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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
6章 温泉といえば
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6-32 温泉街ユートポーラ 完成

「いい加減、もういいか?」


そんな一言で俺の腕はもげる事無くあっさりと放されるのだった。

それもそのはず。

厳つい親方と、その背後には血の気がありすぎているように見える若い衆がいて、手には木槌やらノコギリを持ってこちらを睨みつけているのだ。


「作業、始めていいか? あとはここだけなんだが」

「「はい……。失礼しました……」」


親方の、『いいから早く終わらせろ!』オーラに二人は負けて、すんなりと同時に腕を放したというわけだ。


「……助かった。待たせて悪いな親方」

「いや、まあすぐ終わるしな。それより、壁の撤去は俺らでやらせてもらうぞ」

「そりゃあ……構わないっていうか、助かるけど……」


撤去くらいなら真に頼んでもいいのだが。

やってくれるというのならありがたい。


「よしお前ら! やっちまえ!」

「「「うおらあああああああああ!!!」」」


若い衆が雄たけびを上げて、古く脆い壁へと走り、その勢いのままに……いや、なにやら鬱憤を晴らすように壁を壊し始めていく。


「オオァァアアアアアアア!!!!」

「どいつもこいつも……大差ないんじゃボケエエエエエ!!!」

「羨ましい! 妬ましい! あんなやつらがいるから独身が増えるんじゃああああああ!!」

「ううう……ウェンディさん……」

「泣くな! それはわかりきってたことだろう!」

「でも……でもぉ!」

「アマツクニ男子なら! 惚れた女子の幸せを願え! 今は……壁を壊すんだっ!」

「……うん! おら壁コラアアアア! 一丁前に立ってるんじゃねえぞゴルアアアアアア!!!」


鬱憤が……溜まっておられるご様子です。

えっと……ごめんね?

でもウェンディは渡せないんだ。諦めろ。


「ま、あれくらいは許してやってくれ」

「いや、うん。許すというか、ごめんなさいというか……親方は何飲んでるの?」

「濃い目の茶だ。既婚組に女将衆が配ってくれた。ちょうどいいぞ」


甘いからか!

甘い空気を菓子扱いに、茶を合わせてるのか!

なんだか隼人と真も居心地悪そうに視線を彷徨わせているし、あ、二人の目が合った瞬間勢いよく反対を向いた。


「「「「はぁー……はぁー……壁、壊し終わりやした!」」」」


若い衆が肩で呼吸をしながらあっという間に壁を壊し、ゴミも回収してしまった。

それほど……溜まっていたのだろう。


「ご苦労。少し休め」

「「「「しゃっす!」」」」


独身の若い衆がぞろぞろと女将の居る方へ下がっていく。

ストレスは発散できたのか、少し晴れやかな顔をしていた。


今度は屈強な中年の既婚組が丈夫そうな紐で組まれた竹垣を持って現れる。

恐らくは壊した壁に変わる、竹垣を作ってくれるのだと思うのだが……

あれ? 竹垣って、どう作るんだ?


「……あいつらも、故郷を離れて結構経ってるからな……」

「え?」

「シズルウウウウウウ! 愛してるぞおおおおおお!」


ザシュッ!


「かあちゃん! 変なお店行ってごめんよおおおおお!」


ドーン!


「俺も新婚の時はあんな感じだったな……」


ザックアアア!


……素手で、竹垣を、突き刺している。

しかも深々と。一寸の狂いもなく一列にぴたりと合うようにというのが、流石経験からくる実力なのだと思わされる。


「それじゃ、俺も行ってくるか」

「親方も? ……って、それ何?」


親方が手に取ったのは、もの凄く縦にも横に長い……なんだこれ?グランド整備用の木造トンボ強化版みたいな……。


「アマツ樫の蜻蛉槌(とんぼつい)だ」


親方は新たに差し込まれた竹垣に向かってトンボを構える。

え、まさかそれを振り下ろすの?

応援団の旗振りみたいな、ポージングなんだけど、腰は大丈夫なのか?


誰もが親方の一挙手一投足に注目する中、親方は集中しているように微動だにせずトンボを構えたままだ。


そして空気が変わったのを感じた。

親方の目がカッ! っと開かれ、空へと……跳んだ。そして――。


「長いわっ!!!!」


トンボを振り下ろしつつ叫ぶ親方。

ご、ごめんって……。


振り下ろされたトンボは、正確に竹垣の上部に命中し、より深く地中に食い込んだのか先ほどよりも一段下がっているように思える。


「うっし。こんなもんだろ」


竹垣同士のつなぎ目を見て隙間がない事を確認した親方が振り返る。

肩にトンボを乗せ、振り返った親方の顔は満足げであった。

……鬱憤を晴らしたからじゃないよな?

出来が良かったからだよな?


