5-19 (仮) 王都一武術大会チーム戦 - 罪の意識 -
酷く傷ついた後、俺は一つの真理にたどり着いた。
そうだ、開き直ってしまおう。
俺はおっさんで、エロオヤジで、好き者だと、心から受け入れてしまえばどうという事はない。
俺のMIDだって成長しているんだ!
「ってことで復活」
「早いのう……。へこんでいるお主は可愛かったがな」
「ふふ、アイリスお前の方が可愛いぜ!」
「……まだ壊れておったか」
大丈夫。
俺にはこんな俺でも大好きといってくれる仲間がいるから!
「あの……ご主人様?」
「ん? どうしたウェンディ」
「どうしてシロをそんなにも力いっぱい抱きしめているのですか?」
「そうしないと、崩れ落ちそうだから!」
何かにすがらないとダメージが蓄積して足にきそうだから!
「シロは役得。好きにしていいよ?」
「んんー! シロー!」
「あ、あの、それなら私でもいいのですよ……?」
「後で! 後でたっぷりすがるから!」
だって今膝上占領されてるから抱きつきにくいしね。
シロはなすがままに抱きつかせてくれるんだもん!
「なんでもよいが次の試合は、見たほうが良いぞ」
「ん? 次のアイナ達の相手?」
「そうじゃ。優勝候補の一角である、騎士団の精鋭じゃぞ」
「へえ……」
そういえば冒険者の試合ばかりだったな。
この国の騎士団がどれくらいの強さなのか知らないし、見てみるとするか。
「ほれ、わらわも支えてくれ」
「二人ともぎゅーってするけどいい?」
「構わぬ。傷ついた臣下を慰めるのも王族の務めよ」
いつの間に俺はアイリスの臣下になったのだろう。
まあでもいい、一人より二人だ。
人の温もりって、大事だよね。
「さて、おぬしらもしかと見ておけよ。次の相手は油断すると大怪我をするぞ」
俺に抱きしめられたままアイリスはアイナ達に真剣な声音で脅しをかける。
それほどの実力者、といったところなのだろう。
「へえアイリスも知ってる奴なのか?」
あまりそういうのに詳しい印象はないんだけどな。
「当然じゃな、ことやつらに関して王都で知らぬ者は居らんよ」
「そこまでか……」
やはり優勝候補と言われるだけはあるんだな。
構成は重装備の盾持ちが一人、軽装備のメイスを持った男が一人、後は魔法使い風の女性が一人か。
バランス的には守備メインだろうか?
でも今はメイスを持った男が最前列で戦い、盾持ちは魔法使いを守っているようだ。
見ている限りでは確かに強いとは思うが、言うほど強い印象を持たないんだが……。
あ、メイスの男が一人を場外に叩き出した。
「ちと相手が悪いな、参考にならん。まあ、勝てば勝つほど強敵が現れるのじゃから、手の内はまだ見せぬか……」
「ん……個々はそれなり」
「まあ奴等は……っと、流石に情報を伝えてしまうとえこひいきになってしまうな」
「そうですね。正々堂々戦いたいです」
アイナが言い終わるとほぼ同時にリングには三人だけとなっていた。
なんと最終的にメイスを持った男が一人で三人を倒してしまっているではないか。
突出したメイスの男を三人がかりで倒す予定だったのだろうが、逆に全員リングアウトしてしまっている。
『試合終了! 第三騎士団の精鋭である我らが『守護者』が勝利を収めました!』
アイリスが言う優勝候補である『守護者』のメイスの男が観客に応えるように手を上げて微笑みかける。
ぬう、同い年くらいなのだろうが心なしか爽やかなイケメンだな。
きっとあの男はおっさんとは言われな……っと、他の二人は軽く腕を上げるだけや、小さく手を振るくらいみたいである。
「……心なしか力が強くなったのう」
「気のせいだ」
「ん、主の方が格好いい」
「シロー! 後で何でも買ってあげるからなー!」
「……それでよいのか保護者よ」
いいんですー!
心の平穏が第一なんですー!
あんまり弄るとぺいっってしちゃうからな。
はっ! どうせ俺は子供だからな!
