6-31 温泉街ユートポーラ 一件落着?
活動報告にて、書籍関連のご報告というか告知をしていますので、よろしければ閲覧してくださいな!
『あとがきのアトガキ』という、ショートストーリーについてのお話です。
「と言うことで、ご主人様? 赤ちゃんの順番は、恨みっこ無しの出来た順……という事になりました!」
ウェンディをはじめ、4人が俺に詰め寄って報告を終えたのだが、シロはなんだか不満そうだった。
「……納得いかない」
「ふふーん。はやく成人しなさいよ」
「その前に自分達の赤ちゃんが先かもしれないっすけどね!」
「主から四六時中離れない。邪魔する」
「それは……勘弁して欲しいのだが……」
俺からおあずけ、と言われているシロは、どうやらご立腹のようだ。
さて、そろそろ真君の様子を見てみようか……。
白い。
いや、灰色か?
燃え尽きてるのか?
呆然と立ち尽くしたまま、目には光がなく灰色に染まってしまっていた。
「真! 真しっかりして!」
「はっ! 俺は何を……。ふう、ビックリした。悪夢を見ていた。あいつが、三人の美少女に告白されるシーンをただただ見せられてる悪夢だった!!」
「夢じゃないわよ? 現実よ?」
「うそだ! あれは夢だ! 夢であってくれ! じゃないと、俺は……俺はっ!」
「真、あれは本当だよ? 夢じゃないんだよ!」
「いやあああああああああ!」
どこから声を出しているんだといったような高い叫び声を、耳を塞ぎながら上げる真。
そんなにも衝撃だったのだろうか?
いや、確かに真の前で行うような事ではなかったかもしれないが。
「はぁ……はぁ……。な、なああんた……あれは夢だよな?」
「いや……事実だけど……」
「いいいいやああああああああああ!」
またか! こいつ、ショックで死んでしまうんじゃないか!?
顔がムンクの『叫び』みたいになってるぞ。
「あああああ! なんでだよー! なんであんたが、そんなにもてるんだよー!」
そんな事を言われてもな……。
「まさか! あんたも英雄なのか!?」
「んなわけあるか……俺は非戦闘系だぞ……」
「だが、さっきあんたは召喚師って……はっ! まさか、その美少女達はお前の召喚獣なのか!? それなら納得が――」
「あ、悪い。それ嘘な。ただのしがない錬金術師だ」
「はぁああ!? 錬金術師!? なるほど、媚薬や怪しい薬を作って彼女達を洗脳しているんだな!!?」
「おい。いい加減しまいには怒るぞ?」
そこまでするくらいなら、大人しく色街に通い詰めるわ!
「そうよ。あのね、私達には『鑑定』スキルがあるんだから、そんなことすぐにわかるでしょう……」
「いやほら。俺達流れ人のユニークスキルで……」
「ユニークスキルって、これのことか? 『お小遣い』」
確か今日って、スタンプの日だった気がするんだが……。
お、やっぱりだな。押してみよう。
パンパパパパパーン!
さて、前回のウサギ? の絵の時は醤油がプッシュ式の容器で現れたんだが、今回のウサギ? の日は……ん……。お?
おお!
これは……まさか!
「空から……何か降ってきた?」
「ああ。一日一度、お金が貰える『お小遣い』ってユニークスキルだ。最近は特別な物も貰えてるんだが、便利だぞ?」
まず食いっぱぐれる事は無いからな。
それに、最近は女神様からのサービス品が本当に嬉しいばかりである。
もう、本当愛してます。
「おこ……お小遣い……? なんで女神様はそんな……」
「あー……選択式だったからな。やっぱりお前達は違ったのか?」
「私たちはそれぞれに合ったスキルを女神様に選んでいただきましたが……」
うーん……。
やっぱりそっちが普通なのか……。
それか、時期によって変わっていたとか?
組み合わせが足りなくなって、俺の時には選ばせた方があと腐れが無いだろうって状態だったとか……?
