で水着は……」
「あら、美香ちゃん。私は入るけど我慢するのね? まーくん。水かけっこしましょう?」
「美沙姉! 着てくれるの?」
「ええ。水着は貴方が選んでくれたんでしょう?」
「勿論だよ! うっしゃあああああ! 土下座したかいがあったあああああ!」
真のところは美沙ちゃんがいるから問題ないだろう。
上手くやってくれるだろうさ。
そして……。
「どうする?」
「どうすると言われてもな……」
「自分は別にいいっすけど……っていうか、自分の服と大差ないっすし」
「ウェンディとミゼラは?」
「私は入りますよ。とても気持ち良さそうですし、ご主人様と一緒にあの浮く輪っかでぷかぷかしたいです」
「私はちょっと恥ずかしいです……。それに、錬金もしたいので……」
「あら、ミゼラも一緒に遊びましょうよ。適度に休むのも大切ですよ。ほら、ご主人様も優しく手招きしてますよ」
おいでぇ……こっちへおいでぇ……。
ゆっくりと手招きを繰り返す俺と、その真似をするシロ。
「うーむ……だが、どうして一つ一つ布の面積が違うのだろう……。ソルテの方は布面積が多いぞ」
「いや、それでもコレ十分恥ずかしいわよ……。でも、アイナのよりはマシよね。それ、下着と同じ形じゃない……」
「うむ……」
「自分のは上のだけ下着っすね。下は……これ重ねて着るんすよね? あ、ウェンディのはアイナと一緒っすけど、布が一枚ついてるっすね」
「とりあえず、着てみませんか? ミゼラのもレースが可愛いですし、着てみて美香さんたちにも聞いてみて決めましょうよ」
「は、はい。そうですね。こんな大胆な物、私に似合うかしら……」
「んー。シロはそれまで主を堪能する。最近筋肉がついてきてるから少しカチカチ」
シロが俺の胸板に顔を寄せ、腕をにぎにぎする姿を見て皆は急いで家の中に入っていくのだった。




