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異世界でスローライフを(願望)  作者: シゲ
5章 王都一武術大会
108/444

5-23 (仮) 王都一武術大会個人戦 - 一回戦 -

シロの一回戦の相手は王国の第四騎士団の小隊長。

長髪を靡かせた、第一印象はナルシストっぽい男だった。


「「「「「キャアアアア! アルビン様ああああああ!」」」」」

「やあ僕のハニーたち。今日は君達に勝利を捧げるよ!」


違った、なんかいけ好かない系だわ。

よしシロ。やっちまえ。

重点的に狙うのは顔だ。目を狙え!


『あれ、シロさんマスクいいんですか?』

「ん、問題なくなった」

『ははーん。ダーリンさんに即行ばれたのですね。まあバレバレでしたけども』

「痴女うるさい」

『っば! こんな大衆の面前で言っていいことと悪いことがありますよ! あーあー違いますからね? 痴女じゃないですからね!』


副隊長、多分逆効果だそれ。


「ふう、対戦相手が怪しいマスクメンだと思ったら可愛い少女じゃないか。君も僕の虜にしてあげよう」


長い前髪をシャランと払い、流し目を送るアルビン。


『……うわ、鳥肌が』

「……同意。早く終わらせる」


ああいうのがモテるのかとも思ったが、特定の女性に限られるようだ。

シロは開始の合図を待っている間に競技用のナイフをぽんぽんっと宙に上げ、感触を確かめている。

両手で同時にやっているのは器用だなあと思った。


「ナイフの二刀流かい? でもそのリーチじゃ僕には近づけないよ?」

「口を、開くな」


アルビンの武器はレイピアのようで細長くナイフよりもはるかにリーチは長い。

この試合、シロがどう近づくかが勝負の鍵となるだろう。


「困ったな。可愛い子猫ちゃんが相手なら手加減しないと。いいかい? アン・ドゥ・トロワで攻撃するからね」

『えーそれではー、一回戦、マスク・ザ・シロ、もといシロ選手対、第四騎士団小隊長のアルビン選手の試合を開始します!』

『『『『『『おおおおおおおおお……お?』』』』』』

「ん、終わり」

『へ?』


黒い何かを纏わせたシロが試合開始と同時にアルビンの前にいて、そのお腹をとんっと押すとアルビンは無抵抗なままにリングに倒れる。

あ、今頭打ったんじゃないか?


『な、なんと! 一瞬です! まさしく一瞬で倒してしまいました! 私、瞬きをしていたら終わっていました! 勝者、シロ選手です!』


既に黒い何かは消えておりシロはとことことリングを後にしていった。

その後、遅れて観客からの歓声が響き渡り、開幕からとんでもない試合となったのだった。


「なんじゃ今のは! シロはあんなにも強かったのか!?」

「いや、まあ強いとは思ってたけどここまでとは……」

「アヤメ! お主は何か知っておるか!?」

「……アイリス様。一応私隠密なのですけど……」


突然背後から声がしたので振り向くと、そこにはクノイチと呼ぶに相応しい装束で、サイズ的にはギリギリオッパイな女性が現れていた。

ふむ。今俺は座っているので目線が短い裾と高さがぴったんこでかんかんなんだけど、仕方ないよな。


「わらわのシノビの中ではおぬしが一番詳しいじゃろう?」

「……申し訳ございません。心当たりはあるのですが、でも……それは、ありえません」

「良い、言うてみよ」

「……では多分ですが、黒猫族の秘技かと思います……。ですが、黒猫族は既に……」

「うむ。それにシロはどう見ても黒猫族ではない……か」

「……あのアイリス様。それよりこの男斬ってもいいですか?」

「アヤメ、武器を納めよ。男の視線くらいは(さが)じゃから許してやれ」

「良い脚だな。程よく鍛えられていてむしゃぶりつきたくなるような脚だ」


レンゲとはまた別の、白くて綺麗な脚だな。

いや、レンゲの日焼け跡とのコントラストが織り成すふともももたまらないのだけどな!


「斬りますね」

「やめんか……わらわに血がかかるじゃろう。お主もやめよ。アヤメはおぼこなのじゃ」

「はいよ。それで、黒猫族ってなによ」

「なんじゃ、ちゃんと聞いていたのか」

「そりゃね。脚は聞きながらでも見れるし」

「斬りま――」

「ふむ、アヤメ説明してやれ」

「……ちっ。いいですか。そのいやらしい目の横についている耳の穴をかっぽじって良く聞いてくださいね。あといい加減目を瞑り集中して聞け虫けら」


おおう、この一時で随分嫌われたものだ。

大体視線の位置にわざわざ裾が来るように現れたのはアヤメさんだぜ?

俺は悪くない!

ただ真っ直ぐ振り向いた結果裾、もといふとももがあっただけなのだ。


「……黒猫族は、かつて一族全員で傭兵として活躍していた武闘集団です。戦争の際はまず各国が彼らを雇えるかどうかで勝敗が決まると言われるほど強力でした。そして、彼らは『被装纏衣(ひそうてんい)』と呼ばれる黒き影を纏い暗殺、夜襲においては右に出るものはなく、野戦においても一騎当千の働きをしていたと言われております」

「んで、シロにまとわりついてた影みたいなのがその、被装纏衣じゃないかってわけか」

「そうです。虫並みに小さな頭でも理解できたようで良かったです」

「で、話が過去形って事はあれか? 黒猫族ってのは既に滅びてて、その被装纏衣ってのは一子相伝のような技だから門外不出でシロが使えるのはありえないってことか?」

「っな! ……ええ、そうですよ!」

「にっしっし。意外と頭が切れるのじゃな。アヤメ、一本取られたな」


いや、まあ話の流れと言うか大体こんな感じだろうっていう予想だけどね。

多分ファンタジーとか好きな流れ人なら誰でも予想できるんじゃないかな。


「しかし、そうなると疑問よな」

「んー……まあ俺は後でシロに聞けばいいけど、その情報を他に漏らすとは思えないな」

「ん? 被装纏衣だよ?」


左を振り向くといつの間にかソファーに乗っていたシロが普通に答えてしまっていた。


「え、シロ? お早いお帰りで……」

「気持ち悪かった……。一秒でも早く主に慰めて欲しかった……」

「ああ、うん。よしよし。シロが靡かなくて良かったよ」

「冗談……。主が虫好きになるくらい無い」


あーそりゃないね。

一生かかっても無理だわ。

虫が何故気持ち悪いか知っているか? 元々気持ち悪いからよ!