多分俺の方が後だったのだろうし、その可能性はありそうだ。
「……でも、さっきのスキルってもしかして空間魔法ではないですか?」
あー……やっぱり気がつくか。
流石は『魔道の極み』そりゃあ自分に使えない魔法を目の前で見ればわかるよな。
「そう……だな。お察しの通り、空間魔法だ」
「そうか! そのスキルを使って、敵を倒して――」
「だけど、空間魔法はどちらかと言えば補助系で、戦闘にはあんまり使えないんだけどな」
「そうなのですか?」
「ああ。魔法空間に収納したり、移動したり、気配察知なんかには便利だけどな。残念ながら、俺に攻撃スキルは無いよ」
「なるほど……空間魔法も興味があったのですが、私はこちらで良かったかもしれませんね」
『不可視の牢獄』で、攻撃する事は可能だが、あれって魔法耐性が高いと効果ないしな……。
やはり、防御主体で使うのがメインだろう。
真のパーティならば、バランス的にも美沙ちゃんは『魔道の極み』で良かったと思うぞ。
「ぐぅぅううう! じゃあ、なんで! あんたは! そんなにもてるんだよおおおおお!!! 英雄でもないくせにいいい!」
いや……別に英雄じゃないと駄目って事は無いだろうよ……。
ただなにかと英雄といえば、そういった印象があるってだけだろう。
「ねえ、主様? あれ誰?」
「主君の知り合いか?」
「黒髪黒目……流れ人っすかね?」
「ぐふぅ……っ!」
おい、今更気がついたのか?
一応お前達はさっき、あいつらを飛び越えて出てきたんだぞ?
すまん真。悪意はないんだ。
だからこれ以上胃の辺りを押さえて苦悶の表情を浮かべないでくれ。
「な、なあ君たち、そいつの何がいいんだ? いっちゃあなんだが、ただの普通のおっさんだろ!?」
「おっさ……っ!」
おっさん……おっさんか……。
そうだよな。
高校生から見れば、俺はただのおっさんだよな……。
「イ、イツキさん! 大丈夫ですか!?」
「駄目かも……」
「ん、シロが、殺る」
「いえ、僕が――」
「あーあーあー! 大丈夫ー! 傷ついてなんていないから!」
おいおいおい、危うく落ち込んでもいられないのか!
「……あんたなに? いきなり主様におっさんとか……」
「そうだな。主君はまだおっさんなどと呼ばれる年ではないぞ」
「そうっす! 精神年齢はまだまだ子供の領域っすよ!」
……。
褒め……てるつもりなんだろ?
そうなんだよな?
案内人さん、ぽんぽんって肩を叩かないで……。
「ご主人様……」
「ありがとうウェンディ。うん。大丈夫だから。優しく抱きしめられると泣いちゃいそうになるから……」
そうなんだよなあ……。
隼人と普通に話してはいるけど、結構年齢は離れてるんだよな……。
「ぐっ……そんな、女に護られているような男がいいのか!?」
「仕方ないでしょ! 主様は弱いんだから!」
「そうだぞ! 怖いと言っている人間に、無理矢理戦わせる必要は無いだろう!」
「いえーい! ビビリじゃないとご主人じゃないっすよー!」
レンゲ、お前は後でデコピンの刑だ。
絶対遊んでるだろうお前!
まだ浮かれてたのか!?
「……強いからとか……格好いいからとかじゃないのか……?」
へっ。そんなところ、俺には一片もありませんっての!
普通で悪うござんした!
もういいだろ! これ以上俺をいじめないでくれ!
「まあ、自分達はそんな理由でご主人を好きになった訳じゃないっすからね。ただ、今ここにいるご主人が誰よりも好きなんすよ」
……。
「そうね。時々見せる真面目な顔とかにはグッてきちゃうけどね。好きになってからは、全部好きなのよ。弱さも、えっちなところも、ちょっといじわるなところもね……。まあ、程度は考えて欲しいけど……」
「主君なりに、出来る事をしてくれているんだ。私達も出来る事を主君に返しているだけだよ。持ちつ持たれつ……お互いが支えあう。それが、私達のあるべき形だと、私は思っている」
おい……。
下げてから上げるとか、卑怯だろう……。
「私たちは、皆ご主人様が大好きです。あなたは普通の……などと言いましたが、私達にとってはかけがいのないご主人様なのです」
「ん。主が笑って側に居てくれる。それだけで十分」
あー……。
あああー……。
目頭を押さえてしまう。
いかんなあ……。
「イツキさんは、強さとか、見た目以外にとても魅力を持っている方です。僕も、イツキさんが大好きです。お兄ちゃんのようで、友人のようで、この世界に来てくれて、僕は救われましたから……」
「……実際救われたのは俺だけどな」
あの日、隼人がいなければ俺は今ここにすらいない。
何度感謝したって、しきれないほどに隼人には恩を感じている。
今、皆と一緒にいられることだって、突き詰めれば隼人のおかげなのだから。
「それは違うわよ。あの日から、隼人は変わったもの」
「そうね……。一人で悩み苦しんでばかりいたのに、笑顔が多くなったのは、やっぱりあんたのおかげよね」
「隼人様は元々格好良かったですけど、もっと格好良くなったのです! お兄さんのおかげなのです!」
「お兄さんは……良い人です。私も、お兄さんのおかげで隼人様ともっと仲良くなることが出来ました」
「お客様は、いざという時は出来る男ですよ」
……。
はぁぁぁぁ……。
そんな大層な男じゃないよ。
出来る事をするだけで精一杯だ。
でも、素直に嬉しいって、思ってる。
皆、ありがとう……。
「……私も何か褒めておくべきですかね?」
「いいよ。無理しないで……」
案内人さんとは出会ったばかりなんだから、無理して褒めようとする必要はないっての……それに本当に十分なんだって。
「そんな……そんな……。じゃあ、俺の努力は一体……なんだったんだ……。英雄になれば、ハーレムが築ければ、二人にも……応えられると思ってたのに……」
「まーくん……」
「真……」
「俺は……二人が好きだ! 告白されて嬉しかった! でも、どっちも好きなんだよ……。選ぶ事なんて出来なかった! どっちかしか幸せに出来ないなんて、俺は嫌だったんだよ! だから……異世界に来れて嬉しかった……、英雄になって、ハーレムになってしまえば二人にも応えられると思ってたから……」
告白……された?
