6-7 温泉街ユートポーラ 帰還報告3
ダーウィンのお屋敷はヤーシスに言われたとおり、すぐに発見する事が出来た。
そりゃあ、あんなにでかければ一目でわかるさ。
領主の家よりもでかいっていいのか? と思わなくもないが、ダーウィンだしな……。
中に入れてもらうと所々に高そうな美術品が並び、外観だけではなく内装にも金をかけているのが分かる。
一体どうやって儲けたのか……なんてのは考えない方がいいのだろう。
世の中賢く生きなければいけないと思う。
「……で? どうしてここにいるんですの?」
「どうしてって……ここに通されたからな」
執事さんっぽい人に通された部屋がここだったのだ。
俺に文句を言われても困る。
「領主様といい貴方といい……普通面会の予約をしないとこの屋敷には入ることが出来ませんのよ?」
「いやな、入り口でぽかーんと屋敷のでかさに驚いてたらダーウィンが出て行くところでさ。中にメイラがいるって言うから入れてもらったんだよ」
「そ、そうですの。私に会いに来たのですか。それで、何の御用ですの?」
あら、そっぽを向いてしまった。
「そう邪険に扱うなって。お土産を持って来ただけなんだから」
今のところ絶賛の嵐だからな。
なんせ予約しないといけない王都のお菓子だ。
女の子であるメイラも、きっとこれなら機嫌を直してくれるはずだ。
「あら、私のお店ですわね」
「え」
「私が出資しているお店ですわ。腕利きの職人を集めた夢のお菓子屋ですの。表には出してませんが、私のお店ですわよ」
「あー……じゃあ食べ慣れてるか?」
「そうですわね……頻繁に送られてきますわね……」
「「……」」
ど、どうしよう。
まさかメイラのお店の商品だなんて思わなかった。
「主、主のお菓子でいいと思う」
「そうですね。ご主人様のお菓子はとても美味しいですから」
「いやお土産だぜ? 俺のお菓子とかお土産じゃなくないか?」
「あら、お菓子を作るんですの? 興味はありますわね」
うーん……まあいいか。
「じゃあとりあえず新作の試しで悪いんだが……」
魔法空間に手を伸ばし、皿ごと薄いクレープの生地を取り出す。
このままでも美味いのだが、それからアイスや生クリーム、それに果実のジャムを乗せて出来上がりである。
「これは……なんですの?」
「元の世界でクレープといわれているお菓子だ。この上にお好みで好きなものを載せて、ナイフとフォークで切り分けて食べてくれ」
本来なら巻いた方がクレープらしいんだけどな。
今回はガレットのように折りたたんで皿の上に乗せている状態だ。
「主、シロも食べたい」
「ご主人様……その」
「わかってる。人数分出すから待っててくれ」
試作用のクレープ生地はまだあるからな。
お好みの盛り付けが出来るように、各種アイスやジャム、生クリームなんかも机に並べておこう。
「これは……貴方の世界のお菓子ですの?」
「そうだな。若い奴を中心に人気のお菓子だったんだが、どうだ?」
「美味しいですわよ。ええ、美味しいです。薄い卵の生地と上に乗った甘味の相性が素晴らしいですわ」
絶賛……ではあるのだが、メイラの顔はウェンディのように蕩けそうなほど美味しいといった顔ではなく、真剣な顔そのものであった。
「材料は……生地やジャムならばなんとでもなりそうですわね……でもこの白くて甘いものは……。牛乳はわかるのですがそこからどうしているのか……」
「ホイップクリームか?」
「そうですの。このクリームが全体の調和を保っているのでしょうけど、生成方法がわかりませんわ」
「それは、錬金で分離させた材料を使っているからな。お抱えの錬金術師がいればできるんじゃないか?」
「……いいんですの? 教えてくださって。錬金術師の知識はそれそのものが財産と言わしめるほど貴重ですのよ?」
「いやこれはあくまでも料理だろう? それに細かい事までは言わないさ」
ただ別に生クリームくらいなら構わないんだけどな。
他の人がこの食材をどう昇華させるのか気になるし、やはり本職のお菓子職人が生クリームを用いて作ったお菓子というのも食べてみたいしな。
「……やはり優秀ですのね。どうです? 私を本当に妻に迎える気はありません?」
「今は自分の周りの事で手一杯だよ……」
現状の対処にいっぱいいっぱいで、新しく妻を迎えるなんて事は考えられないって……。
それにしてもやはりお菓子は凄い……。
アイリスもだが、メイラも堕ちるのか。
「ふふ、そうですか。新婚旅行でユートポーラなどいかがかと思ったのですけどね」
「ユートポーラ……って温泉街だったか。いいねえ、温泉街」
「私は今の仕事が終わったらユートポーラまで湯治に行く予定ですわ。肩こりが酷くて……そろそろ頭痛がしてきそうですの」
「良かったら解そうか?」
「え……?」
ん? どうした?
「あなた、何を言っているのかわかってますの?」
「何って……肩凝りだよな? 軽くならマッサージくらいはしてやるぞ?」
「そう……わかっているんですのね……」
言ってはなんだが、それなりに自信はあるのだ。
アイナ達を風呂上りにマッサージしてやったりと、最近腕を上げているのである。
……ただ、女性の身体を触っていると、こう……悪戯心が芽生えてきてしまうのだが、仕方ないよな。
「ではお願いしますわ。そちらに仮眠用の簡易ベッドがありますから」
そう行ってメイラは服を脱ぎながらベッドへ……。
「おい待て、肩だよな? 何故服を脱ぐ」
「マッサージならば脱ぐでしょう? 普段は女性の按摩師にしかやらせないので、恥ずかしいのですけども……」
「いやいやいや。普段アイナとかをマッサージする時は脱がないぞ!」
「そうなのですか? ですがこちらの方がやりやすいでしょう?」
それはそうだが……。
脱いだ服で胸元は隠しているが、それでも見えてますよ色々と。
というか、下着は脱がなくてもいいのではないだろうか!
