6-19 温泉街ユートポーラ 紅い戦線 1
重大発表です。
3月に書籍化します。
詳細は活動報告に記載してありますので、是非見てくださいね!
主様と別れてから私たちは昔の訓練場へと徒歩で向かい、その道中に現れる魔物を倒しながら進んでいた。
「ふんふんふふーん」
今は私が少し前を進み、現れる魔物を倒す番。
上機嫌な私は、鼻歌を歌いながら敵を倒していく。
ドロップ品は荷物になるので今回は拾わない。
ただし、食料となるものは今日食べてしまうのでちゃんと拾っていた。
「ソルテ、超ご機嫌っすねえ」
「そうだな。あまりに笑顔で魔物を狩るから、先ほど横をすれ違った冒険者が怪訝そうな顔をしていたぞ」
「まじっすか!? うわあ……絶対戻ったら噂されてるっすよ。狂気!? 笑顔で魔物を屠る狼人族! とか」
「そういうレンゲだって、さっきから自分を抱きしめてクネクネしてるじゃない。そっちの方が気味が悪いわよ」
ぼーっとしていると思ったら突然身悶え始めるんだもの。
商人とか、顔を伏せながら横を通っていってたわよ。
それにしても、私そんなに顔に出ているのかしら……?
でもでもでも、さっきの出来事を思い出すと、もう、たまらないんだもの。仕方ないじゃない。
「まさかそんな、自分はソルテじゃないっすし……」
「いや、先ほどから突然身悶えていたぞ」
「うええええ!? 自分がっすか!?」
「ああ、正直、見ていて恥ずかしいくらいだった」
そうね。
出来れば仲間だとは思われたくないくらい恍惚とした顔でもじもじと内股になっていたわね。
レンゲの方が噂になるんじゃないかしら。
卑猥! 内股をこすりつけ恍惚とした表情を浮かべる砂狼人族! とかね。
うん……変態ね。
「……一応言っておくけど、アイナも、頬が緩みっぱなしだからね」
「なっ、私がか!? 私はしっかりとしているだろう!?」
「ううん。今も緩んでるからね」
「そんな、一体何処が……」
何処って言われても、今触ってる顔全体というか、もう雰囲気が嬉しさを隠しきれてないのだけど。
「あー……三人纏めて浮かれてるってことっすね」
「しょうがないじゃない。だって、主様から手作りのプレゼントよ? もうキャーって、キャアアアって叫びながら走り出したいくらい嬉しいもの!」
「ソルテたんは嬉しさのあまり泣いてたっすもんね。アレは驚いたっす」
「仕方ないじゃない、自然と出ちゃったんだから……」
「いや待て。それよりもあの……せ、接吻の方が問題だろう」
「そうっすよ! なんで一人で勝手に突っ走ってるんすか!?」
しまった。
思い出されてしまった。
言い訳言い訳……と、考えても言い訳なんてないのよね。
よし、開き直りましょう。
「仕方ないでしょ。衝動的にしちゃったんだもん」
「なら、もうこんな面倒な事止めてご主人に告白すればいいじゃないっすかー!」
「そういうわけにはいかないでしょ? 区切りよ区切り。ちゃんとしておいた方が、後々すっきりするじゃない」
今更やっぱりやーめた。なんて格好悪いじゃない。
そんな情けないまねできないわよ。
ちゃんとクエストをクリアするからこそ、いい区切りになるのよ。うん。
でも、ちゅーまでしちゃってるのよね……。
もう気づかれてるかな? 気づかれてるわよね……。
でも、嫌そうな顔はしてなかったわよね?
はしたなかったかな……? だ、大丈夫よね?
「接吻か……」
「お、アイナもしたいっすよね!?」
「し、したいというか……その……」
「何を恥ずかしがってるんすかー! 変な所でもっと大胆なことは出来るくせに! ご主人に告白するんすから、接吻くらいで恥ずかしがってちゃ、遅れを取るっすよ!」
「ううう……いざ、こうしてしっかりと考えてしまうとな……。レ、レンゲは恥ずかしくないのか!?」
「恥ずかしいわけないじゃないっすかー! こちとらもう全部! ゼーンブ恥ずかしいところは見られてるんすよー! 今更口と口をくっつけるくらいで恥ずかしがってらんないっすよー!」
そういえばレンゲって……確か主様に、その……剃られたのよね。
私も流石にそれは無理ね。
恥ずかしくってボッコボコにしそうだし……。
うん。そうなる前に絶対に止めよっと。
「それにしても、主様ったら随分奮発してくれたわよね」
ペンダントを見ると、材料だけでも相当に高価なことがわかる。
それに、主様は錬金のレベルはもう9で、現状の最高ランクの錬金術師だ。
そんな人が作るアクセサリーってだけでも、かなり高価なもののはず……よね?
「そうっすねえ……。オリハルコンにミスリル、それにダイヤモンドっすからね」
「ダイヤモンドか……主君は、ダイヤモンドを女性に送る意味を知っているのだろうか?」
「……知らなそうよね。だって、そういうの疎そうじゃない」
知ってたら……嬉しいんだけどね。
でも、知るわけないわよね。
『永遠を誓う』
なんて、結婚する二人が交換しあう指輪に使われている事も知らずに渡してきたんだろうなあ。
永遠か……。
ずっと、一緒にいたいなあ。
「でも……嬉しいっすよね」
「ああ……」
「そうね……」
三人とも脚を止めて、主様からもらったペンダントを見つめる。
三人が三人ともダイヤモンドを埋め込まれた、同じようでしっかりと違うデザインのペンダント。
「時間もあまりなかったはずなのに……丁寧な作りだな」
「大変だったと思うっすよー。このオリハルコンとミスリルが折り重なって層になってるのも凄いっすけど、何よりもダイヤモンドっすよ。どうカットしたらこうも綺麗に光るんすかね?」
「さあ……? でも主様は前もこんな感じでカットしてたわね」
もしかしたら元の世界の知識なのかしら?
