6-35 温泉街ユートポーラ 目的完遂
昨日の大宴会、そして初入浴を終えた次の日。
俺は隼人達を王都へと送り届け、王都の隼人宅で一息入れさせてもらっている。
「イツキさん。少し待っていてくださいね」
「ああ。ゆっくり魔力を回復させながら待たせてもらうよ」
俺はソファーに腰を下ろして魔力回復ポーションを飲ませてもらおう。
隼人とフリードが俺の願いを聞き入れる為に向かった先は宝物庫。
『戦うための力が欲しい。ずうずうしいとはわかっているんだが、出来れば……使ってない武器なんかがあれば、貸して欲しいんだが……。手っ取り早くってわけじゃないけど、少しでも強さが上がるならって思って。その、どうだろう……?』
自分で買えよ。と、思う事は当然だ。
当たり前の事だと思う。
でも、この世界はアクセサリーにも特殊な能力があり、ステータスが大きく反映される世界。
普通の武器を買うよりは、隼人の持っている物を借りたほうがいくら弱い俺でも多少はマシになれるだろう。
正直戦闘に向いていないスキルとステータスでは、なりふり構うよりも駄目で元々頼んでみた方が良いと思ったのだ。
『イツキさんが!? 戦うって……冒険者になるって事ですか?』
『いや、それはないな。今だって戦うなんて怖いし、積極的に戦おうなんて思ってないよ。たださ……なんていうか、弱いことを弱いままで良いと思えなくなっちまってさ……。……何も出来ないっていうのは……嫌なんだよ』
そういうと、隼人は少し呆気に取られていたがフリードが肩を叩き頷くと、隼人はフリードに確認した。
『確か、ボクの武器は全てお屋敷の宝物庫にありましたよね?』
『ええ。全てしっかりと保存しております』
『わかりました。それでは全てイツキさんにお貸しします。その中からコレ……という物を差し上げますので』
『いや、全部って……何種類か試させてもらってそれを借りるなり買い取るなりさせてもらえればいいんだが……』
『同じ種類の武器でも重さ、長さ、振りやすさなども大きく変わりますからね。それに、長時間の戦闘時でも使えるかどうかは、試して見ないとわかりません。試せるなら試せるだけ試した方が良いと思いますし、中には特殊な力を持った武器もありますので数は多いほうが良いかと思います!』
おおお、流石は英雄。
潜ってきた修羅場の数が違うのだろう。
俺は重さとか長さくらいしか考えていなかった。
『じゃあ……悪い。頼んでも良いか?』
『はい! 元々使っていないものですし、イツキさんのお力になれるのでしたら!』
と、いうことで現在隼人には武器を取りに行って貰っている所と言う訳である。
「お兄さん!」
「おお、どうしたクリス」
「頑張りましょうね!」
「お、おう」
クリスが俺の手を取り、ぶんぶんと振るほど興奮している。
えっと……何が、どうしたんだ?
「最近、クリスも弓を習ってるのよ。何も出来ないままじゃ嫌だって。護られているだけは嫌なんだって」
「はい! 私も皆さんと……一緒に戦いたいんです!」
「そっか……クリスもか。うん。一緒に頑張ろうな!」
「お兄さんとクリスでどっちが早く強くなるか勝負なのです! でもクリスには弓の才能があったのです! 百発百中なのです!」
「違、そうじゃなくて……あの、霊薬を使っていただいてから目の調子が良くてですね……」
「それでも暗闇で動く者を射れるんだから大したものよ」
「あううう……」
クリスは褒められると恥ずかしそうに小さくなってしまう。
凄いのに、謙虚なんだなあ……。
「それにしても、戦う理由もあんたらしいわよね。出会った当初はやる気なしの残念な感じだったのに」
「そうね。でも、それで良いとおもう」
「ま、状況が変われば、人も変わるさ。それに、積極的に戦闘に加わるつもりは無いって。自分の身を最低限護れるようにしたいってだけだしさ」
「それで良いと思うのです! お兄さんが自分で身を護れればシロ達がおもいっきり戦えるので攻撃力も増えるのです!」
まあ……現状足手まといは俺だしなあ……。
まずピンチに陥りやすい候補No1は俺だろうし。
出来ればそういう状況にならないように立ち回りたいが、今回みたいなケースが無いとも限らない。
また同じような事があったとき、鍛えておけばよかった……なんて後悔はしたくないからな。
「お待たせしました!」
「おかえり。結構な量だなあ……」
隼人が武器を立てかけたまま台車に載せて運んできた量は、少なく見積もっても数十の武器があるように見える。
吸入を発動し、隼人と協力して魔法空間に収めていくのだが、手に持つとやはり武器だなぁ……と、当たり前のことを考えてしまう。
思えば、俺ってちゃんとした武器を持ったのこれが初めてじゃないか?
