5-15 (仮) 王都一武術大会 - チーム戦開催 -
祝☆100話!
……これもし間に閑話挟んだらずれるんだろうなあ。
「それではな主君。行って来る」
会場に着くと座席までは一緒に行動していたのだが三人はこれから選手控えのほうにいかねばならないらしい。
「おう、無理しない程度に頑張れよ!」
「ああ、心配ありがとう。頑張ってくるよ」
アイナははにかみつつも素敵に微笑んでいるのだが、ソルテはそわそわしていてどうにも落ち着きがないように見える。
もしかして緊張しているのだろうか?
今朝はそんな素振りすら見せなかったのだが、意外と本番に弱いのかもしれない。
「ね、ねえ!」
「どうしたトイレか? 悪いけど場所はわからないぞ……」
「違うわよ! その、ちょっと手を握ってもいい?」
「それくらい構わないけど……どうした改まって」
「別にいいでしょ! ちょっと緊張してるのよ……」
らしくもないしおらしい態度だ。
からかってもいいのだが、時間も押しているだろうしここは素直に手を握るとするか。
ソルテの両手を下から添えるように両の手で取り、優しく握る。
「頑張れよ。でも、無事に帰ってきてくれ」
ソルテは握られた手を見つめた後に顔を上げて、笑顔を見せてくれた。
「うん、えへへ」
なんとも、普段からこれくらい素直な笑顔を見せればいいのにと思えるほどに可愛い笑顔だった。
「頑張るから。ちゃんと見ててね?」
「おう。応援するよ」
「うん。嬉しいな」
これが、ギャップ萌えと言うやつなのだろうか?
当初のあの噛み付き犬のような態度がいつの間にかこんな可愛い笑顔を見せるまでになるとは思ってもみなかったな。
ふにふにと今度は逆に両手を握られ、笑顔のまま照れくさそうに笑っている。
「ずるいっすー! 自分も! 自分もして欲しいっす!」
「はいはい。ちょっと待っぐはっ!!」
「ドーンっす!」
レンゲは横から突撃して俺のわき腹に抱きついてくる。
衝撃で控えめだがちゃんとあるにはあるお胸の感触が失われそうになったぞ!
だが、そこはしっかりと分けて感じる事が出来る俺。
我ながら流石だと自画自賛したくなる。
「んー……ご主人分補給っす……」
すりすりと顔を寄せて頬ずりをするレンゲも満足そうな顔をしているし、俺としてもこの感触は、ふむ悪くない。
やるじゃないかレンゲ。
「ちょ、ちょっとレンゲ! あんたこそずるいわよ!」
「こういうのは積極性と遠慮をしないのが大事だってウェンディ師匠が言ってたっすからね!」
「その、主君。反対側をいいだろうか……?」
「……勢いをつけないならいいぞ」
そういうとアイナは反対側に回り横からそっと抱きついて顔を寄せる。
うむ。マーベラスであるな。
自分の魅力をしっかりと理解しているようだ。
「すぅー…………」
「お、おい匂いを嗅ぐのは流石にやめろ……」
「アイナ変態っぽいっす!」
「ん、いや、だがな……これは、癖に……すぅー……」
「本当っすか? すぅー……。おおー……」
「いや、レンゲもやめなさいっての! ソルテ! 近づこうとするな!」
「ちょっと! 二人は良くて私はダメなの!?」
「二人もダメだから! ソルテも抱きつくな! すんすん鼻を鳴らすな!」
三人に三方向から抱きつかれ、鼻を寄せて匂いをかがれるなんて屈辱的でかなり恥ずかしい!
そもそも匂いって、自分じゃわからないから余計に恥ずかしいんだよ!
しかもここは貴族席の一番前の席。
後ろにいる貴族様からしたら一体何をやっているんだ? というさぞ珍妙な光景に見えるだろう。
「お主ら、仲睦まじいのは構わぬが場所は弁えた方がよいと思うぞ……」
「だ、大胆です……」
まさかのこのタイミングで姫殿下お二人の登場である。
アイリスの顔が若干引いているように見えるが、きっと間違いだと信じたい。
シュパリエ様に至っては顔を真っ赤にして顔を手で隠しているつもりなのだろうが、はっきりと隙間からこちらを窺っているのがわかってしまっている。
アイリスの登場によって三人は自我を取り戻し離れてくれたのだが、皆正気に戻るとシュパリエ様同様に顔が真っ赤になっていた。
「今日はお主等が出るのであったな。よき戦いを期待しているぞ?」
「「「は、はい! 精一杯頑張ります」」っす」
アイリスは何事もなかったように三人に激励をする。
三人はビシっと姿勢を正すと、一礼してから選手控え室へと走っていった。
アイリス様!
気を使っていただき有難うございます!
わがままな幼女とか思っててごめんなさい!
空気を意図的に読んでくれる程度には大人だったんですね!
「にしし、今日はこれでいじるかな」
前言撤回だ!
この幼女、悪戯好きなただの幼女である!
