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5電車にて〜2

………。


隣の人に潰されそうになりそうでならない…

なんとも微妙な隙間がかろうじて残されている満員の車内。


揺れに合わせて踏ん張るのだけど嫌でも身体が時々触れてしまう…。


もう…いっそもっと身動きとれないぐらい混んでたら、こんなヒヤヒヤしなくてすむのに。



いや、それはそれでマズイか。


このポジショニングは心臓に非常によろしくないから!呼吸障害とか絶対起こすから!


…うう…。


まるで酸欠の水槽中の金魚みたいに頭上をちらっと見上げる私。


数真は大きな瞳で私を見下ろした。


くぅ……!


今、ニヤッて嘲ったよ!?表情、変わらなかったけど微かに唇が動いたから!


ヤツは…絶対楽しんでる。


くそぅ…。


今の私の情況を簡潔に説明すると。

私の左手は数真の右の腰辺り。


ドア付近に向かい合うカタチで立っているんだけど。

あの超絶美形の愚弟と。


この左手で突っ張っているだけで、ほぼ…



密着状態である。




なんなの…もぉ…やめてどんな恥ずかしい罰ゲームなんだよ…


という私の心象風景を察して頂きたい。

昨日、弟とさんざんシておいて密着ぐらい、と思われるかもしれないが、昨日のアレは事故みたいなものだから。

弟はまだ人生経験も少ないし、性欲と愛情をカン違いしているだけだ。

私はたまたまその衝動に巻き込まれただけ…うん。


お互い、日常に戻れば大丈夫。



数真は弟、私は姉。



おそらく真っ赤になっている私を数真は勘違いしてる。

カラダがこんなにくっついたら意識しちゃうのは…別に弟でも他人でもね。生理現象なんだから、深い意味はないのだ。



――!?


電車がカーブに差し掛かり大きく揺れた。


前から伸びてきた数真の腕が私を乗客から庇うように、私の身体をドアに押し付ける。


ぎゃあ!!


睨みつける。

が、ヤツは全く意に介さず甘やかに蕩けるような笑みを浮かべてきやがった。固まる姉、に数真はさらに身体を押し付けてくる。


「…や…」



電車の揺れに合わせて絡め取られるように抱きしめられてゆくのだ。



こ、公衆の面前で…


しかも手が、背中とかお尻の上を…微妙にエロい動きで撫でながら抱きしめてくるし。


…なによりゼロ距離の密着感圧迫感。



嫌でも昨日の…むにゃむにゃ…を連想させるし!



数真の身体って、硬い…私こんなに、ぽにょぽにょしてた?さっきからお腹に当たってるのは何かなんてストップ!!考えるな私!


も、無理。

動揺するなっていっても…私の頬に数真が近すぎるんだから!息遣いが生々しいんだよ!


「ダラシナイ顔すんな」


チュッ。


「…ひゃっ…あ…」


「いい声」



しれっと数真は呟きやがった。

今の喘ぎ声じゃありませんからね!?


ビックリしただけだから!

…私の属性はいつからツンデレになったのかいや違う。

それよりちょっと待て…チュッて、首にいま…したよね!?


周りは気付いてないのか、それともかなり不本意ながらただのバカップルとか思われているのか…くっ。なにこの公開羞恥プレイ…


みなさん違うんです、これはエロい弟にムリヤリされてるだけです―――って余計に恥ずかしいわ!


なんでこんなにドキドキするのか自分でも納得がいかない…。


数真の呼吸が、体温が。首筋に寄せられる息、近すぎる数真の鼓動。


―――ドキドキ、する―――!?


いやいやいや。待って、弟、ですから。


弟相手にドキドキなんておかしいからね。


トキメキとビックリは別物よ。


私はビックリしてるだけ。

そこは間違わないようにしないと。うん。


…うぅ…数真め。


私のチキンハートを持て遊びやがって。


覚えてろ…


「あ」



でもなんというか首筋にまだ当たってる…唇?


時々、歯がさりげなくたてられる度に、


びくん!?


腰にくる…うぅ…


オマエは吸血鬼かとツッコミ入れる力もなくなるね。


と、吸血鬼…数真の囁きが髪の間から吹いてきた。


「もっとキス、しようか…?」


はむっ。



は!!?耳を噛んでるし!?


青くなる。キスってキス…く、唇にですか!?


「や…」


「ゴメン独り言」


「っ…」


遊ばれてるよ…


電車の中ってこんなに心臓に悪かったなんてね。


数真にハグされかつ時々首筋をはむはむされながらの40分(乗り換えあり)はまさに理性と本能のせめぎあい。

人畜無害平凡温厚な私には分不相応な体験ですな。


も…数真の発情期っていつ終わるんだろうか…?

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