閑話 Xmas2
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材料を買ってから家に帰ると、まずは隼人をユートポーラまで転移魔法で送る。
その後は呼び出されるまでケーキ作りだ。
クリスは着々と料理を作り続けてくれているので、それらを熱々のまま俺の魔法空間へとしまえば、当日までには大量の料理が出来上がるだろう。
さて、オーブンのサイズ上、あまり大きな生地は作れないが何枚も焼いて切って繋げて、なるべく大きな土台を作るとしよう。
当然、ホイップクリームの量もとんでもない量を用意しないといけないのだが……掻き混ぜて作るのがこれまた骨が折れる。
ということで、まずは錬金室に戻り、全自動掻き混ぜ機を作る事にした。
錬金室はリートさんが今使っているのだが、こっちはすぐに終わるので邪魔にはならないだろう。
「あ。新人さんおかえりなさい」
「ただいまです。どうですか調子は?」
「順調ですよー。それよりも……この椅子快適ですね……」
「ダーウィンが用意してくれたんですが、すわり心地いいですよね?」
「とても……。正直ここならば錬金がいくらでも頑張れそうです」
その気持ち、わかります。
やはり仕事をするにしてもいい環境って大事ですよね。
椅子とか、さり気なく大切だと思います。
「あ、こんな感じでいいですかね?」
リートさんが大きなベルや、きらきらと光る丸い玉を見せてくれる。
「おお。流石ですね! かなりいい感じです」
さすがはリートさん。
俺の稚拙な説明だったのにかなり意図を汲み取ってくれたようだ。
「ふふ。この後は光る魔石を作りますよ。確か色ガラスと合成すればよいのでしたよね?」
「ええ。あ、出来れば繋げて魔力を注ぐところを少なくしてくれると助かります」
「わかりました。では、なるべく全ての魔石に平均的に魔力が渡るように組みますね」
すげえな。
簡単に言ってますが、それってかなり面倒な上に中々難しいことだと思うんですけど……。
そう思いつつも俺も全自動掻き混ぜ機を作り始める。
回転球体を合成でへらのような物が回転するように変形させ、さらにはボウルと固定できるように支柱を取り付ける。
あとはボウルからあふれ出ないようにかえしを取り付け、動力源である魔石を取り付ければ完成である。
同じ物を贋作で複数個作り、それらを魔法空間へと一旦仕舞い錬金室を後にした。
厨房に戻ると、新にクリスが何品も作り上げていたので、温かいうちに回収させてもらうことにする。
「あ、ウェンディさんやエミリーさん、リートさんにお菓子を用意しようと思うのですが、よろしいですか?」
「ああ、差し入れがてら持って行ってやってくれ」
「はい! それと、お兄さんにもお茶を淹れておきましたので飲んでください」
ありがてえ……。
ほんまええ子やでクリスはんは……。
気が利くとかそういうレベルやない。
一家に一人、クリスはんって感じや。
エセ関西弁などしている場合じゃない。
時間が無いんだった……。
とりあえず生クリームをボウルに入れ、先ほど作った全自動掻き混ぜ機をセット。
魔石に魔力を注ぎ、動作をチェックすると問題はなさそうだ。
「また、面白い物を作りましたね」
「便利だろ? 卵とかを掻き混ぜるのにも良さそうだよな」
「そうですね。それがあればお菓子作りも捗りそうです!」
「良かったら終わったら一つ持っていくか?」
「いいんですか!?」
「ああ、勿論いいぞ。手伝ってくれているし、なんならほかにも便利そうな物をプレゼントするよ」
「わあ! じゃあ私、頑張っちゃいますね!」
クリスも随分と明るくなったな。
今では俺と二人きりでも普通に話せるし、出会ったときとは大違いだ。
さて、クリスが頑張るならば、俺も負けていられないし頑張るとしますか!
ホイップクリームを作りつつ、スポンジを焼いては合間にフルーツをカットする。
一番下の土台の上にホイップクリームを塗り、その上にフルーツを散りばめて更にホイップクリームで挟んでからスポンジケーキを重ねる。
ここで普通ならば次はホイップクリームなのだろうが、ただ高くするだけでは切り分けた時に食べにくいので、切り分けやすくする為にも一段ごとにスポンジを重ね合わせ、スポンジ同士が重なっている部分を境に切り分けられるようにするのだ。
勿論、味を変える為に層ごとに内容は変えることにする。
単純に挟むフルーツの種類を変えたり、ホイップクリームに果物の果肉を混ぜたりなど様々な味を楽しめるように工夫を凝らしていく。
そして、何十人分なのだというような巨大なケーキが出来上がった。
「おー……」
クリスも驚きのあまり言葉が出てこないようだ。
ただ目を丸くして驚きつつ、ケーキを見つめていた。
縦は三段重ね、横幅は俺が腕を広げたくらいの大きさで、下に敷く皿がなかったので急遽錬金で大きな鉄板を敷いたほどである。
最後の仕上げとして、まだ層自体が見えている横の部分にクリームをたっぷりと塗り、フルーツを飾れば完成である。
いざ取り掛かろうと考えた時、ちょうど隼人から連絡がかかって来た。
『イツキさん、目的地に着きました! かなり寒いので、しっかり防寒具を着用してからいらしてくださいね!』
「あーわかった。それじゃあ準備したら行くよ」
『はーい。まってまーす!』
ふーむ。
どうするか。
「クリス、最後の盛り付け手伝ってもらってもいいか?」
「いいんですか? 私が手を加えても……?」
「クリームを綺麗に塗って、その上にフルーツを盛り付けるだけだしな。クリスなら俺よりも可愛く盛り付けできるだろう。それに、腕前は知っているから安心して任せられるよ」
「わかりました! お任せください!」
胸を叩き、エプロンを翻して果物を選別しているクリス。
その顔にはやる気と楽しいといった感情がうかがえた。
これは、帰ってきての完成が俺も楽しみだ。
「それじゃあ行ってくるな」
「はい。隼人様によろしくお伝えください」
「了解」
防寒具を取りに自室へと戻るさなか、一応ウェンディに出かける旨を伝えようと部屋を訪れる事にした。
ノックを行い、
「ウェンディ、少しいいか?」
「ご、ご主人様!? えっと……今はその……だ、大丈夫です……」
返答に少し詰まった様子のウェンディに、なんだろうと思いながらも扉を開くとその答えを知った。
赤く、三角錐の帽子に、綿のような白いポンポンのついた帽子。
肩を大きく露出させ、谷間を強調したような赤い服。
チラリと見えるおへそに、短めのスカート。
そしてその下に栄える白いおみ足が、雪原のように美しかった。
「ご、ご主人様……いかがでしょうか? 試しに着てみたのですが……」
「はぁー……やばいな。これは」
「や、やばいですか?」
「ああ、やばい。似合ってる。似合い過ぎている。ここにエミリーがいなければ襲っててもおかしくない」
それだけの魅惑を秘めている。
チラリと見えているおへそがセクシーで、そしてなによりもその胸を強調したデザインと、赤と白のコントラストが……クゥー!!