オイルとか使わないし!
「そんな本格的じゃないから! いいよ座ってて。肩だけだろう!?」
「力が入りにくいでしょう? もう脱いでしまったので恥ずかしいですがこのままでお願いしますわ」
メイラはそのままベッドにうつぶせになり、俺を待っている様子。
ウェンディとシロに目を向けるが、二人ともさっと顔を背けて御菓子に夢中ですからご自由にどうぞとでも言っているようであった。
毅然としようとしながらも顔や耳は紅く染まっている。
肩甲骨から腰にかけて真っ白で、すべすべな若く色白な肌。
その奥に見えるのは『ぱい』ではあるものの、潰れて横へと広がり後ろから見える横乳ならぬ後ろ乳は、また素晴らしい。
細いと明らかに分かるくびれた腰に、小さくも見るだけで柔らかさが伝わってくる小ぶりなお尻も……。
……こほん。
ひとまず横から肩に触れるのだが、やはり力が入りづらい。
仕方ないのでベッドの上に乗り、メイラをまたいで両肩に手を添えて、力を込めた。
「んんぅ……。やはり、男性の方が力がありますのね……」
「そりゃあな……痛かったら言ってくれよ」
「痛いほうが効くのでは?」
「つぼなんかの痛みならともかく、筋肉を傷つけちゃ駄目だろう? まあゆっくり解していくからさ」
ぐーっと徐々に力を込めていき、ゆっくりと少しずつ解していく。
肩の上部、肩甲骨の内側、首筋などをゆっくりと押していった。
適当に肩を揉み解すと、皮膚がひっぱられるだけであれ凄く痛いんだよな。
「んんっ……ふー……。いい腕ではないですか。どこで覚えましたの?」
「元の世界だよ。連日連夜働いてると、肩や首の調子が悪くなるからな……同僚とお互いやりあってるうちに覚えただけだ」
パソコン仕事だと目の疲れから肩こりや首こりに繋がるからな。
マッサージ代だって馬鹿にならないし、どうせならと同僚と覚える事にしたのだ。
本格的とはいかないまでも、それなりに気持ちのいい自信はある。
上司にこれだけで呼び出される場合もあったしな……。
「そう、ん……なんですのね……。あはあ……気持ちいいですわ……ぁあ……」
「そういう声を出すなよ……」
「仕方ないじゃあり、あっ、ませんの。本当に気持ちいいんですもの……。んっ、もっと乱暴にされるかと思ったのですけど、力加減が絶妙ですわ……」
艶かしい声をあげるメイラ。
俺は今、全裸の少女にまたがりその白くて若い肌に触れ、嬌声を上げさせているのだ……。
傍から見たらどう見えるのだろうか……?
チラリとウェンディ達を見ると、うん、そうだよね。こっち見てるよね。
シロの教育上よろしくはないんじゃなかろうか!
「ほら、手が止まってますわよ……。もっとお願いしますわ……」
「ああ、うん。頑張る……」
「温泉街ユートポーラに、今度連れて行って上げますから……その時もお願いしますわ……」
「ユートポーラねえ。そこってマッサージ師とかもいるのか?」
「ええ、勿論。温泉で温まったからだの方が解しやすいですしね……。んんッ……ああ……。ただ北東にずっと行った先で遠いですし……、行くまでがネックなのですけどね……。長期の休みなど中々……取れませんし……」
「ほーう……。ん……おい、寝るなよ?」
「寝ませんわよ……。こんな姿で寝たら、変態な貴方に何を……されるか……すぅぅ……」
寝ないって言いつつ寝ましたよこの子。
肩もおおかたほぐし終わったし……どうしようか。
「流石にこのまま放置はまずいよな?」
「そうですね……裸ですし……」
「主、楽しそうだった」
「まあな。マッサージ自体は嫌いじゃないし」
手をぷらぷらさせてグッパを繰り替えして、元の状態に戻す。
「今度シロにもして?」
「ああいいぞ。ゆっくりねっとりしてやろう」
「ん! 楽しみ」
「あの、私も……」
「そうだな。ウェンディは重いものを常に支えてるし、肩凝りやすそうだもんな。任せろ。俺がほぐしてやる!」
「はい。よろしくお願いしますね」
というか、うちのメンバーはマッサージとか必要な奴が多いよな。
紅い戦線の三人は冒険者だし、シロも戦闘職だし、ウェンディは巨乳で家事全般をやっているわけだし……。
これから労う意味も込めて、本格的に覚えてみるのもいいかもしれないな。
でも今は……。
「メイラ起きろ。起きないとあれこれしちゃうぞ」
背骨に沿って真っ直ぐつーっとお尻のほうまで指でなぞってみる。
すると、身体を反らせながらメイラが反応した。
「お、おおお起きてますわ! 今のなんですの!?」
「はっはっは。それよりいいのか? 起き上がると……」
「え……キャアアアアアア! 見ないでくださいませ!」
悪い、配慮が足りなかったな。
だが残念ながらもう既に、俺の脳内には保存済みである。
報酬はしっかりといただきましたっと!




