20.おねだり(シュゼット)
学園でとても素敵な令息を見つけた。
銀色の髪に切れ長の紫目。少し目つきは悪かったけれど。
サミュエルとの約束なんて忘れて、その令息の腕に抱き着いた。
まずは名前を教えてもらわないと!
私に抱き着かれて喜ばない令息なんていないのに、
なぜかその令息は機嫌が悪そうだった。
何か嫌なことでもあったのなら私がなぐさめてあげたい。
とてもいい気分だったのに、ジュリアンヌに邪魔されてしまった。
ジェラルド様を追いかけようとしたのに、
いつも一緒にいるお友達に必死で止められた。
その時、ジェラルド様がレドアル公爵令息だと知った。
ジュリアンヌが邪魔をしたのは兄を取られそうになったからなのね。
そういえば兄様と呼んでいた気がする。
同じ公爵家では断られたら終わり。無理強いはできない。
そうお友達からは聞いたけれど、でもやっぱり私はジェラルド様と夜会に出たい。
きっとお父様にお願いすれば叶えてもらえるはずと思って、
夕食時に話すつもりだった。
なのに、こういう時に限ってお義兄様がいる。
お父様の先妻の子だというレイモンお義兄様はとても綺麗な男性だ。
初めて見た時、女の人なのかと思ったくらい。
さらさらの金髪を横で束ねて、一重の涼しげな眼は深い緑色。
こんな綺麗な人が私のお義兄様になるんだってうれしかったのに、
お義兄様は私とお母様のことを嫌っているようだった。
何度話しかけても、お茶にさそってもいい返事はもらえない。
もう三年も過ぎたのに少しも仲はよくなっていない。
お義兄様は部屋に閉じこもって出てこないし、
学園を卒業してからは屋敷にも帰ってきていなかった。
どうして今日は一緒に食事をしようとしているんだろう。
お父様にお願いするのを邪魔されそうで嫌だなと思いながらも、
とりあえず賛成してくれそうなお母様に話してみる。
「ねぇ、お母様。今日ね、学園でとっても素敵な男性を見たの」
「まぁ、シュゼットが男性を素敵だなんて言うの初めてね」
「そうなの!あんなに素敵な人は今まで見たことなかったもの。
銀髪が綺麗なジェラルド様っていうの!背も高いのよ!」
「……ジェラルド様?」
「ジェラルドだと……」
にこにこと話を聞いていたお母様の表情が、苦いものを飲み込んだみたいに変わる。
食べていたサラダが変な味でもしたのかしら。
お父様を見たら、お母様と同じような顔をしている?
「それでね、どうしてもジェラルド様と夜会に出たいの!
私のパートナーにしたいのよ」
「ジェラルド様って……まさかレドアル公爵家の?」
「ええ、そうよ。お友達がそうだって言っていたもの」
レドアル公爵家を怒らせてはいけないと言われたけど、
同じ公爵家なら私の相手としてぴったりじゃない?
あの時はなぜかジェラルド様を怒らせてしまったけれど、
落ち着いて考えたら、相手は私しかいないとか思っているかも。
「……それ、まさか本人に言ったのか?
夜会のパートナーになってくれと」
「え?……ええ、言ったわよ」
黙り込んだお母様に代わって、めずらしくお義兄様が私に話しかけてきた。
もしかして、私と仲良くなろうと思ってくれた?
「すぐに断られただろう」
「……え?どうしてそんなことこがわかるの」
「断られて当然だ。お前の悪評は聞いているだろうからな」
「レイモン、シュゼットの悪評とはなんだ?」
「父上は知らなかったのですか?中等部の三年間も、
高等部に入ってからも、シュゼットの周りには令息しかいない。
ふしだらではしたない令嬢、そういう評価がされています」
「ひどい!どうしてそんなひどいことを言うの!?」
「シュゼット!女の子の取り巻きを作りなさいと言ったでしょう!?」
お母様まで私を責めるようなことを言い出した。
「私のせいじゃないわ。ちゃんと取り巻きを作ろうとしたもの!
それをジュリアンヌが全部奪ったから悪いのよ!」
「ジュリアンヌ……?」
「そうよ。ジュリアンヌがいなかったらこんな苦労していないのに。
ジェラルド様にお願いしようとした時も邪魔されたんだから!」
「そのジュリアンヌとは誰のことだ?」
「ジェラルド様の妹だって。同じ教室なのよ」
「レドアル公爵家に令嬢なんて……まさか、金髪に紫目じゃないよな?」
お父様がかすれたような声で聞いてくる。
ジュリアンヌと知り合いなの?
「そうよ?それがどうかしたの?」
「……まさか。嘘でしょう……ジュリアンヌが生きていたの?」
「え?お母様、何を言っているの?」
急に怒り出したお母様は持っていたワイングラスをダン!とテーブルに置いた。
どうしてそんなに怒っているのか聞こうとしたけれど、
それよりもお父様が怒るのが早かった。
「マゼンタ!」
「……なによ」
「今度、手を出すようなことがあれば、庇うことはできない。
相手はレドアル公爵家だ。絶対に何もするんじゃないぞ」
「……気分が悪くなったわ。部屋に戻る」
食事の途中だというのに、お母様は部屋へ戻ってしまった。
「本当にどうする気なんですか。父上のせいですよ。
愛人と再婚したはいいが、公爵夫人らしいことは何一つできない。
養女にしたシュゼットもそうです。お茶会に行けば不作法ばかり。
伯爵令嬢ですら身についているはずの礼儀作法が身についていないと」
「レイモン……言いすぎだ」
「伝統派のお茶会ばかり出席しているから直接注意されることはない。
だが、その裏ではこれだから愛人と愛人の娘は、と」
「レイモン!」
「父上が二人を甘やかしたからです。
何一つ学ぼうとしないから、常識が身についていない。
このままジェラルドにつきまとったら、どうするつもりですか?」
「……」
「そして、ジュリアンヌのことも説明していませんね?
同じ教室で三年過ごすのに、問題を起さないと思いますか?」
「……お前が事情を説明しておけ。仕事が残っている」
お父様まで食事中だというのに立ち上がって出て行く。
残されたのはお義兄様と私。
ジェラルド様を夜会のバートナーにしてもらいたかっただけなのに、
どうしてこんな雰囲気になってしまったの?
「父上まで逃げたか……」
「お義兄様、説明って何?」