たまに忘れそうになるけど、主様は異世界から来た『流れ人』なのよね。
私達が知らないことを知っていても不思議ではないわよね。
「いいっすよねえ二人は。自分もあんな用事ほっぽり出してこっちにいれば良かったっすよ」
「そうも行かないでしょ? お役目なんだから」
「そうっすけどお……。なんていうか、好きな人の事はなんでも知りたいじゃないっすかあ」
その気持ちはわかる。
主様が元の世界では何をしていたのかとか、子供の頃のお話とか、あとは……こ、恋人はいたのかとか聞きたいわね。
やんややんやと主様の話をしていると、いつの間にか目的地の私達が子供の頃に師匠に修行をしてもらっていた場所に到着する。
子供の頃はもっと遠く感じていたのだが、大人になるとあっという間だなあと感慨深く思う。
あの岩も、あんなに小さかったんだなあ……。
「何か懐かしいっすね」
「そうだな……お、以前使っていた小屋も少し古く見えるが使えそうだな」
私達が寝泊りをしていた、本当に何もないただの小屋も多少の古さはあるもののそのまま建ったままなのね。
一先ずこの小屋を拠点にして荷物を降ろしてしまおうということになった。
「予想よりも到着が早かったな。一先ず身支度の前に周辺の確認と、水の確保か」
「そうっすねえ。とりあえず自分が水を汲んでくるついでに、周辺の確認もしてくるっすかね」
「ああ、それならば主君から借りた魔法の袋を使ったほうが、効率がいいだろう」
「便利っすよねえ……。自分達も今度ダンジョンクリアを目指してみるっすか?」
それも悪くないかもしれない。
主様にプレゼントしたら、喜んでくれるかな?
でも、きっと主様は心配するわよね……。
「それじゃ、行ってくるっすねー!」
「ああ、私達は近辺で薪を取るとしよう」
この辺りの水は川の水しかない。
でも、洞窟から溢れる魔力の影響でそのまま飲むと体調を崩してしまう恐れがあるため、一度沸騰させないと飲めない。
これは、修行時代に師匠から習った事だ。
「ふむ。結構落ちているな」
薪を探しに、森の近場を探すと、ちらほらと乾いていそうな木が落ちていた。
「警戒しつつ、拾っていくか」
「洞窟も近いし、それなりに強い魔物が出るかもしれないしね」
この辺りの魔物はBランクの冒険者ならば、問題なく一対一で勝てる相手だ。
Cランクならば、3、4人のパーティであれば問題ないと思う。
私達は、子供の頃に何度も戦っているし、あの時は三対一ではあったが今ならば一対複数でも問題は無いと思う。
「洞窟か……。以前は師匠に止められていたのだがな」
「あの頃って、確か冒険者がまだあのクエストに挑戦してたわよね」
「ああ、修行を傍目に通り過ぎて行っていたな……」
だけど、誰も帰ってこなかったのよね……。
この辺りの魔物を倒すのも楽になってきた頃、調子に乗って師匠に洞窟に行きたいって言ったら、『死にたいなら行くがよい。その時は、助けぬからな』だもん。
師匠はそういう時は厳しいって知っていたし、なによりも瞳が怖かったから行くのを辞めたのよね……。
「それで、どういう予定で攻略する?」
「そうだな、一先ず今日は入り口付近の様子見をして、一息ついてから本格的に攻略を始めようと思う」
「そうね。焦らず、じっくりいきましょう」
何事も落ち着いて。
浮き足立つ気持ちは沈め、今はこのクエストの事に切り替えないとね。
焦りや油断は、簡単に命を落すきっかけになるのなんて、冒険者としては当然の事だもの。
「お互い、浮かれ気分は暫く封印だな」
「残念だけどね。もう少し浸っていたかったけど……」
「なに、戻ってから好きなだけすればいいさ」
「そうね。その時は思い切り爆発させましょう」
「ふふ、そうだな。人目も気にせず思い切りいこう」
……本当、アイナも変わったわよね。
昔から私達よりも少し年上だからってしっかりしなきゃって感じだったんだけど、主様に出会ってから少しずつ女の子らしくなってきてるもの。
そういえば、この前下着について相談されたのよね……。
「……ねえ、今度レンゲも誘って三人で一緒に下着でも買いにいこっか」
「突然なんだ!? ……その、選んでくれるのか?」
「うん! 主様好みなのを、選んであげる!」
「あ、あまり派手なのはダメだぞ?」
主様の好みって言ったけど、知ってるわけじゃないのよね。でもまあ、どうせエッチなのが好きだと思う。
色とかひらひらよりも、ちょっと面積が少ないものとかでしょ?
でも主様のことだしもしかしたら、変なこだわりとかあるかもしれないわね……。
うん。その時は主様も一緒に連れて行っちゃえばいっか。
恥ずかしいといえば恥ずかしいけど、それくらいしないとレンゲの言うとおり遅れを取りそうだし……。
……あれ? 布の面積が小さいものを着るのに抵抗が薄くなってるって、私も主様に毒されてきたのかしら?