「しかし……どれも凄いな」
「ダンジョンでドロップした物もありますからね。僕は元々殆ど『光の聖剣』で戦ってしまいますし、予備武器は魔法の袋に入れていますから、こちらは本当に使っていませんので遠慮なく使ってください!」
「そっか。無茶なお願いをしちゃったから、隼人の負担にならないのなら良かったよ。お礼とは別に回復ポーションを作っておいたから使ってくれ」
今朝早く起きてこれからダンジョンに向かう隼人達への餞別を用意したのだ。
回復ポーション(大)や、万能薬なんかを大量に用意しておいた。
「わあ! ありがとうございます!」
「いや、これ位しかできなくてすまんな……」
本当ならば全員にアクセサリーを……と思ったのだが、残念ながら材料も時間も全く足りなかったのだ。
「いえいえ! いくらあっても困りませんから! 大事に使わせていただきます!」
「使わない状況になるのが一番だけどな……」
「それはまあ……でも、僕がやらないといけないことですから」
「ああ。わかってる。……ちゃんと帰って来いよ」
「はい!」
隼人の返事と共に、レティ達も頷いた。
「それじゃあ、頑張ってな」
「はい! イツキさんも頑張ってください!」
「ああ。武器は決まったら報告を入れるよ。それじゃ、ありがとう。またな」
手を上げて『じゃ』とすると、皆も応えてくれる。
俺は全員の顔を見渡してから転移でユートポーラへと戻るのだった。
隼人の家から帰ると、次は真だ。
真達も送ろうか? と聞いたのだが、持ち馬があるらしくゆっくり旅をしたいらしい。
「それじゃあ兄貴! 俺等はここで失礼します!」
「おう。達者でな」
「はい! 今度アインズヘイルにも遊びに行きますので!」
「その時は歓迎してやるよ」
旅から旅を続ける冒険者である真であれば、いずれはアインズヘイルにも来るだろう。
その時は家に泊めてそれなりに豪勢な飯くらいは出してあげよう。
「イツキお兄さんありがとうございます。お醤油もいただいちゃって……」
「こちらこそ。いい食材を戴いたからな」
美香ちゃんとは食材交換を行う事ができた。
干物など出汁を取るのに使えそうなものなどを交換し、こちらからは少量とはいえ醤油や、お菓子、回復ポーションなんかも提供させてもらったのだ。
「それではアイナさん。またご連絡しますね!」
「ああ、美香殿。これからよろしく頼む」
「はい!」
俺の知らぬ間にアイナと美香ちゃんが仲良くなっているらしい。
どうやらギルドカードで連絡先を交換しているようだった。
「……あの子、実は冒険者になりたての頃からアイナのファンなんだって」
「そうなのか?」
「うん。アイナってこう……凛々しい女騎士みたいなところがあるでしょ?」
「そうだな。そういった印象はある」
「だから、女の子のファンも多いのよ」
「なるほど……」
凛々しい女性って、下手なイケメンよりも格好良かったりするもんな……。
……下手すると俺、アイナの女性ファンにも刺される心配があるのではなかろうか。
「ん。美沙また」
「アレ。是非試してみてね」
「いい勉強になった。試す」
「ええ。これで骨抜きよ」
「主はシロが独占する!」
あっちはあっちでなにやら不穏な雰囲気を放っている。
一体俺は何を試されるのだろうか……。
「あのお姉さん、なかなかのやり手っすよ……」
「やり手って……」
「昨日はソーセージを艶かしく食べる方法とか、裸と衣服の組み合わせの魅力がいかに大切かを語っていたっす。裸×ご主人の服のことを彼シャツって言うんすよね?」
……シロ達に現代知識のエロスが伝わってしまった……。
しかし、シロが俺のシャツを着たらどちらかといえば萌え袖になると思う。
性的なエッセンスは……ないなあ……。
「自分も今度ご主人の服を着させてくださいっす!」
「そうだな……その時は裸ワイシャツにしような」
丁度ワイシャツはあるからな!
下は当然何も履かせない。
それか、胸元を開けさせて下だけは下着着用か……くぅー俺、悩みます!
