6-27 温泉街ユートポーラ まーくん
3333万3333PV突破!
と、関係は無いですがまた告知を活動報告の方に載せておきますので是非是非見に来てくださいな!
何処に潜んでいたのか、すぐさま案内人さんが俺の横に現れて戦闘態勢に入ってくれた。
さすがは護衛。ちゃんとお仕事してくれますね。
「……ヤリますか?」
「いや、まだ様子見で」
「そうですか……出来れば先手を取りたいんですけどね」
確かに、チート能力持ちの『流れ人』が相手だと緊張するよね。
いつになく案内人さんの顔に、真剣さが加わっている。
「まあ、そうならないようにするからさ」
「……わかりました。ですが、危険でしたらすぐに逃げていただいて構いませんよ」
「その時は案内人さんも一緒にね」
流石においていく理由もないしな。
内容から親方達に危害を加えるとは思えないので、もし危なそうなら案内人さんとウェンディを連れて転移してしまおう。
彼らは倒れた状態から女の子二人が立ち上がり、そのあとに男の方が立ち上がると、もう一度俺のほうを指差してポーズを決めた。
「見つけたぞチー」
「人を指差すなよ。習わなかったのか?」
さて、まずは相手の主導権を奪おう。
もっともらしい事で相手の話の腰を折り、相手のペースから自分のペースへと流れを変える。
「そうね。まーくん? 初対面の相手に失礼よ」
「美沙姉どっちの味方なんだよ!」
「正しい方に決まってるでしょ。何? まーくんは自分が正しいと思ってそれをやっているの?」
「いや……それは……ごめんなさい」
ちゃんと俺のほうに向き直ってから頭を下げるまーくん。
思いも寄らない援護だったが、なんだ。意外と話がわかるじゃないか。
これならちゃんと会話が出来そうだな。
「それで、まあ俺の事はわかってるみたいだけどそちらさんの自己紹介はないのかな?」
「自己紹介だと?」
「初めまして。鈴木美沙といいます」
「あ、えっと、鈴木美香です。お姉ちゃんとは一個違いの、17歳です」
「二人ともぉ……」
自分のペースを握れず、涙目のまーくんは置いておくとして鈴木って……もしかして、二人も『流れ人』か……?
更には17、8って……現役JKだったのでは?
はぁぁ……若いっていいね。
「はい、よろしくね。それで、そちらさんは?」
「ふふん、貴様に話す――」
「まーくん?」
「……野間真です」
んー。力関係は完全にお姉さんにあるみたいだ。
で、えっと目的はチートで奴隷ハーレムを許さないから俺と勝負しろだったか?
えっと、なんで?
「はい。ありがとう。それじゃあ本題に戻すが、まーくんは俺と勝負がしたいと」
「そうだ! 俺と正々堂々勝負して、俺が勝ったら奴隷達を解放しろ!!」
「んー……と、この世界の一般的な奴隷がどんな扱いかはわかってるか?」
「ああ知ってるさ。だけど、あんたは数多くの女性奴隷を連れているだろう!」
まあ、そうだな。
ウェンディとシロは買った奴隷だけど、三人は買わされたというか、なんというかだけど……。
いやまあ買うと決めたのだから全員俺が買ったな。
「そうだけど……女の子だけを集めちゃいけないとかあるのか?」
「うぐっ……羨ま……じゃない……。そんな無理矢理な関係倫理的にも駄目に――」
「ご主人様! 凄い音がしましたけど大丈夫ですか!」
真の言葉を遮るようにかけてきたウェンディが俺の身体を念入りに触ってチェックしつつ、俺の顔色を伺って無事な事を確認すると、ふぅー……っと大きなため息を吐いた。
「良かった……安心しました」
きゅっと俺の腰に手を回し、優しく軽く抱きしめてくるウェンディ。
触れるくらい近いので、ウェンディから少し甘い匂いが鼻孔をくすぐってきた。
「ああ、大丈夫だよ」
ぽんぽんっと頭を軽く撫で、ウェンディを安心させると真に向き直る。
「……ねえ真。アレが無理矢理?」
「ぐぬぬぬ……。わからないだろう。洗脳かもしれない!」
「そうかしら……? 闇魔法の気配はないわよ?」
「ぐぬぬぬぬ……」
何かみるみる真の瞳が潤んでいくように見える。
「まあ見ての通りだ。無理矢理……なんてことは無いから、安心しろよ」
「ご主人様? あの方々は……敵ですか!? ご主人様はお下がりください!」
「落ち着けっての……」
俺を庇うように前に出るウェンディさん。
あれ、俺ってそこまで頼りない?