え、二人から?
……はぁ。やっぱり同情の余地のないリア充じゃねえか……。
「……でも、二人はそれを良く思ってなかったんだよな。ハーレムなんてくだらないって……。俺には出来るわけないって……。だから、頼む! 迷惑をかけたのは悪かった! だから、あんたみたいに英雄でもないのに、複数の女性と愛し合える秘訣があるなら教えてくれないか!」
「あ、それは僕も聞きたいです。イツキさんって……なんでこうも人を惹きつけてしまうのでしょうか?」
惹きつけって……いや、そんなことはないんじゃないか?
そんな秘訣なんておれ自身が知るわけ……ん……あれ? なんだ? 皆黙って俺の方を見てるんだが……。
「主様って、すぐに人と仲良くなるのよね」
「ん。神官騎士団のテレサとか、副隊長も危ない」
「領主様も危なくないか?」
「アイリス様もですよね……」
「あはは、女たらしっす!」
酷い言いようだ!
先ほどまでの感動を返せと怒鳴りつけたくなってしまう。
そして未だにやまぬ俺への熱い視線。
美香ちゃんや美沙ちゃんもこちらに注目している……。
フリードが、『今がいざ! ですぞ!』と良い顔でこっちを見ている。
え、答えなきゃいけないの? 俺自身がよくわかっていないのに!?
「えー……あー……。なんだ……その……一人一人を……大切にする気持ちとかじゃないか?」
なにこれ!
凄い恥ずかしいんですけど!
「おお! いや待ってくれ! でも俺は二人の事を大切だって思ってる!」
「あー……言葉にして伝えたか? 想ってるだけじゃ、伝わらない事もあるし……やっぱり、伝えるって大切だぞ?」
「伝えて……。あ……。ご、ごめん。俺、二人にちゃんと伝えてなかった……」
「僕は皆に言ってますよ。大好きだって。毎日欠かさず抱きしめてから伝えています。イツキさんの教えどおりに!」
いや、俺はそんな事は言ってないはずだ。
少なくとも毎日抱きしめて伝えてやれなんて言ってない!
「は、恥ずかしいですけど……毎日隼人様に言われると幸せです」
「……そうね。悪くは無いわよね」
「そんな事言って……。レティは二回も催促しているのを知ってるわよ」
「レティだけずるいのです。ミィも甘い言葉を毎日ささやいて欲しいのです」
毎日甘い言葉をささやくなんて、俺は伝えていない!
真! 勘違いするなよ? それは隼人のオリジナルだからな!
「……いいなあ」
「ん。シロも推奨する」
「……主様から毎日……」
「それは……幸せだろうな」
「っすねえ……」
おいやめろ。
そんな期待した目で俺を見るんじゃない!
そういうのは大事な時にしっかりと伝えるから!
毎日とか……考えただけでこそばゆい……。
「なるほど……ほかにはなにがあるんですか!?」
え、ほかには!!?
というか敬語になったぞ。
ええ……っとって、なんで真面目に俺は考えているんだろうか。
この質問に、答えなんてないだろう……。
「あー……あとは、こっちがお願いするなら、相手のお願いもしっかりと聞くとか……」
「好きな子からのお願いだと、何だってかなえてしまいたくなりますよね」
「俺は……俺は基本的に自分の事ばっかりだ……。俺がしたいようにして、それに二人が付き合ってくれていた……」
「英雄になろうとして、結構無茶をしたんじゃないか? 危ない事に付き合ってもらって、お礼は伝えているか? その……なんだ。恥ずかしがらずに行動する事が大切だと……思うぞ」
今現在もの凄く恥ずかしいんですけどもね!