って言葉を後世に残したくなるくらい無理だもの。


「それよりもシロ、被装纏衣の話は本当か?」

「ん」

「良いのか? わらわ達に話してしまって」

「ん。アイリスと敵対したくもないし、主がアイリスと敵対するとも思えない」

「そうじゃな……。わらわも今はそう思っておるよ。じゃが、世の中そう上手くはいかんときもあるぞ」

「ん。その時は、その時でシロが主を守るだけ」

「そうか。わらわも出来ればお主達と戦いたくはない。アヤメ達を無駄に犠牲にするのもしのびないしな」

「アイリス様……」


アイリスが一度降りて膝を空けるとシロが飛び乗るように片膝に座り、頭を胸板に載せるように寄りかかってくる。

続いてアイリスがもう一つの片膝に座ると、それがデフォルトのように同じく寄りかかってきた。


「あの、アイリス様? こんなクソ虫の膝に乗らなくても……」

「あの、アヤメさん? クソはいいんだけど虫はやめてくれないかな?」

「ゴミ虫ならばよろしいですか?」

「虫はやめろい!」


たとえ比喩でも虫と同列など嫌だ!

クソでもゴミでも別に構わないが、虫だけはやめてくれ!


「それがこやつの逆鱗じゃ。やめてやれ」

「……ではクソゴミとお呼びしますね」

「じゃあ、俺はあやめたんって呼ぶね」

「ひぃぃぃぃ! 鳥肌が加速するのでやめてください!」

「あやめたん」

「く、クソムシがっ!」

「ありがとうございますあやめたん!」

「ひぃぃわかりました! 申し訳ございませんでした!」


ふう。

勝利を勝ち取った……。

いつの間にか俺がふとももを凝視していた事も含めてすべてが許されてしまった。

完全勝利である。

だからウェンディさん? そんな怖い顔でアヤメさんを見つめないであげて?

あとシロ? さり気なくナイフに手を当てなくていいからね?

お互い冗談みたいなもんだから。

気にしてないから!

大問題だから!!

は、早く話をそらさねば!


「そうだシロ、あの技使わなくても倒せたんじゃないか?」

「ん、倒せたとは思う」

「手の内晒したくなかったんだろ? いいのか?」

「主にはシロがいるぞ! って警告」


あー……なるほど。

俺はシロが手の内を晒さないようにするんだと思ったんだが、シロはシロで俺の意見を取り入れて実力を示したってわけか。

なんだかんだ主の言う事を考えてくれるんだなあ。このこのー。


「そうじゃな……。下手な貴族連中じゃ手出しすまいよ。元々今回の大会でお主は隼人卿の関係者として見られておるしな」


隼人ったら……近くにいなくても効力を発揮するなんて、なんて優等生なのだろう。

でも、


「手出ししてきそうなのがいそうな言い方だな」

「うーむ……。なんとも言えん。まあ黒猫族自体が伝説上の生物みたいなもんじゃし、実際に見たことのある者は少ないからな……」


少ない……それすなわちいるにはいるって事だよな。


「そういえばアヤメさんはどうして知ってたんだ?」

「こやつの家は古くから傭兵を営んでいる家柄でな。真面目ゆえにおぼこなのじゃが、その手の話ならば大抵知っておるのじゃ」


なるほどそういう事か。

となると老兵や年老いた貴族なんかは知っている可能性が高いかも知れないな。

騎士団の連中も歴史書なんかを読んでいる奴らは気づいているかもしれないか。

そんなに強い傭兵集団であればもしかしてスカウト……って可能性もあるかもしれないな。


「主?」

「ん? どうした?」

「シロは何処にも行かないから」

「ああ、手放す気もないよ」

「ん」


どんな大金積まれても売る気もないし、何をされても手放す気もないからな。

たとえ相手が誰であろうと。


「じゃがな、黒猫族だとわかれば是非にと、戦いを吹っかけてくる者もいる」

「どこの戦闘狂だよ……」

「こやつじゃ」


アイリスが出場者リストを広げ一人を指差した。

それは、ある意味最悪中の最悪。

更にシロがあと一度勝てば当たってしまう相手。


「第一騎士団、騎士団長のアーノルドじゃ」

「よし、次勝ったら棄権しよう」


あほか!

なんで王国で一番強い奴がそんな戦闘狂なんだよ!

もっとこう威厳に満ちていて騎士道を重んじるようなタイプだと思ってたわ!


「んー……でもこの国一番の実力は見ておきたい」

「えええ!? シロさん?」

「大丈夫。試合なんて死なないお遊戯みたいなもの」


いやまあ、シロにとってはそうかもしれないけどさ!

見てる俺はわりとドキドキしてるからね?

気が気じゃないんだからね?

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― 新着の感想 ―
まぁ師匠かつ姉みたいな人が黒猫族の数少ない生き残りみたいな感じですかね
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