◇45塔の中で〜5
R15です…
てほどき…ですか。王様が学ぶことって多岐に渡るんですね…って……正直、ちょっとどうかと思います。こういう会話自体、私としてはムードも何もないような気がしますが?ドン引きですよ…
…言葉にするのも憚られるところから覗いている、王様の頭を、私は真っ赤になって見つめた。取り合えず無駄だと思いながらも王様に訴えてみる。
「ううっ…やめて下さい…」
「…我慢せずとも声を出せばいい」
「がまん、なんてっ、してませんよっ!」
シャワーも浴びてないのにしかも最近便秘気味なのに…近いから、場所的に非常に気になってしまう。
ああ、匂いとか気にしてる場合じゃないか。
こういうの慣れていないんで、いろんなことが気になって集中できない。
別に集中しなきゃいけないことも全くないが…むしろ逃げたい。無理だろうけど。
ちらりと見ると、王様は涼しい様子で自らの行為に専念していて、止める気配は無し。
ひたすら舐めたり噛んだり、まるで好物の骨っにかぶりつきのレトリバーみたいになっている。
さて、ここで私が変な声出したら、どうなるのか?
はい、ろくなことにはならないでしょうね。だって、もう、王様、マント着けてないし。暑いのか豪華な上着は脱いでシャツ一枚。しかも前ボタン全開で汗にしっとり濡れた胸筋が艶やかです。
憎いくらいセクシーです。そして、現在進行形の…『王様が学んだテクニックの実践』を、愛情と勘違いしてほだされそうになる私の体。なんとかならないだろうか。
「…濡れてきたな」
わざとらしく音をたててえぐるように舐めないで!…と、もちろん頭の中で、抗議する。
目を閉じて必死で歯をくいしばり、快楽の魔の手?から逃れていると、ふと王様の行為が止まったような気配がした。おそるおそる目を開ける――なんと、私をじっと見詰める視線があった。それも至近距離。鼻と鼻とでぶつかる寸前の。
「ヒっ!?」
近いから!ドアップは自主規制して下さい…
「お前は」
「ははいっ?」
「いや…いい。」
そこで僅かに頬を歪める理由に、心当たりはない。 何か言いかけておいて、中断されたらよっぽど気になるというものだ。
「な…んですか?」
なんだろう?この表情は私の神経を逆撫でする。
「なんでもない」
自嘲気味に浮かべる微笑が、訳もなく気になった。彼は、さっきもこんな顔をしていた。
「なんでもないって感じじゃないですよ」
「人の心配をしている余裕がまだあるとは。結構なことだ」
王様の毒舌よりも嘲笑よりも、なぜか落ち着かない気分にさせる。なんでだろう?
「別に、あなたの心配なんてしてませんけど…」
だから、そんな場合じゃないのに思わず反論してしまったんだと思う。我ながら考えが足らない行為だ。
「なんでもないなんて、嘘、ですね」
―きっぱりと告げてしまいましたよ。
ああ…やっちゃった。失言。言ってどうなるものでもないことを言う…だから失言なんだけどね。
「そうか…嘘、か」
「へっ?」
「いや、お前にはそう見えたのか」
ユシグは呟いた。
私はずいぶん間近にある御尊顔を恐々と見詰める。
思えば、この美形顔と親密過ぎるパーソナルスペースを、いつから共有する羽目になったんだろう?
他人なのに。数真じゃないのに。
なまじ数真と同じ見掛けだから、始末が悪い。アカの他人とは思えないから、気になるのだ…それは認める。
しかし、分不相応な私の今の失言には、恐らく怒りが返ってくるだろう。
あ―ホント馬鹿だ私。
そう後悔していたら、不思議と感情のない、静かな声と表情で彼は聞いてきた。
「お前は…何を考えていた?俺に愛撫されていた時、何を考えていた?」
またキスをされる。
唇に触れるだけのキスだ。
「俺が、憎いだろう?」
確信した声で言われるのもおかしな話だ。私に質問しておいて自分で答えを既に決めているのだから。
しかし彼の中では当然の事実であるのか、自嘲気味に頬を緩ませると、欲望に浮かされた瞳で私を見下ろしてくる。
「だが、どんなにお前がお俺を憎もうが、関係ない。…俺だけのものだ」
今度は深く、絡めとるように。
全身を抱き締められながら、角度を変えて繰り返される。何度も何度も。
執拗なキスに溺れそうになる。優しく激しいキスは感触こそ違えども、不思議な懐かしさで胸を苦しくさせてくる。
キスがふと止まり、粗い呼吸が空気中を漂う中、ユシグは私を見下ろしたまま尋ねてきた。
「教えろ…俺が憎いか?」
問いかけるユシグの声から、刺々しさが消えていた。真摯に光る茶色の瞳にぞくりとする。
「…わかりません…」
王様という人種がある程度横暴なのは、仕方ないのだろうと思う。
確かに好き勝手しやがって、と腹は立つけど…憎いかと改めて問われると考え込んでしまう。
憎いなんて相当強い感情…私にはないように思う。
むしろ、憎しみという…強い感情に行き着く前に、諦めという感情で相手と距離を作ってしまうのが私だからだ。別に高貴だろうが一般人だろうが、問題は相手にはない。
問題は自分自身だ。
人を憎んだり、なんて…そんな激しい感情。私は持てるのだろうか?
