15.お友達
「どうだった?顔は見たんだろう?」
「実は……」
朝の出来事を説明すると、兄様の顔が曇っていく。
心配はさせたくないけれど、今後のことを考えると、
言わないでおくのは難しい。
「はぁぁ……そういうことか。
シュゼットはおそらく第二王子妃になるのなら、
令嬢たちともうまくつきあえとでも言われたんだろう」
「だけど、シュゼット様の周りには令息しかいなかったわ」
「中等部ではずっとそうだったよ。
第二王子とも一緒にいたけれど、周りは分家の令息が固めていた。
護衛代わりに置いておいたと言われればそれまでだが。
仲がいい令嬢はいないんじゃないかな」
「嫌われているの?」
「元は伯爵家の生まれなのに、公爵令嬢として威張っていたら、
それは他の令嬢たちから嫌われるだろうな。
王女はまだ社交する年齢じゃないし、ジュリアンヌは社交しなかった。
一番上の身分で好き勝手していたのもあるんだろうが」
「それは嫌われそうね」
シュゼット様の母マゼンタ様がお父様の後妻になったのは、
三年前だったはず。
一応はお母様が亡くなって一年は待ったと聞いている。
つまり、シュゼット様が公爵令嬢になったのは中等部に入る少し前。
急に公爵令嬢になったのに権力を振りかざすような態度だったために、
他の令嬢たちは距離を置いていたらしい。
私も今日のシュゼット様を見る限り、
お友達になりたいとは思えない。
しかもお友達じゃなく、取り巻きだと言っていたし。
身分としては公爵家生まれで公爵家の養女である私の方が上。
それを理解してくれるといいけれど。
食事を終え、教室まで送ってもらったけれど、
廊下まででいいと断った。
なんとなくシュゼット様と兄様を会わせたくなかったから。
兄様はシュゼット様とはまともに話したことがないらしい。
遠くから見かけるだけで避けていたそうだから、
シュゼット様は兄様の姿も知らないかもしれない。
心配そうな兄様に手を振って教室の中に入ると、
そこは異様な雰囲気だった。
「私の取り巻きにしてあげるって言っているでしょう?」
「……それはできません」
「あなた伯爵家なのよね?
公爵家の私の言うことが聞けないというの?」
「たとえシュゼット様が公爵家でも、
派閥が違えば言うことを聞く必要がありません」
「なんですって!?」
マリエット様が朝の私のように令息たちに囲まれていた。
どうやらシュゼット様に取り巻きになれと言われ、断ったようだ。
それもそのはず。エンデ伯爵家は伝統派でも推進派でもない。
いわゆる中立派といわれる貴族のため、シュゼット様に従う必要はない。
中立派は元は伝統派だったけれど、魔力持ちと結婚したことをきっかけに、
伝統派を抜けた貴族たちが多い。
商会を持っていることもエンデ伯爵家が中立派でいる理由かもしれない。
どちらの派閥とも取引があるだろうから。
「私にそんなこと言っていいと思っているの?
お父様に言ってあなたの家をつぶしてもいいのよ!」
「それは無理だわ」
「は?」
思わず口から出てしまっていた。
シュゼット様もマリエット様も令息たちも一斉に私の方を見た。
仕方ない。さきほど助けてもらったのもあるし、お返ししよう。
「マリエット様のエンデ伯爵家はただの伯爵家じゃないわ。
王都でも有数の商家。取引相手は伝統派だけじゃないのよ。
そんな家を簡単につぶせるものですか。陛下から叱られるだけよ」
「な、な、なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
「あなたよりも身分が上なのが私だけだからよ。
他の令嬢では注意できないでしょう?」
「は?私よりも身分が上の令嬢なんて王女だけよ!」
「それは嘘ね。だって、私がいるもの」
「そんなの信じないわ!」
シュゼット様は私の言葉を信じずに叫んだけれど、
教室中の皆は逆に信じられないというような目でシュゼット様を見る。
さすがに気まずくなったのか、シュゼット様の隣にいた令息が耳打ちしている。
「え、嘘よ。……そんなわけないわ」
「残念ながら本当のことです……」
「うそ……」
自分よりも上の身分の令嬢がいたのがよほど衝撃だったのか、
涙目になったシュゼット様は走って教室から出て行った。
それを令息三人も追って出て行ってしまう。
あまり身分を盾にするようなことはしたくないけど、
そうでもしなければシュゼット様を止めることは難しそうだった。
「大丈夫だった?勝手に話に入ってごめんなさい」
「いえ!あの!ありがとうございました!」
「ううん、朝は私が助けてもらったしお返しね」
「……あんなことでお返しだなんて。
あの、ジュリアンヌ様!」
「え?」
なぜかうるんだ瞳のマリエット様が私の手を両手で握る。
「私を取り巻きに加えてください!」
「え?取り巻き?」
「派閥が違うことは気にしないでください。
今後のことは跡を継ぐ私に任せると父に言われているんです。
ですので!ぜひ、ジュリアンヌ様の取り巻きに」
「それなら私も取り巻きにしてください!
うちは推進派です!」
「うちもです!ジュリアンヌ様の取り巻きにしてください!」
「私もお願いします!」
マリエット様だけでなく、少し離れたところで見ていた令嬢三人も、
同じように私の取り巻きになりたいと言い出した。
「ちょっと、待って。取り巻きなんて必要ないんだけど!?」
「え……」
「そんな……」
断られたと思ったのか、四人とも泣きそうな顔をしている。
「あのね、私はこれからも最低限の社交しかしないと思う。
だから取り巻きは必要ないけれど、お友達ならほしいわ。
お友達になってくれるかしら?」
「えっ。お友達って、私たち伯爵家ですよ?」
「そういうのは気にしないわ。
だって、これから三年間一緒に勉強するのでしょう?
お友達がいれば楽しいと思うの」
私が本気だとわかったのか、令嬢たちが顔を見合わせてうなずく。
「お願いします!お友達になってください!」
「私もお友達になりたいです!」
「ふふふ。よかった。これからよろしくね」
「「「「はい!」」」」
思いがけず初日のうちにお友達が四人もできた
だけど、出て行ったシュゼット様たちはそのまま帰ってしまったのか、
午後の授業が終わっても戻ってこなかった。