「なんか……本当、ごめん」

「いいって事よ。甘さも若さも笑って許してやるのが大人の余裕ってもんだ」


いや……不満めちゃくちゃあったじゃないっすか……。


「さ、残りもやっちまうぞ!」

「「「「「「おう!」」」」」」


残り……あ……。

ふと、壁は一面だけじゃないと気付いた俺。

あと二面……親方達の羨望、懐郷、不満大会は行われるのであった。


そして……。


「あっという間だったな……」


親方達の奮闘、隼人や真達の手伝いもあって、ようやく完成した俺の温泉……。

ああ……素晴らしい。

この温泉が俺の……そう思うと混浴とは関係無しに自然と頬が緩んでしまう。


「そうだな……。でも、楽しかったぜ」


親方を先頭に、いい笑顔になった職人さん達。

そうだな。楽しかった。それに、本当に良いものが出来たと思える。


「おお? ついに完成ですか……?」

「まだだろ。温泉に湯がねえんじゃ格好がつかねえよ。湯は引いてあるんだろう?」

「ああそうだな……それじゃあ……」


俺は湯を出す場所へと近づき、なにやら作業をしているように見せ、源泉から一度魔法空間へと移して温度の調節を終えた湯を排出(アウトプット)によって、流していく。


「「「「おおお!」」」」


ゆっくりと浸透し、そして徐々に溜まっていく湯に歓喜の声が上がるが、俺はしっかりと水漏れが無いかに目を凝らしていた。


「……大丈夫みたいだな」

「おう。おめでとさん」


グッっと手を出された俺は、一度手汗を服で拭ってから親方の手をしっかりと握る。


「改めて、お疲れさん」

「親方こそ。いい仕事をありがとう」

「はっ、それが俺の仕事だからな。建物の説明は書いておいた。祝杯は、身内でやんな」

「おい、混ざらないのか?」


こんな良い日だ。大盤振る舞いをしたってウェンディ達も無駄遣いだとは言わないだろう。

それに温泉もあるし、いっぺんには難しいかもしれないが、二回に分ければ全員入れるぞ?


「こっちはこっちでやるよ。服も汚れちまってるし、家建てたからってその家の風呂に入る奴ぁいねえだろ」


それはそうだが……。

なんていうか、寂しいじゃないか。


「旦那! 楽しかったでさあ!」

「ウェンディさんの飯が食えないのはアレですが、酔っ払って騒いだ挙句、家を壊しちまったら元も子もないですからね!」

「アマツクニ男子は早飯、深酒、早喧嘩ですからね!」

「って事だ。今日は俺らは朝まで飲むからな。この街で一番良い店を貸しきって飲むぞ! 金はお前さんのおかげで大分浮いたからなあ!」


すっと出された請求書。

ああ、材料費の明細か。

確か1億前後でお願いしたんだが……

えーっとどれどれ……ジャスト1億……。

やりくり上手かってくらいぴったり予算一杯だった。

まったく、やり手だなあ。


「了解。請求書は任せて大いに楽しんでくれ」

「おう! 報酬は受け取れねえが、あとはアマツクニに帰るだけだからな。使節団の資金として貰った金も、きっちり使いきらねえとな!」


多分本当にきっちり使い切るのだろうな……。


「ああ、そうだ忘れてた。これやるよ」

「ん……これは、櫛か?」

「おう。材料が余ったからな。こっちのが髪用。こっちが獣人の尻尾や耳用の櫛だ。何本かあるから好みで好きに使いな」


好みで……というが、すげえ。

櫛目が細かい物から、粗い物まで数多く揃っている。

材料が余ったから……というレベルでないのは一目でわかった。


「親方の櫛は人気が高すぎて今は手に入らないんですぜ! しかも弟子ではなく、本人の手作りですからね! お上も欲しがる一品でさあ!」

「そうなのか……。ありがとう親方。大事に使わせてもらう」

「おう。女の子達を大切にな」

「もちろんだ」

「ふん、余計なお世話だったか。それじゃあまたな」


そう言って親方達は去って行く。

若い衆は元気よく最後まで手を振っていて、他の皆はそれぞれが楽しそうに今回の家での拘った部分を話しながらこの場を後にしていた。


「さーって。私の契約期間も終わりですね」

「え、案内人さんは来るよな?」

「えーっと……行ってもよいのですか?」

「当たり前だろ。手伝って貰ったんだし、参加してくれよ」

「……タダですよね?」

「当たり前だっての……」

「なら参加しましょう!」


現金だなあ。でも、案内人さんらしくて良いと思います。

そういえば、料金はしっかり色をつけて払わないとだな。

契約以上の仕事をしてもらったのだし、それくらいはさせてもらおう。


「ん、案内人には聞くことがある」

「そうね。私達が居ない間どうだったのかをね」

「え? え? なんですか!? 何を聞くつもりなんですか!? あ、私やっぱりやめ、アッー!」


シロとソルテにがっちりと肩を捕まれた案内人さんは、逃れる事ができずに宴会前の女子会が開かれるようである。

……がんばれ!


「よし。それじゃあ準備するか。お湯は出したままで良いとして……料理だな。俺、クリス、ウェンディと美香ちゃんも料理得意なんだったっけか?」

「あ、はい! スキルもありますし、大丈夫です」

「じゃあこのメンバーで調理場に行くぞ。大人数だから頑張ろう」

「「「はい! 頑張ります」」」

「他の皆は休んでてくれて良いが、適当なタイミングで料理は取りに来てくれよ。あと、ツマミ食いは厳禁な」

「「「「「はーい!」」」」」


さて、それじゃあ最後の一盛り上がりだ。

隼人達、真達も含めた大人数だからな。

シロやアイナ達の労いも含めて気合を入れて作らねば!


……それに、『お小遣い』で手に入れたアレもある。

せっかく流れ人がコレだけそろっているんだ。

量はあまりないが、出し惜しみせずに出すべきだろう。

ただ、俺が作りたい汁物を作るには出汁の材料が足りないんだが……。

うーん……この街に売っているだろうか……。

活動報告にてキャンペーンの告知と、近況状況を報告しました。


もう少しだけ、6章にお付き合いください!

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― 新着の感想 ―
不満たらったらながら真剣に技術を振るう。これぞ人間の本能がなせる匠の技
[良い点] 親方含めた職人さん達の心からの叫びが駄々漏れで壁に八つ当たり。 分かるわ。
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