「シュパリエ様おはようございます」
「隼人様! おはようございます。昨日は大変失礼を致しました……」
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
「皆様にもご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ございませんでした」
そういうとシュパリエは深々と頭を下げる。
その光景に最も早く反応したのはレティだった。
「シュ、シュパリエ様!? 頭をおあげください!! 我々のような者に頭を下げるなどいけません!」
「そ、そうです。私なんて、ただの奴隷なんですよ!?」
「王族も奴隷も関係ありません。私が悪いと思ったから頭を下げ許しを願うのです。それに、私は皆様と隼人様と仲良くしていきたいのです」
「仲良くなんて……畏れ多いです……」
「クリス様にお料理を習いたいです。レティ様とお買い物に行きたいです。エミリー様とお話がしたいです。ミィ様とお風呂に入りたいです。そして、その中心に隼人様にいてもらいたい、それが私の望みです」
この人はきっと、積極的な不器用なのだろう。
いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐなのだ。
あちらは昨日よりは平和になりそうだな。
羨ましいかぎりである。
それに比べて……。
「シロ、おはよう」
「ん、アイリスもおはよう」
「どうじゃった昨日は?」
「一緒に寝た」
「ほーう。で? で? 抱かれたか?」
「抱かれた」
「ほうほーう! やりおるな!」
「……夢の中で」
「……はっ」
「鼻で笑うのは良くないと思う!」
「笑うわ。何が夢の中じゃ。自分から襲うくらいの気概を見せねば何年経っても抱かれぬぞ!」
「それで主と気まずい空気になるくらいなら、抱かれなくていい!」
バチバチとまた火花を散らすシロとアイリス。
君達はいったい何の話をしてるのかな?
「あの、ご主人様。そろそろ始まるようですよ?」
「おお、そうであった! 今日は叔母上がおられるのでしっかりと見るぞ。ほれ、はよう座らんか」
「あ、はい。やっぱり今日も座るんだな」
「当たり前じゃ。わらわは約束を違えぬ!」
アイリスに急かされるようにソファーに座ると、当然のように膝の上に座るアイリス。
「む、座りにくいな」
当然だろう。
今日は片膝に座っているのだから。
跨るといったほうが正しいのかもしれない。
「シロも座る」
もう片方の膝にシロが座ると、かなり窮屈そうである。
そして二人して寄りかかってくるのだが、どちらも不安定そうに見える。
となると必然的に俺の両手は二人を支える為に使われる事となった。
「あの、ご主人様? お隣よろしいでしょうか? 何か食べたい時や飲みたい時は私にお任せください」
「ああ、悪いけど頼めるか……?」
「はい。お任せください」
さて、この体勢で俺は試合観戦を楽しめるのだろうか……。
リング上では副隊長が一方向ずつに四度頭を下げていく。
そして顔を上げると大きく息を吸い込んだ。
『本日はリングの上で実況解説をさせていただきます! 神官騎士団一のナイスバディ! 副隊長こと、あ、すみません始めますね。それでは! 本日はチーム戦の開始です! 皆様! お手元に資料はございますか!? 賭けの準備はオーケー? はずれたらガタガタ震える覚悟はありますかあああああ!?』
『オオオオオオオオオオっ!!』
そういえば今回は賭博商が……あ、今隼人の方を対応してるのか。
むう、シュパリエ様が嬉しそうに笑っている。
まだレティ達は慣れないのだろうけど、あの雰囲気ならば時間の問題だろうな。
クリスはまだ緊張が続きそうだが、お菓子を一緒に作るなどすればきっと仲良くなれるはずだ。
エミリーとミィは心配しなくてもうまいことするだろうな。
さて資料もまだないが、賭けるならば当然あの三人だけだしな。
勝ったら勝った分だけ三人への報酬にしよう。
それで装備でもお菓子でも、好きな物を買って自らを労ってくれ。
『それではルールを説明いたします! チーム戦は3対3! リングアウト、ノックアウト、どちらも退場となり、最後まで一人でも立っていたチームの勝ちとなります! 出場チームは16チーム! 武器はそれぞれにあった競技用の武器を使用しますが、魔法の使用は許可された魔法のみ可能です!』
魔法にも制限があるんだな。
まあ流石に大威力の魔法をここで使うのはまずいか。
『それと最前列の皆様は絶対に前にある薄い虹色の光には触れないようにお願いします! こちらは魔術師が10人がかりで張った結界ですので、触れただけで下手すると死にますから。一応近づかないように警備がいますが、お願いですから興奮しすぎて近づきすぎない事! 死んでも教会でめんどうはみませんからね! わかりましたかあああああ?』
『オオオオオオオ!!!』
相変わらずしゃべりの上手い副隊長だ。
それにしても10人がかりの結界とは、随分と大掛かりなものを張っているんだな……。
近づいたら危険っと。
わかった。絶対に近づかない!
『それじゃあ早速一回戦を始めるぞおおお! Bランク冒険者『俊足の牙』対騎士団一の仲良しトリオ! 『幼馴染トライアングル』の登場っだあああああ!』
さて、始まりましたよチーム戦。
昨日は見れなかった分しっかりと試合観戦を楽しむぞっと。
「喉が乾いたぞ。飲み物をくれ」
「主、お腹すいた」
……楽しむぞっと。