「感謝……。心ではしてても、気恥ずかしくて、言えてなかったかもしれない……。ごめん。二人とも……俺……駄目だなあ……」
「いいのよまーくん。それは、私達が決めた事だもの」
「うん。私達も、真と居たかったからついて行っただけだからね」
「二人とも……。ありがとう……」
なるほど。他人のラブコメを見せられるというのは、こういう気分なのか……。
だが、いい流れだ。
こんなところだろう?
もういいよな? もうないよな!?
「ありがとうございます……。それで、これで全部ですか? これだけですか!? まだあるのなら是非教えてください!?」
まだやるの!?
あーでも、そうだな。
「……。後は、何を賭けてでも幸せにするって覚悟だろ。俺は弱いけど、こいつらの為になら世界だって敵に回す覚悟はあるぞ」
「……そうですね。僕も大切な人の為ならば……誰であろうと敵に回せます」
隼人と顔を見合わせると、ニコリと笑顔を向けられる。
俺も、それにつられて笑ってしまった。
「お、おお……俺は……覚悟が、足りなかったのか……」
「いや、でもさ。真は二人を守り抜くって言ってたろ? なら、それを貫き通せばいいだろう。お前の力は守る為の力なんだろうし、誓いを守り通したら、最高に格好いいと思うぞ」
文字通り、体を張って好いた女を守る。
あらゆる障害から大切な相手を守り通すなんて、誠実な、護り手の名に相応しいじゃないか。
女神様も、そんな真の深層心理に気がついてスキルを渡したんじゃないのかな?
「……俺。護り通します。二人の事が好きだから。二人とも愛してるから。だから、それが叶うように、頑張ります」
「まーくん……私は、美香ちゃんなら一緒でもいいわよ?」
「私も、お姉ちゃんなら仕方ないかなって思う……。真が、決められないじゃなくて、二人がいいって言うなら……」
「ありがとう……。でも、もっと男を磨いてから、ちゃんと俺から二人に告白するよ。ちゃんと……俺が俺を認められるようになってから……」
……ふう。
これにて一件落着かな。
これでようやく作業に戻れるだろう。
と、思っていたら真が俺の方に近づいてきて、俺の腕をしっかりと握る。
ちなみにだが、ダメージは20だ。
割と痛い。
うつむいた顔のまま、俺の手を握る真。
えっと……なんでしょうか? 驚いていると、真の顔ががばっと上がり、俺の眼前へと迫った。
その顔は随分と気合が入っており、隼人とシロが警戒を強めたのがわかる。
だが……。
「すみません……ご迷惑をおかけしました!」
「いや、まあいいよ。それにしても良かったな。がんばれよ」
「はい!」
ふふふ、まあやっぱりこいつ、嫌いなタイプじゃないんだよな。
隼人とは違うタイプだけど、愚直に真っ直ぐで、悪い奴じゃないってのが良くわかるよ。
「その! つきましては兄貴と呼ばせていただいても?」
「いや、駄目だけど……」
「そんな兄貴! もっと俺に、モテ道を! 兄貴のモテ道を教えてください!」
「そんな道はない!」
知ってたら独占するわ!
っていうか、俺が知りたいっての!!
隼人に聞け隼人に!
「んん? んんんー? ちょっといきなり馴れ馴れしすぎません?」
「なんだよ! お前は兄貴にもう教わったんだろ? ならいいじゃないか」
「そういうわけにもいきませんよ……ほら、イツキさんが迷惑がっています。離れてください!」
「そんなことないッスよねー? ねえ兄貴!」
……とりあえず。
頼む。落ち着いてくれ。
今の状況をよく理解してから、落ち着いてくれ。
男が! 男の腕を! 取り合っている状況だからな!
「これで一件落着でしょうか?」
「ごめんなさい。ご迷惑をおかけして……」
「いいんじゃない? まあ、主様らしいというか……」
「そうなんですか? 大変ですね……」
「まあ、主君はこんな感じだ」
「ん。早くお風呂入りたい」
「せっかくだし、手伝うわよ。せっかくだしね」
「ミィも手伝うのです!」
「わ、私も……」
「ダンジョンに行く前のいい休息になりそうね」
「私も、お手伝いいたしましょう。力仕事は得意ですので」
「っす、ぱくられたっす……」
おい。そんな話をしてないで助けてくれ!
いい加減離せっての! ダメージが、鎧がぶつかってダメージが……あっ……。
もうそろそろこの章も終わりですね。
後一話か二話か……。
随分と、長くなってしまいました……。
7章の構想終わってないんだよなあ……。