流石にウェンディを盾にとかできないので、腰を持って場所を入れ替えると、「ひゃん」と可愛らしい声を出すウェンディ。
ごめんごめん。いきなり腰を持ったのは悪かったからそんな可愛い顔で睨まないでおくれ。
「……というか、やっぱり噂と違うと思う。周りにいる女の子も噂じゃ奴隷じゃなかったし……今になっても鎧も着ないでいるし……。あと年齢。私達と同じくらいじゃなかった?」
「噂なんて尾ひれがつくものだろ? それに、奴から感じるオーラは英雄級だ。間違いない」
「まーくんオーラなんて感じ取れるの?」
「……うん」
あ、嘘だ。
適当ぶっこいたなあいつ。
それにしても、奴隷じゃない女の子を侍らせていて彼女達と同年代で英雄級……思い当たる人物が一人だけいるんだが?
「んー……これ、もしかして隼人の案件じゃないか?」
「ご主人様?」
「ああ、いやなんでもないよ」
よし、確かめてみるか。
ああちょっと待て。落ち着け。気が早い。
「えーとだな。少しいいか?」
「なんだよ!」
「あー……その、な。俺の自己紹介をしようと思って」
「知ってるよ! 英雄隼人だろう! お前が、お前のせいで俺が英雄って呼ばれないんだからな!」
「……は?」
うん、やっぱり隼人と間違えられてた。
それはいいけど、隼人のせいで英雄と呼ばれないってどういうことだ?
「悪い。意味がわからないんだが」
「いいだろう教えてやる。……あれは、俺達がやっとの思いでダンジョンを踏破した日のことだ……。街に戻ると何やらお祭りムード。話を聞くとダンジョン踏破のお祝いだって言うから、てっきり俺達の事かと思ったら……」
「隼人だったと……」
「そうだよ! しかも俺達がクリアしたダンジョンよりも高位のダンジョンのな!」
それはなんというか……タイミングが悪いとしかいいようがないだろう……。
「ほかにも悪さをしていた魔族を倒したのに、街では魔王の一角を倒した隼人万歳ムードだし……俺も、俺達も必死に戦ってきてるのに誰も認めてくれないんだぞ!」
「……あー……なんだ。そのー……どんまい?」
どんまい以外にかけられる声が見つからない。
なんだろう。不憫な子なのかな? 運がないのかな?
「何がどんまいだ! お前の! お前のせいで! だから正々堂々真正面から勝負を挑んで、英雄隼人よりも強い事を証明するんだ! そして、俺が真の英雄になる! そして、俺もハーレムを……いや、なんでもない」
同じ『流れ人』として、いやむしろ同じ『流れ人』だからこそ優劣をしっかりつけたいのだろう。
英雄になりたいってのも、欲まみれではあるが共感は出来る。
俺はなりたいなんて思わないけど、隼人ほどわかりやすい性格でもなければ無償で人助けを……なんて言われるより、よっぽど理解しやすいしな。
「だから頼む! なにも殺し合いがしたいわけじゃないんだ! どちらかが参ったと言うか、戦闘不能と判断した段階で勝敗は決めるから俺と勝負してくれよ!」
「あ、勝負する事になったらですけど、私のスキルで直ぐ治しますのでご安心を」
妹さんはスキルで回復が出来るのか。
しかもなかなかの自信っぷりって事は、高位の回復魔法が使えるということだろうか。
「なんなら俺のユニークスキルを先に話しておいてもいい。どうせ話したところで変わりはしないしな」
「……おいおい。それって結構重要な情報だぞ?」
隼人と出会ったとき、隼人は俺にユニークスキルを相手に知られることが危険だと語っていた。
確かにこいつのユニークスキルを知っておける事は、もしもの際に役立つかもしれないが……。
「構わないさ。俺のユニークスキルは『難攻不落』。物理、魔法のダメージを95%軽減する。そして、あらゆる状態異常をパーティ単位で防ぐ事が出来る」
えーと……強っ!