「まあ、わらわもおぬしのほうが好みじゃぞ」
「……お、おう」
っく、まさかこんな幼女が落としてから上げるなんてテクニックを使ってくるなんて思わなかった。
悔しい、でも副隊長も同じ気持ちだったのかもしれない。
屈託のない笑顔も混ぜられると、大概は落ちるんじゃなかろうか。
「なんじゃ? 照れたのか? 褒美はアイスで良いぞ。漠然とした愛ならばいらぬ」
「あーはいはい。アイスね。明日また作ってくるよ」
「うむ。見返りのある愛は良いのう」
それを愛とは認めたくないんだけど……。
でも実際、愛に見返りは求めないって言える人って凄いよね。
やっぱり愛したら愛して欲しいし、優しくしたら優しくして欲しいって思うのが人の常だと思うんだけど。
俗物的かもしれないけど、それが自然な事なんじゃないかとも俺は思う。
「アイスじゃ、アイスー!」
今から楽しみなのかアイリスのテンションが上がっているようだが、そんなに気に入ってくれたのなら好きなだけ食べさせてあげよう。
おなかを壊しても俺の責任ではないけどな。
「次は騎士団か。気合を入れなおさねばな」
「そうね。今まで通りって訳にはいかないわね」
「魔法使いが厄介っすね。出来れば早めに倒しておきたいっすけど、そう上手くはいかないっすよね……」
アイナ達は真剣な眼差しで既に次の試合のことを考えているようだ。
そうだよな。次は言わば準決勝。
ここを勝てば決勝だもんな。
「そういえば主様は私たちにお金賭けてるの?」
「おう、当然だろ。シロと同じ1000万ノール賭けてるぞ」
「そう……なら尚更気合入れないとね」
「あまり気にしなくてもいいからな?」
チーム戦は1位を当てるだけの高額な配当の賭け事だ。
シロには賭けたのにアイナ達には賭けないわけにもいかないだろうと賭けたのだが、それを気負われて大怪我でもされたら困るしな……。
「そうもいかないだろう。主君の貴重な資金を我々に賭けてもらっているのだ」
「そうっすよ! ちゃんと勝ってくるっすから!」
気力をみなぎらせるアイナと、鼻息を荒くするレンゲ。
俺としては皆無事に帰ってきてくれればそれでいいのだけども……。
「そうと決まれば、アップしておきましょうか」
「っすね。最初から全開でいけるようにするっす」
「作戦も考えなければな。主君、少し早いが行って来る」
「ああ。本当に、無茶だけはしないでくれよ……」
「うん」
「っす」
「ああ」
アイナ達三人は返事だけを返してそのまま選手控え室の方へと歩いていった。
「……心配性じゃな」
「当たり前だろ……」
「ふむ……。お主は優しいが……いや、なんでもない」
なんだろう。
あまり褒められている気がしない言い方だな。
―紅い戦線SIDE―
「ねえ、さっきの主様どう思う?」
「どうって、心配してくれてるなーって思ったっすよ」
「そうよね……。『心配』、なのよね」
「何が言いたいんだ……?」
言おうか言うまいか迷ってしまう。
あくまでも、私が感じた事なのだがこれを言ってしまっていいのか、本当にいいのかずっと悩んでいた。
「……『期待』、ではないという事か?」
「……うん」
「まだ信頼、されてないんすよねー」
そっか、二人もやっぱり感じてたよね。
信用はされていると思う。
でも、信頼されているかと言われればそうは思えなかったのだ。
「やっぱりさ……少し壁があるっていうか……」
「シロやウェンディほど、近しくないと言いたいのだろう? 私もわかっているよ」
そう。
主様から感じる想いは好意ではない気がする。
セクハラとかも多いけど、ウェンディのように実際に愛されているわけではない。
現にアイナはせっかくの同室だったにも拘らず、愛されなかったと言っていた。
「だからこそ、今回の大会でご主人にいい所を見せるって事っすよね」
「ああ。私たちが強ければ、主君はこれからも私たちを必要としてくれるはずだ」
「そう、そうよね。いい所を見せれば……きっと、ずっと主様の側にいられるよね……」
私達は犯罪奴隷だ。
そして主様はそこに引っかかっているのかもしれない。
私たちが犯罪奴隷だから、罪の意識から主様を慕っていると思われているのかもしれない。
でもそんな事になった原因は私だ。
犯罪奴隷になったのも当然だと思っているし、あの時の事を今でも後悔している。
アイナもレンゲも巻き込んでしまって本当に申し訳ないとも思っている。
それでも主様もアイナ達も私を責めないし、以前と同じように優しく接してくれている。
それに、主様は私たちを奴隷にするのも躊躇っていた。
だからこそ、主様からの優しさが気を使われているのではないかと思ってしまうのだ……。
「ごめんね……。私が変なことをしなければ、もっと普通になれてたかもしれないのに……」
「ソルテ、結果的に見れば私は主君の側にいられたのだし何も気にしていないよ」
「自分も、自分が勝手に暴力を振るってしまっただけっすし、むしろ二人を巻き込んじゃって申し訳ないと思ってるっす……」
「ううん、私がレンゲに変な手紙を送ったからだよ……」
レンゲは、私たちを想って行動してくれただけだ。
すべての元凶は私にあるだろう。
「しんみりするのはやめにしないか? あの時より主君に近づけたのは事実なのだ。それは良い事だろう。後一歩、大きく一歩を踏み込めればきっと、大丈夫さ」
「そうっすよ! 試合前からテンション下げてちゃ、負けちゃうっすよ? 優勝したら優勝者コメントなんかもあると思うっすし、その時に思い切って三人で告白しちゃうとかもいいんじゃないっすか?」
「うん……。そうよね……よし! ダメダメ。気合入れなおさないと! 先に行って体動かしてくるね!」
無理矢理身体に喝を入れて私は流れ落ちようとする涙を隠すように部屋を出て、選手用の稽古場へと駆け足で向かった。
このままだと、二人の優しさに止まらなくなってしまいそうだから。
「……思ったよりも傷は深いようだな」
「っすねー。あーあー……乙女ソルテたんっす」
「ふふ、なんだかんだ言いながら、一番最初に主君と打ち解けていたからな」
「意外っすね。なら、ソルテの為にも自分達の為にも気合入れていくっす」
「生半可では勝てないぞ……。相手は、『守護者』だからな」
「王国最強の殿、こと撤退戦では彼らよりも前には進めない生きる城砦っすからね」
二人はやる気と闘志を燃やしてソルテの後をゆっくりと追いかける。
彼女達の大切な仲間が、泣き止んでいる事を願いながら。