数真以外に対して、人間らしい感情を持てるのだろうか?なんの打算も目的もなく心から笑顔を浮かべ、怒りを感じ、相手の存在を認めることなんて…
数真を失ってから、一度もないのに。愛するの反対は…憎しみではなく無関心…確かシェークスピアの有名な小説で、そんな感じの言葉があったことを思い出す。
私の戸惑う様子からまだ話が続いていると読んだのだろうか。
ユシグは真面目な顔で私の答えを待っていたので、正直驚いた。彼は人の話を聞かないタイプに見えたが、意外だ。
声が上ずってしまう…
「ええと…まだ…今は」
「今は?それはどういう意味だ?」
「先のことは誰にもわからないですから、言葉どおりの意味ですよ…たぶん?」
たぶん?なんだそれは、と、ユシグは呆れたように眉を逆立てた。
「お前、俺との約定を忘れてはいないだろうな?3ヶ月以内だが」
「大丈夫です覚えていますよ」
「おかしな女だ…まあ今は…」
「ん!?」
「俺を感じろ。それ以外は余計だ。…お前を満たす存在だけを感じていればいい」
王様の体温が、荷重が、匂いが気持ちよくて、抱き締められただけで恍惚となる。キスを交わせば羽根が生えたように心がフワリと浮き上がる。
胸の奥が熱くなり、まるで真夏の砂浜で抱き合っているみたいだ。
体温が上がる。息が熱い。気持ちが走ってゆく。
白い光りの中を、ひたすら突き抜けてゆく。
…数真。
ユシグは数真に似ている。やっぱり、似ている。
と、ふと思った。
***
目が覚めた時、私は一人でベッドにいた。
朝か昼か…とりあえずテーブルには冷えたスープとパンにサラダ、ベーコンエッグが用意されていたから、時間経過としては、ユシグが部屋へ来てから次の食事時間は来ている…つまり少なくとも数時間は経過したみたいだ。ただ、これが朝食のメニューなので朝だと思うだけで、ここには所謂時計がない以上、正確な時間はわからないのだ。
昨日のユシグとの記憶は途切れている。
着替えがてら、自分の体をチェックしてみると…やっぱり最後までコトが済んでしまった事実を確認した。体の中の違和感…動くとドロリと沸きだし押し出されてくる液体が生々しい。下腹部の鈍痛、体中の関節の痛みに、倦怠感。
でも、不快感はない。
なんでだ?
体を拭いて新しい服に着替え、身繕いを終えると空腹を感じた。我ながら神経が太いと思う。あんなことがあったら、今日1日くらい泣いたり鬱になっても許されるのかもしれないが、生憎私はそこまでメランコリー気質ではない。処女でもなく若くもないのに、自分より年下の美形に不埒なマネをされたと騒ぐなんて自意識過剰な行為だろうし。それは恥ずかしい。
王様はこちらの反応を楽しんではいたが、一方的に傷つけるようなマネはしなかった。
決して気持ちよかったとかユシグを好きになったとかではないが、こういうことは、終わってみると案外あっけないものだ。じゃあ私の今の立場ってなんだろうか…冷めても美味しい朝食を堪能しつつ思考を巡らす。まだ生温いお茶を渇いた喉へ送り込んでいると、含み笑いが背後から聞こえてきたが構わず最後まできっちりと頂いた。ごちそうさまでした。
「誘惑は成功?」
いつもいつもタイミングを図った登場に呆れたながらも、私は鷹揚に振り向いて冷ややかに彼を観察してやった。
王様も主人公もヒネた性格です。王様視点もそのうち書けたら…。
R15に苦しんでなかなか更新出来ませんが、お許し下さい。