「それじゃあ兄貴! またお会いしましょう!」
「……おう。元気でな」
真達が去っていく姿を見送って、さてコレで一段落かな……。
よし。別荘に戻ってゆっくりするか。
「ちょっとちょっとお客さん! 私の契約金払ってくださいよう!」
あー……忘れてたわけじゃないよ?
うん。覚えてた覚えてた。当然じゃないか。
「あーその顔! 絶対忘れていましたね!」
「……悪い悪い。しっかり用意してあるよ」
「もう……頼みますよう……」
はいっと金貨を入れた袋を渡すと、早速何枚か数えているみたいだ。
守秘義務やそれ以外の要素も加わっているので、かなりの額を渡させてもらった。
ウェンディ達には話し済みなので、無駄遣いではない!
「ひぃふぅみぃ……えっと……かなり多いような……?」
「まあ、わかるだろ?」
「あー……なるほど。口止め料が多いのですね。そんなに心配しなくても、お仕事で得た情報を他者に流すほど、不誠実ではありませんよ? それに、英雄隼人を敵に回すほど馬鹿じゃありませんし」
いや、まあそうだとは思うんだけどさ。
でも、そのお金はそれだけじゃないんだよ。
「んー。まあそれもあるんだけどさ。案内人さんにはお世話になったし、正直言って案内人さんがいなかったらまだ完成も出来てなかったと思うからさ。感謝の気持ちも込めて、ちょっと色はつけておいたんだ。その、ありがとうな」
「ど、どうしたんですか? そんないきなり真面目な顔になって……。普段とのギャップ、激しいですよ?」
これは、本当の話だ。
案内人さんは本来護衛……というか、何かあった際に護ってくれる程度の契約だったのに、岩を砕いてくれたり荷物を運んでくれたり、魔物を狩りに行ってもらったりと契約外の事まで手伝ってくれたのだ。
だから――
「改めて、ありがとう。助かった」
そういうと、俺は手を差し出した。
握手のつもりで。
「……ふーむ。そういう事であれば遠慮なく、ありがたく戴きましょう。でも、ちょっと多すぎるので……てや」
案内人さんが俺の手を取り、自分の胸へもにゅんっと触れさせた。
勿論服の上からだが、しっかりとその柔らかさは伝わっているのだが、残念ながら俺の思考はまだ追いついていない。
「サービスです。あん。もう、エッチな人ですねえ……」
思考は追いついていなくとも、触れれば当然の如く揉むようにインプットされている俺の指が、案内人さんの『ぱい』を堪能する。
意外と……いや、まだおっぱいには届かないな。
ぽかんとする一同。
指は触れたままくにゅくにゅと動いていたのだが、指が空を揉んだように感じたと同時に、案内人さんはその場を後にしてしまう。
案内人さんがいた所に、シロとソルテが手を伸ばしていたのだが、既に案内人さんの姿はそこにはない。
「はっはっはー! やり返しましたよー! ではさらば!」
いつの間にか屋根の上に移動していた案内人さんが高笑いを決め、昨日のお返しと言わんばかりに置き台詞を残して跳んでいってしまう。
「追う」
「やめたれ……」
シロが黒鼬を発動して追おうとするのを止め、案内人さんが見えなくなるまで見送ってあげる。
本当、最後までぶれないなあ……。
「さて、どうしようかな」
「どうしようって、決まっているのだろう?」
「まあな」
「お風呂ですよね?」
皆当然わかっているかのようににやにやして俺を見つめる。
待て待て。俺がそんな短絡的思考だと――ああ、そうだとも。
俺がこの別荘を作った理由は混浴がしたいからだ!
それ以外にすることなどない!
混浴できないならお家帰るもん!
「よし! まだ日も高いが入ろうか!」
くっくっく。
待ちに待った温泉で混浴だ!
余す事無く俺が触れていない場所はないのではないか、というくらいしっかりと洗ってくれるわ!
はっはっはっはっは!
温泉……最高です!
これにて、6章を終わります。
言った事は引っ張っても良かったかな? と思いつつ、書いちゃえとしました。
混浴に関しては6章閑話にて……。
今後の予定。
途中に挟むのがいやで一度消したクリスマスSSのアップ。
閑話の作成。(1つか2つ)
7章の構成。
???作業。
があります。
なので、7章には入るのは少し遅れてしまうかもしれません……。
???の作業をとりあえず一段落できるところまで持って行きたい!




