7-4 幸せ・願望 魔法とスキル
今日は美香ちゃんに教わった魔法とスキルの取得方法を学びに図書館に行こうと思っていたのだが、まずは師匠であるレインリヒに帰還の挨拶をするため、錬金術師ギルドに来ている。
別にね、師弟らしいことは何もないんだけども。
ちなみにエイトアイの干物をお土産に渡したら喜んでいた。
なんでも俺を気絶させたあの薬の材料らしい。
二度と作らないでくれ……。
それで今は受付に居るリートさんと世間話をしていたのだが……。
「え? 作業をするのに錬金室を作ったんですか?」
「ええ。簡易的な小屋だったのですが、自分の敷地内ですし……まずかったですかね?」
「いえ……四方に壁と屋根があり、他人の敷地とある程度の距離があれば問題ありませんけど……。今回って薬品も扱ったのですか?」
「薬品は……多分使ってないですね。普通に材料の切り出しなんかをやっただけです」
うん。コンドーさんは薬品ではないよな。
医療用かもしれないけど。
「あれ……説明してませんでしたっけ……? A級の錬金術師でしたら、薬品でも無い限り外でも錬金は許可されていますよ?」
「A級……?」
あ、そういえば俺って一応A級の錬金術師だった。
ダーダリルの事件の時にA級錬金術師の証明書をもらった事を思い出し、慌てて魔法空間から証明書を取り出して記載事項を読んでみる。
すると、確かに書いてあった。
薬品は危険な材料などが風に飛ばされる可能性等があるので、危険ということで駄目だが、危険の無い生産系の錬金であるなら公序良俗を弁えている限り許可されてる。
あっれー? つまりあれかな?
王都に行く前から俺はお外でも錬金して良かったと?
「……聞いてないです」
「あははは……ごめんなさい。でも、普通は目を通しますよね?」
そうだけど! いや、そうなんだけどさ!
錬金室の値段がただになる。よりずっと大事な情報じゃないですか!
ああああ!
もっと早く気づいていれば作業がうんと楽になっていたのに!
もう岩とかもっと滑らかに出来たのに!
いや、次行った時にそれは直してしまおう。
もっと快適にしてやるからなー!
さて、次は図書館なのだが……。
レインリヒにどうせ試すなら家でゆっくり試しながらのほうがいいだろう、と言われ、魔法の基本とスキル取得についての二冊を借りてくることにした。
更に必要な材料も購入して家に帰り、早速本に目を通してみたのだ。
活字が得意という訳ではないので辛かった……。
でも、これを読まなければ始まらないので無言で頑張ったのだ……。
要点を纏めると、
『・魔法とは、火、水、風、土の基本4属性と光、闇の特殊2属性、そしてそれ以外は無属性に纏められる。
・それぞれ人は1つ以上適性属性を持っている。
・魔法を使うのにも適性が必要』
っと、それで自分の適性属性を調べるのがこの水晶か……。
机の上に並べたのは6つの水晶。
それぞれ赤が火、青が水、緑が風で、黄が土、黒が闇で、白が光の適性を調べる事が出来る水晶だ。
一瞬ただの魔石かと思ったが、微妙に違うらしい。
ちなみにこれは図書館で売っていた。
調べるだけで一個2万ノールもする使いきりの高級品だ。
俺の知ってる異世界ファンタジーでは、魔法使いって戦士に比べると数が少ないイメージで、この世界もそんな感じらしいのだが、この水晶の値段のせいもあると思う。
魔法が使えれば仕事の幅は広がるだろうけど、調べるだけに2万ノール。6つで12万ノールともなれば手は出しにくいだろう。
で、だ。
「それじゃ、まずは属性適性を調べるか」
レンタルした入門編の魔道書を開き、説明を読むと水晶を持って魔力を注げばいいだけらしいので早速やってみることにした。
ちなみにだが……周囲はアイナ、ソルテ、レンゲ、ウェンディ、シロの5人に囲まれている。
俺が本を読み始めた頃からそわそわとしていて、だが誰も発言せず固唾を飲んで見守っているようだった。
……まずは火からかな。
ええっと……アイナ? どうした?
なんでそんな一際真剣な眼差しでこっちを見ているんだ?
別にアレだぞ? ちょっと属性適性を調べるだけだぞ?
……気にせず進めるか。
間違って癖で錬金をしてしまわないように注意しつつ、水晶に魔力を注いでいく。
すると、赤い水晶から赤い輝きが放たれる。
「よしっ!」
「お、え?」
俺が『おお!』と、言う前にアイナが立ち上がって拳を握りガッツポーズ。
それを見てソルテ達が羨ましそうにアイナを見上げていた。
「おー……一抜けっすか。いいっすねえ」
「主君! 火の魔法が使えるのであれば私が教えよう! 簡単な魔法からになるが、共に切磋琢磨しよう!」
「お、おう。ありがたいけど、まだ使えるって決まったわけじゃないからな?」
属性適性があったからといって、必ず魔法が使えるわけではない。
適性があっても魔法が使えない者などざらにいるらしいしな。
「ご主人様! 次は水! 水をお試しください!」
「ずるいわよ! 次は風! 風よね?」
「土とかー……いいと思うっすよ?」
三人が勢い込んで頼んでくるのだが、どうせ全部やるのだから順番くらい気にしなくても良くない?