「ねえ……ちょっとこの衣装卑猥すぎない?」
「馬鹿をいうな……これはれっきとした正装だぞ」
ミニスカである必要はないけども。
「それに……これから俺は隼人を迎えに行くんだが、もし帰ってくるときにエミリーがこの服を着ていたら、間違いなく隼人は喜ぶと思うぞ」
俺と熱く握手を交わしたしな。
隼人がこの服を嫌いと言う事は無いだろう。
「……それって、貴方にも見られるのよね?」
「遅かれ早かれ見ることにはなるんだ。それなら、隼人が喜ぶ姿を誰よりも早く見たくないか?」
「……そうね。その挑発に乗ってあげるわ。ウェンディ様、私用のその服を着てみますので、微調整お願いできますか?」
「はい。エミリーさんも一緒なら恥ずかしくないですね」
恥ずかしがる必要なんてないのにな。
凄く似合ってるし。
もはや俺へのプレゼントはこれでいい。
アイナやソルテ達のこの衣装も早く見たいなあ!
これさえ見れるのだとわかれば、俺はいくらでも頑張れる!
「それじゃ、俺は隼人を迎えに行って来るぞ! 各自鋭意頑張るように!」
「……テンションが目に見えて上がったわね……。そんなにこの衣装がいいのかしら……」
「あははは……でも、褒められたら嬉しいですよね」
そういったお店でもなければ、女の子のしかも美少女のこんな衣装なんて見る機会は基本的にないからな。
この感動は、俺達にしかわからないだろう。
ウェンディ達の部屋を後にして防寒具を着込んでポケットには火の魔石をカイロ代わりに潜ませて、隼人の座標を探り少し横にずらしてから転移を発動させる。
すると、視界が一面銀世界となり、途端に身体が凍える。
「うううう……寒いな……」
当然といえば当然だが、雪も降っているし凄く寒い。
手袋なんかは無かったので、ポケットに手を突っ込んだまま出せないでいた。
「あはは、雪ですよイツキさん!」
「楽しそうだな……。ほら、カイロ一つ」
「あ、ありがとうございます。でも僕は平気ですから!」
テンションの上がっている隼人。
そして、隼人の後ろには巨大な半球のオブジェがあった。
「あれは……かまくらか?」
「ええ、時間が有ったので作ってみました! 僕の住んでた地域ってなかなか雪が積もらないので……」
幅の広い剣で雪を拾い、カマクラに貼り付ける隼人。
いいのか? 大切な武器をそんな事に使ってしまって……。
「どうするんだこれ? 持って行って庭に飾るか?」
「出来るなら……それも面白そうですよね」
「出来なくは無いな。ただ、一度ばらさないと難しいけど」
最悪雪の塊を持って行って再度作り直せばいいだろう。
あとは雪を降らせるのをどうするか……。
ああでも、今雪が降っているなら座標をメモして吸入と排出で降らしていけばいいか。
「それじゃあ、魔法空間の一区画に雪を詰めるとするか……寒いから手早くやろう」
「わかりました! じゃあ僕が抱えますので、どんどん入れていきましょう!」
隼人、元気だなあ……。
冒険者でステータスも上がると、寒さの耐性もつくのだろうか……。
ううう……寒い……。
これが、若さか……。
雪をかき集め終えて、ウェンディの座標を基点として部屋に戻ることにした。
すると、部屋の暖かさと共に視界に入るのは不機嫌そうにしながらも隼人へと視線を送るエミリー。
そして、その横でにっこりと笑うウェンディ。
「わあ……。エミリー! すごく可愛いよ! とても似合ってる!」
「そ、そう……。試しに着てみただけなんだけど……。そっか……」
隼人の言うとおり、エルフ耳でサンタ帽というのもなかなか……。
セクシーと言うよりは、可愛いというのがあっているだろうか。
スカート丈は変わらぬ物の、タイプとしてはワンピース型。
おへそなどが見えるわけではないが、色白なエミリーにもばっちりと栄えるように似合っていた。
望みどおりの回答を得られて満足したのか、エミリーはそそくさと作業に戻りはじめる。
そんな仕草を、隼人は慈しむような目で見守っているのであった。