単純明快すぎて一瞬微妙かもと思ったが、よく考えれば確かにユニークスキルらしい強さだ。
HPが100減る攻撃が、5になるんだろ?
20分の1だぜ?
確かに隼人に挑むだけのスキルではあるのではなかろうか?
「では私も。私のスキルは『魔道の極意』。光と空間魔法を除く全ての攻撃魔法が使えるわ。魔法同士の合成も可能よ」
「じゃあ私のスキルは『治癒姫の奇跡』です。治癒魔法の全てが使えます。あと、一定条件下での蘇生魔法も使えます」
二人は魔法職か。
タンク1人に魔法使いが1人、そして治癒師が1人と。
うちとは逆で、物理前衛が足りなそうなイメージだが、タンクの真に敵の攻撃を集中させて耐えてる間に魔法で殲滅って感じかな?
真は防御スキルを必要としない分、レベルアップで伸ばすスキルはほとんど物理攻撃にまわせるのだろうし、バランス的には結構いいパーティなんじゃないか?
でも、教えてもらっておいて大変心苦しいんだが……。
「いやー……な? 凄い盛り上がってるところ悪いんだが……」
「なんだよ! まだ何かあるのかよ!」
「そのー……な? 俺さ、隼人じゃないんだけど……」
「……え?」
きょとんとしてしまった。
後ろにいる美香ちゃんはやっぱりといった顔で、美沙姉って子は噴出してしまっている。
「そんな……」
「ほらー。やっぱり人違いだった」
「うふふ、まーくん? ごめんなさいして帰りましょう?」
真は下向いてぷるぷるしちゃってるよ……。
可哀想に……あれだけ啖呵を切ってしまった手前、恥ずかしいんだよな……。
大丈夫。今ならまだ帰れるさ。さあ、森へお帰り。
「……るい……」
「ん?」
「ずるいずるいずるい! なんで英雄でもないのにそんなハーレムとか築いているんだよ! 俺だってハーレムがしたい! 可愛い女の子と、肉欲にまみれた生活がしてみたい! なのに俺は幼馴染と一緒に転生してきたんだぞ! だからハーレムなんて作れっこないんだぞ!」
おおお……駄々をこね始めたぞ。
すごい。可愛くない。すごい。
「ああああああエッチしたい! 童貞を捨てたい! 綺麗なお姉さんにリードされて童貞を捨てたいんだよおおおお!」
ふふふ。俺お前嫌いじゃないわ。
いいねえ。欲求に素直な感じが。
だけどもう少しまわりを見てみようか。
特に幼馴染の顔とかさ。
「ひっ……ひっ……ずるいよ……俺も、ずる……」
「あー……あれか? 英雄になれば、ハーレムを築けると思ってて、だから英雄になりたいと……」
「そう、だよ……英雄はもてもてだからな! たとえハーレムは作れなくても勝ち組じゃないか!」
「でもさ、ほら、二人も綺麗な幼馴染がいるだろ?」
「二人は、小さい頃から一緒に過ごしてきてるから……女の子っていうより家族って感じが強くて……」
おおう、二人の顔が一瞬強張った。
怖っ! 黒いオーラが見えた!
こいつ、あれだ。鈍感系だ。
まだこの二人が自分にとってどんな存在かわかってない鈍感系男子だ!
そうとわかれば荒療治だが、物語のキーポイントとなる大人の意見でちょっかいを出してやろう。
「いやお前……その二人かなり美人だぜ? いいのか? 例えばこの子達にいい人が出来たりしたら、お前の側から離れていくんだぞ?」
「二人が……? まさかー……」
そんな事は無い……といった顔だったのだが、真が振り返ると二人はなんとも言えない表情を浮かべていた。
それを見て、危機感が生まれたのか真の顔は焦ったような表情に変わる。
「まさか……まさか!」
うんうん。
これで二人を意識するだろう。
そうすればきっと真が好きであろう二人のどちらか、または両方と結ばれてハッピーエンドだな。
めでたしめでたし。
いやあ、いいことした。
「まさかお前! 二人にも手をだす気だな!」
……。
…………。
おい、なんでそうなるんだ!