あれ? っていうかシロはどうしたんだ?
「……シロは闇だから……」
「闇は駄目なのか?」
「ん。本来は吸血種とか、首無し種とかが覚える属性。黒猫族は適性が闇。被装纏衣は、闇属性魔法を黒猫族が独自に改良したもの。シロはたまたま闇の適性があったみたいだけど……人族の主にあるとは思えない」
「そうなのか……。まあでも、買っちまったしな。試してはみるよ」
「ん……」
どうやら今回の魔法教官候補戦には加われないと思い、微妙にいじけているようだ。
後でしっかりとケアはしておこう。
そして全部を調べ終わったのだが……。
「主君……これは……」
「……ありえないわよ……」
「そうっすね……。わけがわからないっす……」
「うう……せっかくのチャンスが……」
「ぬか喜び……」
はい……。なんか……すんません……。
適性はあったんだよ……。
光以外だけど、全部。
5種類も適性はあったんだよ?
それでさ、凄く盛り上がったんだ。
『すごいぞ主君! 5属性なんて!』
『流石に5は初めて見るわね……』
『これなら皆で教えられるかもっすね!」
『ん! シロも主に教えられるかも!』
『流石です! ご主人様!』
と大盛り上がり。
俺も調子に乗っちゃってさ、このまま魔法を極めるのも……とか思っちゃったわけよ。
口に出さなくて良かったー。
で、まあ……その……お察しの通りなんだけど……。
魔法適性が! 1つも! ありませんでした!!
皆のがっかりした顔ときたらもう……。
レベル1の魔法を見せてもらって、さあ試し討ちだって意気込んだのに出ない。
全くでない!
あのときの熱されていた空気が段段と冷えていく感覚は一生忘れられないだろうさ!
声援が! 一人、また一人と小さくなっていくんだ!
具体的には使えないとわかった子が目に見えて落ち込んでたんだよ!
なんかね、誰にも強要されていないのにいつの間にか正座になってた。
5つも属性適性があるのに、魔法適性がないの!
せっかく異世界に来ているのに、魔法が使えないの!
いや待って! 正確には1つあった!
空間魔法は使えるよ!
空間魔法は一応無属性だけど、これも魔法ってついてるから魔法だから!
研究が進んでいないので属性が不明扱いで無属性なんだけどね……。
「なんか……ごめんな」
いたたまれなくなって謝ってしまった。
すると、皆がはっとして顔を上げる。
「ちが、大丈夫よ! 魔法なんか私達だって普段使わないし!」
「そうっすよ! 肉体! 肉体を鍛えれば問題ないっす!」
「う、うむ! 諦めずともこれから使えるようになる可能性だってあるしな!」
「ん! 主が強くなっても困る。シロが褒められる機会が減っちゃう」
「ご主人様はご主人様ですから!」
うわぁー……めっちゃ気を使われてる。
しかし何で使えないんだろうなあ……。
MPは十分にあるし、どれか1つくらい使えてもおかしくなさそうなのに。
更に神気もなかなかだのと言われていたのだが、光の適性は無し。
やはり神気は女神様からいただいた、ユニークスキル持ちだったからなのだろうか。
ちなみに、スキル取得は普通に行う事が出来た。
覚える方法は二種類で、まずは単純にレベルアップのポイントをスキルに割り振る方法。
これはギルドカードに取得可能なスキルが表示されるので、問題なく覚えられる。
ただし、覚えられてもレベルがどこまで上がるかは不明。
才能次第でスキル自体は取得できても、レベル1で止まる場合も勿論あるらしい。
そうならないように、各ギルドマスターは見極める力を持っていないといけないとのこと。
もう一つはひたすら練習をする。
こちらを行えばポイントは使用せずに済むが、どれだけの時間を費やすのかはわからないとのことだ。
それに練習をすればギルドカードに後から表示されるようになる場合もあるそうだ。
スキル取得については全容がわかりきっているわけでは無いらしいが、ステータスも影響するらしい。
早速試しでスキルを取ってみる。
ユートポーラからの帰り道、アイナからの助言でレベルを2つ上げ、ポイントは余らせているのだ。
普段ならMIDに振るところだが、今回は『裁縫』スキルを取得する事にした。
覚えられないのではないかと、魔法が使えなかったので後ろ向きな考えになってしまうが無事に取得することは出来た。
ウェンディは『うう、私が頼られる事が、また1つなくなりそうです……』と言っていたのだが、『色々教えてくれよな』というと元気を取り戻していくのだった。
今回は説明系。
一年の記念日なのに……。
でも仕方ないね!