これだから鈍感系は面倒くさい!
「そうだよな! 俺が勝ったらの話はしたけど、お前が勝ったらの話はしてないもんな! お前が勝ったら二人を奴隷になんて……そんな事はさせないぞ!」
「いや、しねえよ……」
今いる五人だけでも十分だってのに、今更二人もしかも既に誰かを好きな相手を増やす気なんてないっての……。
それに俺はNTRは嫌いなんだよ。
するのもされるのもな。
「え、しないのか?」
「しねえよ!」
ちょっとイライラしてきたぞ。この鈍感系。
俺をなんだと思ってるんだ。
「いいのか? うちの美香は料理が絶品で、毎日隣の俺の家に届けてくれるんだが相当だぞ? それに美沙姉はああ見えてエロイ! 俺がお風呂に入っていると、狙い済ましたかのように間違えて入って来るんだぞ!」
毎日? 隣の家? 風呂?
「……なあ、ちょっと聞いていいか?」
「なんだ?」
「もしかして、もしかしてなんだが……」
いやいやいや。まさかまさか。そんなそんな。はっはっは。あるわけないよなそんな事。
「お前の親が何らかの理由で家を空けていて、隣に住んでいるそちらの姉妹にお世話を頼み、なんだかんだあったあげく部屋は空いているのでお前の家で一緒に過ごしてました! 何てことは無いよな?」
「……なんで知ってるんだ? ああ、その通りだ。そこに隕石が落っこちてきたらしい……。俺のせいで二人も……だから、俺は二人を今度こそ守りぬく!」
まじかー……。
まじか……。
「あー……まじかー……」
まじかこいつまじか。
間違いなくテンプレエエエエエエエエエエット!
よし、こいつに同情はいらない。
何がハーレムが羨ましいだクソ贅沢野郎!
ぶち殺すぞごるああああああ!
はぁ……はぁ……。
ああ、うん。準備オッケイ。いつでもいけるのね。
「はああああ……ああ、わかった。それじゃあすぐ行く」
「ん? なんだ?」
いや、なんでもないよ。
こっちの話だ。
ふう。クールダウンクールダウン。
冷静に冷静に。
「……そうだな。俺は隼人じゃないが、せっかくユニークスキルを教えてくれたしな。なんだかんだぶっ殺したい要素は兼ね備えているが、お前自体は嫌いじゃないみたいだ。だから勝負は受けてやる。ついでに俺のスキルもお披露目だ」
「なっ……」
「俺は召喚師だ。今から俺が持つ切り札を出してやるよ……」
まあ嘘だけど。
行くぞ? 俺の最強の切り札。
と言っても、一度あっちに行かなきゃ行けないんだけどな。
魔力回復ポーション(大)を取り出して、あおりながら三人の遥か後方、更には空の方を指差す。
「後ろに気をつけろよ三人とも? すぐ来るぞ?」
三人が振り向くのと同時に空間座標指定と座標転移で隼人の座標に飛ぶ。
そしてすぐさま隼人達の手を掴み、転移で元の座標に戻ると三人がこちらに向きなおしたところだった。
魔力不足で立つのも億劫な俺の目の前に立つのは、純白の鎧を着込んで準備万端な騎士の姿。
いつか見た、俺を助けてくれた時の姿だ。
「初めまして。隼人と申します。イツキさんの切り札です」
そして、隼人を先頭に戦闘態勢を整えているレティ、ミィ、エミリーに、座り込んだ俺の介護にやってきたクリス。
そして何故かフリードまで一緒にこちらに来ていた。
「ここからは、僕がお相手しますよ」
剣を構えた隼人からもの凄い圧力を感じる。
だがそんな事よりも、はぁぁぁぁ……魔力の消費がきっつい……。




